40 暴力
感知。
「なるほど。お前が怪異を生み出していたわけか」
「全部お前らに壊される」
「お前ら?」
「白い邪視だよ」
「ふむ。それで、おまえは何だ? 人の言葉、人の仕草、人の情緒、人の姿形を真似して何をしている。ママのおらんゴミクソが」
「どうしてそういうひどいことを言うんだ?」
「お前が今まで何人の人間を苦しめた」
「天獄様に命じられたことをしたまでよ」
「天獄。また天獄だ。そいつはなんだ」
「知らん。私の魂に命令を刻みつけた男だ。私は彼の願いのためならばなんだってやろう。貴様をも殺してみせる。私は怪異を生み出す力を持つ。どんなものでも怪異にしてみせることができる。わからんだろう、邪視。その失敗作。貴様には。この万能感は素晴らしい」
「人の真似がお上手でな」
「はは」
空から大岩が落ちた。その大岩には顔面がついており、おそらく怪異なのだろう。仙骨変身態は自殺波動を叩き込み、殺してみせると、階段を一歩ずつ上がっていった。
「縛絡、その女守れよ」
仙骨変身態は刀を振るう。木札男は怪異を作り出すと、それをガードしついでに攻撃。その隙に地面の蟻の巣穴に掌を押し当て、大蟻を生み出すと、仙骨変身態を襲わせた。
武器が多すぎる。
仙骨変身態は蟻どもを睨みつけ爆発させると、木札男に刀をひと突き。しかし、現れた植物性の怪異によりそれは防がれ、逆に殴り飛ばされた。
「ふむ。つよいな」
「恐れるか。私を。恐れたか」
「だがなあ。わざとらしくつよすぎる」
「なに?」
「力というのは、そんなになくてもいい」
全身に治癒霊術を回しながら、言う。
「感情を得た弊害が出てるな。強さを求めすぎて逆に弱点が丸わかり……というか、バカになってしまっていて、見ていて頭が痛くなる。感情のある人間はマヌケだよ、小僧」
「これが噂の負け惜しみか? 白い方ならそんな事は言わない」
「そりゃあ、言わんだろうさ。いちいち、相手に得になるような事なんかは。なぜか、わかるか。あいつとお前の強さを比べたら……ちょうど、どっこいどっこいかな。そして俺とお前で比べてみれば、俺のほうが少し強いかもな」
「何を言うか。事実、私の怪異に投げられて」
「火傷は怖いもの」
「なにを……?」
仙骨変身態は刀を投げた。植物性怪異も虫も動物も土も貫き、木札男の頭部を貫いた。そして、爆発する。
「さて」
木札男が再生を開始すると刀を拾い、それを眺める。十分に再生したところで、仙骨変身態は刀を捨て、業轍も解除した。
木札男の頭を持ち上げ、地面にたたきつける。
「怪異を生み出し、人々を苦しめ、一度は殺したこともあったな。あの時は俺がいたからよかったが、俺が少しでも遅れていれば、あれは完全に死んでいたか、再生できても心肺停止の期間が長すぎて……というようなことになっていたかもしれない。それは許してはならないことだ。分かるだろう」
木札男が怪異を生み出そうと手のひらを地面に押し当てると、右足でその手を踏み、左足で肘を蹴飛ばし、腕を折る。
「怪異を生み出すなんて言うのは、おそらくやろうと思えば俺にもできる。何故やらないと思う。気持ち悪いからだ。ダサいからだ。そんなことをやっても、俺になんの得もないからだ。まさに今のお前は、気持ち悪くて、ダサい。俺が現代っ子だからそう思うのかもしれないが、とにかくだ。とにかく、お前はカスだよ」
再生。また折られた。
「あいつのこと低く見積もりすぎたな。あいつはお前よりもつよいよ。お前はあいつよりも弱い。あいつならこんな攻撃でパニックには陥っていないし、敵前で地面に手を付けることもない。ちゃんと相手の心を折ってからじぶんのゆういにもちこむ。お前は俺と同じでそういうことをしないが、俺とお前の圧倒的な違いは知能だ。俺は人並みには賢いが、お前はまだ子供だ。簡単なことも思いつかない子供」
よろめいたところ、足に刀を突き刺される。刀は地面にも到達していたらしく、動けない。その場に固定され、顔面を殴られた。
「子供がなにをやっても、俺は許してやる。壁に落書きがしたければ、あとで消せばいいだけだ。ゆるしてやる。俺の財布から金を盗めば、小遣いを減らせばいいだけだ。許してやる。人に悪口を言ってあとで後悔するのは自分だ。俺は許してやる」
胸ぐらを掴まれ、また殴られる。何度も何度も殴られる。口の中が血の味で満たされて、歯のいくつかが抜け落ちた。
「だが、お前の行動一つとっても、許せるものがどこにもない。ぶっちゃけお前は生まれるべき存在ではないから、ここで殺すよ。仕方ないよな。人を襲って、それを何とも思わないのだから。死んだほうがいい」
嘔吐した。すれば、油断してくれると思ったからだ。しかし違った。吐瀉物も気にせずに、仙骨変身態は木札男を殴り続けた。
「どうせ怪異だ。祓ったほうが世のため人のため。どうせ怪異だ。大して世界に貢献もせずにいるだけだ。どうせ怪異だ。お前を思う人などこの世に存在しない。だから殺すんだ」
たまらなくなり、朦朧とする意識のなかで刀を抜こうとすると、その腕を掴まれ、もう一本の刀で縦に裂かれた。
「もう二度とお前は怪異を生み出さない。もう二度とお前は怪異を生み出せない。どうせ遊び感覚だったんだろう。生み出して、命令して、結果を待てばいいだけの簡単な仕事だと考えていたんだろう。自分のその簡単な所業でどんどんと俺を怒らせていたのは分からなかったか? あるいは、理解していたが、大した脅威ではないと考えていたか? 怪異を生み出せるだけの存在が強者であるわけがないと何故わからなかったんだ?」
その場に蹲った。頭を思い切り蹴り飛ばされた。
「人と話している時はちゃんと立てよ、小僧。返事は?」
「う、うう……」
「返事」
「ご……」
「返事」
「う、うう……」
「返事」
「ご、ごめ……」
「返事ィ」
「わ、わかりました……」
「口を開くな。無礼者」
また殴られた。木札男は泣いていた。感情を得たせいで、恐怖を覚えていた。感情を覚えたのがつい最近で、言ってしまえば、まだ子どもの情緒しかないたころに、マジでキレてる大人が暴力を手段に叱りつけてきているのだ。子供は泣いてしまう。
「人が話しているときは口を開くな」
「……」
「返事もできないのか、小僧貴様」
また殴られた。
木札男は完全に壊れた。
なので、殴ることもなく、赤い一つ目から自殺の波動を出した。すると、木札男はドロッと溶けて消えていった。
「ふむ。残そうと思えば刀は残るのか」




