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■ Ep.120 第65.5話:幕間【弾劾裁判】

【第65.5話(Ep.120)幕間:弾劾裁判・まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、第65話(Ep.119)では、五大精霊王による「史上最高に贅沢な晩餐会」が執り行われ、要塞の暴走エネルギーは美味しく完食されました。そして、コタロウは最後の力を振り絞り、アトランティアを海面へと着水させました。


コタロウがアヤネの傍らで深い眠りについている一方で、天空要塞の最上階では、もう一つの「決着」が始まろうとしています。


今回は、物語の裏側で汚れ仕事を引き受ける女たちの「政治」と「断罪」を描く幕間エピソード。

引率教師の仮面を脱いだセフィラと、愛するコタロウのために「身内」を切り捨てる決意をしたクラウディア。


敗北したヴァルド公爵を待ち受けるのは、王国の法を超えた、精霊王の代理人たちによる過酷な審判です。

没落するルミナス公爵家の資産が、いかにして「サボり魔の活動資金」へと書き換えられていくのか。その非情なプロセスの全貌をお楽しみください!


【Ep.120 第65.5話:本文】

1. 硝煙のあとの審判


天空要塞アトランティアの中枢塔。

かつては神を撃ち落とすための冷徹な戦場であったその場所は、今や「晩餐会」のあとの静寂と、不時着後の奇妙に厳かな空気に包まれていた。


瓦礫が重力制御によって美しく整えられ、四角い石柱が並ぶ円形の広場が即席で作られている。

そこには、王立精霊学園の引率教師としての仮面を脱ぎ捨てたセフィラ、そしてドレスの汚れさえも勲章のように纏ったクラウディア・フォン・ローゼンバーグが、冷徹な裁判官として立っていた。


そして、その中心。

四方から五色の精霊の光で編まれた鎖によって跪かされているのは、王国政府の影の宰相、ヴァルド・フォン・ルミナス公爵であった。


「……始めましょうか。あまり時間をかけると、あのコタロウが起きてしまいますから。彼が目覚める前に、この不快なゴミの『処理方法』を確定させねばなりません」


セフィラは無機質な声で告げると、懐からいつもの胃薬を取り出し、水もなしに噛み砕いた。

彼女の背後には、五大精霊王たちの意思を代行する「精霊の代理人エージェント」たちが、言葉を発さぬ圧迫感となって控えている。


2. 罪状:女神の不興


「ヴァルド・フォン・ルミナス。貴方の罪は多岐にわたります。国家反逆、古代遺跡の違法起動、聖女の拉致監禁。……ですが」


セフィラが手元の魔導書類をめくり、冷たい視線をヴァルドに投げた。


「最も重い罪は、光の精霊王セレスティア様が『デザート』として楽しみにされていた『根源のマナ』を、貴方の矮小な野望という名の『薪』として無駄に消費したことです。……女神様は、大変お怒りですよ?」


「……ク……クク……。デザートだと? 笑わせるな」


ヴァルドは顔を上げ、血の混じった唾を吐き捨てた。

かつての威厳は消え失せ、白髪は乱れ、瞳には狂気と絶望が混ざり合っている。


「私は……我ら人間を精霊の家畜から解放しようとしたのだ! このアトランティアこそが、地を這う我らが天を掴むための唯一の梯子であった! それを……たかがFランクの小僧が、あのような不作法な力で……!!」


「叔父様。まだ、そんな見苦しい寝言を仰るのですか」


クラウディアが、冷徹な響きを帯びた声で言葉を遮った。

彼女はヴァルドのすぐ目の前まで歩み寄ると、扇子で彼の顎を乱暴に持ち上げた。


その背後では、三つの顔を持つ冥府の女神**【ヘカテー】**の幻影が、不気味な松明の火を揺らめかせている。


「貴方が求めた『力』の正体は、結局、精霊王様たちの空腹を満たすための『供え物』に過ぎませんでした。貴方は神を撃とうとしたのではなく、神に美味しい餌を運ぶ『給仕』の役割さえ果たせなかった……ただの無能な道化ですわ」


「クラウディア……! お前、ローゼンバーグ家として封じられたとはいえ、元来ルミナスの血を引く者が、その誇りを捨てて平民の少年に膝を突くというのか!」


「誇り? ……ふふ、あはははは!」


クラウディアは心底愉快そうに、そして残酷に笑った。


「叔父様。わたくしの誇りは今、あの方の『パトロン』であることに集約されていますの。あの方の平穏を邪魔し、あの方に無駄な労力(ペン回し)を強いた貴方の存在そのものが、わたくしにとってはルミナスの名を汚す『不浄』なのですわ」


3. 断罪の契約


セフィラが、一枚の漆黒の羊皮紙をヴァルドの前に提示した。

そこには、精霊語と現代公用語が複雑に絡み合った、不可逆の魔導契約が記されている。


「ヴァルド公爵。貴方に残された道は一つです。この『断罪の誓約書』に魂の刻印を押しなさい」


「……内容は?」


「第一に、今回の事件の全貌を『古代遺跡の予期せぬ誤作動による天災』として公表すること。貴方の失脚理由は『極秘任務中の重病による長期療養』とし、表舞台からの完全な引退を認めます。……神木コタロウの名が表に出ることは、精霊王様たちが望まれていません」


コタロウが英雄として目立つことを避けるための、徹底した情報統制。

それはコタロウ自身が望む「サボりライフ」の守護であると同時に、王国の混乱を防ぐためのセフィラの冷徹な計算でもあった。


「第二に、ルミナス公爵家の全財産、および所有するすべての魔導利権を没収します。……これらはすべて『精霊学部復興支援金』、および『王立精霊学園の維持費』として、わたくしとクラウディア様が管理する基金へと一括転送されます」


「な……! 全財産だと!? それでは我が家は……!」


「没落は免れさせてあげますわ、叔父様」


クラウディアが追い打ちをかけるように囁く。


「ルミナスの名は、わたくしが引き継ぎます。貴方はただ、北の最果てにある療養所(監獄)で、自分が汚した世界の静寂を数えながら余生を過ごせばよろしいのです。……貴方の資産は、わたくしの『王』が、より快適にサボるための資金として有効活用させていただきますわ」


4. 判決:沈黙の隠居


「……断れば、どうなる」


「火の精霊王イフリート様が、貴方の魂を直接『再調理』したいと仰っています。……生きたまま数百年かけて、マナの灰にされる。……それも一つの選択肢ですよ?」


セフィラの言葉に、ヴァルドは全身を激しい戦慄に震わせた。

背後に控える火の精霊の代理人が、一瞬、空気が発火するほどの熱気を放ったからだ。


もはや、抵抗の余地などどこにもなかった。

ヴァルドは震える手で、自身の血をインク代わりにし、漆黒の羊皮紙に魂の刻印を刻んだ。


瞬間、契約が成立し、ヴァルドの体から膨大な魔力と「権威」が物理的に剥ぎ取られていく。

彼は一瞬にして老け込み、ただの、力のない老人の姿へと成り果てた。


「……連れて行きなさい。……あとは、**【ネロ】(掃除屋)**に任せます」


セフィラの合図と共に、影の中から現れた黒い触手が、ヴァルドを音もなく闇の中へと引きずり込んでいった。


5. 残務整理と、わずかな休息


嵐の去った広場で、セフィラとクラウディアだけが残された。


「……これで、表向きの始末はつきました。……ふぅ、今日だけで胃に穴が三つは開いた気分です」


セフィラは再び胃薬の瓶を振ったが、中身は既に空だった。

彼女は舌打ちをすると、ひび割れた眼鏡を直した。


「クラウディア様。基金の設立と、ルミナス家の資産整理。……明日から地獄のような事務作業が始まりますよ。……覚悟はできていて?」


「もちろんですわ、セフィラ先生。……コタロウ様のためですもの。わたくし、寝る間も惜しんで働いてみせますわ」


クラウディアは、窓の外で静かに着水を待つアトランティアの平原を見つめた。

その視線の先には、仲間たちに守られながら、アヤネの隣でまだ深い眠りについているはずの「英雄」がいる。


「……さて。……あの方が目覚めた時、……『お疲れ様、全部片付いたから、また明日からサボっていいわよ』と笑って差し上げるのが、パトロンの務めですわね」


弾劾裁判という名の後片付けは、こうして密かに、誠実に終了した。

王国の歴史に刻まれるはずだった大罪人は消え、一人の少年の平穏を維持するための「巨大な資本」だけが、二人の乙女の手に残された。


アトランティアに、本当の夜明けが近づいていた。


(第65.5話 完)

【第65.5話(Ep.120)幕間:弾劾裁判・あとがき】


お読みいただきありがとうございました!


コタロウが上でぐっすり寝ている間に、地上(要塞)では凄まじい「大人の後始末」が行われていました。ヴァルド公爵の資産をすべて「サボり基金」へ組み込むクラウディア様の機転、まさに構造経済学的な勝利と言えるでしょう。


今回のハイライトを振り返ると:


・五大精霊王の意思:

セレスティア様が「デザートを無駄にされた」ことに怒っているという罪状。神々の怒りがどれほど理不尽で、かつ絶対的なものかをセフィラ先生が代弁しました。


・クラウディアとヘカテー:

叔父に対し、「パトロンとしての誇り」を突きつける彼女の姿。冥府の女神を背負った彼女は、もはや一人の令嬢を超えた「支配者」の風格さえ漂わせています。


・情報封鎖とサボり:

コタロウを英雄にしないための隠蔽工作。これはセフィラ先生の「これ以上面倒を増やしたくない」という切実な願い(と、コタロウの寝言)から来る、不届きな愛の形でもあります。


さて、不純物の掃除は終わりました。

次はいよいよ、この巨大な「粗大ゴミ」を海へと着水させ、王都へと帰還する物語へと続きます。


【次回予告】

第66話(Ep.121):『帰還、そして新たな日常へ』


鋼鉄の巨神、海に抱かれる。

コタロウが最後の力を振り絞ってアトランティアを着水させ、ようやく手に入れた「本当の睡眠」。

しかし、王都へ帰還した彼を待っていたのは、英雄としての歓声と、指数関数的に膨れ上がった「ファンクラブ」の恐怖だった!?

「……サボりやすさが 0.0001% まで低下しました」


次回、第6章完結。英雄の正体を巡る、新たな日常の開幕です。ご期待ください!


【作者からのお願い】

物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から【★★★★★】で応援いただけると嬉しいです!


皆様の評価が、没収されたルミナス家の資産残高と、コタロウが目覚めた瞬間にクラウディア様から贈られる「パトロン特製・高級寝具」の質、そして次章で動き出す魔王たちの行動速度に直結します!

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