7 変身
望月牧場に到着すると、酒瓶を持ち上げて「すいませーん」と声をあげた。すると、中年の男が現れて「〈こおりやま〉の」と呼んだ。
「どうぞ!」
「ありかとうなあ」
「はい! どういたしまして!」
元気にあいさつを返し、オートバイクに戻る。
その姿を遠くから眺める姿があった。
「あれ誰?」
「酒屋のバイトくんでしょ。なんてったかな、大滝……ああそうだ、大滝守道だ。前話したことあったけどあんまり物事考えないアホな子だよ」
「ほーん」
望月小夜という女である。歳は二十五歳。身長は守道より少しだけ小さいくらいということは、女性としては高い方なのだろう。
小夜は母の説明を軽く聞きながら、ニパッと笑いオートバイクに乗り込む守道を見つめた。
似てる、と思った。
オートバイクのボディにペイントされたピースサイン、ヘルメットにある赤いライン……記憶の中にある二年前に助けてくれた男のものにそっくりだ、と。
守道は、オートバイクを走らせたが、すぐに「たすけてくれ!」と叫ぶ老婆の声を聞き、Uターンして、その声の方に走っていった。
声のする方に到着すると、そこには人型の狼がいた。
「なっ……」
前のと同じタイプだ!! そう感じると、身体中を、足裏から頭の天辺まで憎悪が駆け抜けるのがわかった。
「ぎ、ぎぎ」
狼男が笑みを浮かべて、老婆のはらわたを引き裂いている。
守道は、ググ……と両の拳を握りしめる。すると、胸部に骨と同成分の黒い液体が毛穴からあふれ出し、それが枠を形成し、筋肉や鉄分を凝縮した殻を形成……。そして、胸から赤く輝く石が飛び出し、ケラチンで構成されるカバーが石を取り囲む。
「変身」
石がことさら強く輝き、守道の身体がドロッと溶け、黒い強化筋肉、強化皮膚、生体装甲……複眼状の赤い瞳を持つたった一つだけ頭に備えた怪人に変身させた。
「ぎ、ぎ……!? じゃ、し……!?」
「じゃし……? そうか、邪視か」
身体機能を把握。
邪視の力により変身した守道変身態は複眼状の赤い瞳から人を狂わせる自殺の波動を放ちながら、足元からギチギチと生体装甲が擦れる音をたてて近寄っていく。
狼男は戸惑いながら、思わず手からはらわたを離した。
守道変身態は自らの首に指を突き刺し、生存本能から即座に治癒霊術──傷を回復される特別な術──を習得すると、老婆の肉体をもとに戻し、心臓を殴りながら、霊力で周囲の空気を絡め取り、身体の中に送り込む。
老婆が息を吹き返すと、狼男を睨み据える。
頭の中で声がする。「怪異に対してあてつけるような自殺の波動は効きが悪いんだ」「だから、キックやパンチで直接打ち込もう」と。
守道変身態は拳に自殺の波動を押し溜めて、狼男の顔面をパンと一発叩きつけた。そして、変身を解除する。胸の石が身体の中に消えると、老婆に向かっていく。
「ぎ、ぎぎ……」
老婆の頭の下にシャツを置いて、携帯電話を出した。
「ぎっ、ぎ! ぎぎ!」
通報。
パタン、と携帯電話を畳み、懐に仕舞う。
「ぎ、い! あっ!」
ドロッと溶けてなくなった。
自殺の波動を撃ち込むと、狼男の細胞が自ら崩壊を選んでしまうのだろう。それを再認識すると、頭の天辺から足の裏まで冷たい感覚が通る。
「……おもったよりつらいな……」
救急車が到着すると、救急隊員は顔見知りばかりだったので余計な疑いをかけられることもなく、「今回もお手柄」と言われた。
「でも今日は怪我しなかったんだ」
「あはは。俺、いっっつも怪我してますもんね! でも俺も成長したんですよ! ぶいぶい。バイトの途中なので帰っていいですか?」
「気をつけなよ」
「はーい」




