59 病室
十月三十一日・金曜日。
花巻桜南総合病院。
大滝守道は目を覚まさなかった。どうやら最後の変身で脳に重大な損傷が出たらしく、いわゆる遷延性意識障害というものらしい。毎日、橈骨は見舞いに来て、泣きながら大滝守道に謝罪をしていた。それを見ていたからか、明子はしぶしぶ橈骨を許していた。步生は眠り続ける彼の頭を撫でて、「ずっと眠れなかったものな」と呟いた。
「ずっと、頭に声が響くって言って……眠れないって。この人の日記に書いてあった。幼稚園児のころからずっと一睡もしてなかったって。だから気が狂ったりもしていたんだろうなって思うけど、でも、そうだったとしても、死にたかったんだろうな。死にたくて仕方がなかったんだろうな」
「…………」
死なせてあげることは、やっぱり、どうしてもできないけれど……と前置きをして、步生は「ちゃんと眠れるようになってよかった」と微笑んだ。
十一月三日・月曜日。
花巻桜南総合病院。
病室には、橈骨経由で猪地光輝もやってきた。しかし、やはり大滝守道は目を覚まさない。最後まで悩んで悩み抜いて、結果よろしくない方向に進んでしまった彼を、誰も責めることなどできやしないし、ただ哀れむことしかしなかった。かつて自分が悪の力を使う化け物だと言う彼の目を思い出す。
せめて穏やかに眠れている今を大事にしていくしかないのかもしれないけれど、人のために頑張っていた彼が、こうなってしまうのはあまりにも非道で、残酷だといえる。誰かの為に拳を振るう人はどうしてどいつもこいつも不幸になってしまうのだろう。
光輝はそう思った。
彼の病室にはいろいろな人がやってきた。どうやらこの日は彼の誕生日らしく、ようやくちゃんと二十二歳になったのだという。
「ということは、あなたも誕生日では?」
明子が橈骨に言った。
「そうだったかな」
「おめでとうございます」
「うん」
「…………」
「こういう時、兄ならなんて言ったんでしょう」
「俺も、君も……こいつの一面しか知らんからな」
「そうですね。……これから、どうするんです?」
「とりあえず、今はこいつに託されたことをやろうと思う」
暮明薫に力の使い方を教えてやろうと言う。
「兄も喜びます」
「そうかな」
「はい」
「なら、よかった」
「はい」
去ろうとする橈骨に、ふと思い出して問いかける。
「今のあなたは、どちらなんですか」
「え?」
「浅見耕助なのか、異態橈骨なのか」
「……そうだな。人は、簡単に自分の裏と表を捨てることはできない。つらいけれど、今の俺は……両方だ」
「両方……?」
「強いて言うなら、ドロットマン第二号」
「第二号? じゃあ、一号は?」
「起きてから、直接本人に言わせるさ」




