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■ Ep.127 第66.9話:幕間【英雄に安眠なし。地獄の北方インターンシップ強制執行】

【第66.9話(Ep.127):まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


激闘の第6章【アトランティア編】が幕を閉じ、世界は救われ、悪徳公爵は没落しました。

物語はここから、新章【第7章:インターン・兄弟再会編】へと突入します。


要塞を海に叩きつけ、ようやく「上級男子寮」での快適な引きこもり生活に戻れると確信していたコタロウ。

しかし、彼がアトランティアで見せた「物理法則のハック」は、王国の権力者たちを恐怖させ、そしてヒロインたちの愛をさらに重くしてしまいました。


今回は、懐かしの「学園長室」を舞台に、国家規模の不条理がコタロウに襲いかかります。

サボりたい英雄と、彼を逃がさない国家と乙女たち。

さらには、世界の果てから忍び寄る「働きすぎな兄」の影。

史上最も賑やかで、最も「不届き」なインターンシップの幕が上がります。

【Ep.127 第66.9話:本文】

1. 黄金の檻、あるいは束の間の聖域

王立精霊学園、上級男子寮。

かつてのボロくて隙間風の吹くFクラス寮とは比較にならない、広々とした個室。

精霊学部への進級と、度重なる「英雄的行為」を認められた俺、神木コタロウは、今やこの学園で最高クラスの住環境を手に入れていた。


厚さ20センチを超える防音壁。空調完備。

そして、何よりも素晴らしいのが、最高級の羽毛布団が敷かれたキングサイズのベッドだ。


「……あー。……最高だ。……この、世界から隔離されたような静寂。……これこそが、俺がアトランティアを海に沈めてまで守り抜きたかった『報酬』だよ」


俺は、サイドテーブルに置いた漆黒のペン――**【魔導ブラック・バトン】**を無造作に転がしながら、部屋に満ちる平和を噛み締めていた。

もはや、廊下を騒がしく歩くファンクラブの連中の声も、ここまでは届かない。


(……これで、ようやくサボれる。……あとは学年が変わるまで、誰にも見つからずに昼寝をして過ごすだけだ)


そう、確信していた。

扉が「爆発(魔力開放)」されるまでは。


「神木コタロウ!! いつまで寝ぼけているのですか! 直ちに身支度を整えなさい!」


扉の鍵を「物理的な魔力」で強制解除して入ってきたのは、セフィラ先生だった。

彼女は新しい胃薬の瓶をバリボリと噛み砕きながら、鬼の形相で俺の布団を剥ぎ取った。


「……セフィラ先生。……お疲れ様です。……お休み中なら、後ほど……」


「学園長がお呼びです。……いいえ、正確には『王国政府』と『聖教会』の代表が、貴方を待っています。……最上階へ、今すぐ来なさい」


セフィラの瞳は、心底同情するような、それでいて「もう胃壁が限界だ」と言わんばかりの絶望に染まっていた。


2. 学園長室の再審、あるいは「資産」の査定

王立精霊学園、最上階。

重厚な扉の奥にある学園長室。

かつて「魔法オリンピア」の後に呼び出された時と同じ、威圧的な沈黙がそこには満ちていた。


巨大な円卓の上座には、柔和な笑みを浮かべつつも目が笑っていないオスモンド学園長。

その右側には、モノクルを光らせて書類を精査する副学園長のマグダ。

そして左側には、相変わらず暑苦しいマナを撒き散らしている精霊学部長のヴォルコット。


だが、前回と違うのは、部屋の隅に控える「聖教会」の筆頭審問官、アリス・リンドバーグ。

そして、王宮からの特使と思われる、全身を仰々しい儀礼服で固めた役人たちの存在だ。


「……まずは、おかえり。コタロウ君」


オスモンド学園長が口火を切った。

「天空要塞アトランティアを掌握し、海面に着水させるという前代未聞の離れ業。……おかげで、我が学園の株価は前回どころではない、歴史的なストップ高だ。理事会も、君を『生ける神話』として祀り上げる準備をしているよ」


「……光栄です、学園長。……ですが、俺はただのFランクの学生ですので、祀られるよりも寝かせていただけると……」


「フン。相変わらず図々しい男だな」


副学園長のマグダが、冷淡に言葉を遮った。

「貴様が掌握した要塞アトランティア。……あれを『Status: On Break(休止中)』などというふざけたコードで上書きしたせいで、王国の魔導技師たちが解析に手も足も出ない状態だ。……貴様は、国家の軍事バランスを一人で破壊してしまったのだよ」


「……それは、必要経費というか、エコというか……」


俺が言葉を濁すと、ヴォルコット学部長がガハハと笑って机を叩いた。

「細かいことは気にするな、マグダ君! 重要なのは**『パッション』**だ! コタロウ君は精霊王たちと最高のビュッフェを楽しんだのだ! これこそが、精霊学部の真骨頂よ!」


ヴォルコットの援護はありがたいが、部屋の隅にいるアリスの視線が、氷点下まで冷え込んでいるのが分かる。


3. 非情なる勅命:北方要塞への追放

「……さて。コタロウ君」


オスモンド学園長の表情が、ふと真剣なものに変わった。

彼は円卓の中央に、金色の箔押しが施された「王宮の勅命書」を提示した。


「アトランティアの一件で、君の能力は『隠しきれないレベル』に達してしまった。……聖教会は君を『聖域の破壊者』と呼び、王宮は君を『不安定な戦略兵器』だと危惧している」


学園長は、苦い顔をして胃薬(セフィラから借りたのか?)を口にした。

「彼らは、君を学園という安全圏から引きずり出し、彼らのコントロール下に置こうとしている。……その第一歩が、今回の課題だ」


セフィラ先生が、俺の隣で絶望的な響きを帯びた声で読み上げた。


「『神木コタロウ、および精霊学部選抜メンバー。……魔王軍の攻勢が激化する最北の防衛拠点、**北方要塞ノーザン・ゲート**への、一ヶ月間のインターンシップを命ずる』」


「……北方要塞? ……確か、あそこって年中吹雪で、娯楽もなくて、ただ魔物と戦うだけの……」


「その通りです。……王宮の意図は明白。……実戦経験の乏しい貴方を最前線に放り込み、その底知れぬ力を『国家の盾』として登録し直すことです」


セフィラは俺の肩に手を置き、静かに告げた。

「……逃げ場はありません。……拒否すれば、貴方は即座に『異端』として教会の地下室行きです」


4. 四重の包囲網、あるいは「愛」という名の鎖

「……あ。……あの、学園長。……一人で行くのは心細いので、せめて……」


「それには及びませんわ、コタロウ様!!」


扉が、再び勢いよく開け放たれた。

現れたのは、ドレスの裾を翻したクラウディア、そしてアヤネ、リリス、モモの四人だった。


「学園長! 事務的な手続きは既に完了しておりますわ!」


クラウディアは、マグダ副学園長の隣まで歩み寄ると、堂々たる態度で宣言した。

「ルミナス家の資産……いいえ、わたくしが叔父から継承した全利権を投じ、北方要塞への『物資支援』を約束いたしました。……条件は一つ。……わたくしが、コタロウ様の随行員として、現地での生活全般をマネジメントすることです!」


「クラウディアさんだけずるいです! 私も、聖女としての『巡回慰問』という名目で、既に教会の許可を取りました! コタロウくんの隣で、ずっとマナを補充してあげます!」


アヤネが俺の右腕をギュッとしがみつき、無自覚な独占欲を全開にする。


「……コタロウ。北方の魔導防衛ラインの解析には、私の演算能力が必要よ。……馬車の中での自習時間、一ヶ月分を既にスケジューリングしておいたわ」


リリスが左側から俺の腕を確保し、逃亡確率が 0パーセント であることを数式で示してくる。


「……コタロウ。……北の魔物は、身が締まっていて美味いらしい。……あたしが狩る。……お前は、食って寝てろ。……あたしの隣でな」


モモが俺の背中にのしかかり、獣のような占有宣言を囁く。


学園長室を埋め尽くす、圧倒的なまでの「英雄への執着」。

オスモンド学園長は、それを見て満足げに頷いた。


「……決まりだね。……神木コタロウ君、君のインターンシップは、これまでの学園生活で最も『有意義』で、そして最も『サボれない』ものになるだろう」


5. 第7章の開幕:兄弟再会の予感

一時間後。

俺は四人の少女に四方から抱えられ、学園長室を後にした。


「(……AI。……現在の絶望指数を数値化してくれ)」


『報告。……現在の精神的負荷は、アトランティア掌握時の 150パーセント を記録。……ですが、マスター。……さらなる不確定要素を検知しました』


脳内の**【AI】**が、不穏な波形を提示した。


『北方要塞の周辺で観測されている魔王軍の作戦コード。……解析の結果、日本での前世におけるマスターの兄、ソウイチロウ氏の思考パターンと 99.9パーセント 一致しました。……お兄様、異世界でも「不眠不休のホワイト化改革」を推進中のようです』


「…………最悪だ」


俺は、掃除の行き届いた上級男子寮の廊下で、天を仰いだ。


愛が重すぎる四人のヒロイン。

コタロウを「最高級の資産」として利用しようとする国家と学園。

そして、魔王軍の将軍として君臨し、生産性を求めて攻めてくる仕事中毒の兄。


「(……サボらせてくれよ。……俺は、ただ……このフカフカのベッドで寝ていたいだけなんだ……)」


俺の叫びは、四人の少女たちが繰り広げる「インターン先での部屋割り」という名の戦争にかき消された。


英雄神木コタロウ。

彼の「安眠」を懸けた史上最大の兄弟喧嘩が、極寒の地ノーザン・ゲートで、今まさに始まろうとしていた。


(第66.9話 完)

【第66.9話(Ep.127):あとがき】


第127話をお読みいただき、ありがとうございます。

せっかく手に入れた上級男子寮での安眠プランが、国家規模の不条理によって完全に崩壊してしまいました。


今回の展開を整理すると以下の通りだ:


学園長室での非情な宣告: アトランティアでの活躍が目立ちすぎた結果、王国と聖教会はコタロウを「国家の盾」として登録すべく、最前線「北方要塞ノーザン・ゲート」へのインターンシップを命じた。


逃げ場のない包囲網: クラウディア、アヤネ、リリス、モモの四人がそれぞれの権限や執念を駆使し、随行員として同行を決定した。


兄・ソウイチロウの謎: 日本にいたはずの兄が、異世界の魔王軍将軍として現れたというバグ。過労死による転生か、それとも時空の歪みか、コタロウの驚愕と共に物語は北へと向かう。


そして物語は、第128話へと続きます。

舞台は、雪と氷に閉ざされた王国の防衛ラインだ。


戦場のオフィス化: 北方要塞に到着したコタロウを待ち受けていたのは、高度に「効率化」された魔王軍の強襲だった。


仕事中毒な兄との再会: 漆黒の軍礼装を纏い、納期を守るように攻撃を仕掛ける兄・ソウイチロウ(将軍シュナイダー)が、コタロウに「秘書」としてのヘッドハンティングを提案する。


不届きな反撃: 兄の圧倒的な正論と攻撃に対し、コタロウはAIが見つけ出した兄の黒歴史「漆黒の堕天使」という名のポエム・フォルダを切り札に反撃を開始する。


サボりたい弟と、働かせたい兄。

異世界の最前線で繰り広げられる、史上最も非生産的な兄弟喧嘩の行方をぜひお楽しみください。


物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から 【★★★★★】 で応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


皆様の応援が、コタロウが北方で見つける「防音完備の隠れ家」の快適さと、兄・ソウイチロウが管理する「魔王軍ガントチャート」の緻密さ、そして次話で全校放送される「黒歴史ポエム」の破壊力に直結します。

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