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■ Ep.119 第65話:精霊王の晩餐会(マナ・ビュッフェ)

【第65話(Ep.119):まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、第64.8話(Ep.117)では、要塞アトランティアと精神を同期させたコタロウが、一時的な「全知」の視点を得てしまい、世界中の面倒事からロックオンされるという不運に見舞われました。


そして続く第64.9話(Ep.118)では、要塞が【Status: On Break】となり、リリスやモモたちがようやく安堵の表情を見せました。


しかし、サボり魔が虚数空間を抉って放った「根源のマナ」という名の極上の香りは、天上の美食家(精霊王)たちを黙らせてはくれませんでした。


今回の第65話(Ep.119)は、いよいよ第6章のクライマックス。

アトランティアの上空を割り、降り注ぐ五色の光と共に降臨する、精霊界ホールディングスの重役たち。


暴走寸前の戦略級マナを、ペン回し(重力)という名の「泡立て器」で最高級のデザートへと仕立て上げる、コタロウの不届き極まる調理術。そして、要塞を無事に海へ着水させるまでの死闘をお楽しみください!

【Ep.119 第65話:本文】

1. 絶望の残火と、神々の予感


天空要塞アトランティアの中枢塔最上階。

かつて「神を撃ち落とす座」として設計されたその場所は、今や一人の少年の「サボり魔の執念」によって完全に書き換えられていた。


「……あ。……あぁ……」


ヴァルド・フォン・ローゼンバーグ公爵は、自身の野望の結晶であった制御パネルが漆黒のノイズに呑まれ、愛用していた移動チェアから無様に転げ落ちた床で、ただ呆然と口を開けていた。


王都を焼き払うはずだった戦略級魔導砲は、コタロウのオーバーライドによって強制休止。

アヤネを蝕んでいたマナの供給ラインは、バトンの重力波によって物理的にねじ切られた。


コタロウは、腕の中で安らかな寝息を立てるアヤネをそっと床に横たえると、震える足で立ち上がった。

『マナビタンA』のブースト効果は、既に限界を超えている。

全身の細胞が悲鳴を上げ、視界は重力の負荷で真っ赤に染まっていた。


「……【AI】。……マナが、……溢れてやがるな」


『報告。要塞のメインフレーム内に蓄積された膨大な「根源のマナ」が、出口を失い臨界状態にあります。……このまま放置すれば、島全体を巻き込む大規模なマナ爆発が発生します』


「(……だと思ったよ。……カンニングの後始末まで、……俺がやらなきゃいけないのかよ……)」


コタロウがブラック・バトンを握り直した、その時だった。


上空を覆っていた重苦しい雲が、まるで巨大な手で引き裂かれたかのように割れた。

そこから降り注いだのは、この世の色彩をすべて凝縮したかのような、圧倒的な五色の光輝だった。


2. 五大精霊王の降臨


「あら……。ずいぶんと景気良く香らせてくれたじゃない、コタロウ?」


最初に響いたのは、凛としていながらも、どこか楽しげな鈴を転がすような声。

空間を割って現れたのは、白銀の髪をなびかせ、絶対的な神威を纏った光の精霊王セレスティア。

彼女の足元からは、王都のそれとは比較にならないほどの清廉なマナが溢れ出し、煤けた最上階を瞬時に聖域へと変えていく。


「ヒャハハハ! 待ってたよコタロウ! この『匂い』、たまんないねぇ!」


セレスティアの影から飛び出してきたのは、エメラルドの翼を広げた風の精霊王シルフ。

彼女は飛行船を弄んでいた時よりもさらに無邪気な笑みを浮かべ、コタロウの周囲を猛スピードで旋回する。


さらに、床の亀裂から溶岩のような熱気を帯びて巨躯を現した火の精霊王イフリート。

空間の歪みから山嶺のような重圧を伴って現れた土の精霊王ノーム。

そして、虚空から溢れ出した清冽な水流が形を成し、氷の如き美貌を湛えた水の精霊王ウンディーネ。


世界の理を司る五大精霊王――精霊界ホールディングスの重役たちが、一堂に会する。

歴史上、神話の時代にすら一度もあったかどうかの事態。

それは、ヴァルドが目指した「神への反逆」を嘲笑うかのような、圧倒的なる「神々の気まぐれ」の顕現であった。


3. 戦略級魔法の「調理」


「……コタロウ。貴方が用意したこの『メインディッシュ』……。無作法な人間に食べさせてしまうのは、あまりに勿体ないわ」


セレスティアが優雅に、けれど飢えた捕食者のような瞳で、暴走寸前の魔導炉を見つめた。


「さあ、始めなさい。貴方の『重力』で、この不味そうな鉄の味(要塞のエネルギー)を、最高級のデザートへと仕立て上げるのよ」


「……人使いが荒い、女神様だ……」


コタロウは苦笑し、ブラック・バトンを掌で躍らせた。

もはや、隠す必要もない。

彼は精霊王たちの視線を一身に浴びながら、指先一つで要塞全体の重力場を「ボウル」のように湾曲させた。


キィィィィィィン!!


バトンが再び、毎分数十万回転という超次元の速度へ達する。

要塞のメインエンジンから溢れ出そうとしていた戦略級の魔導エネルギーが、コタロウの重力障壁によって一箇所に凝集され、攪拌されていく。


バトンの【重力核】が不純な魔力ノイズを圧砕し、【古代核】がそこに「根源」の芳醇な風味を加えていく。

ヴァルドが世界を滅ぼそうと蓄えた「死の光」は、コタロウの指先が描く円軌道の中で、虹色に輝く綿菓子のような、高密度のマナの雲へと変貌を遂げていった。


「シルフ、風味付け(風)を。イフリート、火加減を。ノーム、器(大地)を整えなさい。ウンディーネ、冷却と濾過(水)を」


セレスティアの号令に従い、精霊王たちが動く。

シルフが旋風を巻き起こしてマナの雲を磨き上げ、イフリートが適度な熱で香りを引き立たせ、ノームが重力場を補強してマナの漏洩を防ぎ、ウンディーネが質感を滑らかに整えていく。


神々による共同作業。

それはもはや戦闘ではない。

アトランティアの最上階で執り行われる、史上最高に贅沢な「晩餐会ビュッフェ」の準備だった。


4. 叔父様、チェックメイトですわ


「な……。ななな……!!」


ヴァルド公爵は、その光景をただ震えながら見ていた。

自身が千年の悲願を懸け、王都を消滅させるために構築した戦略級魔法が、目の前の少年によって「泡立て器」でかき混ぜられる生クリームのように、軽々とデザートへと変えられていく。


彼の信じた「力」も、「権威」も、「神への憎悪」も。

精霊王たちの前では、ただの「お品書き」の一部に過ぎなかった。


「おのれ……。おのれぇ……!!」


ヴァルドが、懐から予備の魔導短銃を引き抜き、震える手でコタロウに向けた。

だが、その銃口が火を噴く前に、一陣の冷徹な重圧が、彼の腕を床に縫い付けた。


「……みっともないですわよ、叔父様」


声の主は、クラウディア・フォン・ローゼンバーグ。

彼女はボロボロになったドレスの裾を翻し、女王のような峻厳な佇まいで、叔父の前に立った。


その瞳には、かつて向けられていた親愛も敬意もなく、ただ冷ややかな「断罪」の光だけが宿っている。

彼女の背後には、三つの顔を持つ冥府の女神ヘカテーの幻影が不吉に揺らめき、ヴァルドの魔力をその根源から凍りつかせていた。


「ローゼンバーグの誇りを騙り、神を撃つと豪語しながら……。貴方が作り上げたのは、精霊王様たちの空腹を満たすための、ただの『供え物』でしたわ」


「クラウディア……! お前、身内を……わたくしを裏切るというのか!」


「裏切ったのは、叔父様の方ですわ。……アトランティアを、わたくしたちの修学旅行の『思い出(ビュッフェ会場)』にしてしまったこと。そして、わたくしの『コタロウ』にこれほどの重労働を強いたこと。……万死に値しますわ」


クラウディアはヴァルドを見下ろし、不敵に微笑んだ。


「叔父様、チェックメイトですわ。……貴方の野望は、わたくしたちの愛(と、女神様たちの食欲)の前に、跡形もなく敗れ去ったのです」


5. 晩餐会の終演と、最後の「精密なサボり」


「……よし。……できたぞ。……勝手に食え」


コタロウがバトンの回転を止め、膝をついた。

重力場が解除されると同時に、中心に漂っていた「虹色のマナの結晶体」が、四散して部屋中に満ち溢れた。

五柱の精霊王が、一斉にマナの奔流へと飛び込み、戦略級魔法は「特大デザート」として完食された。


「あぁ……。素晴らしいわ、コタロウ。……最高のフルコースだったわよ」


満足げに口元を拭い、セレスティアがコタロウの側に舞い降りた。

彼女が去り、神威が薄れていく中で、コタロウは朦朧とする意識を繋ぎ止めた。

エネルギーを失った鋼鉄の巨神が、重力に引かれて高度を下げ始めていたからだ。


「(……【AI】。……降下角度の微調整、頼む。……衝撃で、アヤネたちが目を覚ましたら面倒だ)」


『了解。……海面までの高度、残り 500メートル。重力慣性制御、最大出力。……マスター、これ以上の「精密なサボり(微調整)」は肉体に過負荷を与えます。……覚悟を決めてください』


コタロウは、中枢塔の制御座で**【魔導ブラック・バトン】**を再び回した。

指先から伝わる重力核の振動が、魔力を持たぬ空っぽな神経系を焼き焦がさんばかりに激突してくる。


ズゥゥゥゥゥン……!!


島全体を包み込むような巨大な衝撃。

アトランティアの巨体が海面に接触し、数千トンもの海水が白銀の飛沫となって天を突いた。


島が静かに波に揺れ始めたのを確認し、コタロウはバトンの回転を止めた。

同時に、彼を支えていたアドレナリンと『マナビタンA』の残滓が、潮が引くように消え去っていく。


「……ふぅ。……これで、ようやく……寝れる……」


コタロウはアヤネの側に倒れ込み、そのまま泥のような眠りに落ちた。

彼の指先には、まだ微かにバトンの重力振動が残っていた。


修学旅行という名の戦場。

その最大の激戦は、一人のサボり魔が提供した「贅沢すぎる晩餐」と、命懸けの「着水作業」によって、あまりにも劇的に幕を閉じたのだった。


(第65話 完)

【第65話(Ep.119):精霊王の晩餐会マナ・ビュッフェ・あとがき】

お読みいただきありがとうございました!


世界を滅ぼすはずの古代兵器が、最終的に「神々のビュッフェ会場」として美味しく消費される……。

これこそが、既存の理をカンニングで塗り替えるコタロウの真骨頂ですね。


今回のハイライトを振り返ると:


五大精霊王のフルコース(調理):

セレスティア様を筆頭とした五柱の神々による共同作業。コタロウが重力で「ボウル」を作り、神々が属性を加えて仕上げる。戦略級魔法をデザートに変えるという暴挙こそ、本作の醍醐味です。


クラウディア様とヘカテーの冷徹:

叔父であるヴァルドに対し、ローゼンバーグの「誇り」すらもコタロウのために捧げる彼女の執念。背後に現れた冥府の女神ヘカテーが、ヴァルドの魔力を吸い上げる様は、まさに血の繋がりすら断ち切る「断罪」そのものでした。


コタロウ、ようやくの安眠:

神々を満足させ、アヤネを救い、ようやく手に入れた「サボり時間」。泥のように眠る彼の姿に、パトロンとしてのクラウディア様も(別の意味で)熱が入っているようです。


しかし、宴のあとには、避けては通れない「現実的な後始末」が待っています。


【次回予告】

第65.5話(Ep.120)幕間:『弾劾裁判』


硝煙のあとの審判。

空になった胃薬の瓶を握りしめるセフィラ先生と、冷酷なパトロンへと変貌したクラウディア。

敗北したヴァルド公爵を待ち受けるのは、王国の法を超えた「大人の汚いお片付け(資産没収)」。

「貴方の資産は、わたくしの『王』が、より快適にサボるための資金として有効活用させていただきますわ」


次回、ルミナス王家を揺るがす没落と、コタロウの「サボり基金」設立。ご期待ください!


【作者からのお願い】

物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです!


皆様の評価が、コタロウが次に目覚めた時に提供される「高純度マナの結晶糖」の糖度と、没収されるルミナス公爵家の資産総額、そしてセフィラ先生の胃壁の修復速度に直結します!

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