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番外編ノ貮・母たちの思い

子を思う、母の愛は果てしない。何にも、代えることは出来ない。無償の愛、無償の思い。

そして、それ故に、子を思う時、母は何よりも強くなる。

※今回は、3人のママたちの目線で、彼らの今までを、簡単に描いてます。

 末っ子の瑞稀が生まれた時、娘たち2人が、飛び上がって喜んだことを、今でも、昨日のことのように、覚えている。

 歩きはじめた瑞稀を、下の娘、千枝が、

「お母さん、みーくん、どこかに行っちゃわない?ちぃ、ずっと付いててあげる。」

と、言って、ホントに離れなくなったことも、上のまちが、瑞稀が従兄弟の以知くんに懐いたことが気に入らなくて、

「いっくん、だいっきらい!もう遊びに来ないで!みーは、まちのおとうと、なんだから!」

 そう言って、大げんかしたことも、忘れられないことだ。

 

 瑞稀は、見た目も可愛いらしい子だったけれど、それ以上に、優しくて、愛嬌があって、人懐こい性格だったので、誰とでも仲良くなって、小学生になってからは、いつも、たくさんのお友達に囲まれていた。

 なのに、その性格が、どう災いしたのか、中学生になると、ちょくちょく、トラブルに巻き込まれるようになっていった。

 その原因が、中学1年の時に同じクラスになり、気があったのか、とにかく、いつでも一緒にいるようになった、希良くんと輝くんという、びっくりするほどのイケメン2人にあるらしい、と知ったのは、少し経ってから、その2人のお母さんたちと仲良くなって、のことだった。

 

 最初の頃は、イジメとも言えないくらいの、小さな出来事だったし、瑞稀も、大して気にしていなかったので、私も、あまり、しつこく聞くことはしなかった。

 それでも、何度も何度も、繰り返されて、モノが無くなったと、担任からの連絡がくるようになると、親としては、やはり心配なことではあった。

 

 ただ、2人を家に連れて来て、一緒にいる時の瑞稀は、親バカではあるけれど、一際、輝いて見えたし、3人、本当に、楽しそうだったので、何も言うことは出来なかった。

 希良くんママと輝くんママからは、2人が、瑞稀と友だちになって、ホントに変わったと、感謝されてもいて。

 以知くんに3人まとめて、勉強を見てもらったり、ラーメン屋に連れて行ってもらったり、誰かの家に集まってゲームをしたりと、まちが何時、爆発するかと心配しながらも、彼らを引き離すような事は、考えもしなかった。

 

 そして、瑞稀が、彼らと同じ、県下一の進学校に、合格する事が出来たのも、目標が出来ただけではなく、3人一緒にいたいという、強い思いも、あったからに違いなかった。

 それがまさか、瑞稀を、壊してしまうことになるなんて…。

 

 一体、瑞稀の身に何が起きたのか、何をされたのか?

 本当のことは、誰も知らない。

 知っているのは、瑞稀本人と、所謂、加害生徒たちだが、その生徒たちに、直接、それを聞くことは、学校側からキツく、止められて、彼らの名前さえ知ることが出来なかった。

 

 まちと千枝にさえ、近づくことを許さず、何かに怯える、瑞稀の手を、一晩中、握り、抱きしめ、

「大丈夫だよ。」

と、何度も何度も、繰り返した。

 薬を飲ませ、やっと、瑞稀が寝てから、夫と2人、夜遅くまで、不毛な会話を続けた。

 何か出来ることはなかったのか、何をすれば、こんなことにならなかったのか…?

 夫はとにかく、今からでも、希良くんと輝くんから、瑞稀を遠ざけることだと、主張した。


 多分、その考えは、まだ彼の中から、消えていないかも知れない。

 ただ、心療内科の先生から、瑞稀が2人が求めたら、それは止めないで欲しい、と言われた。

「もし、みずきくんがこうなった原因が、彼らにあるならば、治すことが出来るものまた、彼らであるかもしれないんですよ。

 みずきくんにとって、大切なものだから、失いたくなくて、フタをしてしまったのかもしれないんです。」

と、言われて、夫は言葉を失った。

 先生はさらに、彼らから、瑞稀を取り上げることも、しないで欲しい、そう続けた。

「忘れないで欲しいのは、彼らも深く、傷ついている、ということです。」と。

 それは、痛いほど、わかっていることだった。

 自分たちの、無力さに苛まれながら、見守り、寄り添い、とにかく、支えていくしかないと、2人で涙を流したことも、また、昨日のことのようだった。

 

 そんな瑞稀が、希良くん、輝くんと、再び仲良く過ごすことが出来るようになったのは、それから、1年と少し経った、今年の夏からだった。

 それは、ほんの少しの違和感が、きっかけだったという。

 瑞稀が、心にフタをして、消してしまった記憶を、少しずつではあるが、思い出しはじめた。

 でも、それは、瑞稀にとっても、希良くんと輝くんにとっても、荒療治とも思える、違った意味でのツラい日々の始まりでもあった。

 それでも彼らは、瑞稀と一緒にいたいと、3人でまた一緒に過ごしたいと、そう言って、全てを受け止めてくれた。

 そして、夏休みが過ぎ、文化祭と季節が進むうちに、いつしか、中学の頃と変わらない、3人の姿を、見られることが多くなってきて。

 

 文化祭で希良くんママ、輝くんママと久しぶりに一緒になり、3人が仲良く、瑞稀が作ったガンダムの前で、肩を組んでいる姿を見て…、込み上げるものを必死で抑えた。

 そして、いい大人が3人で、いや、いつも力になってくれている義理の姉もいれた4人で、中庭の隅で、抱き合って、泣いてしまった。

 みんな、ツラい日々を過ごしてきたのだ、ウチだけではない…そう思った。

 その時、一緒にいた夫に、帰宅後、

「みずきはやっぱり、彼らと一緒が、いいんだな。」

と、言われて、また涙が止まらなくなった。

 

 そして今、私たちの、可愛い、自慢の息子たちは、修学旅行を楽しんで、元気に帰ってきた。

 目の前に、成長して、眩しいばかりの彼らがいる。

 ただ、旅の間、大人の欲に振り回されて、その余波は、まだ続くかもしれないと、学校からの連絡があった。

 これからまた、私たちが、心を強くしなくては…そう思った。

 


 希良はひとりっ子というだけではなく、どうしても、人目を引く容姿をしていたので、私も、父親である夫も、甘やかさないように、ワガママにならないように、と気をつけて、育ててきた。

 それでも、中学に上がる頃には、ワガママなひとりっ子のテンプレみたいになりつつあって、私は頭を悩ませていた。

 

 そんな希良を変えたのが、中学1年の時の、瑞稀くんと輝くんという、2人のお友だちとの出会いだった。

 中学に入って、初めての中間テスト、一緒に勉強する、と言って、2人を連れてきて時の、希良の様子は、今も目に焼き付いている。

 

 あのワガママ放題の希良が、彼ら2人のことを思いやって、気を遣って…。たまに、希良が、いつもの調子で、ワガママを言うと、それを瑞稀くんが茶化して、輝くんが嗜めて。

 どうやったら、そんなにうまくやれるのか、目を疑った。

 次に瑞稀くんがウチに来た時、トイレの廊下で捕まえて、思わず聞いてしまったほどだった。

「あんなにワガママな希良と、どうして、そんなにうまくやれるの?イヤじゃないの?」

と。

 瑞稀くんの答えは、至極、単純で。

「きらは、いいヤツだから、仲良くしたいんです。オレ、大好きなんで。可愛いし。

 だから、イヤなことは、はっきり言うけど、どうでもいいことは、それでいいし。それだけじゃ、ダメですか?

 あ、あと、オレもかがやも、末っ子で。ワガママなのは、お互い様なんで。」

と、言った彼の笑顔は、希良のそれとも、輝くんとも、違って、本当に可愛いくて、内側から光が差すようだった。

 希良が、心から大切にしたいと、思っているであろう、その気持ちも理解出来た。

「ありがとう。また、いつでも、遊びに来てね。」

 その時の私は、そう言うことしか、出来なかった。

 

「なるほどね。思春期における、人格形成には、良き友人との出会いが重要だ、ということか。」

「もう、パパったら、またそんな、研究者みたいな言い方して。」

 その話をした時、夫は、そんな風に冷めた言い方をしてはいたが、内心、その「良き友人」たちに興味津々で、感謝していることは、間違いなかった。

 

 けれど、その「良き友人」たちの蜜月ぶりは、周りに、嫉妬という負の感情を生じさせてしまう。

 希良と輝くん、瑞稀くんの3人が並ぶと、親から見ても眩しいくらいで、その上、3人とも、成績も良い、瑞稀くんはテニス部のエースで…となれば、まだまだ子どもな中学生、やっかむのも、当たり前のことかもしれないけれど。

 ただ、その嫉妬は、色々な形で、一番、優しくて、人懐っこい、言いやすい空気感を持つ、瑞稀くんに集まってしまう。

 何かある度に、その頃にはすっかりお友だちになっていた、瑞稀くんママと輝くんママの、3人(時折、瑞稀くんの叔母さんも一緒で、この人がまた、とんでもなく良い人で。)で集まって、話をしたものだ。

 このお母さんたちと叔母さんは、今も、私にとっては本当に大切な存在だ。

 

「ワガママ言って、ごめんなさい!

 でも、お願い、みずきが、オレのこと、思い出してくれるかもしれないんだ。

 だから、お願い、焼き肉、行ってもいい?行かせてください!」

 希良から、そんな電話がかかってきたのは、今年の夏休みが始まって、すぐのことだった。

 その日は、瑞稀くんと輝くんの部活、テニス部が市の大会に参加した日だった。

 中学の時は、欠かさず、応援に行っていた希良が、高校に入ってからは、それが出来ずに、毎回、涙を堪えているのは、知っていた。

 けれどもその日、塾の模試を終えて、試合結果が気になり、瑞稀くんの従兄弟、匠さんに電話をしたところ、祝勝会の焼き肉に誘われたという。

 希良と輝くんが、その少し前、2人でアイスを食べに寄り道をした、その事が、そんな小さな事がきっかけになったのか、瑞稀くんが忘れていた2人のことを、話しはじめたというのだ。

 それで、チャンスかもしれないから、希良も来られないかと、匠さんに言われての、お願いだった。

 

 そんなことは、ワガママでも、なんでもない、行っておいで、瑞稀くんママには、ママから連絡しておくから、お金のことも、何も気にしなくていいから、そう伝えて、電話を切った。

「神さま…、どうか、うまくいきますように。」

 なんの神さまかも分からないけれど、そう願わずにはいられなかった。

 

 神さまはいたのかもしれない。

 その夜遅く、希良は瑞稀くんと一緒に帰って来た。きらきらの笑顔で。

「お久しぶりです。」と、照れたような笑顔で、挨拶してくれた瑞稀くん。2年ぶりに見たその顔も、涙が出るほど、輝やいていた。


 彼らはそこから、失った時を、急激に、取り戻し始めた。

 でも、神さまは、喜びと試練を、等しく与えてくる。

 忘れていた事を思い出す時には、必ずと言っていいほど、瑞稀くんの痛みが伴い、2人はそれを、歯を食いしばって、受け止め続けた。

 文化祭、3人が並んだ、久しぶりに見るキラキラした姿に、母親3人(と、叔母さん)の涙は止まらなかった。

 

 そして今日、修学旅行から帰って来た3人は、ひと回り大きくなったみたいで、逞しく、より一層、キラキラしていた。

 だからこそ、旅行中に出会ったような大人たちから、守らなければ…。

 心に強く思うのだった。


 

 ウチの子どもたちが3人、こんな風に集まって、ワイワイと楽しそうに、話しをしているのは珍しいことだった。

 みーくんを囲んで、ジャムの瓶を取り合い、つつき合って、笑っているのを見て、感慨深いものを感じた。

 仲が悪いわけではない、と思うけれど、それぞれ個性が強くて、子どもの頃から、ぶつかる事も多かった。

 特に一番上の慧は、末っ子輝が小さい頃から、可愛いがるあまりに、やり過ぎて、よく輝から鬱陶しがられていて、基本、それは今も変わらない。

 それを真ん中の里沙子が、いつも少し引いて、見ている、というのが、通常運行だった。

 

 ある時、輝が学校で、クールビューティー、などと呼ばれているらしい、と聞いた時、親バカだとは思うけれど、ピッタリだと思った。

 そう、輝は子どもの頃から、喜怒哀楽が乏しいというか、妙に冷めた、達観したところがある子だった。

 友だちもあまり作らず、目立つのを嫌って、いつも端っこに1人でいる、そんな子どもだったのだ。

 

 その輝が中学生になって、初めて、家に連れてきたお友だちが、みーくんだった。

「樺沢くん?あれ?オレの同級生に樺沢以知っての、いるけど?兄弟?」

「あ、従兄弟です。それ。」

「え、じゃあ、君が、いつも、いちが言ってる、みーくん?」

 偶然にも、従兄弟のお兄さんが、慧の同級生で、すぐ上のお姉さんが、里沙子の同級生だったので、我が家ではすぐに、全員が「みーくん」と、呼ぶようになった。


 輝は珍しく、感情を顕にして、それを嫌がったけれど、とにかく、可愛らしくて、人懐っこいみーくんは、家族の枠を超えて、あっという間に、我が家でも、アイドルになってしまった。 

 そして、なんとか、みーくんを、自分の部屋に連れて行こうとする、輝を制して、慧と里沙子も一緒に、遅くまでゲームで盛り上がって、引き留めて…。

 夕ご飯もウチで食べていって、と、これも珍しく、輝がワガママを言い、最後は免許取り立ての慧が、車で送って行ったのが、ついこの間のことのようだ。

 その時、希良くんは一緒ではなかったけれど、のちに3人揃ったところを見た、当時、女子高生だった里沙子が、

「ヤバいわ、あの3人。なんでか、輝が冷たく見えないのが、不思議。キラッキラじゃん。」

と、これもまた、珍しく、興奮してそんなことを言ってきた。

 

 中学も3年になる頃、慧から密かに、輝の恋の話を聞いた時、その性的な趣向に、不思議と驚くことはなかった。

 あんなに淡々としていた輝の生活を、キラキラとさせてしまったのだ。

 人生が変わってしまったと言っても、過言ではないだろうから、好きになるのも、当たり前に思えた。

 みーくんは、それほどの光の持ち主だった。

 

 けれど、強すぎる光は、時にハレーションを起こす。

 優しかったみーくん。

 その優しさ故に、何もかもを、受け止めてしまったのか…。

 中学の卒業を控えたある日、突然、壊されてしまった。

 輝が、全て、自分のせいだと、泣き叫んだ時には、慧と共に、断固として、そんな事はない、と、何度も言い聞かせた。

 このままでは、輝も希良くんも壊れてしまうのではないかと、みんなが心配したけれど、私はその時、絶対、大丈夫、と希良くんママと共に、強く、信じていた。

 

 そして2人は、壊れることはなかったけれど、深く、深く、傷ついて、その傷を抱えたまま、高校1年生の1年間を過ごした。

 

 それらを考えると、今、目の前の光景は、奇跡にさえ思える。

 修学旅行の4日間は、間違いなく、夢のような時間だったのだろう。

 3人のキラキラ度が、何倍にも上がっている。

 

 さあ、ここから、我々、大人はまだまだ、彼らを守るために、行動しなくてはいけない。

 3人ママ友+叔母さんは、さらに強く、団結したのだった。

 

 しかし…。

 

 家に帰って、瑞稀が出した洗濯物の中から、見覚えのない、紺色のパーカーが出てきたとき、彼ら3人の味わった、悔しさや、理不尽さを思い、また、唇を噛み締めた。

 

 瑞稀は、そこにソフトクリームか何かのシミを付けていて、私が聞くと、食べている時に、輝くんにふざけて抱きつかれ、溢したのだと、照れたように、でも、楽しそうに話してくれて。

 ここまでしてくれた先生方の思いに、感謝もした。

 

 そして、そのあと、夜遅くまで、4人のグループチャットは、白熱したのだった。

3人の生い立ちを簡単に書こうと思った時、その語り手には、やはりママたちだろう!と思って、書いた話です。

筆者的には、大変お気に入りの回なのですが、いかがでしたでしょうか。

イマドキの若いママ、でも、古風なところもある、三人三様のママたちも、気に入っていただけたら、嬉しいです。まだまだこれから、出て来ますので!

あ、きょうだいたちの番外編も、また書いていきたいです!

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