6 復帰
五月二十七日・火曜日。
花巻東総合病院。
退院してもいいですよ、というお許しを得たので、長い入院生活から解放された守道はニパッと笑って看護師たちや医者に「ありがとうございました」と言い、病院をあとにした。
「あっ、明子。天気いいね!」
「退院おめでと。食べに行く?」
「お金もったいないでしょ」
「私だってバイトしてるんだよ。気にしなくていいのに」
明子は守道を見あげながら、「店長さんからきいたよ」と言った。
「また、声聞こえたんでしょ」
「ん? ん〜〜……」
「どうして、その声に従っちゃうの。だから高校生の時とか、主体性がないって先生に言われるんだよ」
「でも、『たすけて』って言われたら『助けたい』って思うじゃん。そんなの、お前もそうだろ?」
「でも、それでお兄ちゃんが怪我してたんじゃダメじゃん! お兄ちゃん力だって強くないんだよ!? いつもひとりだけぼろぼろになって、なんでそれでまた動こうと思えるの」
「しょうがないよ」
「しょうがない……!?」
「だって、助けたいって思っちゃったんだもん」
「…………」
守道は、ずっとこうだった。
自分が大滝家にやってきた時だって優しかった。
「これからは俺がお兄ちゃんだ」と言ってくれた時のうれしかった気持ちだとか、他の勘定も宝物だと思っている。
けれど、やはりこの男は異常だと思う。
だからこそ、なのかもしれないけれど。
「お寿司」
「へ?」
「お寿司食べにいきたい。絶対お寿司」
「んも〜〜わかった。行こっか」
「お兄ちゃんも今日お酒飲んでいいよ」
「はは。やったね」
どうか、この兄が……。
(お兄ちゃんの中の、『邪視』が目覚めませんように……)
どうか、この兄が……。
◆
翌日、〈こおりやま〉に復帰すると、三郎は「ずいぶんと寝込んてたらしいじゃないか」と微笑んで迎えた。
「ずいぶん休んでしまってごめんなさい! 俺、これからは前よりもびしばし働いていきますよ!」
「病み上がりだ、無理すんな」
「はい!」
その日、午前中はレジの横に座らせられ、やってきた老人の客や建設会社の若輩のれんじゅうに雑に構われながら、肉体仕事も特になく、体力の温存できるものだった。
休憩時間、弁当を食う。
この弁当は明子が高校で食うためのもので、いつからから「ついでに自分のも作っちゃおう」と考えて作っているものである。
梅干しを箸でつついていると、三郎が電話を取っている声が聞こえた。はやめに飯を済ませて、どうやら東和町のほうで牧場をやっている望月という人が酒を数本届けてほしいというような事を言っていたらしい。
「じゃあ、俺届けに行きますよ! 俺のオート、ちょうどモノ積めるんで。望月牧場ならなんかテレビで見た事あるような気がするので、場所もバッチリです! ぶいぶい」
「じゃあ頼むぞ。四時までに届けばいいっていうから、急がずにな」
「はい、頼まれました」
びしっと敬礼してから店を出ていく。




