23 幸運
二人が廃ホテルを出ると、オートバイクをおこし上げた。
「強いんだ」
「最近、力を手に入れたんだ」
「なんで此処で……あんな事になってるって分かったの」
「俺ね、人が助けを求めたりする声が聞こえるんだ。そういう体質というのかな。耳をふさいでも聞こえてくる。だから君が心の中で『助けて』って言ってくれたのが効いたな」
何かを突発的に言いかけて、その言葉が一体何なのかわからないので言うのをやめて……そして、沈黙が訪れた。
「怖かったろう」
守道が言う。
「怖かった」
步生が絞り出すように返す。
「助けてくれて、どうもありがとう」
「どういたしまして」
彼は微笑んで、步生の頭にポンとヘルメットをかけた。
それから〈新鮮スーパー ビッグバン〉で夕食の材料を購入して、步生を伴って帰宅した。
「ちょっとお兄ちゃん遅かったじゃん! 大丈夫だった? お米とみそ汁作っちゃったよ! あれ! そっちのォ……あのぉ……人は?」
「影伴步生……って言います。失礼します……」
「この子ね、訳あり! しばらく家で預かるからね。明子、すぐにご飯作っちゃうからカウントダウンよろしくっ!」
「オッケー。あっ、影伴さん、座ってていいですよ」
「あっ、どうも。お邪魔します」
今日の夕食は酒のホイル焼きだった。
久しぶりに温かい飯を食った。
風呂にもはいることができた。久しぶりの風呂。
風呂上がり。
着ていた服はすっかり汚れていたので、守道が高校時代に着ていた服を寝間着代わりに出されたが、だいぶぶかぶかだった。
明子はからかって、「オタクとかこういうの好きだってよ」と言い、守道は「それ彼女とかの話じゃん!」と膨れっ面。
「そういえば、影伴さんって、普段はどこに住んでらっしゃるんですか?」
「えっ、あっ。えっと……」
家はない。寝たい時は、眠れそうな廃屋を見つけて、膝を抱えて浅く眠る。そういう生活を続けてきた。
「はー。なるほどなあ。高校を卒業してからずっと?」
「はい」
「在学中は?」
「辛うじて親戚が金を出してくれました」
その親戚は步生が卒業するとパタリと連絡が取れなくなったが。
「はー。なるほどなあ」
「なるほどなあ」
しばらくの沈黙。
「「じゃあもう、ずっとうちに居てもいい訳か……」」
兄妹の声が重なった。
「えっ?」
「俺と明子だってもとを正せばそういう関係だしね。今更君が加わったところで生活に何の変化もないよ。むしろあれだね、三つどもえになって生活に安定感が生まれるかもしれないね」
「いいの? いい、いいんですか!? 俺、人殺しの息子なのに」
「私の親はオカルトに狂って児童虐待」
「俺の方も似た感じ。大滝の……というより、大滝房信と、大滝純子のスタンスは、『心だいじに』だからね。甘えるときは甘えて良いんだよね。人間、困ったときは甘え合いでしょ! ねっ!」
自分にとって都合のいい世界。
どうか夢ではありませんように、と思った。
「空き部屋あるから今日はそこで寝ようよ。週末掃除しよう」




