ガミリア共和国 第13話 船酔いと巨大イカ (登場人物紹介 きし)
きし・姉さんの四人は、予定通りに船に乗る事が出来た。
問題が無いわけではない、全員が船酔いでダウンしてしまったのだ。
船員に治し方を聞くが、そのうち慣れるさと笑われるだけ。
二人部屋の二等船室で、青くなりジッとしている四人。
これは、病気ではなくて状態異常?
そう考えた兄さん、原因を考える。
いつもと違うのは、”揺れ”?
揺れない様にするには・・・・・
思い出したのが、知り合いの錬金術師が作った『水ベッド』。夏暑くて眠れないと言う貴族の依頼で、作っていた。
ぐっすり眠れるようになったと好評だったベッドは、富裕層に売れた。同じくらい貧乏なあいつが、と当時はかなりうらやましかった。
単なる水ではなく、振動や揺れを無視できる水袋が出来れば。
非常時と姉さんの部屋のドアをノックする。
「だれ?」
気怠そうな姉さんの声。
「僕だよ、相談したいのだけれど開けてもらえる」
かすかな衣擦れの音がドアに近づいてくる。
僅かに開いたドアから、酸っぱい匂いが流れてくる。
迷惑と顔に書いている姉さん。
「船酔いを治す方法を考えたのだが」
と、気が紛れると甲板に連れ出し、長椅子に座らせて話してみる。
青い顔で目を閉じながら水を飲んでいる。
「水ベッドねえ。作った事がないから、どうやれば。
単純な水は作れる、問題はそれの膜と船の揺れを吸収する水?。
膜は、魔法では作れないから錬金術でやってみて、水だけど・・」
考えこんだ姉さん。
ドオーン
唐突に船が止まった。前に投げ出される二人、慌てて何かを掴もうとするが何もない。離れて座っていた二人とも床に体を打ち付けてしまう。
「イテテ」
姉さんを見ると、顔をしかめて床に座りこんでいる。
「大丈夫かい?」
「ケガは無いようよ、それよりなにが起きたの?」
腕をさすりながら、辺りを見回している。
「スクイッドモンスターが出た」
水夫が叫びながら、右往左往している。
「イカの化け物?」
近くに来た水夫を呼び止め、状況を聞き出す。
クラーケンは、巨大なイカかタコの魔獣だが、こんな近海には出ない。
ただ、その幼体となるイカやタコが船に絡まる事があるそうだ。
今回は、強大なイカが船尾の舵に巻き付いたという。
船尾に向かうと、5人の水夫と冒険者が、弓とクロスボウで射っているのだが、海水で勢いが殺され、効果があるように見えない。
フラフラしながら様子を見ていた姉さん、何を思ったのか
【火球】
ジュ
意味もない事をしている。
「・・・」
分かっているだろうから、指摘しないで見ていると。
なにやら怒ったのだろうか、巨大なイカが浮かび上がってきた。
これは好機と、矢が勢いよく射かけられるが、表面のヌメリ?に邪魔されるだけでイカの皮?まで到達していないようだ。
「これじゃ・・」
冒険者達は、射るのをやめ呆然と眺めている。
【水球】
姉さんは、小型の水球をウオーターボール、大型の水球をアクアボールと区別して使っていた。
イカの皮の端の方、本体の上が盛り上がって来た。体内に水球を発生させたようだ。
「嬢ちゃん、持って来たぜ」
屈強な水夫が四人、大きな弩を持ってきた。これ、船首にあったやつ?
「あそこ」
姉さんが海面から出ているコブを指さす。
「オッシャー」
叫び声と共に飛び出す細腕ほどの矢。
「根性入れろ」
矢には、ロープがついている。後で聞いたら、岩礁の無い切り立った崖に打ち込み、荒しが通り過ぎるまで流されないようにする弩だという。
出来るだけ細くする為、金属を織り込んでいるとの事。
ふくらみに刺さったロープに近づく姉さん、手に持つと。
【雷】
ビクッ
波打つ強大イカ。
【水爆】
大きくイカの皮が盛り上がる。おさまると海上に巨大イカが浮き上がってきた。
「気絶したはずです、あとはお願いします」
「おいおめえら、気合を入れろ」
次々に太い銛が、イカの頭(目と皮の間)目掛けて投げられる。
「船長、もう無いんだが」
「しゃーねえ、ついてこい」
腰に大きいナタ?をぶら下げて、海に飛び込む船長。後を追う水夫達。
本体の上に、刺さった銛を頼りによじ登ると、銛を抜き頭に打ち込む。それに続く水夫達。
ここは大丈夫だろうと、船長は船尾に絡みついてる触覚を斬り離しに行った。
「で、嬢ちゃん、どこがいるんだい?」
「先のエンペラー?というの。そこがいい」
「で、こいつを食うか?少し大味があぶるといい味になるぜ」
船尾から切り離された触覚とエンペラーが、船上に引き上げられた。残ったイカは、船より大きいので放置する、しばらくすると海底に沈んでいった。
水夫達は、エンペラーと触覚の表皮を剥ぎ、小さく切り刻むと大きな七輪であぶっていく。戦勝祝いの酒盛りが始まった。
「これも嬢ちゃんのおかげだぜ、なにかお礼になる事はあるかい」
「じゃ、この(表)皮をもらうね」
「こんなもんでいいのか、全部持って行ってくれ」
「エンペラーの分だけでいいわ」
「兄さん、これで袋が出来るでしょ」
「おぉ」
ヌメリを何とか取り、悪戦苦闘の末。二個の大きな袋が出来上がった。
【アクア】
袋に手を触れ、水を入れていく。粘度のある水だそうで、固さを調整できるそうだ。
二等船室は窓が無く、奥の正面に固定机と椅子。その両側にベッドが固定されている。机幅の間は通路になっていて、荷物はベッドとドアのある壁との間に置く。
その通路に、水ベッドを挟み入れる。固定ベッドより少し低い水ベッドに、シスターが寝ている。
船が急停止した時、勢いでベッドから転げ落ち、反対のベッドにぶつかったのだが、自分で治療したという。
「もう少し固くお願いします」
言われるまま調整していると、スウスウと寝息が聞こえてきた。大丈夫だろうと、きしの部屋に。
きしは寝ていた、正確に言えばベッドに頭をぶつけ気を失ったようだ。
部屋の外に引きずり出して、水ベッドを入れる。シスターと同じ固さに調整し、きしを寝かしつける。
翌日には、二人とも船酔いは治っていた。
快適な船旅は続き、兄さん達は4番目、姉さん達は5番目の漁村に帰るという村人と一緒に降り、ガミリア共和国に足を降ろした。
余談。水ベッドを見た船長は、部屋に運びこむと一晩で気に入り。高額買取となった。船と自宅に置くそうである。
ほくほく顔の兄さんと姉さん。
登場人物☆☆ きし。のちに《キシム》と名乗っている。
フリードリッヒ王国より竜討伐に派遣される一員。
村に現れた魔獣討伐に来ていた辺境伯騎士団、話していると「坊主、俺たちとくるかい?」と冗談半分で話しかけられた。それを本気にした彼は、両親を説得し騎士団に入れてもらう。
従士隊で訓練を受けていたのだが、竜討伐の話に思わず「はい」と答えてしまった。
しばらくすると王都に向かう馬車に載せられ、討伐隊に参加することになる。




