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■ Ep.123 第66.2話:幕間【聖教会枢機卿にて】

【第66.2話(Ep.123)幕間:聖教会枢機卿にて・まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、第66.1話(Ep.122)では、精霊界ホールディングスの役員たちが「ビュッフェ」の成果に舌鼓を打ち、コタロウを「スーパーVIP」に格上げするという、あちら側のホワイトな経営判断が下されました。


しかし、その裏側――人間界の「秩序」と「信仰」を司る聖教会は、かつてないパニックに陥っていました。


今回は、王都ルミナスの地下深くで執り行われる、絶望と戦慄の枢機卿会議。

教会の誇る最精鋭暗殺部隊『断罪者』が音もなく壊滅し、理を喰らう「聖域の破壊者サンクチュアリ・デストロイヤー」として認定されてしまったコタロウ。


彼の「ただ静かに寝ていたいだけ」という純粋な願いが、皮肉にも教会の独善的な教義を揺るがし、新たなる「静かなる包囲網」を呼び寄せることになります。

【Ep.123 第66.2話:本文】

1. 静寂と絶望の地下聖堂


王都ルミナス、白亜の大聖堂。その華やかなステンドグラスから差し込む光さえ届かぬ地下深く、再び「枢機卿会議」の面々が集結していた。


数ヶ月前、彼らがこの場所で**神木コタロウの抹殺命令**を下した際、そこには教会の秩序を守るという独善的な自信が満ちていた。しかし、今この場を支配しているのは、ロウソクの火を揺らすほどの冷たい戦慄と、信じがたい報告に対する沈黙であった。


「……第零部隊、**『断罪者エクスキューショナー』**が壊滅した」


最長老の枢機卿が、震える指先で円卓の上に置かれた報告書をなぞる。

報告書には、浮遊島アトランティアで回収された、ひしゃげた白銀の甲冑の破片と、無残に砕かれた『断罪の短剣』の残骸が記されていた。


「生存者は?」

「ゼロだ。……公式発表では、古代防衛システムの誤作動に巻き込まれた『事故』とされているが……。我々の精鋭部隊が、たかが古代のゴーレムごときに、一兵の報告も上げられずに全滅するなど、ありえん」


一人の枢機卿が、奥歯を噛み締めながら吐き捨てる。

彼らにとって、『断罪者』は教会の闇を支える絶対的な「死神」だった。それが、一人のFランクの少年を追った末に、跡形もなく消え去ったのだ。


---


2. 「異端」から「破壊者」へ


円卓の中央に、新たな魔法投影図が浮かび上がる。

それは、アトランティアが完全起動し、天空要塞へと変貌を遂げた瞬間の記録。そして、その中枢塔に真っ向から突入し、事象を上書き(オーバーライド)した漆黒の重力波の観測データであった。


「……これを見ろ。アトランティアのメインOSが書き換えられた際、そこには既存の魔導工学では解読不能な、あまりにも『不届き』な論理ロジックが組み込まれていたという」


「サボり……。休止……。……ふざけているのか! 神を撃ち落とすための古代兵器を、あやつは『昼寝の道具』に書き換えたというのか!」


枢機卿たちの怒号が響く。しかし、その声には隠しきれない「恐怖」が混ざっていた。

魔力を持たぬ者が、神話時代の遺産を「カンニング」し、あまつさえ自分の都合の良いように改変してみせる。それは、魔力を神の祝福と説く聖教会にとって、教義の根幹を揺るがす最大級の脅威であった。


「もはや、神木コタロウは単なる『魔王の器』ではない。……彼は、聖域の調和を乱し、ことわりそのものを喰らう**『聖域の破壊者サンクチュアリ・デストロイヤー』**だ」


最長老の言葉に、場が凍りつく。

かつては「抹殺」の対象だった。しかし、今や彼は「排除」すべき世界のバグ(不具合)として定義されようとしていた。


---


3. アリス・リンドバーグの「報告」


そこへ、一人の女性騎士が部屋に入ってきた。

筆頭審問官、**アリス・リンドバーグ**である。彼女の表情は氷のように冷たく、しかしその瞳には、かつてないほど複雑な光が宿っていた。


「枢機卿。……わたくしからの最終報告です」


彼女は、コタロウが王都の空港に帰還した際の写真を円卓に叩きつけた。そこには、二人のヒロインに囲まれ、情けなく顔を隠す少年の姿がある。


「神木コタロウは、アトランティアにおける戦いを『運が良かっただけ』と主張しています。聖女アヤネの証言も、クラウディア・フォン・ローゼンバーグの主張も、すべてが彼を擁護し、真相を霧の中に隠している。……私が直接彼を尋問しようとした際、彼はこう答えました」


アリスは、忌々しげに、そしてどこか呆れたようにその言葉を再現した。


> 『あー、アリスさん。お疲れ様です。……とりあえず、今回のレポートは全部AI……あ、いや、適当な精霊にやらせといたんで、後で読んどいてください。俺、これから寝るんで』


「……。枢機卿、彼は私の目の前で、事もあろうに『あくび』をしました。……そして、精霊王セレスティア様が、彼に直接『手料理』を催促するような気配さえ感じられたのです」


「……っ、なんという冒涜!」

「精霊王様が、あのような不届き者に……!?」


枢機卿たちは激昂するが、アリスは冷徹に続けた。


「今の彼に不用意に手を出すのは得策ではありません。『断罪者』の壊滅が彼の手によるものだという証拠は、どこにもないのです。……すべては『事故』として処理されている。……我々が動けば動くほど、教会の無能さを露呈し、精霊王様たちの不興を買うことになるでしょう」


---


4. 新たなる方針:監視から「排除」へ


アリスが去った後、地下聖堂には重苦しい沈黙が戻った。

枢機卿たちは、もはや「暗殺部隊」という小手先の手段では、あの少年を止められないことを理解していた。


「……方針を転換する。神木コタロウを、危険因子から『排除優先対象』へと格上げする」


最長老が、掠れた声で宣言した。


「正面から戦ってはならん。奴の周囲にある『平穏』を、少しずつ奪い去るのだ。……聖女を彼から引き離し、ローゼンバーグ家の後ろ盾を無効化せよ。……そして、奴が『サボる』ことができぬほどの、巨大な災厄ノルマを与え続けるのだ」


「……その果てに、奴が自ら『魔王』としての正体を現した時こそ、全人類の名の下に裁きを下す。……神の秩序は、一人のFランクの気まぐれに屈してはならぬ」


枢機卿たちの間で、ドス黒い合意が形成されていく。

彼らの戦いは、もはや暗殺ではなく、一つの「存在」を世界から消去するための、静かなる包囲戦へと移行した。


最長老は、手元のコタロウの写真をロウソクの火で燃やしながら、不敵に呟いた。


「神木コタロウ……。貴様が望む『日常』を、地獄へと書き換えてやろう。……神の御心のままに(デウス・ウルト)」


---


5. 蠢く影の連鎖


枢機卿会議が幕を閉じる頃。

彼らはまだ気づいていなかった。

自分たちがコタロウを「排除」しようと画策するその動きさえも、セレスティアたち精霊王にとっては「退屈しのぎのスパイス」に過ぎないことを。


そして、世界の果てで目覚めた「魔王」たちが、すでにコタロウという特異点を目指して動き始めていることを。


教会の闇が深まれば深まるほど、コタロウの周囲にはより巨大な、そしてより「面倒くさい」嵐が吹き荒れようとしていた。


英雄としての名声は「教祖」レベルまで高まり、教会の刺客は姿を変えて迫る。

コタロウが切望する「サボりライフ」は、もはや修復不可能なほどに、木っ端微塵に打ち砕かれようとしていた。


---


(第66.2話 完)

【第66.2話(Ep.123)幕間:聖教会枢機卿にて・あとがき】

お読みいただきありがとうございました!


地下聖堂で枢機卿たちが「コタロウの平穏を奪う」という不届き極まる包囲網を画策する中、地上では教会の情報統制すら間に合わないほどの「熱狂」が吹き荒れようとしています。


今回のハイライトを振り返ると:


「断罪者」の全滅と教会の戦慄:

絶対的な死神であった暗殺部隊が、一通の報告も上げられずに消え去った。この事実は、枢機卿たちに「コタロウ=理の外側にいる存在」という恐怖を植え付けました。


アリス・リンドバーグの困惑:

筆頭審問官である彼女ですら、コタロウの「不届きなあくび」にペースを乱されている様子。精霊王セレスティア様が彼に「手料理」を催促する気配という、教会にとっては失神レベルの事態まで察知してしまいました。


新たな方針「サボらせない」:

暗殺が通じないなら、徹底的に多忙にして精神的に追い詰める。皮肉にも、教会の悪意がコタロウの「サボり願望」を最も効果的に削り取る形へとシフトしました。


しかし、教会の「静かな包囲網」が動き出すより早く、王都の新聞各社がコタロウの「英雄譚」を爆発的に拡散させ始めています。


【次回予告】

第66.3話(Ep.124)幕間:『王国新聞〜不届きな英雄と狂乱の王都〜』


「号外だ! 号外! Fランクの救世主だ!」

一人歩きする「温かい指先」のフレーズ。指数関数的に膨れ上がる公式ファンクラブ会員数。

もはや掃除用具入れにしか安住の地がない、英雄の絶望的な朝が始まります。


次回、全王都が「コタロウ」に共鳴する。ご期待ください!

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