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ドロットマン  作者: 蟹谷梅次
EPISODE 8
23/27

23 幸運

 二人が廃ホテルを出ると、オートバイクをおこし上げた。


「強いんだ」

「最近、力を手に入れたんだ」

「なんで此処で……あんな事になってるって分かったの」

「俺ね、人が助けを求めたりする声が聞こえるんだ。そういう体質というのかな。耳をふさいでも聞こえてくる。だから君が心の中で『助けて』って言ってくれたのが効いたな」


 何かを突発的に言いかけて、その言葉が一体何なのかわからないので言うのをやめて……そして、沈黙が訪れた。


「怖かったろう」


 守道が言う。


「怖かった」


 步生が絞り出すように返す。


「助けてくれて、どうもありがとう」

「どういたしまして」


 彼は微笑んで、步生の頭にポンとヘルメットをかけた。


 それから〈新鮮スーパー ビッグバン〉で夕食の材料を購入して、步生を伴って帰宅した。


「ちょっとお兄ちゃん遅かったじゃん! 大丈夫だった? お米とみそ汁作っちゃったよ! あれ! そっちのォ……あのぉ……人は?」

「影伴步生……って言います。失礼します……」

「この子ね、訳あり! しばらく家で預かるからね。明子、すぐにご飯作っちゃうからカウントダウンよろしくっ!」

「オッケー。あっ、影伴さん、座ってていいですよ」

「あっ、どうも。お邪魔します」


 今日の夕食は酒のホイル焼きだった。

 久しぶりに温かい飯を食った。


 風呂にもはいることができた。久しぶりの風呂。


 風呂上がり。


 着ていた服はすっかり汚れていたので、守道が高校時代に着ていた服を寝間着代わりに出されたが、だいぶぶかぶかだった。


 明子はからかって、「オタクとかこういうの好きだってよ」と言い、守道は「それ彼女とかの話じゃん!」と膨れっ面。


「そういえば、影伴さんって、普段はどこに住んでらっしゃるんですか?」

「えっ、あっ。えっと……」


 家はない。寝たい時は、眠れそうな廃屋を見つけて、膝を抱えて浅く眠る。そういう生活を続けてきた。


「はー。なるほどなあ。高校を卒業してからずっと?」

「はい」

「在学中は?」

「辛うじて親戚が金を出してくれました」


 その親戚は步生が卒業するとパタリと連絡が取れなくなったが。


「はー。なるほどなあ」

「なるほどなあ」


 しばらくの沈黙。


「「じゃあもう、ずっとうちに居てもいい訳か……」」


 兄妹の声が重なった。


「えっ?」

「俺と明子だってもとを正せばそういう関係だしね。今更君が加わったところで生活に何の変化もないよ。むしろあれだね、三つどもえになって生活に安定感が生まれるかもしれないね」

「いいの? いい、いいんですか!? 俺、人殺しの息子なのに」

「私の親はオカルトに狂って児童虐待」

「俺の方も似た感じ。大滝の……というより、大滝(おおたき)房信(ふさのぶ)と、大滝(おおたき)純子(じゅんこ)のスタンスは、『心だいじに』だからね。甘えるときは甘えて良いんだよね。人間、困ったときは甘え合いでしょ! ねっ!」


 自分にとって都合のいい世界。


 どうか夢ではありませんように、と思った。


「空き部屋あるから今日はそこで寝ようよ。週末掃除しよう」

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