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亡国色の王女は打算で敵国に嫁ぐ  作者: 灰銀猫


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妹抜きでの面会?

 第三妃とのお茶会が終わって私室に戻ると、直ぐにジーク様がお待ちだとエリーが教えてくれた。何かあったのかしら? 着替えなくていいとの言付けもあったので、そのままジーク様の執務室へと向かった。着替えもなしだなんて、何か緊急な問題が? もしかしてエルリカたちがもう着いたのかしら?


「ジーク様、何かありましたか?」


 護衛が開けた扉を潜り中へ入るとジーク様は大きな机の前で書類を手にしていた。傍にはラーシュとレオの姿もある。さっきの令嬢の顔が思い浮かんだ。なるほど、並んで立つとお似合いよね。何とか成就出来る手があるといいのに……


「アリー、無事終わったか?」

「ええ。特に問題はありませんでしたわ。フリーダの説明が上手く伝わったのでしょう」


 そう告げるとジーク様が表情を緩ませてそうかと笑った。心配をおかけしていたのね。もしかしてお呼びになった理由って、それ?


「ほら、言ったじゃねぇか、姫さんは無事だって」

「だが、あの女の巣窟なんだぞ。毒が無理でも他に手はあるだろう」

「だったら行かせなきゃよかっただろう?」

「でも、アリーが行くと言ったんだ。理由を聞けば止められなかったんだから仕方がないだろう」


 言い合いが始まったけれど、ジーク様、過保護過ぎます。こんな方だとは思わなかったわ。いえ、慎重だからこそこれまでの戦いを生き延びてこられたのでしょうけれど。


「ラーシュ、休憩だ。ミア、茶を淹れてくれ」

「もうですか? さっきからちっとも進んでいませんが……」


 頭を下げて茶器の元に向かったミアに対して、ラーシュは苦言を呈していた。それでもソファに向かうのだから反対というわけではないのよね。ジーク様に手を取られてソファに向かう。隣り合わせで座ると対面にラーシュとレオが座った。


「ああ、このドレスもよく似合っているな。よく見せてくれ」


 紺碧の瞳がとろりと溶けそうに感じられた。視線も表情も声も甘くて居心地が悪いわ……目の前にラーシュたちがいるのに。


「ありがとうございます。可愛いだけでなくとても着心地がよかったです」

「そうか。これは我が国の特産の一つなんだ。数は少ないが夫人らには人気らしい」


 希少な品なのに、それをわざわざ取り寄せてくださったのね。そのお気持ちが嬉しいわ。夫人たちがやけにドレスを見ていると思ったけれど、私と視線を合わせたくないんじゃなくそういうことだったのね。


「それで、茶会はどうだった?」


 やはり気になっていらっしゃったのね。だけど第三妃の存在は侮れない。今日実際に会話をしてその思いは一層深まったわ。そこからは出来るだけ簡潔に事実だけを説明した。参加者の顔ぶれやその関係性、話題になった話や第三妃が話しかけていた人物など。後でフリーダからも報告があるとは思うけれど、思い出せる限りのことを話した。


「カトリーナが……」

「あ~あいつ、ジークに振られたんで腹いせか?」

「第三妃にジークの妃にしてやるとでも言われたのかもしれませんね。彼女なら釣れそうですから」


 どうやらカトリーナ嬢の件は想定内だったらしく、驚きはしても納得もしているように見えた。付き合いが長い彼らの方がよくわかっているでしょうから、後はお任せするしかないわね。


「ブレンメ公爵にも一言言っておこう。公爵の方でも気を付けてくれるだろう」

「そうですね。さっさと嫁に出してくれればよかったものを」

「まったくですが今更です。公爵のためにも自重していただきたいところですね」


 皆、カトリーナ嬢よりも公爵の心配をされているようね。つまりはそれだけのことがあったってことね。ジーク様に並々ならぬ執着心を持っているのなら、簡単には諦められず、そこを第三妃に利用されているのかもしれない。


「あと、話は変わるが、ヴァイラントの一行が明日にも王都に着くようだ」

「そうですか」


 気分が一気に重くなった。離れていれば思い出しても大して気にならなかったけれど、近くにいると思うだけでこんなにも変わるなんてね。過去に縛られたくないけれど、十七年の重しはそう簡単には消えてくれないようね。それに、エルリカにはお祖母様の遺した書簡のこともある。今はマルクに他の情報がないか調べてもらってはいるけれど……


「アリー、大丈夫か?」

「ええ、ただ気が重いなぁと思っただけです」


 ジーク様のお気持ちに不安はないけれど、あの兄妹が他国で恥を晒さないかとの不安は消えないわね。困ったわ、今回は周辺国の王族も集まってくるから。その意味を、重さをあの二人がどこまで理解しているのか……


「心配無用だ。王族は離宮にそれぞれ滞在してもらう。ここに来るにはかなりの警備を越えねばならん。簡単には抜け出せないし、ヴァイラントは特に厳しくしている」


 ニヤッと笑った。最初は苦手に感じたけれど、今は偽悪的な表情も素敵で安心する。嫌だわ、また胸の鼓動が……顔、赤くなっていないわよね。


「アリーの憂いは俺が払う。安心して過ごしてくれ」

「ありがとうございます」


 どうしてこの方はこんなにもほしい言葉をくれるのかしら。嬉しいけれど、きっと余計に顔が赤くなっていそう……慌てて意識を兄たちに向けた。きっと到着したらすぐに会いに来るわよね。あの子は自分の願いは必ず叶うと信じて疑いもしない。そんな風にしてきた家族のせいだけど、ここで失態を犯せばあの子の縁談先が限られてしまう。


 いえ、そもそもお祖母様の書簡の内容が事実なら、あの子にはその資格がない可能性もあるのだけど……兄は知っているのかしら? 兄の異常なほどの過保護も、その可能性が前提であればわからなくもない、かしら。気は重いけれど兄には一度会って話を聞いてみたいわ。





 憂いの元は翌日、予定通りに到着したとの知らせがあった。王宮の近くにある他国の王族の滞在用の離宮。その中でも一番近く立派なものが兄妹に用意されていた。花嫁の母国だから当然なのだけど、その分警備も厳しくされている。他国からの刺客が同盟を破棄させようと狙ってくる可能性もあるからだけど……


「早速、俺に会わせろと言ってきているぞ」


 翌日の午後、ジーク様と共に朝食を摂っていると、エルリカがジーク様との面会を求めていると教えてくれた。まったく諦める気はないみたいね。兄は何をやっているのかしら。今更同盟を反故にする気? それとも……姉妹なら入れ替わっても問題ないと思っているのかしら。その可能性は高いわね。ということは、兄は何も知らないのかしらね。


「どうなさいますの?」

「会うつもりはない。要求は断れと護衛に言ってある」


 だったら大丈夫ね。他国の離宮で脱走騒ぎなど起こせば大問題になるもの。私は出来るけれどあの子では無理だわ。多分いつにも増して派手で広がりのあるドレスを持ってきているでしょうし。


 そう思っていたら夕刻には私に会わせろと騒いでいるとフリーダが教えてくれた。ジーク様がダメなら私ってこと?


「アリーも放っておくように」

「もちろんです。もし会うとしても式の後ですわ」

「ああ、それでいい」


 鷹揚に頷くと肉を口に運んだ。途端に口元が緩んだ。これ、ジーク様がお好きなのかしら? 同じものを口に運んだ。あら、この肉、柔らかくて美味しいわ……


「ははっ、美味いだろう? ホロホロ鳥の肉だ」

「まぁ、初めて聞く鳥ですわ」

「暖かい山地に住む鳥だ。美味いんだが滅多に人前に姿を出さないから手に入りにくいのが難点だな」


 そうだったのね。だったら尚のこと、狩りに行ってみたくなるわ。この立場ではそれも叶わないでしょうけれど。




 就寝前の湯浴みを終えて部屋で寛いでいると、エルリカが癇癪を起して泣き続け、兄が慰めているとフリーダが教えてくれた。あの子は何も変わっていないのね。まだ十五歳で子どもだと言えばそれまでだけど、あの子も王族の一人、相応の振る舞いを身に着けていなければいけないのに。ディアーク様はあの子の一つ下だけど、よっぽどしっかりしていらっしゃったわ。兄もあの子が可愛いなら甘やかすばかりではなく、王女として誰からも後ろ指を指されないように諫めるべきなのに……


 こうなると兄はエルリカの秘密を知っているのかしら? だったらあの可愛がりぶりはわからなくもないけれど、そうなると考えたくない可能性が生じる。


もしかして兄はあの子のことを妹としてではなく? それなら既に妻のいる身でありながらあの子を優先する態度も納得だけど、このままだと兄が暴走しそうで危険ではないかしら? あの子は国外に、兄の手の届かないところに嫁がせた方がいいのかもしれない。だけどそうした場合、あの子が嫁ぐのは王族以外になる。どの国も血統を重視するから……




 翌朝、ジーク様と共に朝食後のお茶をいただいているところにラーシュがやってきた。


「どうかしたか?」

「はい、ヴァイラントの王太子殿下からです」

「王太子から?」


 眉の間に皺を寄せたジーク様が兄からの書簡に目を通した。一層皺が深まったわ。何が書かれているの? 私の視線を感じたジーク様が手にしていたそれを私に渡してくれた。


「……ジーク様と私と兄で……面会?」


 そこにはエルリカ抜きで話がしたい旨が記されていた。あの子抜きで話って、何を話そうというの? 思わずジーク様と顔を見合わせてしまった。せっかくの朝の清々しさが一気に色褪せてしまったわ。


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