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■ Ep.126 第66.5話:幕間【英雄の休息(強制終了)と、四重包囲網の宣告】

【第66.5話(Ep.126)幕間:まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、第66.4話(Ep.125)では、世界の果てで行われた「魔王会議」の様子をお届けしました。魔王軍の軍師シュナイダー(兄・ソウイチロウ)による、弟・コタロウへの過酷な「採用計画ヘッドハンティング」が着々と進行しています。


一方、地上では「アトランティア」を海に沈めるという歴史的偉業を成し遂げたコタロウが、ようやく手に入れた「上級男子寮」という名のシェルターに潜り込んでいました。厚さ20センチの防音壁、空調完備、そして最高級の羽毛布団。彼が命を懸けて守り抜きたかった「報酬(サボり環境)」が、そこにはありました。


しかし、認知科学的に言えば、彼の「英雄的行為」によって高まりすぎた周囲の「期待値」と「独占欲」は、もはや防音壁ごときで遮断できるものではありません。


今回お届けするのは、第6章の締めくくりとなる、安眠の終焉の記録です。

四人の少女による「婚約内定」という名のチェックメイトと、セフィラ先生から突きつけられる非情なインターンシップの通告。


史上最も騒がしい休息と、最北の地への追放劇が今、幕を開けます。


【Ep.126 第66.5話:本文】

1. 嵐のあとの静寂という名の錯覚

王立精霊学園の男子寮、最上階の特別自習室。

そこは今、王都で最も高貴で危険な聖域と化していた。


「あー。やっと、普通に息ができる」


俺、神木コタロウは、ふかふかのソファに深く沈み込み、窓から差し込む午後の柔らかな光を全身に浴びていた。

アトランティアでの重力無双から数日。要塞は海に浮く巨大な観光資源となり、ヴァルド公爵は療養の名目で実質的な永久監禁へ。俺は幸運な英雄として祭り上げられつつも、なんとか学園の日常という名のシェルターに逃げ込んだ。


隣に置かれたブラック・バトンは、今はただの漆黒のペンとして沈黙している。

AIも、今はバックグラウンドで今回の騒動のデータクレンジングに専念しているらしく、脳内は驚くほど静かだ。


(これで、ようやくサボれる。あとは学年が変わるまで、誰にも見つからずに昼寝をして過ごすだけだ)


そう、確信していた。

扉が物理的な魔力によって爆発オーバーライドされるまでは。


2. 第一の包囲:ルミナスの先行投資

「コタロウ様! 昼寝をなさるのなら、わたくしの膝をお貸しになると、あれほど申し上げましたのに!」


扉の鍵を強制解除して入ってきたのは、クラウディア・フォン・ルミナスだった。

彼女の背後には、ルミナス家の執事たちが、凄まじい厚みの書類の束を運んでいる。


「クラウディア様。あの、ここ、男子寮の特別自習室なんですけど」


「そんな瑣末なことは、わたくしが既に寄付という名の重力で解決済みですわ。それよりコタロウ様、これをご覧ください。わたくしの叔父から没収した全資産、および新設する『神木コタロウ・マネジメント財団』の規約案です。最終ページには、便宜上『婚約内定承諾書』という項目がございますが、これは単なるコンプライアンス上の手続きですので、今すぐサインを!」


「手続きにしては、内容が人生のフルコース並みに重すぎるんですけど」


クラウディアの翠の瞳は、明確な独占欲へとギアが切り替わっていた。叔父ヴァルドを切り捨て、ルミナス家を継承した彼女にとって、俺はもはや投資対象ではなく、自らの魂を賭けて手に入れるべき唯一の資産なのだ。


3. 第二の包囲:聖女の無自覚な縄張り宣言

「コタロウくん、ダメですよ! 難しい書類は、私が預かります!」


クラウディアの腕をすり抜けるようにして、アヤネが俺の隣へ滑り込んできた。

彼女は俺の左腕にギュッとしがみつくと、桃色のマナを放出しながら、クラウディアを牽制する。


「アヤネさん、また貴女ですの!?」


「クラウディアさんこそ! コタロウくんは疲れてるんです。私が癒やしてあげなきゃいけないんです。ねぇ、コタロウくん? さっき精霊王セレスティア様から聞いたんですけど、コタロウくんと私が深い繋がりを持つと、世界がもっと平和になるんですって!」


「あの女神、余計なことを吹き込みやがって」


アヤネの癒やしの裏には、アトランティアで命を共有したことによる強固な執着が芽生えていた。彼女にとって俺は守ってくれる騎士であり、同時に自分が光を与えなければ消えてしまう危うい半身なのだ。


4. 第三・第四の包囲:論理と本能の同盟

「コタロウ。貴方の現在の社会的価値は、一国の軍事予算を凌駕しているわ」


いつの間にか、部屋の隅で魔導端末を叩いているリリスが、眼鏡を冷たく光らせた。


「貴方が自由を維持するためには、特定の勢力に所属するよりも、複数の勢力と多角的な提携(同時婚約)を結ぶことが、最もリスク分散に優れているという計算が出たわ。私も、その調整役として名を連ねる用意があるけれど?」


「リリス! 遠回しな言い方はズルいぞ! コタロウ、あたしも決めたんだ。あたしの鼻は、お前以外の匂いをもう受け付けない。お前がどこのメスと繋がろうが、あたしの『一番の場所』は譲らねぇ!」


モモが俺の首筋に顔を埋め、獣特有の甘い匂いを漂わせる。

アトランティアでの一件を経て、リリスの論理もモモの野生も、一人の不届きな王を捕獲するという目的で完全に一致していた。


「(待て。なんで四人とも、俺の婚約という名の終身雇用を前提に話を進めてるんだよ)」


5. 第7章へのカウントダウン:不可解な再会とインターンシップ

「随分と賑やかなようですね、皆さん」


冷徹な声と共に、セフィラ先生が現れた。


「神木コタロウ。貴方の英雄的行為は認めますが、学園のカリキュラムはサボりを許しません。明日から始まる【第7章:北方要塞インターンシップ】。ここは、王国の防衛ラインであり、魔王軍との最前線です」


「インターン? 俺、行かなきゃダメですか?」


「当然です。しかも、今回同行するのは、ここにいるリリス、モモ、クラウディア、そしてアヤネの四名。五人一組での任務となります」


セフィラは俺に、一枚のパンフレットを叩きつけた。


「あ、それと。北方要塞を現在攻めている魔王軍の将軍ですが、どうやら貴方と非常に縁の深い人物だという情報が入っています」


「え?」


俺の背筋に、嫌な汗が流れる。

アトランティアで神の視点を得た時に感じた、あの異常に規律正しく、かつ働きすぎな魔力の気配。


『マスター。緊急解析。北方要塞に接近中の魔力波長、マスターのDNAと 99.9パーセント 同期。間違いありません。お兄様のソウイチロウ氏です。あ、お兄様、現在進行形で残業中です』


(は? 兄貴? ソウイチロウだと?)


脳内のAIが告げた名前に、俺の思考は一瞬でフリーズした。

あり得ない。情報空間論的に見ても、この同期は計算が合わない。

俺が日本からこの異世界へ転移したあの時、兄貴は間違いなく日本にいたはずだ。

四半期報告書の作成に追われながら、「お前はいいよな、独身で気楽で」と嫌味を言っていた、あの社畜の化身のような兄貴が、なぜこの異世界の、しかも同じ時代に魔王軍の将軍として存在しているのか。


(待てよ。まさかあいつもトラックに跳ねられたのか? いや、あの仕事中毒が道路を不注意に歩くはずがない。だとすれば、過労死か? 働きすぎて異世界にまで残業しに来たっていうのか?)


驚きを通り越して、恐怖すら感じた。

もし日本での時間軸とこの世界が、ある種の量子的な絡み合いを起こしているのだとしたら、この再会は偶然ではない。

何者かが、俺たち兄弟をこの異世界の盤上に意図的に配置した可能性すらある。


「(最悪だ。魔王軍のブラック企業上司と、四人の婚約志願者たち。インターン先が、地獄よりうるさくなる予感しかしない!)」


俺の叫びは、四人の少女たちの結婚戦略の喧騒にかき消された。

英雄としての伝説が一段落したその場所で、一人のサボり魔の安眠を懸けた、史上最大の兄弟喧嘩へのカウントダウンが始まった。


【第6章:修学旅行と古代遺跡編】(第66.5話 完)


【第66.5話(Ep.126)幕間:あとがき】

お読みいただきありがとうございました!


コタロウが夢見た「平和な昼寝ライフ」は、ルミナス家を継承し莫大な資産を手にしたクラウディア様をはじめとする、少女たちの執念の前に崩れ去ることとなりました。


今回のチェックメイト・ポイントを振り返ると:


ルミナス家の継承者、クラウディアの攻勢

弾劾裁判を経て叔父ヴァルドの全資産を没収し、事実上のルミナス家継承者となった彼女。持ち込んだ財団の規約案は、資産を背景にしたパトロンとしての独占的な投資宣言そのものです。


不可解な兄・ソウイチロウとの再会

日本にいたはずの兄が、なぜこの世界の、同じ時間軸に魔王軍の将軍として現れたのか。コタロウが抱いたこの疑問は、物語の根幹に関わる重大なバグ(あるいは意図的な操作)を予感させます。


インターンシップ強制執行

逃げ場を失ったコタロウは、四人の婚約志願者と共に最前線へ放り出されることになりました。そこで待つのは、異世界でも残業に励む兄との、望まぬ再会です。


物語はここから【第7章:北方要塞・兄弟再会編】へと突入します!

果たしてコタロウは、吹雪の戦場で安眠の権利を死守できるのでしょうか。


物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から【★★★★★】で応援いただけると嬉しいです!


皆様の応援が、ソウイチロウ氏の「残業時間」の削減(あるいは増加)と、コタロウの馬車での「安眠時間」の確保、そしてヒロインたちの「プレゼン資料」の厚みに直結します!

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