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亡国色の王女は打算で敵国に嫁ぐ  作者: 灰銀猫


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似た者母子

 久しぶりに気持ちよく目覚めた朝の清々しさを台無しにしたのは、突然やって来た母とエルリカだった。親子とはいえ先触れもなく押しかけてくるなんて……そうは思うのだけれど、彼女たちにとってはこれが普通なのよね。ため息を隠して出迎えた。


「お姉様、ジーク様からの贈り物、とっても素敵なのですって? 是非見せてくださいな!」


 頬を薔薇色に染めてねだる姿は可憐だけど、厚かましいことこの上ないわ。人様の贈り物を見定めようだなんて品がないし、ジーク様って……他国の王太子を愛称で呼ぶなんて信じられない。それを諫めることもしないで一緒になってやってくる母にも失望しかないけれど、見せるまで居座って終いには泣き出すのは目に見えているから断る選択肢もないのよね。仕方なくエリーに頼んで片付けてもらった贈り物を出してもらった。


「まぁ……!」

「なんて素敵……」


 様々な贈り物の中で、二人が特に目を輝かせたのは宝飾品の数々だった。元より宝石に目がない二人だからこうなることは予想していたけれど、浅ましいとしか言いようがないわ。そして、これで終わるはずがないのよね。案の定……


「この青色の宝石、とっても透き通っていて素敵。私の瞳と同じ色だわ。ねぇ、お姉様……」


 両手を胸の前で揃え、上目遣いで見上げてきた。可憐で何でも言うことを聞きたくなるような愛らしさだけど、私から見たら厄災でしかないわ。そしてこの子の厄介なところは、決してほしいとは言わないところ。相手が察して自分の願いを叶えてくれるまで粘るしつこさがある。ため息が出そうだけど、母の前でそれをすれば咎められるのは目に見えているから飲み込んだ。


「エルリカ、さすがにこの品はあげられないわ」

「……え?」


 どうしてそこで驚くのかしら? これは私への贈り物で、贈り主は他国の王太子殿下なのに。そんな失礼なこと、出来るはずないじゃない。


「アリッサ、そんな意地の悪いことを言わなくてもいいでしょう?」


 母がとがった声をあげたけれど、どうして私が責められるのかしら? 諫めるならエルリカの方でしょうに。まったく……


「お母様、何を仰っているのです? これはファーレンの王太子殿下からの贈り物ですのよ」

「だけど、一つくらい……」

「謁見の間での王太子殿下の言葉をお忘れですの? 殿下は「ファーレンに来てからも使えるように」と仰っていたのを」


 花嫁に贈られた品は花嫁の個人財産になり、それを持って嫁ぐのは一般的なこと。特に国をまたいでの婚姻の場合、国が違えば相手の国で好まれるものもがらっと変わるから、花嫁が嫁ぎ先で恥をかかないようにとの配慮も含まれている。それを他人に譲るということは相手の配慮を蔑ろにしていると取られても仕方がない。いくらファーレンから持ち掛けられた婚姻とはいえ、王太子殿下の気遣いを無下にしては我が国の立場が悪くなるわ。


「それはそうだけど……」

「お母様はどうでしたの? お父様から贈られた品を伯母様に譲りましたの?」

「そんなこと、するわけないでしょう!」


 母が顔を赤くして声を荒げた。母と伯母様の仲が悪いのは有名な話。伯母様の方が優秀で美人で、昔から比べられて育ったせいか母は伯母様に対して強い対抗意識を持っているわ。元々父との婚約は伯母様にあったのに、母が強引に婚約者の座に収まったとも聞いている。世間の母への風当たりが強いのもそれが関係しているとも。


「そういうことよ、エルリカ。ごめんなさいね。だけどあなたが婚約したらもっと素晴らしい品がいただけるわ」

「そう、でしょうか……」


 しつこいわね、ここまで言ってもまだ宝石から目を離さないなんて。


「ええ、だってあなたは『ヴァイラントの花姫』なのよ。あなたのためならもっと素晴らしい品がたくさん届くわ」

「そうね、エルリカ。あなたにはもっと素晴らしい品がたくさんいただけるわ」


 意外にも母が私に賛同した。母も伯母様のことを出された上、慣例を出されては否定出来なかったようね。伯母様への対抗意識は年をとっても変わらないらしい。それに、王妃として恥になるようなことは避けたいはず。ああ見えて見栄っ張りなのよね。エルリカは最後まで物欲しそうに宝石を見つめていたけれど、母に引きずられるようにして部屋を出ていった。




「まったく、何をお考えなのでしょうね」


 二人が出ていった後、いつもよりも荒い動きで二人の残り香を追い出すように窓を開け放ち、私の一番お気に入りのお茶を淹れてくれたのはエリーだった。まだ怒りが収まらないらしく眉間には皺が深く刻まれていて、茶器を扱う手つきが粗い。


「エリーったら、怒りすぎよ」

「何を仰っているのです、アリッサ様。まったく、あの方々はどこまで人を馬鹿にしたら気が済むのかしら……」


 余計に怒りの火が大きくなってしまったかしら? だけどそんな風に私のことで怒ってくれる存在が嬉しくて頬が緩んでしまう。


「アリッサ様ったら、何を笑っているのですか?」

「代わりに怒ってくれるエリーの気持ちが嬉しいのよ」


 彼女がいてくれたから、お祖母様が亡くなられた後も潰れずにいられたわ。


「もう、お人好しが過ぎますわ!」

「そんなことないわよ。ざまぁみろと思っているもの。だけど……あの子がこれで諦めてくれるかしら……それが心配だわ」

「それは……」


 エリーも口ごもってしまったわ。だけど不安が残るのは本当のこと。あの子、気に入ったものは手に入れるまで諦めないしつこさがあるわ。これまでだって最後には泣いて母や兄に泣きついて私から奪ってきたから。父か兄に泣き落とす? それとも……目的のためなら突拍子もないことをすることもあるから不安が消えないわ。王太子殿下が滞在中だから失礼なことをしでかさなければいいのだけど。




 そんな私の不安は、翌日現実となった。


「お父様、ジーク様は私の初恋のあの方でしたの」


 翌朝の家族そろっての朝食の時間、エルリカがとんでもないことを言い出した。






4話の末尾にエピソードを追記しました。

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