■ Ep.128 第67話:再会:インターン先が戦場になったので、帰ろうとしたら「兄貴」が攻めてきた
【第67話(Ep.128):まえがき】
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前回、第66.9話(Ep.127)では、王宮からの非情な勅命と、ヒロインたちの「愛という名の四重包囲」により、コタロウの北方インターンシップが強制執行されました。
舞台は、雪と氷に閉ざされた王国の最前線「北方要塞」。
極寒の地で、ただ静かに冬眠することを夢見ていたコタロウでしたが、着いた瞬間に事態は最悪の方向へ転がります。
鳴り響く警報、押し寄せる魔王軍。
そして、戦場を「オフィス」に変えてしまった、あの懐かしくも忌々しい「仕事中毒の兄」との再会。
異世界の最前線で、不届きなサボり魔と、働きすぎな将軍の、生産性を懸けた兄弟喧嘩が幕を開けます!
【Ep.128 第67話:本文】
1. 氷点下のインターン、あるいは絶望のホワイトアウト
王国最北端、北方要塞「ノーザン・ゲート」。
そこは、一年中吹き荒れる吹雪が石造りの壁を削り、呼吸するだけで肺が凍りつくような、まさに「絶望」を形にしたような場所だった。
「……あー。……無理。……一歩も歩けない。……俺、今すぐ凍死して、上級男子寮のベッドに転生したい」
俺、神木コタロウは、特急魔導列車から降りた瞬間に膝をついた。
重厚な外套を何枚も重ね着しているが、この地の寒さは物理法則を無視して、サボり魔の体温を奪い去ろうとしてくる。
「シャキッとしてください、コタロウくん! 私がマナで温めてあげますから!」
アヤネが背中から抱きついてくるが、彼女の「だまりのようなマナ」ですら、この極寒の地では微かな焚き火程度の頼りなさだ。
「コタロウ様、安心なさい。わたくしが既に、要塞の一区画を『ルミナス家特製・全館床暖房仕様』に改装するよう、工事業者に重力級の圧力をかけておきましたわ」
クラウディアは、寒さを優雅な所作で無視しながら、既に要塞司令官を「旧ルミナス公爵家」から引き継いだ圧倒的な資金力で黙らせる算段を立てている。
「……コタロウ。北方のマナ濃度は非常に高いわ。自習には最適よ。……二人で毛布にくるまりながら、要塞の防御結界の効率化を計算しましょう」
リリスが眼鏡を曇らせながら、俺の左腕をガッチリとホールドし、逃亡の隙を与えない。
「……コタロウ。……腹が減った。……北の雪ウサギは、脂肪が乗っていて美味い。……一緒に狩りに行こう。……暖房は、あたしの体温で十分だ」
モモが背後からのしかかり、野性味あふれる抱擁で俺の体温を維持しようとする。
「(……賑やかすぎて、逆に暑い。……だが、俺の心は氷点下だ。……サボらせてくれよ。……なんで修学旅行の後に、こんな過酷な環境で働かなきゃならないんだ……)」
俺は要塞の入り口を見上げ、深く、あまりにも重い溜息をついた。
だが、その溜息が白く消え去る前に、要塞の全域に耳を劈くような警報が鳴り響いた。
2. 強襲、そして「効率化」された暴力
キィィィィィィン!!
要塞の最上部に設置された「魔導警報石」が、赤黒い光を放ちながら振動している。
「な……!? なんですの、この不作法な音は!」
クラウディアが眉をひそめた瞬間、要塞の防壁を越えて、無数の漆黒の魔力弾が降り注いだ。
「敵襲! 魔王軍だ! 過去最大規模の軍勢が接近中!」
見張りの兵士たちの叫び声。
だが、俺はその混乱の中で、ある種の「違和感」を感じていた。
これまでの魔王軍の攻撃といえば、叫び声を上げながら魔物が突撃してくる、混沌とした暴力の塊だった。
だが、今、目の前の雪原を埋め尽くしている魔軍は違う。
整然とした隊列。
無駄のない魔力補給のタイミング。
そして、全ての部隊が「マニュアル」に従っているかのように、寸分の狂いもなく要塞の弱点を突いてくる。
「……おかしいわ。魔族の戦術とは思えない。……まるで、高度に訓練された『プロジェクトチーム』が、納期を守るために一斉に動いているような……」
リリスが魔導端末の数値を読み上げながら、戦慄した声を上げる。
「(……プロジェクトチーム? ……納期? ……やめろ、その単語を出すな。……俺の脳内で、前世のトラウマが疼き出すだろ……)」
俺は嫌な予感を振り払うように、戦場から最も遠い「避難所(寝床)」へ向かおうとした。
だが、その時。
敵陣の中央に、突如として巨大な、しかし異常なまでに「機能的」な移動要塞が現れた。
3. 将軍シュナイダー、あるいは「兄貴」の帰還
移動要塞のタラップが静かに降り、そこから一人の男が姿を現した。
漆黒の軍礼装。
微塵の汚れもない、磨き上げられた長靴。
そして、戦場の硝煙の中でも一切の乱れを見せない、冷徹な眼鏡の奥の瞳。
その男は、最前線であるにもかかわらず、片手に魔導タブレットを持ち、もう片手で書類にサインをしていた。
「……第3大隊、展開が15秒遅れている。次回の査定に響くぞ。……第7通信班、ノイズ除去が甘い。生産性を考えろと言ったはずだ」
男の声は、魔法で増幅され、戦場全体に響き渡った。
魔王軍の精鋭たちが、その声に震え上がり、一糸乱れぬ動きで攻撃を再開する。
「……あ……。……あぁ……」
俺の足が、止まった。
その声。その、眼鏡を中指で押し上げる仕草。
そして、周囲の人間のやる気を根こそぎ奪い去るような、あの「圧倒的な正論」のオーラ。
『マスター。……生体認証、完了。……魔力波長、および微細な行動パターン分析の結果、前方 300メートル に位置する魔王軍将軍「シュナイダー」。……マスターの実兄、神木ソウイチロウ氏であると断定します』
脳内の**【AI】**が、追い打ちをかけるように残酷な真実を告げた。
「……兄貴。……マジかよ。……魔王軍の将軍になってまで、……残業してるのかよ……」
「あら、コタロウ様? あの魔王軍の将軍をお知り合いですの?」
クラウディアの問いに答える余裕はなかった。
魔軍を率いる兄――ソウイチロウは、ようやく顔を上げ、要塞の防壁に立つ俺の姿を捉えた。
そして、彼は誰にでも聞こえるような大きな声で、心底「不満そうに」こう言い放った。
4. 生産性の低い再会
「……コタロウ。……お前、まだそんな場所で『学生』なんて非生産的なことをやっていたのか」
戦場が、一瞬で静まり返った。
味方の兵士も、敵の魔族も、そして俺の隣にいるヒロインたちも。
誰もが、魔王軍の冷徹な将軍と、王国が誇る「Fランクの英雄」の関係に、思考を停止させていた。
「兄貴……。……お前、……日本で死んだんじゃなかったのかよ」
「……死んだな。過労死だ。……だが、俺は転生した瞬間に理解した。この世界は、あまりにも非効率すぎる。……暴力で支配する? ……非論理的だ。……システムで管理し、全員をホワイトな環境で働かせる。……それこそが、我が軍の掲げる『世界征服』だ」
兄は眼鏡を光らせ、俺を指差した。
「コタロウ。お前がアトランティアで見せたあの『重力操作』。……解析の結果、あれは『事象の徹底的な手抜き(最適化)』によるものだと判明した。……お前は、この世界で最も高い『サボりの生産性』を持っている」
「……褒めてるのか、それ。……俺はただ、寝たいだけなんだよ」
「寝る? ……フン。お前のような逸材が昼寝をするなど、世界経済にとっての損失だ。……コタロウ、お前のその『手を抜く才能』を、我が軍のシステム構築に使え。……今すぐ投降し、俺の秘書としてインターンを始めろ」
「……断る。……俺は、学園のインターンでここに来たんだ。……敵のインターンに乗り換えるほど、俺の節操は死んでない」
「……ほう。なら、実力で行使するまでだ」
兄がタブレットを叩くと、空中に巨大な、しかし整然とした「攻撃予定表」が浮かび上がった。
「第1フェーズ、開始。……コタロウ。お前の『不届きな怠惰』が、俺の『ホワイトな管理』に通用するか、……ここで査定してやる」
5. 史上最悪の兄弟喧嘩、開幕
ドォォォォォォン!!
兄の号令と共に、魔王軍の攻撃が再開された。
だが、それは破壊を目的としたものではない。
俺を「捕獲」し、「雇用」するための、極めて論理的で逃げ場のない包囲網だった。
「……ひっ! ……コタロウくん、お兄さん……凄く怖いです!」
アヤネが俺の陰に隠れ、ガタガタと震える。
「……不愉快ですわ。コタロウ様を『秘書』だなんて……。わたくしの『王』を、自分の事務員にしようだなんて、新生ルミナス家の誇りに懸けて許しませんわ!」
クラウディアがブラック・バトンを握りしめる俺の手を取り、魔力を注ぎ込む。
「……コタロウ。……あの将軍の論理、……私と似ているけれど、決定的な欠陥があるわ。……彼は『非効率な恋』という変数を無視している。……解析、手伝うわ。
リリスが魔導端末を展開し、兄のシステムにハッキングを仕掛ける準備を始める。
「……コタロウ。……あの男、お前と同じ匂いがする。……だけど、中身が真っ黒だ。……あたしが噛み殺してやる」
モモが牙を剥き、戦場へと飛び出す構えを見せる。
「(……最悪だ。……魔王軍の攻撃より、兄貴の説教の方が一億倍怖い。……俺のインターンシップ、……初日でリタイアしたい……!!)」
俺は、漆黒のバトンを掌で躍らせた。
サボるために、全力で戦う。
不届きな弟と、働きすぎな兄。
極寒の地ノーザン・ゲートで、世界の命運を(少しだけ)巻き込んだ、史上最高の兄弟喧嘩が、今まさに火蓋を切って落とされた。
「……AI。……兄貴の『隙』を探せ。……できれば、……前世の恥ずかしい弱点とか、そういうやつだ」
『了解。……お兄様のバックアップ・サーバーへの侵入を試みます。……「漆黒の堕天使」という名の隠しフォルダを検知。……解析を開始します』
「(……堕天使? ……おい、それ、もしかして……)」
俺の脳裏に、兄が中学時代に夜な夜な書き溜めていた「自作ポエム」の記憶が蘇った。
これだ。これなら、勝てる。
俺は、ニヤリと不敵に笑い、バトンを構えた。
「……兄貴。……査定の結果、……お前の『黒歴史』、……全校放送してやるよ」
英雄コタロウの、反撃が始まる。
(第67話 完)
【第67話(Ep.128):あとがき】
お読みいただきありがとうございました!
ついに再会した兄弟。
世界を救った英雄を「生産性が低い」と切り捨てる、魔王軍随一のワーカホリック・ソウイチロウ(シュナイダー将軍)。
彼が目指す「ホワイトな世界征服」が、コタロウの「不届きなサボり」と真っ向から衝突します。
今回のハイライト:
・北方要塞への不本意な到着。
・魔王軍の攻撃が「ガントチャート(工程表)」に基づいているという不条理。
・兄による「雇用内定(強制)」という名の勧誘。
・AIが見つけた、兄の「漆黒の堕天使」という名の逆転の切り札。
次回、一時休戦の夜。
兄の威厳を木っ端微塵にする、AIによる「黒歴史・全校放送(暴露)」が炸裂します!
「……シュナイダー将軍、そのポエムは、コンプラ的にセーフですか?」
次話、第67.5話「暴露:兄貴と再会した夜、AIが『兄の黒歴史』を暴露し始めた」。
お兄様のメンタルが、重力操作で圧砕される様をお楽しみに!




