修学旅行〜4日目ノ肆・帰宅
可愛い子には、旅をさせろ、というが、その通りで。
旅は人を成長させる。例えそれが、学校という集団でのことであっても。いや、集団だからこそ、ということもある。いずれにせよ、旅の前と、帰って来た時では、人は変わっているのだ。
※長かった修学旅行編、やっと完結です〜!が?長いです。
「それでは、みなさん、お疲れ様でした!
いいですか、家に帰るまでが、修学旅行です!
寄り道などしないで、気をつけて、まっすぐ帰ってくださいね!」
先生の声が校庭に響き、みんな、口々にお疲れ様、と言い合っていた。
「石川!田内、松尾も、ありがとな、この4日間。ホント、楽しかったよ。」
オレは3人に心から、感謝を伝えた。
「おう!こっちこそ、ありがとな。ホント、楽しかったよな。また、来週、学校でな!」
「おー、またな〜」
「ありがとな〜!」
希良と一緒に、3人に別れを告げると、輝の方に向かう。そこで、青木と坂本にも、同じく、礼を言って、別れた。
いち兄からは、もう学校に着いていると、連絡が来ていたから、3人で校舎の裏、職員用の駐車場へ、ガラガラとキャスターバックを引っ張って、行った。
「お帰り!お疲れさん。大変だったな、3人とも。」
久しぶりに会う、いち兄の顔を見たオレは、ホッとして、力が抜ける気がした。
「あー、なんか、帰ってきた〜って感じがする。」
最初にそう言ったのは、希良だった。
「だな。ホント、ホッとするな。」
その後に、輝が頷いて、そう言って。
オレは、心の中で頷きながら、いつもの様に真ん中に座って、2人といち兄の声を聞きながら、気が抜けるみたいで、両手で顔を覆い、膝の上に肘をついた。
「みー?大丈夫か?疲れたか?」
「みずき?どうした?平気?」
「大丈夫?息、苦しい?ゆっくり、深呼吸して。」
輝が首の後ろに手を当ててくれて、希良が背中を撫でてくれる。
その温かさに、ますます、力が抜けて、何も言葉が出て来なくて、ただ、首を振った。
「2人とも、多分、大丈夫だから。
みー、ウチに着くまで、ちょっと寝てろ。今日はオレんとこに、親も含めて、ほぼ全員集合することになってるから。」
「え?そうなの?全員ってことは…。」
「そう、慧も里沙子ちゃんもな。慧のヤツ、仕事、早めに切り上げるって言って、張り切ってたぞ。」
輝が、ちょっと焦っているのが、伝わってくる。
それを感じながら、オレはゆっくりと、眠りに落ちていった。
「大丈夫。そのまま連れて行くから、2人、先に降りて。匠、みーの荷物、頼む。」
「オケ。アニキ、1人で平気?」
「うん、平気。みー、まだこんな、軽いんだなぁ。背は、ずいぶん、伸びたのに。」
そんな会話が、遠くで聞こえていたけれど、オレはまだ、体に力が入らなくて、されるがまま、いち兄に抱き抱えられ、運ばれた。
「いち兄?」
「うん?大丈夫だから、もうちょっと、寝てろ。疲れたな。よく頑張ったな。」
和室に寝かされた感じがして、ゆっくり、いち兄の体が離れた。
「まだ、みんな揃ってないから、気にするな。みんなが揃ったら、ちゃんと起こしに来るから。」
その言葉に、ホッとして、オレは再び眠りに落ちた。
「いち兄、オレ、ちょっとここに…みずきに、付いてても良い?」
「ん?そうか、じゃ、頼むな。きらはあっちで、匠を手伝ってくれるか?」
「うん、わかった。かがや、みずきのこと、よろしくな。」
みんなが出て行ってから、オレは、眠っている瑞稀の横に、ペタリと座り込んだ。
すーすーと、規則正しい寝息を聞いて、愛しさが溢れ出す。
少し額に汗をかいていたので、ポケットからタオルハンカチを出して、そっと拭った。
「楽しかったな、修学旅行。な、みずき。」
瑞稀を起こさないように、小さい声で、呟いた。
「ごめんな、ホントに、ごめん…。」
楽しかったけれど、瑞稀の心には、たくさんの負荷が、かかり続けていたに違いなかった。
ずっと、オレと希良のことを気にして、励ましたり、笑わせたり、周りのヤツらとの間に入ってくれたり、無意識のうちに、そういうことをしてしまうのだ、瑞稀というやつは。
そして、それは、気がつかなくても、今の瑞稀の心には、重たくて、疲れさせたんだと思う。
高校に入学した時、瑞稀がオレたちの事を忘れちゃった時は、こんな風に3人で、修学旅行に行けるなんて、想像も出来なかった。
だから、この4日間、ホントに楽しかった。
夢みたいな日々だった。
ハウステンボスの前日、みんなで一斉に、風呂に行って、瑞稀と背中を流しあって、髪を洗い合って。
瑞稀が宮﨑に、続けて3杯もお湯をかけられて、びしょ濡れでオレのところに逃げてきた時は、思わず、裸の瑞稀を抱きしめた。
その時、肌と肌が触れ合う感触に、心臓が止まるかと思った。
「みずき…大好きだ。」
何があっても、もう逃げない、瑞稀を守る、そう心に誓ったのに、オレは、まだ全然、ダメだ…。
そっと、瑞稀の頬を撫でて、今度は、瑞稀の横に横たわると、起こさないように気をつけながら、そっと後ろから、瑞稀の体を抱きしめた。
瑞稀の汗の匂いが、甘く、オレの鼻腔をくすぐって、その心地よさに、しばらく浸っていて。そのまま、オレも眠ってしまうかと思った、その時。
「かがや?入るぞ?」
そう声がして、静かに兄貴が入ってきた。
「兄ちゃん。早かったね。お疲れ様。」
小さい声で答えて、ゆっくり、体を起こした。
兄貴は一瞬、遠慮するように止まったけど、座り直したオレの横に来ると、瑞稀の様子をそっと見て、安心したように頷き、オレの背中に手を回した。
「おかえり。お前も疲れただろ?あんなに、色々あって。でも、楽しかったみたいで、良かったな。
みーくんも、疲れたんだな。よく寝てる。可愛いな。お前の、みーくん。」
背中を撫でられて、そんなことを言われて、兄貴に体を預けると、何故か、涙が出てきた。
「うん、楽しかったよ。ホント、可愛い。オレの、みずき…。」
兄貴が、オレの頭を抱き寄せて、ぐしゃぐしゃに撫でてくる。
いつもなら、やめろよ、とか、何すんだよ、とか言って、逃げるのに、今日は、されるがままになってしまう。それくらいに、オレも弱っていたんだと思う。
「きら、こっち、ちょっと庭に出るから、そのサンダル履いて。」
たく兄にそう言われて、オレは縁側から、庭に降りた。
夏には朝顔や、芙蓉の花が咲いていたこの家の庭も、もうすっかり、秋の終わりで、最後のキンモクセイが香っていた。
「何、取るの?柿?」
「いや、柿はもう採った。今は、ほら、見えるだろ?ブドウ。きら、好きだろ?」
たく兄が指差した先には、小さなブドウ棚があって、大きな房が、たわわに下がっていた。
「わぁ!すごいや。これ、おばさんが育てたの?うん!そう、オレ、ブドウ大好き。」
思わず、はしゃいだ声を上げたオレを、たく兄が、優しく見ていた目線と、ぶつかった。
「オレが育てたんだよ。これはまだ、試作品だけどな。」
そうだ。たく兄は農大に通ってて、色んな作物を作っていると、言っていた。
それで農園や牧場に、しょっちゅう実習に行くので、なかなか会えなくなってる、と瑞稀から聞いたことを思い出した。
確か、将来はワインとか、醸造の研究したいのだと、言っていたと思う。
「ワインにする、ブドウ?」
「そう。よく覚えてたな。でも、甘いぞ。ほら。」
そう言って、ひとつぶ、つまむと、軽く拭いて、オレの口に入れてくれる。
噛むと、すごい勢いで口の中に果汁が広がって、その甘さと酸っぱさのバランスの良さに、思わず声を上げる。
「わぁ!甘っ!ウマ!」
目を丸くして、たく兄を見ると、それを見て、笑いながら、オレの頭をぐしゃぐしゃって撫でてきた。
「ほんっと、可愛いな、きらは。」
そう言って笑う、たく兄だって、めちゃくちゃカッコいいのに、と、思って、つい、じっと、たく兄の目を見てしまった。
「何?どうした?」
「あ、ううん、なんでもない。」
慌てて目を逸らして、ブドウを見上げたオレの首に手を回して、たく兄の肩に頭を乗せられて。
「疲れただろ?色々あって、大変だったな。でも、楽しかった?」
そんな風に言われて、うん、と頷いて…オレはいつの間にか、たく兄の胸の中にいて。
温かくて、ホッとして…。少し、泣きそうだった。
「うん。めちゃくちゃ楽しかった。でも、みずきを、疲れさせちゃったな。」
「大丈夫。みー助も楽しかったと思うよ。顔見ればわかる。
それに、アイツも強くなったから。いや、元々、タフなヤツだから、心配するな。」
その言葉が思っていたより、ずっと胸にきて…。
オレは、たく兄に縋り付くみたいにして、泣きそうな気持ちを、堪えた。
「はーい、みんな、ちゃんとお皿とグラス、お箸、揃ってる?」
叔母さんの明るい声が響いて、全員がはーいと、子どものように答える。
一眠りして起きたオレは、はめちゃくちゃ、スッキリして、いつものように、希良と輝の間に収まって、2人から、突かれたり、首に腕を回されて、抱き寄せられたり、と、席についてからずっと、ワチャワチャしていた。
ほぼ全員集合、と聞いたときには、想像が付かなかったけど、オレと輝の兄弟全員と希良、その母親3人と叔母さん、いち兄、たく兄、という、総勢13人が、ダイニングとリビングが一続きになった空間に集まっていて。
それはもう、壮観とは言うしかなかった。
「乾杯!3人とも、おかえりなさい!」
いち兄の発声で、みんながグラスを上げる。
修学旅行から帰って来ただけで、これだけ歓迎される?と、3人、顔を見合わせたけど、みんな、楽しそうだったから、いいか?と、思うことにした。
「みーちゃんは、もう、大丈夫?お昼寝したら、元気になった?」
「あ、はい。大丈夫。」
「ちょっと、おかあ、みーだって、もう高二なんだからさ、そんな幼稚園児みたいなの、やめてやって。」
いち兄が笑いながら、そう言うと、
「でもさ、みー助、昔っから、よくウチに来ては、昼寝してたよな。
ほら、まち姉と千枝が、ピアノの練習してて…って。
勉強しに来たと言いながらさ。」
たく兄が、口をモグモグさせながら、笑って言うので、オレはちょっと焦って、
「いや、あれは、小学生の頃だったし…。」
そう言って、姉ちゃんたちの顔を見たけど、まち姉もちい姉も、笑いながら、オレのことを見ていた。
まぁ、あの頃から、全部お見通しだったんだろうな。
そんなことを思って、2人に笑顔を返して、好物のポテサラを皿に山盛りにした。
「そう言えば、ジャム、買ってきてくれた?」
食事会も終わりに近づき、山のようにあった料理が、あらかた無くなり、女性たちは、リビングで、フルーツやデザートを食べながら、コーヒーや紅茶を飲んでいた。
リビングから、まち姉が、そう声をかけてきた時、オレはダイニングで、残った野菜スティックのきゅうりを齧っていた
「うん、買ってきたよ。な、かがや?一緒に選んでくれたんだ。かがやが、色々、まち姉の好きなヤツ。」
オレはちゃんと、輝が慧さんに負けないように、と、台本通りのことを言った。
「そうなの?嬉しいな。ありがとね、かがやくん。楽しみ。」
まち姉が嬉しそうに笑って、輝に手を振った。
「なんだよ、生意気だぞ、かがや。」
まち姉の言葉に慧さんが、輝の首に腕をかけたけれど、なんだか、その様子は見ていて、楽しそうだったし、いち兄も、
「やめとけ、慧。かがやにやられたからって、大人気ないぞ。」
と、言いながら、笑っていた。
これはもしかして、3人はオレたちの企みなんて、バレバレか?と、思ったけど、それは、輝には言わないでおいた。
「あ、そうだ、えっと、これ、良かったら。」
そろそろ、みんなが帰り支度を始めて、叔母さんや、いち兄たく兄に、お土産を渡していた時。
リュックの中から、一つだけ、びわジャムが出てきて、オレはそれを、ちい姉の横にいた輝のお姉さん、里沙子さんに差し出した。
確か、オレが買った時、輝は買ってなかったはずだったから。
「え?何それ、お姉さんにってこと?」
希良がここぞとばかりに、くいついてきた。
「なんだよ、それ?」
輝は、何故かちょっと、面白くなさそうな声を出した。
「いや、目黒さんと、あの後、もう一度、買いに行ったんだよ。で、その時に、もう一個買ったヤツで…。
輝、買ってなかっただろ?だから…良かったら。」
そう言って、もう一度、差し出したんだけど…。
「じゃ、オレがもらう!」
そう言って、輝がオレの手から、ジャムを取り上げてしまった。
「ちょっと!何するの、せっかく、みーくんが、私に、くれたのに!」
それに負けず、里沙子さんがすぐに立ち上がって、あっという間に、輝からジャムを取り上げた。
「ありがとね、みーくん。さっき、千枝に聞いて、私も食べてみたかったんだ。
もー、ウチの弟は、気が利かないんだから。その上、なんなの?かがや。」
輝はお姉さんにおでこを突かれて、末っ子感、丸出しに膨れっ面をした。
「かがや、そんな顔、すんなよ。ほら、こっち来て。」
オレは輝の腕を引っ張って、自分の横に座らせた。
それから、里沙子さんに向かって、
「あの、そのジャム、かがやとオレからってことで。ウチの姉ちゃんたちへのお土産選ぶの、散々、かがやに付き合ってもらったんで。」
そう言って、笑った。
「みーくん、そんな気、使わなくて、大丈夫だよ。
かがや、お前、みーくん困らせて、どうすんだよ。言ってることと、やってること、ぜんぜんじゃん。
ガッカリさせんなよ。」
そこに、慧さんが来て、輝の頭をポンポンッと叩いた。
輝はそれにハッとして、わかりやすく、凹んだ顔して、オレを見てくる。
「ごめん、オレ…。」
「大丈夫、オレ、別に困ってないし。
まぁ、ほら、オレ、キレイなお姉さんのファンだからさ。大目に見て。」
「あー、そりゃそうだ。かがや、それは仕方ないよ。諦めろ。」
希良が笑いながら、輝の口にブドウをひと粒、押し込んだ。
「え?何これ?ウマ!」
「すごいだろ?たく兄が育てたんだぜ。ほら、みずきも。」
オレにも大粒のヤツをくれたので、頬張っただけで、口の中いっぱいにブドウの果汁と甘さが広がった。
「うぉ、何?すご!」
「な?」
てか、確かに激ウマなんだけど、オレの中では、なんで希良がドヤッてくるんだよ?と、ナゾで。
まぁでも、それはオレの、子どもじみた嫉妬心、はっきり言えば、やきもちとしか、思えないことで。
誰にも言わないでおこうと、そう思って、ブドウを噛み締めた。
「じゃあな、色々ありがと。ゆっくり休んで、また、来週、学校でな。」
「うん、ほんと、ありがと。楽しかったな〜。」
「だな。みずき、ゆっくり、休めよ。」
当たり前だけど、今日は、バラバラの車、オレはまち姉の車に母親とちい姉と、輝は慧さんの車にお母さんと里沙子さんと、希良はお母さんの車に、それぞれ乗り込んで。
オレたちの、ホントに色々あった、でも、ホントに楽しかった、修学旅行が、終わった。
やっと、長かった修学旅行が終わりました〜。なんか色々、盛り込み過ぎましたね。読んでいただき、ありがとうございます&お疲れ様でしたww
この後は、イベントよりも、受験色が強くなって、みんなが前に進みます。よろしくければ、これからもお付き合い、よろしくお願いいたします〜!




