8 訪問
五月三十日・金曜日。
酒屋〈こおりやま〉。
店内ポップを作成していると、三郎の娘がやって来た。
三郎の娘・葵は現在大学生で、岩鷲大学に通っていた。来年あたりに卒業して、それよりあとはどうするのだろうというところに来ている。
葵はしっかりものなので、入学当初から卒業後のことを考えて大学生活を送っていたらしい。
「すいません。あの、お父さんいますか?」
「オヤジさんなら裏で煙草吸ってるよ。呼んでこようか?」
「あっ、自分で行きますよ」
「そっか」
どうやら彼氏を紹介したいと言う。
ちらっ、と店内に葵の彼氏が現れた。
「お茶とか出しますよ。珈琲も紅茶もありますけど、どうします?」
「あ、じゃあコーヒーで」
「了解しました!」
もし自分がここに長く居着くとしたら将来的には自分の上司になる可能性もある男として、守道は葵の彼氏・吉川剛を見ていた。
「岩鷲ってことは盛岡から? はるばると」
「はい。でも、まぁ、ここは、近いほうなんで」
「たしかに。ははは」
ふわふわっとした時間が流れている。
「てめぇずいぶんと……」
「大滝くんに八つ当たりしないでよ」
「しかしねえ、若いうちはもっと色々とあるのだから大学卒業即結婚は流石にはしゃぎすぎということも考えられる」
「ちゃんと考えた上だよ」
「恋愛に思慮は水と油だろ」
「また屁理屈を言う」
「屁理屈かなあ? 大滝くんを見てみなさい。お前の一つ歳上だけれど、結婚どころか恋人の影すらない」
「大滝くんは大滝くんすぎるから仕方ないでしょ」
なんか馬鹿にされてるなあ、と思いながらふわふわ笑ってみる。
「うーん……しかしなぁ……」
「いい加減認めてよ」
「しかしなあ、母さんはなんて言っているんだい」
「いいってさ」
「えっ、なんでぇ……?」
「お父さんたけだよ、前時代的なの」
「えぇ……?」
頑張れ! と心の中で両者を応援しながら、茶をすすっていると、そこにひときわつよい「だれか助けてくれ」という声があった。
守道は立ち上がって、大きな声をあげる。
「オヤジさん、少し出てきます」
「えっ、ああ、気をつけていきなさい」
三郎と葵を心配しながら、守道はオートバイクに跨って、その声の方に急いでいった。




