61 木石
「お兄ちゃん!!」
便宜的に一般の病室のほうに移され、便宜的にそこで寝て過ごしていると、明子と步生がやってきて、明子がまっ先に抱きついてきたのを躱していると、そばにいた耕助に「躱すな」とツッコまれた。
「ほんとうに起きたんだ」
「むりやりに起こされたのさ」
「私、ずっと心配だったんだよ! 帰ってこないし、めっちゃ白髪になってるし! 目の周りのやつ何!? ほ、ほんとうに怖かったんだよ、ずっとずっと起きないままかもって思ったら、怖かった」
「そうか。すまなかったな」
「性格、変わったね」
「演技はやめたんだよ」
今度は步生が口を開いた。
「ずっと、うっすらダリエさんが『今年はみんなでクリスマスのパーティーできるかもよ』って言ってたから、気にはなってたけど……こういうことだったんだ。……もう、起きていて平気なのか?」
「ああ。平気だ。少し眠いが、どこかのバカがテレビで相撲ばかり見るものだから眠れんのが気に障るがな」
「そっか。よかった」
「ほんとうに」
「…………」
「…………」
「そうだ。なんか、特別な理屈で細工をしてくれた人がいるらしくてこいつ明日の十時頃には病院出ると思うから、迎えに来てやってくれ」
「迎えはいらんよ。オートを置いていってくれればそれでいい」
「守道」
「なに」
「お前のオートは俺が持って帰った」
「は?」
「迎えに来てもらえ」
「お前、何してくれてんだ……」
耕助は笑って病室を出ていった。
「迎えに来るから、一人で勝手に出ていかないで」
「…………」
「返事は」
「…………」
「返事」
「…………」
「はいって言え」
「…………」
「言わねぇなこいつ」
「……まぁ、行くところも無いからいいんだけど……」
「決まり」
翌日、看護師に見送られながら病院を出てコンビニエンスストアで煙草とマッチを購入し、喫煙スペースで壁にもたれながら二人を待ってみた。そこに、少年がやってきた。光輝である。
「大滝さん」
「よう。元気してたか。平日は学校じゃなかったかな」
「天皇誕生日ですよ」
守道は煙草を消して、風に当てられて乱れていた光輝の髪を撫でてやって「今日はなにをしに?」と訊ねた。
「あなたがそろそろ退院だっていうから。此処にいていいんですか? あのふたり、貴方を連れてケーキとかチキンとか買おうっていう計画を立ててましたよ」
「病み上がりにはつらい仕打ちをする」
「病院までいきましょうよ」
「士気がさがる」
「それ以上下がる士気、ないでしょう」
「ハハ」
光輝は自分の頭を撫でてから、彼を見上げた。
「もう、満足しましたか」
「どうかな」
「満足、できてませんよ。たぶん」
「どうかな?」
「みんな貴方のことを知りたがる。みんな貴方のことを愛したがってる。みんな、貴方のいない数年のうちに、変わったんですよ」
「おたくらはみんなどいつもこいつも揃って全員だもの。けれど、人は選ぶべきだ。自宅人間はさ。俺は……」
「いいんですよ」
守道の言葉を遮って、光輝が言う。
「悪人でも。人を愛していいし、愛されて良いんです」
「…………」
「僕買い物するので、とりあえず店内入りましょうよ。あったかいですよ。いきましょう」
「肉まんを奢りなよ」
「中学生にたかるんですか」
「俺は悪人だからな」




