期末テスト・季節の移ろいとゆらぎ
季節が進む。色々な事がらや、思いを連れて。
中には、うっかりすると、置いてけぼりにされてしまうこともあるから、気をつけないと。
けれども、進む先に、何かイイコトが、きっと、待っている。
※この回から、3人が新しいゾーンに入っていく感じの、前振りです。それもあって、長いですww
修学旅行が終わって、その余韻もそのままに、オレたちはすぐに、期末試験モードに突入した。
「ダメ、出来る気がしない。」
「それは、アレだな、やる気がしない、の間違いだな。」
漢文の授業が終わって、絶望して、机に突っ伏したオレに、隣の席の石川が、笑いながら、情け容赦のない言葉をかけてくる。
元々、気さくなヤツだったけど、修学旅行の後から、なんていうか、さらに遠慮がなくなった気がする。
まぁ、でも、今に限れば、ヤツの言ってることは、間違ってはいない。
今の授業で、漢文の、今回の試験範囲が発表になって、それだけで、オレのやる気は、見事に、挫かれてしまったのだ。
「樺沢はさ、やれば出来るのになぁ。地頭ってか、理解力は、高いんだから。」
「そうなんだよ。なのに、古文だ、漢文だってなると、キライ、が先に来ちゃってんだよな。」
いつのまにか、前の席に座ってた希良が、石川に同意する。
「大体さ、漢字がキライて、小学生じゃないんだから。」
さらに、石川が追い打ちをかけてきて、希良が大笑いしてる。この2人の仲も、修学旅行でぐっと、近くなっていた。
「それ、この前、塾の先生にも、言われた。」
2人から攻撃されて、オレはふくれっつらをして、わかってんだよ〜と、天を仰いだ。
「でもな、そうは言っても、着実に、成績は上がってるワケだし。まだ、受験まで1年もあるんだからさ。
それに、来学期からは、選抜クラスに来るんだろ?」
3人揃って、駅から塾に向かって歩きながら、輝がサラッと、そんなことを言ってきた。
「あー、そうだった。」
オレは、イヤなことを思い出したように、輝から、目を逸らした。
「おい、なんだよ、それ?」
輝がオレの肩を掴んで、無理矢理、振り向かせる。
「こらこら、みんなが見てるだろ。痴話喧嘩は、また後にしろ。」
そんな風に、茶化されて、輝と2人、苦笑いする。
でも、その希良の様子を見て、オレはちょっと、複雑な気持ちになってた。
それは、修学旅行から帰ってからずっと、気になっていることで。
はっきり、確信が持てるわけじゃないけど、希良がオレと、距離を取ろうとしている、そんな気していた。
塾について、3人、今日は、別々の教室に分かれる。
輝はT大選抜クラスに、希良は医薬系選抜クラスに、オレは1人、理系、文系合わせた特進クラス、自分の教室に入る。
そこで、目黒さん、澤田さんを見つけて、手を振ると、2人に手招きされ、彼女たちの後ろの席に座った。
少しして、輝と同じクラスの青木が入ってきて、オレを見つけると、笑いながら、隣の席に座って、声をかけてきた。
「聞いたよ。樺沢、漢文、撃沈宣言したんだって?」
「え、何それ?」
青木の言葉を聞きつけて、目黒さんが振り返る。
「あー、さては石川だろ?そんな事、言いふらすヤツは。」
オレは渋い顔をして、青木を睨んだ。
「もー、ダメだよ、そんな弱気な!樺沢くん、ちゃんとやれば、出来るのに〜。」
目黒さんが、ちょっと前の、希良や石川と、同じことを言う。
「っとに、その通りだな。お前、やる前からそんなこと言ってて、どうすんだよ。」
「うわ、びっくりした!」
急に後ろから、低音のイケボが聞こえて、振り向くと、宮﨑が威嚇するように、立っていた。
「驚かせるなよ、宮﨑。」
「悪い。でも、目黒の言う通りだぜ。なんなら、一緒にやるか?古文、漢文限定の、試験勉強。
まぁ、保里がいない時だけでも、付き合うぜ。」
そう、宮﨑は、輝と学年トップを常に争っている、超がつく秀才だ。
家が開業医なので、希良と同じく、医学部を目指しているのかと思ったら、本人曰く、まだ何も決めてないとかで、どこの選抜クラスにも、今のところ入っていなくて、少し、変わりダネ扱いされていた。
「それは…ありがたいけど…。」
そう言いながらも、オレの腰は思いきり、引けていた。
「イイじゃん、それ!お願いしたら!樺沢くん。」
「そうだよ!腰引けてる場合じゃないって。」
目黒さんと澤田さんに背中をグイグイ、押されたみたいになって、気が付けば、今日の授業の後、自習室で、みんなで、試験勉強することになっていた。
「そう、そういうこと。なんだよ、ちゃんと分かってんじゃん。
じゃ、これは、やってみ。」
「んー、これな〜。」
シャーペンの背で、頭を突きながら、宮﨑に示された問題を考える。
自習室の一画を陣取っての、急拵えの勉強会。
いつも、希良と輝の3人で勉強してるので、こういうのは慣れてはいるけど、やっぱりちょっと、勝手が違うし、宮﨑と輝は、同じように頭がいいけど、教え方はちょっと違った。
「こんな感じか?」
「おぉ、正解。イイじゃん。その感じで、これと、こっちも。
今のが出来たんだから、分かるだろ。」
「ん〜。」
再び、頭を突きながら、漢字と睨めっこする、オレ。
その間、澤田さんが、数学の質問をして、宮﨑が、それに答えている。
オールマイティなのは、輝だけじゃないんだなぁ、と、羨ましくなる。
でも、そんなことを言えば、お前は、やる気と好き嫌いの問題だと、説教されるのは分かっているので、オレは大人しく、漢字と向き合った。
「おー!やってるな。お疲れ。」
1時間くらいして、選抜クラスの授業を終えた、希良と輝が、自習室に入って来た。
「お、お疲れ。保里〜、お前がいない間、面倒みといたぞ。」
そう言って、笑いながら、宮﨑が、オレの隣の席を立って、輝と代わろうとした。
「あ、ちょっと待って。これ、出来た。見て。」
それを引き留めて、オレが問題を解いたノートを、宮﨑の前に差し出した。
「ん?どれ。おー、正解。なんだよ、お前、ぜんぜん、分かってんじゃん。保里にちゃんと教わったんだろ?
もー、分かってんなら、ちゃんとやる!
保里もさー、甘やかすなよな。」
そう言って、オレの頭をポンポンっとなで、輝の額をつついた。
「いや、別に、甘やかしちゃいないけど…。」
輝が、困ったように眉を寄せて、オレを見て、その顔のキレイさに、オレは目のやり場に困った。
「そんなん、仕方ないじゃん。保里は、樺沢の嫌がること、したくないんだよ。姫だもんな。」
青木がふざけて、みんなに笑われたけど、なんかそれも、くすぐったくて、嫌じゃなかった。
それから、そこにいた全員で、ハンバーガーを食べに行こう、ということになった。
みんなそれぞれ、帰ればちゃんと、食事が用意されているのは分かっているけど、オレら男子は、それまで持たなかったし、目黒さんたち女子も、流れで付いてきて、シェイクを飲んで、ポテトをつまんでいた。
何かをするわけじゃないけど、みんなでワイワイ、集まっているだけで、楽しくて、安らぐ時間だった。
「んじゃ、またな〜。」
「おう、お疲れ、気をつけてな。」
「目黒さんたち、大丈夫?送って行こうか?」
「平気。母親がそこまで、迎えに来てくれるから、大丈夫。ありがとねー。」
「そか、なら良かった。気をつけて。またな。」
口々に、そんなことを言い合って、駅前で解散した。
オレたち3人は、いつもの電車に乗って、地元の駅で、希良は終バスに駆け込んで、オレと輝はブラブラ、歩いて家に向かった。
「宮﨑、どうだった?良くわかった?」
そう聞いてきた輝の声は、ちょっと強張っていた。
「あー、まぁそうだな。アイツも輝と同じ、オールラウンダーだよなぁ。羨ましいよ。」
「そうじゃなくて。オレより、わかりやすかった?」
「え?」
「どう?」
輝がオレの顔を見ずに、聞いてくる。
「かがや?」
「うん?」
「もしかして…だけど。妬いてる?」
オレがちょっと茶化して、そう言うと。
「え。」
輝が急に、立ち止まった。
街灯の影で、輝の横顔が、綺麗なシルエットで浮かび上がって、いつものように見惚れてしまう。
「そうだよ。オレ、妬いてるよ。だって、オレがいるのに…。オレときらが、ずっと、一緒なのに、宮﨑に、代わりに面倒なんて!」
輝らしくない、感情を露わにした言い方で、相変わらず、オレの顔を見ない。
その、輝の背中を見て、オレは、さっきの希良のことと合わせで考えて、黙り込んでしまった。
距離を取る希良、詰めようとする、輝。
オレたちはやっぱり、こうやって、変わっていくのだろうか。
「あ、みずき?ごめん、オレ…。」
立ち止まって、何も言わないオレを心配したのか、振り返った輝と、やっと目があった。
「ううん、大丈夫。
そんな、妬くなよ。輝がオレの、一番の先生なのは、絶対なんだからさ。
それに、3学期になれば、一緒になるんだから、もうちょっとだけ、待ってて。」
そう言って、輝の手を取って、指を絡めて、にっこり笑いかけると、輝もやっと、少し笑い返してくれた。
それから少し経った、ある日の放課後。
その日は塾がない日で、輝が家の用事とかで、急いで帰ってしまって、希良も委員会があって、オレは1人で、学校の図書室で調べものをしていた。
図書室には人が少なくて、十二月の初め、ちょっと肌寒いなぁと思いながら、本をめくっていたオレは、いつのまにか、眠ってしまったらしい。
急に暖かくなった気がして、目を覚ますと、目の前、ちょっと動けば、唇が触れるほどの距離に、希良の顔があった。
(え?何?どういう状況?)
開けば、ぱっちり、キラキラな目が閉じられて、長いまつ毛を揺らしながら、希良も、すーすーと寝息を立てていた。
起こさないように、気をつけて、状況を確認すると、机の上に、突っ伏して寝ていたオレを、庇うみたいに、希良が覆い被さっていて、さらに、2人の上には、希良のコートが掛けられていた。
暖かいワケだった。
希良が、こんな風にしてくるのは久しぶりだったので、嬉しくて、心地よくて、もう一度、寝てしまいそうだったけれど、見回すと、さっきよりも、さらに人気がなく、外もすっかり、暗くなっていたので、仕方なく、希良を起こすことにした。
「きら、起きて。」
耳元に口を寄せて、そっと囁くと、希良がくすぐったそうに顔を歪めて、
「あ、みずき、起きた?寒くない?」
ぱっちりとした目を開けて、きらきらした笑顔を向けてきた。
「うん、ありがと。いつ来たんだよ。気がつかなかった。」
そう言って、2人で起き上がると、希良のコートを返した。
「図書室に行くって、言ってたからさ。委員会終わって、来てみたら、なんか寒いのに、寝てるから。」
ニコニコ笑いながら、オレの頭を撫でて、寝癖を直してくれてるみたいだった。
「風邪ひいちゃいけないと思って、くっついてたら、オレも眠くなって、寝ちゃってた。
もう、終わった?帰る?」
「うん、そうだな。なんか途中だけど、今日は、もういいや。帰ろ。」
机の上に広げてた、本やノートを片付けるオレのことを、希良がジッと見ていた。
「ん?どうかした?」
「あー、うん。オレ、やっぱり、みずきがいいなぁって思って。」
「何?やっぱりって。」
「いや、みずきはもう、かがやのかなぁって。オレは離れた方が良いかなって、ちょっと、そんな風に思ってたから。」
希良の言葉に、オレは驚いて、何も言えなかった。やっぱり、そんな風に思っていたのか。
「あ、ごめん、イヤだった?」
黙り込んだオレを見て、希良が慌てて言った。
「え、何が?」
「えと、今みたいに、くっついたりすることとか?
勝手に、かがやのって言ったこととか、離れた方が良いかなって、それも、勝手に思ったこととか…全部。」
全部?
オレは少しだけ考えてから、口を開いた。
「イヤじゃないよ。くっついたりするのは、ぜんぜん、イヤじゃない。
でも、オレは、誰のでもないから…。そんな風に思って、きらが、離れちゃうのは、イヤだ。」
「そか。」
「きらは、もう、オレのこと、いらないのかと、思った。」
そんなつもりなかったのに、そう言った、オレの声は、泣きそうに聞こえた。
「なんで?そんなこと、あるわけないじゃん。」
希良はオレが思った以上に、驚いて、目を丸くした。
「だって!かがやといると、離れようとするし、ぜんぜん、くっついてこなくなったし、たく兄と…。」
言い出したら、止まらなくなってしまった。
でも、たく兄とのことは、オレの勝手な思い込みかもしれないから、そこで一度とめて…。
それでも、溢れ出した思いは止まらなかった。
「だって…いつまでも、オレは、何も思い出せないままだし…。3人でいたい、とか言いながら、心配かけてばっかで、ぜんぜん、ダメで…!」
抑えた声で、それでも、どうしても、感情的になってしまう。
「かがやのこと、好きだけど、きらのことも、好きで、どうしたらいいのか、分からないし、きらが、離れようとするなら、それは、どうしようもないし…。
大体、オレは2人のこと…!」
ダメだと思っても、自分を止められなくて、それが自分を追いつめていくみたいで、気が付くと、ぜいぜいと、息苦しくなっていた。
「みずき!落ち着け!少し黙って、ゆっくり、息吸って、吐いて…。」
希良がオレを抱きしめて、ゆっくり、背中を撫でてくれた。
「みずきから、離れたりしないよ。オレが、みずきのこと大好きで、何よりも大切だって、知ってるじゃん。ずっと一緒にいたいって思うよ。
でも、かがやの好きとは、ちょっとだけ違うって、そう気が付いて。
それで、オレも色々、考えちゃって。
ごめんな、不安にさせて。」
希良の言葉を聞きながら、縋るように、希良を抱きしめていた。
「いつまでも、こんなんでも?」
「あたり前だろ。前から、言ってんじゃん。
忘れていても、思い出せなくても、みずきはみずき。何も問題ないよ。無理して、これ以上、辛い思いすることないって。」
「ホントに…?」
確かめるみたいに、ギュッと、腕に力を込めた。
「ああ、ホント。」
応えるように、希良の腕にも力が入って、背中をもう一度、ゆっくり、撫でてくれた。
「もう、苦しくない?へいき?」
「うん、平気…きら?」
「ん?何、まだ何かある?あるなら、ゆっくりな。」
一度、口にするのをやめたことだったけれど、やっぱり、聞きたくて、大きく息をついてから、言葉を選んだ。
「きらは、たく兄のことを、好きなの?」
抱きしめ合ったままの、希良の体が、ビクッとして、強張ったのがわかった。
「そうだな。好きだよ。」
顔は見えなかったけど、希良も、言葉を選んでいる感じがした。
「でも、その話は、また今度にしよう。みずき、疲れちゃうよ。」
「そうだね…。うん、またな。」
なんか情け無くなって、希良から離れて、自分の荷物に手を伸ばして、急いでコートを羽織った。
「みずき、待って。」
希良に腕を掴まれると、もう一度、抱き寄せられた。
「良かった。みずきと、また、こうして、くっついていいんだ。」
その時の希良は、さっきよりも少し、体温が高く感じられた。
「きら、お願い。これからも、こうしてくれる?
きらがたく兄を好きでも、オレがかがやを好きでも…。それでも、きらとは一緒にいたいんだ。
オレ、おかしな事、言ってるよな、でも…。」
それ以上、言わせない、と、希良の唇が、オレの口を塞いだ。
「何もおかしくない。オレたちはオレたちだよ。
オレも、まったく同じこと、考えてた。だからずっと、このままだ。約束する。」
その言葉に答えるように、オレも、希良を強く抱きしめた。輝
3人の二等辺三角関係に、変化が起きてきます。少し前、文化祭あたりから、始まってはいましたが、なかなか進まないことに、ムズムズしていた方もいたかもしれません。
すみません。進めるのが下手すぎて。
ここから一気に進むか!?と言うと、そうも行かないんです。すみません(2回目&土下座)でも、進めます!進めたい、と思ってますので!どうぞ、お付き合いくださいよ




