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亡国色の王女は打算で敵国に嫁ぐ  作者: 灰銀猫


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殿下の答え

「アリー、気持ちは嬉しいが、あなたを連れて行くことは出来ない」


 殿下の答えは私の思いに反するものだった。そんな……


「ど、どうして……」

「罠かもしれないからだ。そんな危険なところにあなたを連れてなど行けん」

「でも、私だって少しくらいはお役に立てるはずです」


 それなりに鍛練も積んでいるし、レオにも勝てたのなら及第点ではないかしら?


「確かにあなたの腕なら問題ないだろう」

「では……」

「だが、連れて行くわけにはいかない。あなたは俺の唯一の弱点だからだ」

「弱点……」


 握られた手の力が増す。唯一の……その言葉に頬が熱を持ち始めた。


「昨日のことで俺があなたに惚れていると多くの者が知っただろう。それはつまり俺の弱点があなただと公になったも同然だ」


 真っ直ぐに向けられる視線が痛く感じるほどに鋭くて、なんだか泣きたくなった。


「だ、だったら尚のこと、共に行けばいいではありませんか。いなければ手を出すことなど出来ませんわ」


 ラーシュ殿やレオを置いていくということは王宮が危ないということ。詳しくはわからないけれど殿下の一番の敵は第三妃派なのよね。確かに嫁いだばかりで右も左もわからない私は彼らにとって狙いやすいでしょうし、私も受けて立つにしても不安が残る。だったら共についていった方がいい。


「ジーク、アリッサ様の言う通りだ」

「ラーシュ!? 何を馬鹿なことを!」


 意外にも一番反対しそうな人物が賛成してくれた。どうして? その真意は何?


「だがアリッサ様をお守りするには最善だ。お前だってわかっているのだろう? いくら俺たちが傍にいてもお前には敵わない。第三妃らもそれをわかっている。必ずなにか仕掛けてくるだろう」

「だからと言って戦場に連れて行けと? 鍛練とは違うんだぞ!」


 殿下の怒気に身が竦んだけれど恐れはなかった。それよりも……顔が赤くなりそう……


「ジーク、俺もラーシュの意見に賛成だ。姫さんを守るには連れて行くのが一番だ」

「レオ?」

「悔しいけど俺より強ぇんだぞ? 足手まといじゃねぇ、即戦力だ」

「そういうことです」


 思いがけない援軍を思わずまじまじと見てしまった。ラーシュ殿は仕方なしといった感じだけど、レオは本気でそう思ってくれているらしい。母国でははしたないと、みっともないと言われてきたけれど、評価してくれる人がいるって、心が温かくなるものなのね……


「……わかった」


 暫く眉間に皺を深めたまま目を閉じていた殿下がそう呟いた。その表情は険しくて、その決断が本意ではないようにも見えた。


「アリー、約束してほしい。決して無茶な真似はしないと。危険だと俺が判断したらすぐに引くんだ。そうでなければ同行させられない」

「わ、わかりましたわ」


 思わず食いつき気味に言ってしまった。行っていいの? だったら嬉しい。一人残されるのは不安だったから。


「何だかんだ言ってジークは姫さんに甘いよな」

「血濡れの王太子も妃殿下には敵わないようですね」

「うるさい!」


 レオもラーシュ殿も遠慮がないわね。だけどそんな関係が羨ましいわ。私とエリーみたいな感じかしら。そういえば兄にはこんな風に言い合える相手はいなかった。それだけでも殿下との器の差を感じる。




 それからは慌ただしく出立の準備が進められた。


「まったくアリッサ様ったら。まさかこの国に来てすぐに従軍されるなんて……」

「ごめんなさい、エリー。でも、ここに残るよりは気が楽かと思って」

「まぁ、そこは確かに仰る通りですけど」


 文句を言いながらも事情は理解してくれていた。


「エリーも一緒に来てくれる?」

「当然です。こんな機会、逃すなんてもったいない」


 何だかんだ言ってエリーだって乗り気じゃない。でも、彼女って見た目は可愛らしいけれど武闘派なのよね。小さい頃からマルクから色んなことを叩き込まれていたし。


「でも、入国してすぐに王宮を離れて大丈夫なのですか? こちらの国王陛下は……」

「殿下から許可をお願いしたと聞いたわ。陛下はあの「戦姫」の孫だとお笑いになったと仰っていたけれど……」

「う~ん、だったら大丈夫でしょうかねぇ」


 そう言いながらもエリーも頬に手を当てて訝しんでいた。自分から言い出したことだけど、実を言うと今になってちょっと不安になってきている。国王陛下のご不興を買っていないかしら? 後で殿下にもう少し詳しく尋ねた方がいいかもしれないわね。この国に来たばかりだからもう少し慎重に動くべきだったわ。でも、今更撤回も出来ないから、何かしらの成果を得て認めてもらうしかないわね。


 あとは……第三妃たちね。これを理由に私が王太子妃に相応しくないと言い出すかもしれない。殿下は対外的には私を残していくのが心配だから共に連れて行くことになさったけれど、それも彼らにとっては攻撃材料になるかもしれない。だったら反乱軍を治めて実績を示すしかないわね。少しでも殿下のお役に立てるように務めなきゃ。




 翌朝、まだ外が白い靄に覆われている中、殿下が率いる討伐隊が出立した。私もファーレン軍の騎士服に身を包み、フロイデで駆ける。嬉しいわ、この子と風を感じるのは楽しいから。反乱軍の討伐という使命があるけれど、昔から王宮にはいい印象がないせいか外に出られることに心は弾んでいた。


「アリー、準備はどうだ? 足りないものはないか?」


 声をかけてきたのは殿下だった。今日は儀礼的な騎士服ではなく実戦用のもので私のそれとデザインが似ている。私のは騎士になりたての少年用のものだから作りはまったく違うけれど。ちなみにエリーも私と同じ騎士服で、こんな時だけど彼女は「お揃いですね」と喜んでいた。私用ならもっと立派なものになるのだろうけれど、さすがに昨日の今日では間に合わなかったのよね。


「大丈夫ですわ。ありがとうございます」


 ヴァイラントの王宮を出た時も殆ど着の身着のままだった。それでも特に不便を感じなかったのはお祖母様の意向で万が一に備えた生活をしていたから。まぁ、半分は家族が私に関心がなくて必要なものが十分与えられなかったのもあるけれど。でも、それが私を強くしてくれたわ。


「そういえば、反乱軍はどうなのです? 状況はいかがなのですか?」

「ああ、まだ話していなかったな。反乱軍を名乗る連中が町を占拠しているのは我が国の北西にあるラルセン公爵領だ」

「ラルセンって……独立を宣言した、あの?」

「ああ」


 それは私だって知っているわ。この国の数代前の王子の流れを汲むラルセン公爵家。

我こそが国王に相応しいと一方的に独立を宣言して、いくつかの貴族家が彼に与し、それから内乱が始まったと聞くわ。そして二年前、当時の当主を討ったのが殿下で、それでようやく内乱は終わったとも。


「今回の首謀者に心当たりは?」


 当主は亡くなったと聞くからその側近? それとも忘れ形見を誰かが祭り上げたのかしら?


「まだ詳しいことはわからん。わかっているのは奴らの名を騙る集団が町を占拠したということだけだ」


 それだけだと残党の可能性とは言い切れないわね。それに町を占拠してどうするつもりかしら? どうせすぐに討伐隊が派遣されるのに。生き延びるためなら他国に逃れる方がずっといいはず。


「ラルセン公爵領はどうなっていますの?」

「今は王宮騎士団が駐留しているし、父が命じた者が治めている。正直言って、今回は俺をおびき寄せるための陽動の可能性が高いと考えている」


 陽動ならわざわざ殿下自ら赴かなくてもいいのではないの?


「まさか、第三妃が?」

「証拠がないからその名を口に出さない方がいい」

「も、申し訳ありません」

「ああ、責めているわけじゃないんだ。だが、奴らの狙いが俺であることには変わりないだろう」


 そんな……では、殿下の暗殺が目的だと? なのに自ら赴かれるの?  




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