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ドロットマン  作者: 蟹谷梅児
EPISODE 17
50/65

50 輪郭

 八月十四日・木曜日。

 岩手県花巻市某地区。



 步生は、〈こおりやま〉の仕事を続けながら、大滝守道のことも調べていた。どういう人間なのかはもう分かった。


 なら次に調べるべきものは、どういう人生を歩んできたか、というものだった。


 本人からしたら知られたくないもののうちのひとつだろうが、步生からしたら、この世で最も知っておきたいものだった。


 まず、明子に聞いた。


 いろいろ知っているかもしれないからだ。


 しかし、明子は大滝守道のことをほとんど何も知らなかった。


 最近は隣人ソフィの助けもあり、一時期頼り切りになって信頼していた兄がいなくなってしまったので荒れていた明子のメンタルは比較的落ち着いてきたが、「兄・大滝守道のことを何も知らない」と自覚すると、やっぱり少し泣いてしまった。


 步生は「これから知っていけばいいものだよ」と返して、「ふたりで知っていこう」と励ました。


 ところで、步生の身体は女のままだった。


 あれからしばらく経っていたが、男に戻ることはなく、おそらく一生女のままなのだろうなと思う。


 戸籍上では男のままなので、病院へ行ったりなんなりでいろいろと困ることもあるのだろうけれど、そこら辺は大滝守道が帰ってきてから彼と一緒に片付けていけばいい話だと步生は考えていた。


 本題に戻ろう。


 しかし、なぜ明子は五年以上いっしょに暮らしてきた兄のことを何も知らないのだろう? と步生はその事実が不思議でならなかった。


 例えば、クラスメイトとかであれば、まだそれは納得がいくし……というより、何も知らないことのほうが自然である。


 明子は十歳のころに大滝家にやってきて、そこですでに大滝家の息子であった大滝守道に出会っていた。


 それから大滝夫妻が亡くなり、二人きりで過ごすようになって数年が経つ。こういう状況にあれば、隠し事のひとつやふたつ明らかになるものだが、大滝守道はそうはならなかった。


 彼の持っていた隠し事を、彼はこの家を去るまで守り続けていた。少し恐ろしく思ってしまった。


「たぶん」


 と、明子が口を開いた。


「たぶん、お兄ちゃんはわかってたんだと思う」

「なにを……」

「私が、お兄ちゃんを……想っていた事を、だよ」

「それは」

「あの人は、変な性格してるから……こっちが近寄ろうとすると、必死になって距離を取ろうとするんだ」

「なるほど」


 步生はなんとなく大滝守道の性格というものを把握し始めていた。


 純粋に、たぶん、なんらかの病気なんじゃないかと思う。


 他者に対して信用がなく、対人交流に対して僅かながらの難があり、自己肯定感が低く、落ち込みやすい。


 五歳頃から声が聞こえるようになったと言っていたような記憶があるから、おそらくその頃に人格に異常が発生してしまったのではないか、と思う。


 治る治らないの話ではない、根本から何かを正さないといけないような、そんな性格を知る。


 少しずつ、少しずつだが大滝守道の輪郭が見えてくる。


 人であろうとした人。


 彼は今どこにいるのだろうか、と考える。


 そんなことは新聞を見れば分かる。


 毎朝毎朝、新聞におこされる「突如現れ、救助をしていく謎のライダー」は、テレビにもたまに出た。


 その日は、午前一時倒壊した町中にある廃墟から肝試しをしていた大学生四名を救い出したらしく、同日の昼間には同じ市内で火事からアベックを救っている。



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