2 悲鳴
ビール瓶がごっそり詰まった箱を持ち上げるのは苦ではなかった。力があるというわけではなく、むしろ逆で、昔から力はない方だったが、身体を酷使するのが好きだったのだ。
恐らく汗水流して働いたりするのがたまらなく好きなのだろう。しかし、純粋な現場作業だったりの力仕事は身体が堪えられないので、このくらいがちょうどいいと言えばちょうどいいし、これもやっぱりきついと言えばきつい。
「大滝くん、そろそろ休憩しようか」
「はい。わかりました」
日々の生活は、壁だなと思う。
自分ではしっかりと生きているつもりでも、必ず誰かに迷惑をかけて生きているのは、それはとてもつらいことだ。
けれど、生きるということは素晴らしい。
生きているのだから、素晴らしい。ペットボトルの麦茶を飲み干しながら、そう考える。
傍から見るとまるで何も考えていないような笑顔である。
一体何を考えているのかわからない、ただのほほんとして流れる時に身を任せるだけである。
そうしているところに、「キャアア……」という悲鳴が聞こえた。
守道は顔を上げ、思わず立ち上がる。
「どうした?」
「すいません、オヤジさん。……行きたいところが、あります。大滝守道、いきます」
「事故んないように気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
小さく急ぐように会釈をして、店の前に停めていたオートバイクに跨り悲鳴のほうに飛び出していく。
店主・氷山三郎は「また『遠くの悲鳴』か」と、カウンターの中に置いていた新聞紙を持ち上げた。
二ヶ月前にも今のように飛び出していったことがある。その時、三郎は「サボりか」と思ったが、その新聞を読んでどうやら違うと思い知る。
オートバイクでも一時間はかかるだろう盛岡の町中で起きた事件をうつした写真のなかに、守道のオートバイクがうつっていたのだ。
彼のオートバイクには、守道自身で考えたという「ピースサイン」のマークがペイントされてある。
それは、間違いなく守道のものであった。
彼いわく「誰かの助けを求める声が、昔から聴こえ続ける。一時期ひどかったが、最近はようやく落ち着いてきた」「けれど、まだたまに啜り泣く声が聞こえる」……らしい。
だから、三郎は守道のしたいようにさせている。声が聞こえるのに何もできないのは、それはきっとつらいだろう……と思ったのだ。




