表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドロットマン  作者: 蟹谷梅児
EPISODE 1
1/32

1 出掛

 身体がドロドロになって溶けてしまう夢をよく見る。


 それだけならまだいいが、そういう夢を見た次の朝は、たいてい、布団に黒いシミがひろがっている。


「ウップス! また黒おもらししちゃった!」

「またぁ? お兄ちゃんここの所ずっとだよ。泌尿器科医行きなよ」

「それがおしっこじゃないんすよ。しかしこりゃ失敬!」

「ちゃんとしてよ、もう」

「へへ、悪い悪い」


 平成二十六年・五月三日・土曜日。


 天気は晴れ。布団を洗って物干し竿に掛けていると、郵便配達員のオートバイクの音が近づいてきた。


大滝(おおたき)くん、速達です」

「あっ、もらいまーす」

「今日もやったの。泌尿器科医行きなさいよ」

「おしっこじゃねぇんですよ〜〜ん」

「ハハ」


 どうやら速達で来た手紙は妹に宛てたものらしい。送り主は、「まぁ見ないほうがいいだろう」と思い、見なかった。


 その手紙をそのまま妹に渡す。


「……。そういえば、お兄ちゃん。黒いおもらしとかしたあとって、その後に身体に異変はないんだよね?」

「ないなあ。あったら先に言ってるからねえ」

「だよね」

「うん。あっ! うそうそ。あったよ」

「えっ?」

「とーってもお腹空く」


 大滝守道(もりみち)は笑って言った。妹・明子(めいこ)は一瞬きょとんとしたあとに、呆れたようにため息をついた。


「大事なことだよ〜?」

「はいはい、まったく。……呑気な人なんだもんなあ」


 この男は、そういう男だった。


 昔から緊張感というものはまったくなくて、いつも自分のペースで生きているような人間だった。


 だから、よくバカにされるし、周囲には人がいない。唯一構うようなのも妹や時折挨拶をする郵便配達員のおっさんだけと来た。


「その手紙、誰から?」

「送り主とか、見れたでしょ」

「見ないでしょ。おしえて」

「ん~~〜〜…………秘密〜〜……」

「そっかあ。秘密かあ」


 守道はにっこり笑って、「いいね」と言った。


「じゃあ俺、そろそろ行くね。明子もさ、家出る事あったら気をつけてな。最近物騒だから」

「お兄ちゃんよりは気をつけてるよ」

「それもそっか」


 守道は明子に微笑みかけて、アルバイトに向かった。守道のアルバイト先は、市役所からほど近い所にある食堂〈こおりやま〉である。


 ファティーグジャケットを羽織ってオートバイクに跨り、遠ざかっていく兄の姿を見送りながら、明子は手紙の封を切る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ