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フリードリッヒ王国 第2話 訓練への道

 王子といえど成人になれば、役職を与えられ職務をこなさなければならない。今までは、朝遅くからダラダラと言われた範囲を文官の言いなりにこなしてきた。

 その状況が急変した。無策に竜に挑めば、生き残る事は出来ない。


 政務を返上すると、過去の討伐記録を集め、討伐に関わった人たちから話を聞きだした。ただ、当時の討伐隊は全滅しているので参考程度になっただけであった。


 これによると、幾度か送り出した討伐隊は、高ランクの冒険者パーティーの派遣、辺境伯連合による数の制圧、王都騎士団精鋭による討伐と3度行われたがいずれも全滅となっていた。


 同じ事をしても全滅するのはわかりきっている、では、どうすれば・・補佐についた副隊長にも話を聞くが、過去行った精鋭による討伐で可能だと繰り返すだけで、役に立つ話ではなかった。


 解決策が見つからないまま悶々としていたが、騎士団に交じって訓練を受けている討伐隊メンバーをみて、自身の能力が討伐どころではない事に気づいた。

 今は、俺の方が強いがこのままでは抜かれてしまう。


 討伐ができる体にする訓練を始めなければ・・早速、近衛騎士団鍛練場に向かっていた。



 ☆☆☆



 辺境伯で従士見習いとして、同年齢の従士と訓練の日々を行っていたのだが。

 「お前も、あの山に住む竜は知っているだろう。その竜を退治する話がある。どうだ、お前も参加してみないか?」

 従士隊長からそんな話があった。


 竜退治、なんとワクワクする話だろう。時折村に来る、吟遊詩人が語る冒険譚の主人公になったようだ。その時は、なにも考えずに「はい」と答えてしまった。


 それから数か月なんの話もないまま、隊の活動と訓練に日々をすごしていた。従士の同僚に聞いても、そんな冗談本気にしていたのかと笑われていた。


 そんなある日。早朝訓練の後、食事をしていると、従士隊長が近づいてきて。

 「食事が終わったら荷物をまとめて、騎士隊の正門で待機していろ。定期報告の馬車が王都に向け出るからそれに乗るんだ」

 何を言っているのか理解できなかった・・が、命令だと、門で待っていると騎士隊の建物から出てきた馬車が留まった。御者が声をかける。

 「君が王都に行く従士かい?馬車に乗るといい。」

 馬車には、初老の文官が乗っていて。

 「君がそうかい、席に座ってくれないか。出発しよう」


 これから起こる事を聞き、頭が真っ白になっていた。 



 ☆☆☆



 村から来た少女は、修道院の生活になれ規則正しい生活を送っていた。


 修道女として神に祈り、神学を学び、治癒魔法習得に励んでいた。魔法適性がある者が見れば、少女から発する魔力に驚き、小柄な体から歳を聞いてさらに驚いていた。

 少女は、村に来た新人神官が使う魔法が初めて見る魔法だという。


 試しに、体内魔力を感じさせ、体内循環の方法を教え、人体模型を見せて骨、筋肉、血管、神経を説明する。


 そして、剣が腕を切り骨まで見えている状態の治療方法として、体内に流れた血液を縫合材として使い、魔力をイメージして筋肉、血管、神経をつなぎ合わせ、最後に皮膚を繋ぐのだと教えてみる。

 これを、治療部位を変えながら何度か教えていた。いわゆる初期治癒魔法【ヒール】の習得である。


 少女は、一度教えると数日イメージトレーニングするだけで、ほぼ完ぺきに治療過程を言えるようになっていた。また、魔力操作も間違ってはいなかった。


 ある日、王都の衛兵が教会に飛び込んでくる。酔ってけんかをしていた男たちを取り押さえようとしたら、持っていた小刀で腕を切られたというのだ。

 あいにく、教会には治療のできる神官は不在で誰もいなかった。

 そこで、少女が代わりに治療を行う。かなり手こずっていたようだが、何とか治療を終え、数日教会で経過観察することになった。本来は、すぐ帰れるのだが、治療経験のない修道女見習いの治療が間違っていないか経過をみる必要があったのだ。

 ケガが無事回復したと分かると、神官達から驚きの目で見られることになる。


 彼女に光属性の適性があり、常人より多くの魔力を持っているのは、彼女を見つけたシスターの見込み通りだったが、意外にも治癒魔法の適性は低かった。

 覚える事が出来たのは、基本の【ヒール】、解毒の【キュア】、初期対応の状態異常回復【ピュア】。

 より実践的な【ワイドヒール】(点の効果がヒールとすると、全身を効果範囲とできる)【エリアヒール】(自分の周囲**mを治療できる)猛毒治療【ハイキュア】や持続な毒霧に対応できる【ラスティングキュア】石化後の治療や重度の麻痺治療などを覚える事は出来なかった。


 少女は、保有魔力の多さから竜討伐のメンバーと推挙する予定だった。しかし、討伐隊となるべく治癒師の訓練を行ってきた結果がこれなのだが。

 不思議なのは治癒の才能がそれほどないなら、これほどのオーラは何に向いているのだろう?教会で色々試してみる事にした。


 アンデッドに有効な【ターン・アンデッド】呪いや魔法解除の【ディスベル】など治療以外に適性があり、しかもその威力は上位神官を超えるものだった。


 少女の能力はそれだけではなかった、修道院から教会にくると神官騎士訓練を興味深そうに見ていたので、訓練を受けさせてみた。みるみるうちに上達する棒術、1年もしないでやや年上の神官騎士見習い達と訓練を受けるようになっていた。


 報告を受けた宰相とアミッド王子は、治癒師が不在になると頭を抱える事になったが、解決策が無いわけではなかった。それよりも近接戦闘ができる神官ならと・・・枢機卿とアミッド王子は、彼女を騎士鍛練場へと連れて行った。



 騎士団の中に女子だけで結成された〈戦乙女(ヴァルキリー)隊〉がある。結婚不適合者の集まりと揶揄される彼女たちは、結婚早々に離縁されたり、結婚が嫌で家を飛び出したり、結婚に興味がないか嫌気がさしている集まりだった。

 そんな彼女たちを、騎士団として正式な隊と認めていないのが多かった。つまり、鍛練場の片隅でひっそりと訓練するしかないのだ。


 その様子を、彼女と見ていたのだが。

 「あの人たち、女の隊員だけなのですか?」

 興味深そうに聞いてきた。そうだと答えると、一緒に訓練したいと言い出したので、隊に紹介して訓練を一緒にすることになった。


 夕方、訓練終了だろうとアミッド王子が見に行くと、隊員たちと打ち解けた様子の彼女がいた。

 これなら大丈夫だろうと、枢機卿と連絡を取り、翌日から戦乙女隊の訓練場所を教会の騎士鍛練場で行えるように手はずを整えてみた。

 結果は、上々でのびのびと訓練できると好評の戦乙女隊、年上の男神官騎士に気づかいすることなく訓練できると喜ぶ彼女。


 戦乙女隊の任務があるときは、お祈りやシスターの業務、それが終わると上位神官から魔法を教わる事ができた。



 ☆☆☆



 魔法使いとなるには、弟子になるのが一般的である。独学で魔法が使えるようになる者もいたが、独善的で極めて範囲の狭い魔法しか使えなかった。


 山の中腹、村からそれほど離れていない場所に、高齢の魔女が住んでいた。主な収入源は、村人が買いに来る薬、いわゆるポーションである。


 魔女は、魔素のよどむ場所に住居兼作業所を造った。畑を耕し、森にワナを仕掛け小動物を狩り、薬草栽培、魔法具・ポーションの作成、その素材採取と忙しい日々を送っていた。


 そんな魔女に転機が訪れる。やせ衰えた少女がドアをノックすると、倒れるように入ってきた。

 「誰だい?」

 「これを・・」

 少女の手には、一通の手紙が握られていた。


 かつて彼女が弟子だった頃、一緒に学んでいた兄弟弟子からの手紙だった。寿命を予期した彼は、弟子を引き継いでくれる魔法使いを探した。近くの魔法使いもギルドで斡旋を受けようとしても、誰も弟子を取ろうとしなかった。


 理由は、ある程度分かっていた。魔法の大系が違うのだ。魔法といっても、ポーション主体・属性研究・呪い・封印・各種解読など多種多様にわたる。 

 一概に志向の違う弟子を引き受けられないのだ。


 その点、兄弟弟子は同じ魔法使いから習っているので、多少の志向の違いなのだから引き受けてくれるだろうと、遠く離れたここまで送ってよこしたのだ。よく場所がわかったものだと思ったら、師匠の家を家探しして、ここから送られた素材の包みから、逆探知したそうだ。無駄にすごい魔法だと感心した。

 聞けば、師匠にあたる魔法使いの葬式を終えてからやって来たのだと言う。さすがに追い出す訳にもいかず、そのまま弟子となっていた。


 ただ、同じ師匠だといって目指す方向が同じではない。魔女は、ただ平穏に暮らしたかった。それで村人に嫌われる事の無いように、村人の狩や山の山菜・キノコを荒らしたり邪魔をしないで過ごしてきた。薬師のいない村人の頼みで、ポーションを作ったりもする。おかげで、今まで平穏に暮らす事ができた。


 兄弟弟子の魔法使いは、多少強引でも依頼達成の為には魔法を使用しても良い、という考えだった。

 彼の得意としたのは、火と風の属性魔法。火と風を組み合わせて雷魔法を使うこともできた。冒険者ギルドや魔法ギルドに来た依頼をこなして、対価を得ていた。

 魔女とは、対局にいた魔法使いでもある。これを知ったのが、弟子になって生活になれ、彼女の望む魔法は?と聞いた事から発覚した。


 山の中では、火魔法は使えない。村長にことわり、村の貯水池で実力を試す事にした。


 【火砲(アーティリー)

 後ろにやった握りこぶしを、前に突き出し頭程の火球を貯水池にたたきつける。


 うん、私より火力も威力も大きいね。


 「火以外にできるかい?」

 「水が少々できます」


 【水球(ウォーターボール)

 同じ様に手を突き出すが、ソフトボール大の水球が、ソフトボールを投げる速度で池に落ちる。


 これは、私と同じくらいかな・・さて、どうしようか?


 属性魔法は、師匠から同じ事を教わったのだ、私は知らないから【火砲】はその後に属性研究からあみだしたのだろう。聞けば雷魔法も使えるという。師匠は、雷魔法を使えなかった。あいつ、凄いやつだったんだな。


 ここは、正直に話そう。弟子でいることは、問題ない。だが、属性魔法は、あんたの方が進んでいるから教える事は出来ない。もし、教わる事が無いなら弟子明けを宣言してやろう。それで、魔法ギルドや冒険者ギルドで不利に依頼を受ける事も無くなる。


 しばし沈黙の後。


 「ここで暫く暮らしてみてわかりました。前の師匠は、ギルドの依頼を受け報酬をもらっていました。

 でも、ここにはギルドはありません。依頼もありません。あるのはスローライフと多種多様なポーション・魔道具です。ぜひ、ポーションの作り方、魔道具の作り方を教えてください。」


 弟子の方針は決まった。ただ、彼女の覚えるスピードは、魔女の想像を超えていた。もう教える事が無い。


 そこに、魔法ギルドから通知がきた。



 ☆☆☆



 錬金ギルドに入って受付嬢に話始めると・・

 「まあ、大変でしたね」

 話の途中で遮られた。しかも、まったく感情の無い棒読み。少し、ムッとしたがこちらの事情もある。さらに説明しようと始めると。

 「続きはこちらでお願いします」


 スッと席を立つとカウンター奥を通り、廊下からこちらをみている。案内してくれるようだ。どこに?誰に会わせるのだろう。多少不安になったが、もう住むところも金も無い、行くしかないだろう。


 廊下を少し進むと階段があり、二階へと上がっていく。


 コンコン・・コンコン

 なんだ?変なノックの仕方。

 「入れ」

 普通、名前と要件を聞くのではないのか?


 ドアを開け一礼すると、受付嬢は帰っていった。

 え?


 「そんな所に立っていないで、まあ座れ」

 奥の机に座ってくたやせた老人?(声は、見た目より若かったが)は、席を立つと部屋の角にある長椅子に手を向けた。そこに座れ、という事だろうと座って待つことにする。


 向かい合わせの長椅子と、それに不似合いの大きなテーブル。その横の棚からカップを2つと水筒?を取り出すと、向かいの椅子に座り、カップに水筒から液体を注ぎ自分の前に置いた。

 「それを飲んだら話そうか」

 色は、淡い青。老人が口にして飲んでいるから毒ではないようだ。


 少し熱い、味はほろ苦いような甘さ。ハーブティ?なのか、茶に詳しくないのでわからない。


 「落ち着いたかな、では、これからについて話そうか」

 この老人?、自分の話をまったく聞くつもりがないようだ。


 竜退治?なにそれ、誰がやるの?自分?んんん?


 どうやら王都で竜退治の準備をしろ、という事らしい。

 自分では無理だと説明するが、途中で遮られた。まったくこのギルドは、話を聞くつもりがないらしい。


 さらに話は続く。自分が竜を斬るのでは、無いようだ。自分は、錬金術師だから出来ることに限りがあると言うと。

 なにを分かったことを、とそんな顔をされた。


 竜そのものを相手する必要はないが、道中自分を守るくらいは、出来ないとまずいだろうと言われた。確かに盗賊や野犬の群れ、まして魔獣なんかが出たら、まず死ぬ自信がある。


 どんな自信だと笑われたが、実際そんなもんだ。ちょうど明日、王都に向けてキャラバンが出るという。

 依頼された大量の素材・ギルドに依頼されていた魔道具と一緒に送ってくれると・・まだ、決めかねていると。


 メモに数字を書き始めた。


 「これが、ギルドから借りた金貨。そして、提供した素材代。さっき君が言っていた借金。君の家の跡地だが整地して売ってもこれくらいだろう。」

 ふん、計算しなくてもわかってる。大体そんなもんだろう、自分が一生かけて働いても半分にもならない。もう退路はないと言う事だろう。


 下の仮眠室に、近くの屋台から夕飯を買ってあるとの事。もうなるしかない・・。



 ☆☆☆



 「よう、いるかい?」

 ノックもしないで大男が家に入ってきた。誰?と何か武器になるものはと、あたりを見渡すと僕より怯えている母が見えた。


 「なんだ久しいな」

 知った顔が来たという態度の爺様の声。


 爺様が地域では有名な冒険者だとは知らなかった孫は、爺様が語る冒険の話を造話(つくりばなし)だと思っていた。実際、村長の息子が聞いたという、吟遊詩人の歌と同じような話だったからだ。


 だが、一緒に行くようになった狩りでは、爺様は目を疑う動きをして獲物を狩り、その場で解体、大きな葉で上手に包みを作ってしまう。あれは、作り話だけではなかったのだろうと考えを変えていた。


 それからは、爺様と山に入り、猟の手伝いをしてきた。

 様々な猟の手ほどきを受けた。枯れた落ち葉を足音を出さずに近寄る、威力と距離の出ない短弓の扱い方、木の枝から枝へ飛び移る。罠のはり方、設置場所。


 もう小型の獲物なら爺様の手を借りる必要も無くなった頃。大男が家にやってきた。

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