表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流行り神  作者: 方舟
PR
1/6

傘の夢と首で逆立ち

 今度の引越し先はどこだと思う?


 その言葉のあまりの軽薄さに僕はぞっとした。義兄が、まるで見た事のない人のように見えた。


「……義兄(にい)さん、それ、本気で言ってますか?」

「ん、本気だよ?」


 何でもないことのように言う。まるで、「今日はカレーだよ?」とでもいうような調子で。

 でも、その本当の意味を、僕は理解している。

 それが、どういう結果を招くであろうか、ということも。


 ◆ ◆ ◆


 ただいま帰りました、と玄関先から声をかけると、ドスン、という重い音が出迎えた。そのあとつぶれた、「あ、はるちゃんお帰り、ちょっと助けて」という声が聞こえてくる。


「…………」


 僕は無視して洗面所に向かった。

 石鹸で必要以上に丁寧に丁寧に、丁寧に丁寧に手を洗い、それからのんびりとスマホのメールをチェックする。


「ねえはるちゃん、聞こえてたよね、ちょっと助け」

「知りません」


 もう25歳である僕のことを「はるちゃん」なんてかわいらしい名前で呼ぶ義兄のことなど知ったことか。

 おおかたソファで寝落ちして、そのまま落下したに違いない。あの人は芸術的な寝相の悪さなのだ。


 何事もなかったかのようにリビングに入ると、案の定。

 義兄のさかえさんは、黒のスウェット上下を着たまま首で逆立ちしていた。足を90度くらい開いてバタつかせている。どうにか起き上がろうと必死らしい。


「……義兄(にい)さん、どういう原理でそんな風になったんです」

「知らない。なんか風にあおられる傘の夢見て起きたらこうなってた」


 どんな夢だ。


「助けようがありませんよ。足を引っ張ったって腕を引っ張ったって、その恰好をどうにかできるわけないじゃないですか」

「えぐえぐ、はるちゃんったらヒドイ、大好きなお兄ちゃんのこと見捨てるのね」


 誰が「大好きなお兄ちゃん」だ。


 僕は義兄がバタつかせる足を躱しながらカバンを置く。それから起き上がるのに邪魔になっているらしいテーブルを軽くどかしてやった。

 そのおかげか何とか起き上がることができた義兄は、にへ、と変に脱力した笑みを浮かべてくる。


「ほらぁ。やっぱりはるちゃんは優しいいい子」

「子ども扱いしないでください」


 ため息をついて、僕は言っても無駄であろう抗議を口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ