36 日生
土曜日になると、步生は大滝守道のことを調べ始めた。
興信所に依頼できるほどの金を使うのはさすがに力みすぎなので、自分でいろいろと調べてみることにした。
まずは彼が卒業した小中高を調べる。
花巻市内の小学校を卒業して、花巻市内の中学校を卒業して、北上市内の高等学校を卒業していた。
まずは高等学校の方に行ってみた。
当時彼の担任だったという中田直人いわく、「人の輪の中からはずれたところでニコニコ笑っている男だった」という。
「とにかく、優しいんだよな。優しすぎて不気味に思われていた。あと、ずっと笑顔なものだから、言い方は悪いけれど、ちょっとアレな奴だと思われていたのもあると思うね。友達は一人もいなかったんじゃないかな。私の知る限り校内にはね、ひとりもね」
つぎに、中学校のほうにも行った。
当時彼の担任だったという横井和子いわく、「責任感がひたすらにつよい子だった」という。
「自分に与えられた役割があると、それを完ぺきにこなしたがる子でね。もうちょっと手抜きしてもいいのにな〜ってところでも、『自分にできることを精一杯やるのがいいんです』って笑うの。優しいしよく笑うけど、変な子だったね」
そして、小学校の方にも聞きに行った。
当時の担任はすでに辞めてしまっていたが、彼を知っている教師が校長になっていたので、話を聞くことができた。
その教師・井上利明いわく、「根暗な少年」だったという。
「とにかくいつも保健室にいてね、ずっとベッドの上で、耳を抑えて、まるまっていて、幻聴がひどくてろくに授業に出られないみたいで。ひどいときなんかはウガーッて癇癪を起こして、ご両親が迎えに来ることもあったね。でも、六年生の頃だったかなあ。下級生の……吉田ちゃんっていう子がね、誘拐されちゃったことがあるの。その時、吉田ちゃんはご両親の都合で学校休んでたんだけど、保健室の先生が『大滝くんがいきなり保健室飛び出して行っちゃって』って慌ててたの思い出すよ」
彼は昔を懐かしむように言う。
「それから数時間後に、交番から学校に電話が来て、『おたくの児童がふたりボロボロの状態で見つかりました』って。びっくりしたね。あとで話を聞いてみると、あの子、『助けてって聞こえたから助けに行った』って。あのときはちょっと、こわかったかな」
彼は申し訳なさそうに言った。
步生は、次に彼の親を探ってみた。
異態橈骨の話を鵜呑みにすると、彼の父親はそうとうなクズで、彼の母親は大滝守道を産んだ当時中学生。
その母親を探してみる。
割とすぐに見つかった。自分には探偵の才能があるのかもしれない、と思いながら、その少女のことを調べていた。
日生葵。なんのへんてつもないごくごく普通の少女だった。素行が悪かったりということもなく、友人たちからの評判も良く、責任感が強く優しくていつも笑っているような少女だったという。
事件のあと、赤子を産んで、自殺してしまったと言う。
「…………」
もし、ちゃんとした手順で、何事もなく彼女の息子に生まれていたら……彼は日生守道だったら……と考えてみる。
しかし、考えようもないもしもの話。
彼は大滝守道で、異態仙骨なのだという。
彼女の両親にも話を聞くことができた。「もし、彼女の子が今も生きているとしたら、どう思うか」と。不躾ながら訊ねた。彼の両親は口をそろえていった。
「醜いから死んでくれ」




