二つ目の鍵と裏切りの影
止まった世界に、重低音のような震えが広がった。
空は赤黒くにじみ、ビルの影が不自然に揺れる。
アヤが不安げに僕の袖をつかんだ。
「……おかしい。共鳴の波が、私たちのものじゃない」
「じゃあ誰の……?」
その時だった。
人影が、街の向こうから歩いてくる。
制服姿。
見覚えがある。
クラスの片隅で、誰とも話さず、存在を消すように過ごしていた少年。
「久遠……?」
口にした瞬間、背筋がぞくりと凍る。
彼の右手には――僕と同じ、だが形の異なる古びた鍵が握られていた。
「……やっと見つけたよ、ハル」
声は淡々としているのに、瞳の奥には冷たい炎が宿っている。
「久遠、お前……どうしてその鍵を」
問いかけに答えず、彼は鍵を掲げる。
瞬間、監視者たちが一斉に跪いた。
僕らを狙っていた影の群れが、まるで“彼の命令”を待つかのように動きを止める。
「な……何だこれ……」
アヤが息を呑む。
監視者は敵ではなかった。
いや、敵の“主”が別にいたのだ。
久遠は微かに笑みを浮かべ、静かに言い放った。
「この世界を動かせるのは、お前だけじゃない。俺の鍵は“影を支配する鍵”だ」
次の瞬間、影が牙を剥いた。
僕とアヤを守っていた光が押し潰され、地面が裂ける。
「待って、久遠! あなたは……敵なの!?」
アヤの叫びにも、彼は振り向かない。
ただ一言だけ、僕を見て告げた。
「俺は……この世界で“正しい選択”をする者だ」
空に大きな亀裂が走り、止まった世界が音を立てて崩れ始める。
僕は咄嗟にアヤの手を握った。
だが、その視線の先――久遠の影が僕らを飲み込もうとしていた。
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