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最終章 百万回と一回目③血潮の決戦

 地上に降り注ぐはずの陽光が厚い雲の遮られる。リヒトたちを乗せたステルスシェルがラピス教国にたどり着いた。一目で異変を捉える。ラピス教国を囲っていた聳える壁がすべて崩れていた。まるで来いと言わんばかりに。


 しばらく動けずにいると、突如、灰色の天に映像が映し出された。そこにいたのはいつものように薄ら笑みを浮かべたプラウドだった。


「やぁやぁ。皆さん。天国へようこそおいでくださいました。元ラピス教枢機卿改めオルフェニア様の側近プラウドでございます」


 道化た動きで脚を後ろに引き、頭を下げた。

 

「君たちがどうやってここまで来るのか。楽しんで見物させてもらうよ。何せ……。オルフェニア様の意向に逆らった信者ぜ~んぶヴィールにしちゃったからね。君たちとは戦力の差がありすぎるのさ」


 プラウドが身を引く。その奥。椅子に深々と腰掛け、足を組んで見下すように顎をしゃくりあげる男に焦点が集まる。


「我こそはオルフェニア。この世を統べるものなり。新たな世界を築くために、地上を浄化せねばならん」


 彼が懐に抱えているようにしている杖。その先端には青白くゆっくりと点滅するキューブ。


「お前たちがおいていった土産。あれはここに飾ってあるぞ」


 オルフェニアが指をパチンと叩くと映像が後ろの段を舐めていく。段の上。金縁のケースの中に胸の前で手を重ね、目を閉じるカタリーナ。まるで絵画でも飾っているかのように壁に立てかけられている。


「この女は最後のピースとして俺がもらっておこう。精々あがくがいい」口の端を大きく吊り上げてそう言った後、彼の表情が消える。「俺はお前たち人間を許しはしない」


 低く憎しみのこもるような声でそう言った後、空に映し出された映像が消え、途端に大地が震えだす。


「オベリア部隊!全員出撃だ!」


とローザが高々に声を張ると、リヒトを含めたオベリア部隊たちがこの地に降り立った。地面の震えが足に伝わる。リヒトは瓦礫のさらにその奥にいるカタリーナを見つめる。


 必ず救い出す。


 突如、目の前の瓦礫が爆ぜた。瓦礫の山がオベリア部隊たちに降り注ぐ。


「撃ち落とせ!」


 ローザの声にオベリア部隊の面々は流れるようにバルムガンを構え、瓦礫を打ち砕く。青白い閃光の流星が如く。甲高い音に紛れた呻き声。土煙のその先に無数の赤い光。それを抑え込む紫紺に光る縄。


 予定通り。マリークが夥しいヴィールの群れを押さえ込んでいた。ローザは天に手を掲げ、大きく息を吸いこんだ。


「只今よりオベリア部隊最終任務を行う!目の前のヴィールを殲滅せよ!」


 

 手を振り下ろす。オベリア部隊が雄叫びを上げた。彼らがバルムガンを放ち、ヴィールのコアを貫いていく。が、マリークの抑止を振り切り、突撃してくる個体。よじ登ってくる個体。止まらない。勢いを増し、全てを飲み込む黒い波が襲いかかる。


 眉間に皺を寄せたリヒトが二丁目のバルムガンを構えた瞬間、その黒い波が翡翠の光によって、真っ二つに切れた。見渡す限りの押し寄せるそれを真っ二つに。


 目を向けると、ビリアが翡翠の光を手に宿していた。一歩踏み出し、腕を振る。扇状の光が放たれる。黒い群が宙を舞う。そしてまた。


 多くの人間が唖然としている中、リヒトだけが小さな笑みを溢す。彼女の隣に立ち、運よく彼女の攻撃から逃れたヴィールを、狙撃、狙撃、狙撃。的確にコアを撃ち抜いていく。



「上手だね」「隊長にしごかれたからな」


 その時、リヒトの顔の横を紫紺の光が通過。ヴィールたちに命中し、爆発。赤黒い破片が舞い上がる。リヒトはこんな戦場の最中、目が点になった。


 当たれば、俺が消し飛んでいた。


 じっとマリークを見ていると、彼女はそっぽを向いて、目を合わせることもなく駆け出した。

 

「マリークは俺のことが嫌いみたいだな」

「嫌い――だったかもね。でも今は手を貸してくれているし、少し変わったんじゃないかな。昔だったら何も言わずにリヒトを殺していたと思うよ」

「そりゃよかった」リヒトは鼻を鳴らして、苦笑いを滲ませた。


 ビリアとマリークが戦況に加わったのは確実に追い風となった。が、それだけではない。皆覚悟をしているのだ。これが最後だと。息を合わせ、ここらに蔓延るヴィールたちを殲滅した。


「全員ステルスシェルへ乗り込め!ラピス教国へ進行する!」


 ローザの掛け声に素早く反応。全員がステルスシェルに乗り込み、ラピス教国に驀進していった。



 ラピス教国の中心部以外は村や集落が点々とする、いわゆる過疎ではあったが、それにしても酷い有様だ。格子状に並んでいた平屋は無惨にも木屑となり、地面は掘り返され、緑生い茂る木々は倒され、人が住める環境ではなくなっていた。

 

 砂塵を巻き上げ全速力で駆け抜ける中、突如ステルスシェルは停止した。ビリアが異変を感じ、ローザに指示を出した。部隊全員が外に出る。


 リヒトの横にいるビリアは先ほどよりも表情が引き締まっている。騒然とする中、「静粛に!」とローザの声が響き渡った。ビリアが腕を広げ、両手を地面に翳している。まるで何かを探っているように。息を呑むような静寂に時間が長く感じられる。その時、ビリアが叫んだ。


「マリーク!」


 リヒトはビリアに担がれ、宙を舞った。突如、地面が泡が膨らむように破裂。ふわりと地面に着地したリヒトははっと我に帰る。仲間たちが急な爆発に巻き込まれていないか。視線を走らせると、リヒトの後ろに全員が唖然とした顔つきで立っていた。ビリアの索敵、かつマリークのおかげでオベリア部隊およびステルスシェルは無事だったのだ。リヒトは安堵したように息を吐いた後、砂煙の中を注視する。

 

「リヒト。ここからが本番だよ。気を抜かないでね」「あぁ」

 

 砂煙の中から現れたのは突き刺すような骨が腕から生えている変異種のヴィール。その後ろにはひときわ身体の大きく、頭の中心に大きなコアを持つ、中型に属するヴィール。そして、見たこともない膨れ上がった筋肉に覆われたヴィール。他にも多種多様なヴィールたちが穴の空いた地面から這い出てきた。数えたくなくなるほど大量に。


「オールスターだな」とリヒトが呟き、バルムセイバーを振った。青白いエネルギーの刃が空気を切り裂く。


 途端にヴィールたちが雪崩こむ。打って変わり混戦に乱戦。リヒトはかつてウルスラを殺したヴィールと同種個体を見上げていた。不気味に伸びた長い爪を擦り合わせる不快な音が無力だった自分を思い出させる。リヒトは低く鋭く、飛び出す。バルムセイバーを脇に抱え、身体を捻って一撃。すーっとなんの抵抗もなく、それの腕を切り落とす。背後に迫る嫌な気配。ひらりとそれを躱し、また一撃。長い爪が宙を舞って地面に突き刺さった。


 儀式を受けてからリヒトの身体能力は格段に向上、そして視覚、聴覚、触覚、あらゆる感覚が研ぎ澄まされた。リヒトはふっと強く息を吐いて飛び出し、飛翔。ヴィールに向けて、上から一閃。赤黒い血を吹き出し、それが真っ二つに。しかし、逆再生するように身体を再生させたそれが、鋭い爪を穿つ。が、身体を捻って躱す。その勢いを殺さず、コマのように身体を回転させ、龍が昇るが如く腕を切り刻んでいく。

耳を劈く咆哮。血飛沫。

 リヒトはそのまま飛び立った。目の前に埋もれる二つのコアが腕を交差させるリヒトの姿を映し出す。青白い刃がそれを切り裂こうと思った瞬間、視界の端から凄まじい速度で飛んでくる何か。舌打ちをし、目の前の顔を踏みつけて後退した。


「畜生。数が多すぎる」と顔を歪め、再度舌を鳴らした。決定の一撃を妨害したのは、膨れ上がった筋肉に覆われた特殊個体のヴィール。それらが戦場を飛び回り、他のオベリア部隊たちも苦しめられている。


 そして、次々と地上に沸くヴィールたち。均衡しているように見えるが、消耗戦では明らかに分が悪い。ビリアやマリークも目の前のヴィールを倒すことで手一杯。味方の奮起する声が次第にヴィールたちの呻き声に塗りつぶされていく。


 ——やがて、大量のヴィールたちに囲われ、抵抗を続けていた。リヒトも息を荒げ、大量の汗が顎から滴っている。見渡す限り、死を恐れぬ赤黒い生命体。未だ増え続ける黒い波に飲み込まれないように耐え続けるしかなかった。

読んでくださりありがとうございます。

最終決戦ということもあり、早速ピンチ。

次回はローザ視点。ようやく彼女は前を向けるように。


感想や評価をいただけると、今後の執筆の励みになります。よろしくお願いいたします。白モン

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