■ Ep.125 第66.4話:幕間【魔王会議〜深淵の経営戦略報告会〜】
【第65.4話(Ep.125)幕間:魔王会議・まえがき】
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前回、第66.3話(Ep.124)では、王都中が「コタロウ・ブーム」に沸き立ち、本人が掃除用具入れに引きこもる事態となりました。サボりやすさが 0.0001% まで転落した彼に、安住の地は残されているのでしょうか。
しかし、その熱狂の圏外――人類の版図が途切れる「世界の果て」でも、一人の少年の処遇を巡る、極めて事務的かつ冷徹な会議が行われていました。
第6章特別幕間、その4。
魔王軍の軍師シュナイダーによる、コタロウの能力解析と、あまりにも過酷な「採用計画」。
働きたくない弟と、彼を最高の効率で働かせたい兄。
深淵のブラック(自称ホワイト)企業の、不届きな経営戦略報告会が始まります!
【Ep.125 第66.4話:本文】
1. 世界の果て、静寂の「会議室」
王都ルミナスの喧騒から遠く離れ、人類の版図が途切れる絶望の境界線――「世界の果て」。
そこには、かつて神話に語られたような、おぞましい魔力の奔流が渦巻く漆黒の玉座の間……ではなく、**異常なまでに整理整頓された、冷徹な静寂の空間**が広がっていた。
石造りの床は塵ひとつなく磨き上げられ、壁には無数の魔導スクリーンが浮遊し、刻一刻と変化する世界各地のマナ指数や経済指標をグラフ化して映し出している。
そこは、魔族たちの頂点に立つ者たちが集う場所。しかし、その雰囲気は「破壊の企て」というよりは、**「業績不振に悩む巨大企業の取締役会」**に近い重圧に包まれていた。
「……以上が、北海域におけるアトランティア起動に関する観測データです」
冷徹な、しかしどこか聞き覚えのあるトーンの声が、広い広間に響いた。
声の主は、魔王軍の軍師にして新進気鋭の将軍、**シュナイダー**。
彼は、体に完璧にフィットした漆黒の軍礼装を纏い、眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、手元の魔導端末を操作していた。その背後では、数体の上級悪魔たちが事務作業に追われ、羽ペンを走らせる音だけが規則正しく鳴り響いている。
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2. 「不届きな波形」への質疑応答
漆黒の玉座に深く腰掛けた「魔王」の一人が、不機嫌そうに牙を剥いた。
「シュナイダーよ。……説明しろ。あの要塞が放った輝き、あれは我らが待ち望んだ『終末の予兆』ではなかったのか。……なぜ、発射の直前でエネルギー波形が『休止』などという、ふざけたコードに書き換えられた?」
「……回答いたします。……アトランティアの中枢システムに対し、外部から未知の論理による『強制介入』が実行されました」
シュナイダーは感情を一切見せず、空中に一つの波形データを投影した。
それは、コタロウがブラック・バトンで要塞を掌握した際に放った、あの不届きな重力振動の記録だ。
「既存の聖魔術とも、我ら魔族の禁忌呪法とも異なる……極めて高度な『手抜き(最適化)』の痕跡です。……この術者は、要塞の全機能を掌握した直後、システムの **90%** を『省エネモード』に移行させ、残りの **10%** で精霊王たちへの接待マナを生成するという、極めて非効率的かつ合理的な処置を行いました」
「……馬鹿な。神を撃つための兵器を、料理の火加減に使ったというのか!」
別の魔王が憤慨して立ち上がるが、シュナイダーは淡々と続けた。
「……その通りです。……この『異分子』の出現により、人間界のパワーバランスは大きく崩れました。聖教会は隠蔽に走っていますが、大衆の間では既に彼を『聖者』あるいは『新世界の王』と見なす動きが出ています。……我が軍の戦略目標である『人間界の完全管理』において、この少年は無視できない**不可確定要素**となります」
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3. 次期プロジェクト:ヒューマン・リソースの確保
「……面白い」
玉座の奥底、影の中から、最も巨大な魔力が揺らめいた。
魔王軍の総帥――大魔王の思念が、空間を震わせる。
「シュナイダー。……お前の提唱する『力による支配ではなく、システムによる管理』。……そのテストケースとして、この少年をどう扱うつもりだ?」
シュナイダーは一瞬、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
そこには将軍としての冷徹さと、何処か個人的な……あるいは、**「兄として弟の将来を案じる」**ような、複雑な色が混ざっていた。
「……既に、エージェントを介して接触の準備を進めております。……彼のような『高い演算能力を持ちながら、労働意欲が欠如している人材』こそ、我が魔王軍が推進する【新世界・完全効率化社会】のモデルケースに相応しい。……暴力で屈服させるのは前時代的です。……私は彼を、我が軍の**『業務改善コンサルタント』**として引き抜くつもりです」
「引き抜くだと? あの英雄を、魔王軍のオフィスに招くというのか」
「左様。……彼には『インターンシップ』という形で、魔王軍のホワイトな(自称)労働環境を体験していただきます。……一度、我が軍のシステムに取り込めば、彼も理解するでしょう。……無駄な昼寝やサボりが、いかに非生産的であるかを」
シュナイダーの声には、確固たる自信が宿っていた。
彼は、人間界で英雄扱いされ、平穏を奪われたコタロウが、どれほど「静かな職場(要塞)」を求めているかを熟知しているようだった。
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4. 兄の独白、あるいは残業の兆し
会議が散会し、魔王たちが各々の領地へと戻っていく中。
一人残ったシュナイダーは、窓の外に広がる荒廃した荒野を見つめていた。
「……コタロウ」
彼は誰にも聞こえない声で、そっと呟いた。
「……お前がアトランティアで見せたあの重力。……相変わらず、無茶苦茶な『カンニング』をする。……だが、それでお前は目立ちすぎた。……もはや、あのような古い学園の、温い日常には戻れんぞ」
シュナイダーは手元の端末を閉じ、深い溜息をついた。
その仕草は、どこかコタロウがサボり場所を探す時のそれと似ていたが、彼の背負っているものは、あまりにも重すぎた。
「……理想のホワイトな世界を創るためには、……まだ、圧倒的に人手が足りない。……特に、お前のような『効率の化け物』がな。……待っていろ、弟よ。……次回の『面接』は、戦場(インターン先)で執り行う」
シュナイダーは眼鏡を押し上げると、背後に控えていた秘書官(悪魔)に命じた。
「……次の議題だ。……北方要塞の生産ラインの見直し、および『人間界受入課』のパンフレット作成を急がせろ。……フォントは意識が高そうに見えるものを選べ」
『御意、シュナイダー将軍。……して、将軍の今夜のご予定は?』
「……残業だ。……決まっているだろう」
世界を滅ぼすための、あるいは「救う」ための、魔王軍のオーバーワークは、今宵も終わることがない。
世界の果てで回る巨大な歯車が、コタロウという「最小の異物」を噛み込むために、ゆっくりと、確実に加速し始めていた。
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5. 第6章:終幕
王都ルミナスの朝刊には、「英雄」を讃える文字が踊る。
しかし、その紙面が届かぬ世界の果てでは、新たな「契約書(招待状)」が、コタロウの安眠を奪うために刷り上がろうとしていた。
英雄としての栄光。
女神たちの空腹。
教会の殺意。
そして、**働きすぎな兄の勧誘。**
神木コタロウの「サボりライフ」という名の前線は、アトランティアを越え、魔王軍という名のブラック企業(自称ホワイト)へと、その舞台を移そうとしていた。
(Ep.125 第66.4話完)
【第65.4話(Ep.125)幕間:魔王会議・あとがき】
お読みいただきありがとうございました!
魔王軍の四天王がコタロウを「分からせる」ために動くかと思いきや、まさかの「業務改善コンサルタント」としてのスカウト。暴力ではなく「インターン」という名のシステムで管理しようとする、軍師シュナイダー……いえ、兄・ソウイチロウ氏の情熱(と残業癖)が、物語を予想外の方向へ加速させそうです。
今回のハイライトを振り返ると:
シュナイダーによるコタロウ解析:
アトランティアでの行動を「手抜き(最適化)」の極致と評価。不純なマナを圧砕し、精霊王へのデザートに変える合理性を、魔王軍は「経営的才能」として見出しました。
兄貴の残業体質:
弟がサボるために世界を書き換える一方で、兄は理想の社会(完全効率化社会)のために残業を厭わない。この対照的な兄弟の因縁が、次の「戦場」を定義することになります。
インターンシップという名の招待状:
魔王軍のパンフレット作成。フォント選びまでこだわる兄の執念が、コタロウの安眠を再び脅かそうとしています。
さて、魔王軍が不穏な求人票を刷り上げている一方で、地上ではヒロインたちが「コタロウ争奪戦」に最終的なケリをつけようとしていました。掃除用具入れに逃げ込んだ英雄を待つ、逃げ場のないチェックメイトの瞬間です。
【次回予告】
第66.5話(Ep.126)幕間:『英雄の休息(強制終了)と、四重包囲網の宣告』
王立精霊学園男子寮、最後の聖域が突破される。
「コタロウ様! 婚約内定承諾書にサインを!」「私のマナで癒やされてください!」
四人の少女による、愛という名の四重包囲網。そして、セフィラ先生から告げられる「北方要塞インターンシップ」の知らせ。
逃げ場を失った英雄の、最も騒がしい休息が始まります。
次回、第6章・真の完結。そして運命の北方編へ。ご期待ください!
【作者からのお願い】
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皆様の応援が、シュナイダー将軍が作成する「魔王軍インターンシップ案内」の福利厚生の充実度と、次話でクラウディア様が持参する「婚約内定承諾書」の厚み、そしてコタロウが絶望のどん底で回すペンの回転数に直結します!




