くろい くねくね
「はるちゃん、今日の晩ごはん何?」
「豚と野菜の蒸し物、それから味噌汁。ああ、あと昨日の残りものの里芋の煮っころがしですかね」
「卵焼き食べたい。はるちゃんの卵焼き。甘いやつ」
「食べすぎです。それは明日にしてください」
「ええー」
すっかり夕飯の空気になった義兄は、僕がエコ袋から豚肉や野菜を冷蔵庫にしまうのをのぞき込みながらわがままを言っている。
「もう、いいからテーブルを元に戻して、台ふきしてきてください」
「はぁい」
キッチンから布巾を持って去っていく義兄を見送って、僕は片づけを再開した。
――と。
ポン、と通知音がして、傍らに置いたスマホが震える。この音は確かSNSの通知だ。
すべての荷物を冷蔵庫と冷凍庫に収め終えたところでスマホをのぞき込む。仕事を募集しているアカウントのフォロワーが、何か僕にメッセージを送ってくれていたようだ。
「『最近バズってる写真があるんですけど知ってます?』か」
このフォロワー、よく僕に情報提供をしてくれるありがたい相手だ。顔は知らないがとても親しくさせてもらっている、と自分では思っている。
「『情報ありがとうございます! バズってる写真ですか、ちょっと調べてみます。どんなキーワードで出てきますかね』っと」
返信には若干のタイムラグがあった。
「『トレンドに乗ってます、くろいくねくね』……くねくね?」
くねくねと言えば、田園景色に現れるといわれる都市伝説ではなかっただろうか。
たしか、白い人影みたいなものが見えて、それが何か理解してしまうと気がふれる、とかなんとか。
トレンドを見てみると、確かに「くろいくねくね」が乗っている。
そのキーワードをタップすると、知らないアカウントの写真が最初に現れた。
「やばい肝試しいったらなんかくろいくねくねみたいなの撮れちゃった!」
そんな投稿と一緒に表示された写真。
どこかの廃屋だった。
その通路と朽ちた扉のわきに、何かがいる。
黒いもやのようなもの。それは確かに、「人影」のように見える。
「……なんだこれ」
「そういうの見ない方がいいって、俺言わなかったっけ?」
「ぅをっ」
背後から声が聞こえ、僕は思わず手にしたスマホを放り投げた。
それを空中でキャッチしたさかえ義兄さんが、眉を寄せてひょいっとSNSアプリを終了させてしまう。
「あっ……」
「はるちゃん、怖いの苦手なんだからさ。そういうの見ない、聞かない、知ろうとしない」
「そういうわけにいかないじゃないですか……」
僕が言い返そうとすると、ムスリとした義兄の顔がドアップになる。
「言い訳しない。ほら、夕飯の準備を始めよう、俺も手伝うから」
スマホと一緒にエプロンを渡され、僕は納得がいかないままにブラックアウトしたスマホを見つめる。
暗い画面には、僕の不満そうな顔が映り込んでいた。




