22 対人
少年・影伴步生の人生に味方はいなかった。
いじめられるか、嫌われるか、利用されるかだった。
だから、いきなり現れて「信じろ」と言われても信用なんていうのは、そもそも出来るわけがなかった。
両親が人殺しだから嫌な噂を流される。
猫を殺しているだとか。
両親が人殺しだからいじめられた。
無理やり虫を食わされたりもした。
両親が人殺しだから教師からも嫌われた。
たまに近づいてくる教師は異常性愛者だった。
両親が人殺しだからどこも雇ってくれない。
雇ってくれそうなのはやくざの会社の怪しいれんじゅうであった。
人間のことを信用できない。
本来であれば頼れるはずのオトナはほとんどが步生の両親を見ると、遠ざかっていく。
步生の両親は人を殺しておきながら、遺体発見現場の近くで受けたインタビューでふざけ倒し、被害者に対し、差別用語を使っていたので、インターネットで大炎上。
そこに現れた男。片目は赤く、髪の一部は白い。とても明るく笑う男だった。今までの人生で見たことがない男。
他にいてたまるかという特徴だが。
そんな見た目をしている人間は、なおのこと信用ならない。
六月十日・火曜日。
酒屋〈こおりやま〉。
たまたまおぼえていたので、たまたま近くに来ていたので、それを見に行く。もしかしたら怪しい店かもしれないので、バレないように。
こっそりと店内を覗いてみると、おそらく店主だろう男がレジの横にいて、あの怪しい男がニコニコの顔をして市の催しのポスターをドアに張り付けていた。
一見すれば普通の店に見えなくもない。
だが、酒屋である。怪しいに決まっている!
步生はそんな事を考えて、長々とコッソリ眺めていた。
それからしばらくして、突然出ていったかと思えば、しばらくして帰ってくる。そういう時、何をしているのかがやっぱり気になる。
その日の晩、冷静になって、公園で「何やってんだ俺は」と落ち込んでいると、背後で車の止まる音が聞こえた。
気がつけば乱暴な衝撃が步生の身体を襲う。どうやらやくざのれんじゅうで、この世から消えても誰も何も思わない人間という条件で人間売買の商品として、步生が抜擢されたらしい。
充分に、使えるものを全て使ったあとに、処分されるのだろう。
それを悟ってしまうと、恐怖。しかし、口は縛られている。
花巻から出たところにある廃ホテルの一部が「撮影用」に準備がされていて、步生はそこで手足を縛られていた。
男が入ってくると、笑っていた。
「恨むならお父さんとお母さんだよ」
すぐ近くに林道が走っているので、軽トラックの音が通った。
「使ったら最後ちゃんと全部金にしてからな、ちゃんと埋めてやるから。だから安心しろ。な、わかるだろ。もうここで終わり。ここは防音になってるからどんだけ『助けて』って呼んでも誰も来ねぇよ」
声なんか出ない。
けれど、その時確かに「助けて」と。
思った。
六月十日・火曜日。
〈新鮮スーパー ビッグバン〉。
その場にカゴを置いて、守道はすぐに店を出た。オートバイクに跨ると、その声のする方に向かっていく。
赤いレバースイッチを入れて、セレネに変形すると、曲がりくねった林道だろうと所構わずに走り飛ばし、その廃ホテルが見えると、黒い高級車に激突して、停車した。
「なんだ!? なんだてめぇ!?」
守道はオートバイクから降りると、やって来たやくざの三下れんじゅうがバットを持っていることもお構いなしに間合いを詰め、殴り鎮める。
「おい! なんだ? なにがあった?」
新たにやってきた三下を殴り沈める。調子に乗って拳銃なんか出した奴がいた。消音器がついている拳銃だが、その三下が発砲すると、体の表面に影をまとわせて、弾丸を滑らせるようにして反らした。
その拳銃を地面に深く踏み埋めた。そして、先に進む。
あの助けを呼ぶ声には聞き覚えがある。あの自殺未遂の少年だと理解していた。やくざに捕まり、商品になりかけている。
廃ホテルを、三下のれんじゅうを潰しながら進んでいくと、一つの部屋の前にリュックサックが置いてあるのを見る。
先月の末に発売の守道の欲しかったやつ。
おそらくここだと思ったので、ドアを蹴り破った。
「なんだ!? な、なんだてめぇ!?」
「人に名前を訊ねる時は、まずおたくから名乗れよ」
守道は前髪をかき上げた。その廃ホテルい手は血でべっとりと濡れていたので、オールバックのままになる。
「なんだ、お前……!? なんだよ!! お前は!!」
「やくざってのは、極道だったか。くだらない格式が猿みたいに高かったな。仁義を切る、だったかな。ハハ。頭の悪い癖に、やたらと礼儀を気にする脳足りん。合わせてやる。こう見えて映画は好きで……親が死ぬまでは一緒に何度かそういうのも観た」
「…………」
「あー……お控えなすって? 手前生国と発しますは遠野の仲平。なんだっけな。合ってるか? ……ハハ。知らんか。まぁ、アバウトにな。生まれは遠野、育ちの花巻。生まれた翌日の十一月の四日に両親のもとに預けられた哀しき過去を持ち、両親には愛をもって育てられた美しき過去を愛しています。聞いたところによると私のほんとうの親は、異態腿太郎。異態名は『異態仙骨』ゥ……と、申します」
「な、に、が……異態だ……」
「おたくは無様だな」
「はーっ! 俺は闇の超AV男優マサヤ! 陰キャラよ死ね!」
闇の超AV男優マサヤの蹴りが放たれる。マサヤは映像映えのために身体を鍛えていた。その筋肉のかたまりのような脚部から放たれる蹴りが当たれば、常人はひとたまりもない!
守道はその足が伸び切ったタイミングで足首をつかみ、グンと轢き、背後にあった壁に押しつけ、自分はそれを支えにして内回し蹴りを顔面にて顔面を蹴りつけた。
スポ!
という君の良い衝突音の後に、闇の超AV男優マサヤは沈んだ。
「…………」
カメラを持っていた小太りのメガネ男が逃げ出そうとするが、首を掴み、テーブルの角に思い切り叩きつけた。
監督役が、逃げ出そうとするので、カメラで後頭部を殴りつける。
そこにいた、步生と守道を除く全員が倒れ伏す。
「買い物の途中なのを思い出した。手伝ってくれるか?」




