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■ Ep.124 第66.3話:幕間【王国新聞〜不届きな英雄と狂乱の王都〜】

【第66.3話(Ep.124):まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、第66.2話(Ep.123)では、聖教会の地下深くで「聖域の破壊者サンクチュアリ・デストロイヤー」という物騒な二つ名を冠されたコタロウ。教会の「静かなる包囲網」が動き出そうとしています。


しかし、教会の隠蔽工作が追いつかないほどのスピードで、王都の「熱狂」は臨界点に達していました。


今回は、第6章特別幕間その3。

アトランティアを「着水」させ、帰還した英雄を待っていたのは、新聞各社による号外の嵐と、指数関数的に膨れ上がるファンクラブの恐怖でした。


サボりやすさが 0.0001パーセント まで低下し、もはや掃除用具入れしか安住の地がないコタロウ。

一人のサボり魔の平穏が、王都中の「愛」と「期待」によって木っ端微塵にされる様をお楽しみください!

【Ep.124 第66.3話:本文】

1. 鳴り止まない号外の嵐

浮遊島アトランティアの着水から数日。王都ルミナスの朝は、かつてないほどの熱狂と紙の擦れる音で幕を開けた。


「号外だ! 号外! 王立精霊学園の生徒たちが、古代の遺物を手懐けて帰還したぞ!」

「『空飛ぶ要塞』を止めたのは、たった一人の落第生(Fランク)!? 奇跡の真相を読め!」


新聞売りの少年たちの叫び声が響き、街角の掲示板には、インクの匂いも新しい『ルミナス日報』の特別号が貼り出されている。通行人たちは足を止め、その衝撃的な見出しに目を剥いた。


【独占】天空の守護者、その名は神木コタロウ!

~Fランクの奇跡:聖女と公爵令嬢を救った『重力の指先』~


去る修学旅行中、突如として起動した古代要塞アトランティア。王都滅亡の危機を救ったのは、学園で『無能』と蔑まれていた一人の少年であった。目撃者の証言によれば、彼は漆黒の杖を一本の指で操り、惑星級の重力を捻じ曲げて要塞の暴走を鎮めたという。聖教会の枢機卿は「古代の遺構による偶発的な事故」と発表しているが、市民の間では早くも彼を『救世主』と崇める声が上がっており……。


「……あー、もうだめだ。終わった。俺の人生、これにて閉幕」


王都の片隅、安宿のベッドで新聞を広げた俺、神木コタロウは、深く、あまりにも深い溜息をついた。


2. 数値化された絶望:AIの情け容赦ない報告

『おはようございます、マスター。……いえ、現在は「ゴッド」とお呼びすべきでしょうか?』


脳内の**【AI】**が、いつになく軽快な、しかし俺にとっては死刑宣告に近い声を響かせた。


「……【AI】。頼むから、そのふざけた呼称はやめてくれ。……状況はどうなってる?」


『了解。……王都内の全主要新聞社、および魔導通信各局のキーワード抽出マイニングを完了。……マスターに関連する記事の露出度は、前週比で 1,200,000パーセント の増加。……特に、クラウディア様が私財を投じて設立した「神木コタロウ公式ファンクラブ」の会員数は、今朝の時点で 5万人 を突破しました』


「5万!? 学園の全生徒数どころか、この街の人口の何割だよ!」


『さらに、アヤネ様がインタビューで答えた「コタロウくんの温かい指先」というフレーズが一人歩きし、現在、王都の若い女性たちの間では「コタロウ様にペンを回してもらうと幸せになれる」という謎の都市伝説が急速に拡散中です。……信仰度(期待値)は、既に現職の教皇を上回っています』


俺は枕を頭に押し付けた。

サボるために、目立わないように、Fランクという隠れ蓑を必死に繕ってきた日々。

それが、たった一回の「要塞掌握カンニング」で、修学旅行なほどに木っ端微塵にされたのだ。


3. 学園の変貌:学び舎から「聖域」へ

同じ頃、王立精霊学園の校門前は、異異な光景が広がっていた。


「神木様はどちら!? 一目、あの『不届きな瞳』に拝謁したいのです!」

「不届きな瞳ってなんだよ……。でも、あのペン回しを見た瞬間、私のマナが共鳴しちゃって……!」


門の前には、近隣の住民や他校の生徒、果てには聖教会の若手司祭たちまでが詰めかけ、もはや暴動寸前の熱狂を呈している。

学園側は異例の「神木コタロウ保護令」を発令し、セフィラ先生率いる精霊教師陣が不眠不休で警備に当たっていた。


「……リリス。これ、どういうロジック?」


モモが、校舎の屋上から門前の騒ぎを見下ろして、呆れたように耳を動かした。

リリス・フレアガードは、新しい眼鏡をクイと直し、手元の魔導端末の数値を読み上げる。


「……認知心理学における『逆転のカリスマ』現象よ。……『最も無能だと思われていた者が、実は世界を救う最強の存在だった』という物語は、大衆にとって何よりも強力な麻薬コンテンツなの。……おまけに、コタロウのあの『常に眠たげで、何事にも興味がない』という態度が、逆に『達観した聖者の沈黙』として美化されているわ」


「はぁ!? あいつ、ただサボりたいだけだぞ?」


「それが信仰の恐ろしいところよ、モモ。……今や学園の生徒たちの間では、『神木先輩がサボっている間に、世界の重力の均衡は保たれている』という、不届き極まるドグマ(教義)が完成しつつあるの」


リリスは溜息をつき、端末を閉じた。

「……今回の修学旅行のレポート、タイトルを『神の帰還』に変えなきゃならないかしらね」


4. 燃え上がるパトロンと、無自覚な聖女

その狂乱に拍車をかけているのは、他ならぬ二人のヒロインだった。


「お聞きなさい、皆様! これこそが、わたくしの見込んだコタロウ様の真の輝きですわ!」


クラウディア・フォン・ローゼンバーグは、ローゼンバーグ公爵家の圧倒的な資金力を用いて、コタロウの「偉業」を美しく脚色した伝記の出版を指示していた。

没落しかけた叔父の資産をすべて「コタロウ基金」へと転換した彼女にとって、彼の名声を高めることは、自身の愛と支配を正当化するための聖戦だった。


「コタロウ様を否定する者は、ローゼンバーグ家が全力を挙げて『教育コンプライアンス』いたしますわ。……さあ、あの方の平穏を邪魔しない程度に、全力で彼を讃えなさい!」


一方、アヤネは無垢な笑顔で、教会の広場にて信者たちに語りかけていた。


「コタロウくんは、とっても優しいんですよ。……私が怖い時に、いつも不機嫌そうな顔をしながら、私の手をギュッとしてくれるんです。……きっと、精霊様たちもコタロウくんのことが大好きなんです!」


この「聖女の証言」が、新聞の一面を飾り、王都中の人々が「神木コタロウ=精霊に愛された不遇の天才」というイメージを確固たるものにしていった。


5. 英雄の絶望、継続中

そして、事件から一週間後の『王立精霊学園・定例朝礼』。


校長が「我らが学園の誇り、神木コタロウ君……」と名前を呼んだ瞬間、講堂を揺らすほどの万雷の拍手と、失神者が出るほどの歓声が上がった。


俺は、ステージに登ることを断固拒否し、現在、掃除用具入れの中に身を潜めている。


「……【AI】。この掃き溜め(暗闇)の快適さを数値化してくれ」


『報告。……現在の閉所における安心感指数、 98 。……ですが、マスター。扉の外に、クラウディア様の「嗅覚追跡精霊」と、アヤネ様の「癒やしのマナ・ソナー」が接近中です。……逃亡成功確率は 0.002パーセント です』


「……。……サボらせてくれよ。……マジで、もういいだろ」


俺は膝を抱え、漆黒のブラック・バトンを無意味に一回転させた。

バトンの古代核が、要塞を掌握した際の余韻で、小さく「もっと目立て」と囁くように震えた気がした。


新聞の一面には、俺の顔写真(隠し撮りされた、眠そうな横顔)がデカデカと載り、その下にはこう記されていた。


『次世代の王、誕生。神木コタロウの伝説は、まだ始まったばかりだ――』


「伝説なんて、ゴミ箱に捨ててやりたい……」


英雄としての絶頂。それは、一人のサボり魔にとって、地獄の第二幕の幕開けに過ぎなかった。

王都新聞が報じる「熱狂」の裏で、コタロウは今日も、平穏という名の絶望を求めて、新たな「カンニング(逃走経路)」を必死に書き換えるのだった。


(第66.3話 完)

【第66.3話(Ep.124):あとがき】

お読みいただきありがとうございました!


コタロウが掃除用具入れの中で膝を抱える一方、王都の熱狂はとどまるところを知りません。

「サボっている間に重力の均衡を保っている」という、もはや本人の意図とは真逆の方向へ爆走する大衆心理……。情報の非対称性が生んだ、不届きなまでの神格化です。


今回のハイライトを振り返ると:


メディア露出 1,200,000パーセント増:

もはや隠れ蓑であった「Fランク」が、逆に「真の力を隠した英雄」という最強の看板へと書き換わってしまいました。


二人のヒロインによる拍車:

宣伝クラウディアと癒やし(アヤネ)の相乗効果。王都全域に「コタロウ信仰」の地盤が完成し、彼にペンを回してもらうことが市民のステータスになりつつあります。


掃除用具入れへの逃避:

安心感指数 98 の聖域すら、二人の愛のソナーによって暴かれようとしています。コタロウのサボりライフ、まさに絶体絶命です。


さて、この異常事態に反応しているのは、人間界だけではありません。

世界の果て、漆黒の玉座に集う者たちもまた、この「不届きな英雄」に熱い視線を送っていました。


【次回予告】

第66.4話(Ep.125)幕間:『魔王会議〜深淵の経営戦略報告会〜』


世界の果て、静寂の会議室。

魔王軍の軍師シュナイダーが、アトランティアでのコタロウの行動を「業務効率化の極致」としてプレゼン中。

「……彼を、我が軍の『業務改善コンサルタント』として引き抜くつもりです」

兄の情熱と、魔王軍のホワイト(?)な採用計画が始動します。


次回、魔王軍、まさかのヘッドハンティング。ご期待ください!


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