表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国色の王女は打算で敵国に嫁ぐ  作者: 灰銀猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/74

俺の方がずっと前から好きだった

 瞼に光を感じて、夜が明けたことを頭の片隅で悟った。まだ頭がはっきりしなくて、目を開けるのも億劫だわ。もう少しこの微睡をたゆたっていたい。引き寄せたシーツを頭から被って……息を呑んだ。近くに感じる気配は……


「おはよう、アリー」


 掛けられた声で一気に意識がはっきりして、悲鳴が出そうになった。い、今の声って……どうしてと最後まで思う間もなく現状を思い出した。ま、待って……


「アリー? 眠いか?」

「めっ、めっひょうもありまひぇん!」


 い、痛い! 思いっきり噛んでしまった。いえ、痛いなんて言っている場合じゃないわ。どうしてジーク様が……ああっ、思い出したわ! 昨夜は婚姻式で、わ、わ、私たち……昨夜のあれこれが一気に思い出されて……頭に血が上った。あ、あんなことやあんなこと……ま、待って……顔を出すにも心の準備が……


「アリー?」

「ひゃぁあああ!」


 シーツを引っ張られてジーク様のお顔が見えた。窓から差し込む光を受けたジーク様。寝乱れた髪は癖が付いていて、少しだけお髭が伸びているわ。新鮮……じゃなくて。黙っていたら睨んでいるように見えるお顔が今は凄く、甘い、気がする……


「ジーク、様……」

「ははっ、可愛いな、アリーは」

「だって……」


 か、可愛いだなんて……そんな甘さ増し増しの笑顔、反則です……


「どうだ、身体は?」


 どうって……身体? どこも……って、それをお尋ねになるの?


「特に、は……」


 恥ずかしくてそうとしか言えなかった。少し怠いけれど特に違和感はないわ。それよりも恥ずかしさに精神の方が削られていく。そちらのダメージの方が大きいのだけど……


「そうか。さすがに昨夜は初めてだから最低限で終わらせたが……辛いならそうだと言ってくれ。あなたは我慢し過ぎるところがあるから」

「だ、大丈夫です」


 そんなこと仰らないで……だけど、手加減してくださったのね、多分……他を知らないからわからないけれど。すっごく恥ずかしかったけれど、恥ずかしすぎて心臓が止まるかと思ったけれど、聞いていたほど酷いことはなかったように思う。死ぬほど痛かったってほどじゃなかったし、意識を失うようなこともなかった。血だって思ったほど出なかったし……


「ああ、これであなたは私だけの妻だ。嬉しいよ」

「っ!」


 昨夜のあれこれを思い返していたらシーツごと抱きしめられた。深く抱き込まれて恥ずかしさが増したけれど、強く抱きしめられたことで伝わってきた鼓動になんだか泣きたくなった。今までだって妻だったけれど、身体を重ねるとすべてが変わる気がする。なんて言ったらいいのかしら……距離がずっと縮まったと感じるし、心も……こんな幸せがあったのね。知ってしまったら、もう手放せないわ。




 それから湯浴みをして、寝室の一角にあるソファで簡単な朝食をいただいた。足の付け根に違和感はあるし、今までなったことのない場所が筋肉痛だけど、思ったほど酷いことにはならなかった。ジーク様はお優しいから無体なことはなさらないと思っていたけれど、杞憂に終わってよかったわ。


「今日はのんびり過ごそう」


 食後のお茶をいただいているとジーク様が私の肩を抱いてそう仰った。


「よろしいのですか?」


 婚姻式直後とはいえ昨日は色々あったわ。ディアーク様のことも気がかりだし、第三妃やカトリーナ嬢、更には兄妹の動向も気になるのだけど。


「まぁ、報告は聞くが俺たちが対応必要はないだろう? それに新婚なんだ、少しくらいは二人きりの時間がほしい。そのためにこの十日ほどは寝る間も惜しんで働いたんだからな」


 確かにジーク様はお忙しかったわ。ここ最近は二人の時間も殆ど取れなかったもの。だったらいいの? そうなったら嬉しいけれど。


「そうは言っても、今日明日くらいだろうなぁ。他国の王族が帰国するからその前に会談もするし見送りなどもせねばならん」

「そうですわね。ですが、問題を起こす方は早く帰ってほしいですわ」


 兄妹もそうだけどベルツの王太子殿下もそうね。ここにいるだけで何かやりそうだから早々に国に戻ってほしいわ。それでなくても国境を超えるまでは気が抜けないのだから。


「まぁ、ゆっくり出来るのは社交シーズンが終わってからになるか。はぁ、やっとアリーと夫婦になれたってのに……まったく、どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって……」


 段々ジーク様の様子が剣呑になってきたわ。それだけお忙しかったってことかしら? それって私との時間を望んでくださっているってことよね? だったら嬉しい。顔がにやけてしまうわ。


「ふふっ、嬉しいです」

「アリー?」

「ジーク様が、私との時間を大切に思ってくださっていることが」

「当たり前だろう。ずっとあなたを妻にと願っていたんだから」


 もう、なんて嬉しいことを言ってくださるのかしら。年上なのに、私よりも八歳も年上なのに可愛いと思ってしまった。そんなに前から私のことを望んでくださっていたなんて驚いたけれど、そのお気持ちがこれまでにない程に胸を温めてくれる。こんな風に誰かに思われる日が来るなんて思いもしなかったわ。母国では誰も私を見てくれなかったから。そんなことを考えていたら、急にジーク様が屈みこんでしまった。ど、どうなさったの?


「ジーク様?」

「はぁ、妻が可愛すぎて辛い……」

「……え? ひゃ!」


 なんて仰ったのか聞こえなかったから聞き直そうと顔を近づけたら、急に抱き付かれてしまった。びっくりしたわ、急にどうなさったの? だけど、大きな身体に包まれて大好きな香りが増す。それだけのことに心が震える。


「はぁ、嘆いていても仕方ないな。それよりも今を楽しまねば」

「ふふっ、そうですわね」

「アリーは何かしたいことはあるか? とはいっても出かけることも出来ないから大したことは出来ないが」

「そう、ですわね……」


 やりたいことといわれても、困ったわ、これがしたいと思うようなことが思い浮かばない。この半月あまり、慌ただしく何かに追われるような毎日だったから、ちょっとゆっくりしたいとは思うけれど……


「これがというものは、特に」


 遠乗りに行けるならとも思ったけれどさすがに難しそうだし、出来ることといったら庭の散策くらいよね。だけど……


「でも、ジーク様はずっとお忙しかったでしょう? だったら部屋でのんびり過ごすのはどうでしょう?」

「アリー、そんなことを言ったらずっと部屋にこもってしまうぞ?」


 ええっ? そこまでお疲れなの? いえ、でもここ十日ほどは寝る時間を削ってお仕事をされていたとラーシュもレオも言っていたわ。他国の王族の歓待などもあって息を付く暇もなかったと。だったら相当お疲れよね。ジーク様は社交があまりお好きではないから、戦場にいる時の方が気楽だと仰っていたこともあったし。


「構いませんわ。一緒にいてくださるだけでここが満たされますもの」


 胸の奥が、いえ、身体の底まで満たされていると感じる。


「だったら、遠慮なく」

「え? ちょ……」


 いきなり立ち上がったと思ったら抱き上げられた。ええっ? ま、まさか……


「ああ、さすがに手を出したりはしない。まだ眠いから二度寝したいんだが」


 そう仰っている間に寝室に、ベッドまで来てしまったわ。二度寝って。でも……


「私も、まだ眠いです」


 眠いわ、確かに昨夜は寝室に入るのも遅かったもの。それから閨をしたから眠ったのはかなり遅かったはず。だけど、いつも通り目が覚めてしまったのよね。ジーク様とくっついていられるのなら、それだけで幸せだわ。


 ベッドに二人転がって抱きしめ合った。ジーク様の身体は私よりずっと温かいわ。夜着の上からでも伝わってくる体温に、鼓動に満たされていく。こんなに幸せでいいのかしら。夢じゃないとわかっているけれど、幸せ過ぎると怖く感じるものなのね。だけど、この温もりを、幸せを失うなんて考えたくもないわ。


「ジーク様、どこにも、行かないでください」

「アリー?」

「一人に、しないでください」


 嫌な思いから逃げるように熱い身体に抱き付いた。離れたくない……このままジーク様と溶け合ってしまったらもう寂しさなんて感じないのかしら?


「アリー、一人になどしない。何があっても俺はあなたを手放さない」


 一層強く抱きしめてくれた。少し痛いくらいのそれに幸せを感じる。


「ジーク様、愛しています」

「ああ。だが、俺の方がずっと愛しているよ」

「私の方がもっと好きです」

「俺の方がずっと前から好きだったぞ」


 たわいもない会話なのに幸せが溢れてくる。今、私はきっと世界で一番幸せだわ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ