ガミリア共和国 第27話 手桶の水と干し肉 (行程表 王子・ぼう)
そこは、薄暗く不快な汚物臭のする場所。
牢の床と周囲・牢と牢の仕切りは、石で出来ている。天井は、上階の床だろう、足音と話し声がたまに聞こえる。
奥に明り取りの子窓がひとつ、高い位置に石の一つを抜いただけの窓。
仕切りの壁には、ベッドが付いている。はねあげ式になっていて囚人が居ない時は、壁に収納してある。毛布などは、もちろん無い。
備品は、不格好な手桶とタライが一組。牢に入る前に、老人がもう一組入れてくれた。
床の奥に、幅の広い溝がある。汚物は、そこでするように言われている。
朝、溝に水が流れてきて、洗い流す仕組みになっている。
暗くなる少し前、騎士団の建物に着いた王子とぼうは、手かせをはめられる。建物横の入り口から何度か曲がり、両側に並んだドアを通って牢に入って行く。
同じ牢に入れられた王子とぼうは、手かせを外してもらうと、おとなしくベッドに横になっていた。拘束具は、付けていないので自由に牢内を移動できる。
2列に5室並んでいる。誰も入っていない列の中央に二人は入れられた。
なにもする事がないので、向かいの牢を見て過ごしていた。
囚人の扱いは、それぞれ別になっている。騒ぐ囚人には、手かせ足かせが付き重いように動けない。さらに、鉄格子につながっている鎖は首につながっている。そんな囚人が1名。
逆におとなしく手がかからない囚人が3名。拘束具はついていない。同じような身なり、村人だろう。同じ出身なのか壁に寄り、鉄格子越しに小声で話すのだが聞き取れない。
牢番もいるが、明らかに老人で、なにかあった時の鎮圧は出来ないだろう。彼の役目は、見張りというよりしつけ係だろう。
囚人がわめきだすと。「うるさいぞ、なんとかしろ」ドアの外から、声がかかる。老人は、返事をすると棒で体を何度も突く。
避けようにも、首の鎖を番人の前に引き寄せられているので、身動きが出来ない。それでも暫く叫んでいたが、あきらめたのか静かになる。
これはあとで見たのだが、老人とは思えない力強さがあった。
その老人は、これ以外やる事がない。朝来て夕方帰っていく。
では、夜騒いだらどうなるか。これは、後で聞いた話だが、ドアが開き外の牢番が入ってくる。何もいわず一突き、翌日死体を片付けに数名の老人がやってくる。
昼、老人は暇を持て余し、手製の椅子に腰掛ける。すると、囚人の居ない鉄格子に背をあずけ寝てしまう。そんな毎日だった。
翌朝、溝に流れる水音に起こされた二人。
「あっちの話だと食事は出ないようですね、水はそれを飲めということでしょうか」
「だろうね」
「お前ら、痛い目にあいたくなかったら、静かにしろ」
大きな声でもないのだが、老人に怒鳴られる。
いびつな手桶を溝に入れ、タライに入れる。ほぼ一杯になると、流れていた水が止まった。
それからは、用がある時はベッドで寄り添い、やっと聞こえる程の小声で話すようになった。
牢に入って二回目の朝、その日は清掃の日だった。ドアが開き、いかつい二名の牢番が入ってくると、入口脇に立つ。
老人は、さっさと外に出ていこうとすると、代わりに老人4名が入って来た。俺たちだけ向かいに入っているのを見ると、老人と話を始める。
どうやら、一列に囚人を入れないので、余計な手間がかかると怒っているようだ。王子とぼうの牢を開け、向かいの空き牢に王子を入れる。
4日毎に牢の清掃が行われる。この時は、溝に多めの水が流れている。
部屋の掃除は、囚人が一人でやる。道具は、オールのような木のヘラが渡される。
ベッドをはねあげ。床の汚物を、木のヘラで溝に押し込む。
囚人たちには、決め事がある。小便は溝に流すが、大便は溝の手前にする。
理由は、朝ながれる水を小ぶりの手桶ですくい、部屋にある桶に貯める。多少汚いだろうが、水無しよりいい。
その後、タライに水をいれ床にまく。
綺麗になると箒を渡されるので、溜まった水を溝に流し込む。
終わると、タライに水を溜めて終了となる。
その後、手桶とタライを持ち、囚人たちは一人ずつ反対に移動する。乾燥した床に居られるように配慮したのだろう。
この時、牢の入っている位置が変わる。
掃除中の牢にいた順が、一列の中央にぼう。
向かいに、村人・村人・村人・空き→王子・うるさい囚人だったのだが、掃除が終わり、ぼう側に移動すると。
村人・村人・王子とぼう・村人・うるさい囚人と変わっていた。
掃除の出来ないうるさい囚人の代わりに老人達が清掃する。向かいに囚人は、移動させられた。文句を言いながらも、そこそこ丁寧にしているようだ。
掃除が終わると囚人が、一度騒ぎひと揉めがあったが、他になにも無く過ぎていった。
両側の掃除が終わると、老人達は帰って行く。代わりに見張りの老人が入ってくると、入口に立っていた牢番は外に出ていく。
その日の昼すぎ、身なりのいい男が一人牢に入って来た。
「きみ、終わったら、声をかけるからそれまで、外に出てくれないか」
老人は、知らない顔なのだろう。怪訝な顔をしていたが、外の牢番が何も言わずに入れたのだからと、何も言わずに出て行った。
「さて、私に見覚えがあるかな?」
「さあ」
「そうか。じゃ、途中ですれ違っただろう。最初の川の手前で」
それを知っているのは、一人しかいない。
「わかったようだね」
「お前は、草なのか」
「そう、ただあなたの味方ではありません。分かっているでしょうが、気をもたせるのも気の毒でしょうから」
勝ち誇っている様に見える。
「帰っていく馬車を見たのですが」
「見たのは、私と交代になる草でしょう」
ぼうは、王子の顔を見るが、驚いている様子もない、ただおとなしく話している。
「さすがは王族と言ったところですね。もう少し騒いだり、わめくと思いましたが。
それでは、ご褒美をあげましょう」
手を二度パンパンと叩くと、牢番が荷物を持ってきた。男のそばに置くと、戻っていく。見知った背負い袋が、二つ。
「あにき、あれ俺らのですよね」
「これは、お返ししましょう。もうしばらく、生きていてくださいね」
なにやら薄笑いを浮かべている。
「開けますが、騒がないことです。どうなるかお分かりでしょう」
王子とぼうは、部屋の奥へ移動する。
牢が開き、背負い袋を2つ牢にいれる。
「あなたたちには、しばらくしたら重要な仕事があります。それまで、生きていてください」
そう言い残して、男は帰って行った。
戻って来た老人は、背負い袋を開け、中を確認する王子達を見ていたが、取り上げる様子もなかった。あの男に何か言われたようだが、それより中が気になっていた。
「なくなったのは、剣と盾と防具、野営用のテントと一緒にあった食器・調理器具。あと中に入れていた予備の剣も無くなっている」
「おいらも、同じですね。武器防具と野営用の装備がありません」
背負い袋の中には、替えの衣服・少量の薬・スライム袋に小分けしてある干し肉が入っている。
それと、背負い袋の下に丸めて縛り付けていた毛布と厚みのある敷布があった。ベッドに敷けば、かなり快適になるだろう。
それよりも、意外だったのが。一緒に括り付けてあった食料があった事。
食料袋には、固いパンが入っている。これで、しばらく持つだろう。
それを老人が見ていたが、取り上げる様子も無い。
本当に、生き延びさせたいようだ。
干し肉をほおばっていると、隣から声をかけて来た。空腹なので分けて欲しいという。
王子は、少量の干し肉を分けてやる。それの半分を、隣に分け与えたようだ。さすがにかわいそうになり、また干し肉を与える。
それを見ていたぼうも、隣に分けてやる。だが、その隣はうるさい囚人。さすがに、分けてやるつもりはないようだ。
意外な人から。
「なあ、兄さん達。悪いがそいつにも分けてやれないか」
様子を見ていた老人が、声をかけてきた。
行程表★★ 王子・ぼう
5月 行程など
5日 夕方、騎士団の牢へ移送
7日 牢清掃・男が訪ねてくる




