命と油の手
読んでいただきありがとうございます。
産婦人科での実習は、一緒に実習するグループのメンバーで順番を決めてお産があるたびに順番の学生が呼ばれてお産に立ち合い入院の期間を担当させてもらう。
私は朝早くに実習病院から電話をもらい、お産に立ち合うことができた。私の実習を承諾してくれたのは幸子さん。
「私はこの子で3人目の子供だから大体のことはできるけど、主人は初めての子供だからそっちの方が心配だわ」
そういって、お産後に小さな命を抱きしめながら私に話してくれた。
幸子さんは再婚して今の旦那さんとは初めてのお子さん。
お産や赤ちゃんのことに私より詳しい幸子さんにいろいろ教えてもらいながら、私の実習は順調に進んだ。
「幸子さん、傷の処置させていただいてもいいですか?」
お産後数日が経過して体調も落ち着いたころ幸子さんの病室を訪ねると、幸子さんは携帯をじっと見つめていた。
「幸子さん?」
「珠未ちゃん、これ見て」
携帯の画面には、5歳くらいの男の子と3歳くらいの女の子の写真。
私の返事を待たずに幸子さんはぽつぽつと話し始める。
「いろいろあってね、私は以前離婚をしたの……この写真は前の旦那さんとの子供よ、離婚するときに私が引き取りたくて、何度もお願いしたんだけど引き取ることが出来なくてね…………自分の産んだ子供と離れ離れになる事は、思った以上に辛くて苦しかった。
子供たちは遠く離れた場所に暮らしていてね、今は会うこともできないの。
今の旦那さんとの間にも結婚して直ぐに妊娠した子供を、一度流産してしまってね……この子が産まれてきてくれて本当に良かった。
この子の名前を昨日主人と決めたのよ、(リリ)って言うの。漢字は璃々って書くの。しっかりした女の子に育ってほしいわ」
そういって幸子さんは泣きながら笑った。
なんて言葉をかけたらいいかわからなくて、私も泣きながら笑った。
「主人がね、自動車工場で務めてるでしょ、だから璃々に触るのが心配とかいってなかなか抱っこもしないの、お風呂くらいは入れてくれなきゃ困るけど」
「幸子さん、明日の沐浴指導、お父さんも一緒にやってもらうことはできますか?」
「ちょうど面会に来るから一緒にやるのはいいわね」
よし。明日は頑張るぞ!気合をいれて病室を後にした。
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旦那さんの面会に合わせて、沐浴の指導を開始する。
「やあ。俺は仕事で手が油で汚れてるからやらない方がいいと思う」
私は旦那さんを真っすぐに見て話す。
「大丈夫です。私が正しくキレにできる手の洗い方もお教えします、そのあと消毒もすればバッチリですから、それに璃々ちゃんもおとうさんにお風呂入れてもらったらきっと喜びます」
「…………」
「まずはこちらで一緒に手を洗いましょう」
「ああ。お願いします」
私と幸子さんの笑顔の圧に負けて旦那さんは璃々ちゃんをお風呂に入れてくれた。
「わあ。旦那さん上手ですね、手が大きいから璃々ちゃんも安心してます、気持ちよさそう」
「やあ小さくて壊れそうですね」
旦那さんは嬉しそうに璃々ちゃんの頭を洗う。
優しく璃々ちゃんの体を洗うお父さんの指を璃々ちゃんがぎゅっと小さな手で握った。
幸子さんが二度とお子さんと離れることが無いように、もっつ¥と家族も増えて、幸せでありますように。
(*^-^*)




