32 疲労
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誰でもいいから、駆けつけて、自分にまとわりつくクソッタレの影だとか、闇だとかを全部晴らしてほしい。
誰でもいいから、「もう大丈夫だ」と言ってほしい。
けれど現実には彼を助けてくれるような人間はいない。昔はいたのかもしれないが、現在いないのであれば現実には存在していない。
頭の中に響く助けを求める声は、未だに止まない。
心が押しつぶされそうだ。
助けてほしいのはこちらの方だ。
しかし、身体は動いてしまう。目の前で苦しむ誰かを、自分の不幸を理由に見殺しにできるほど、彼は強い人間ではなかった。
だからこそ苦しんでいた。
だからこそ嫌だった。
中途半端な心を、中途半端な身体に押し込んで、何が楽しいものかよ、と。何が嬉しくなるものかよ、と。
彼はオートバイクの上で項垂れた。
呼吸は浅い。
空腹だった。
腹が減っていた、飯が食いたい、もう味覚もないが。
ここ最近、あの日から、味覚がなくなっていた。もともとあまり感じない方だったが、ここに来てついにすべて消えた。
最近白髪が増えた。黒髪のほうが少ないと言っても過言ではない位になった。急激な精神の衰えが影響しているのだろうか。
彼はため息をついて、走り出した。
朝霧のなかに、悲鳴が聞こえた。
七月一日・火曜日。
岩手県住田町某地区。
犬の散歩をしていた老爺の前に、蝙蝠のような怪異が現れた。恐るべき巨体で、腹には人の頭がついている。
「はーっ、人の魂を喰らい、胞衣児様の糧にするのよ」
「ひぃいいい!! お、お助け〜!!」
「こ〜と〜わ〜る〜!」
そこにオートバイクが駆けてきて、老爺と犬を抱えあげ、近くにあった公園に避難させた。
「あ、あんたは……!?」
「犬」
「え?」
「二重顎だ。デブ犬」
「え、あ……」
「それじゃあ」
オートバイクの彼は大蝙蝠に向かいながら、変身した。仙骨変身態になった彼を見て、大蝙蝠は「邪視!」と忌々しそうに笑う。
「貴様を殺せば、俺も昇格するかもなあ!」
「はは。できるといいな。それ」
「ナメるなよガキィッ!」
「おたくより生きてるさ」
仙骨変身態はオートバイクから飛び上がり大蝙蝠の首に拳を叩き込み、次にまた一発拳を叩きつける。
今度は自殺波動を籠めた拳を叩き込む。
それを二度三度繰り返して、とうとう爆発させた。
「ハァ──ハァ──ハァ──……最近一発殴っただけじゃ死なないな。……怪異も強くなっていっている。……ハァ……憂鬱だな。さっき、エナシとか言ってたな。そいつが怪異を作っているんだろうか。邪視、知らんか? ……そうか、知らんか。ならいい。これから知ろう」




