修学旅行〜4日目ノ参・旅の終わり
旅が終わる。それもまた、心が安らぐ。どんなに楽しくて、旅先が素晴らしくても、家に帰る、それはまた、格別なこと。
旅の往路は、ワクワクと心躍り、復路ではホッと心安らぐ。それもまた、旅の醍醐味。
※長かった、修学旅行が終わります。が、もうちょっと続きます。
平和公園の駐車場で、輝たちと別れると、それぞれクラスのバスに乗って、空港へ向かう。
いよいよ、九州の地ともお別れの時間が近づいて来た。
空港に着いて、チェックインを済ませると、なんとなくみんな、バラバラになった。
オレはまち姉からリクエストのあった、びわジャムを、輝と希良と、一緒に探して、買った後、地図やガイドブックの店に吸い込まれて行った輝と、お母さんに頼まれたものを探すと言う希良と、なんとなく、別れた。
とはいえ、特に見たいものもなくて、一人でぶらぶらしてると、同じく一人でいる目黒さんとバッタリ、出会った。
「あ!樺沢くん!ひとり?」
「うん、みんなあちこち見てるから、バラバラ。どうかした?」
何か言いたそうな目黒さんに、そう言うと、周りを見回して、こっそり合図して来て。
店と店の間、スタッフ用の通路のようなところに来ると、目黒さんが振り返って、いきなり、90度に頭を下げた。
「ごめんなさい!写真集のこと、あんな事になるって、思わなくて…。イヤだったでしょ?
ホントに、ごめんね。
今は多分、難しいと思うけど、ちょっとしてから、私がみんなに言って、無かったことにするから。」
「え?!何、そんな、やめろよ、頭、上げて!」
オレは慌てて、目黒さんの肩に手をかけると、体を起こさせた。
「だって、樺沢くん、あんな風に騒がれるの、嫌いでしょう?気持ち、重たいでしょう?
もし、この事が負担になって、樺沢くんがまた学校に来られなくなったら、私…。」
涙こそ出ていなかったけど、目黒さんの思い詰めた声に、オレはめちゃくちゃ、動揺してしまった。
「待って、目黒さん!大丈夫だよ。そんなの気にしないで。
目黒さんのせいじゃないし、石川も、宮﨑も、他のみんなだって、ぜんぜん、悪意とかないじゃん。
まぁ、確かに恥ずかしいし、見られたくはないけど…。」
「だったら!」
「まぁまぁ、落ち着いて。
そうだなぁ。確かに、もし、これが中学の時だったら、オレ、とても学校に来られなかったかもね。
でもさ、今は違うから。みんな、オレのこと、揶揄い半分だったとしても、半分は本気っていうか。ほら、愛があるからさ。
なんか、大丈夫って思えるんだよな。」
「そう、なの?」
「うん、そう。だから、そんな、目黒さんのせいだなんて、思わないでよ。責任感じる必要なんて、ないから。
それに、ウチの家族は、とにかく、楽しみにしてるからさ、もー、勘弁してってくらい。」
ちょっとしゃがんで、目黒さんの顔を覗きこむと、オレは出来るだけ、軽い調子でそう言って、にっこり、笑った。
それを見た目黒さんは、ホッとしたのか、やっと肩の力を抜いて、通路の壁にペタリと寄りかかった。
「良かった。私、ホントに、なんてことしたんだろうって…。」
「もう、大袈裟だなぁ。まぁでも、そういう真面目で、優しいところが、いいとこだよな。目黒さんの。」
オレは、思わず、そう言うと、彼女の頭をポンポンッと撫でてしまった。
「え?」
「あ!ごめん!つい、きらとかと、話してる気になって…。
オレの方こそ、なんてこと、してんだろ。」
焦って謝るオレの言葉に、今度はブンブン、首を振って。
「ぜんぜんだよ。ありがと。」
そう言う目黒さんに、やっといつもの笑顔が戻った。
「そか、良かった。
ありがとね。色々、心配してくれて。行こうか?もう時間だし。
お土産は?もういいの?」
オレの気持ちは、なんだかずーっと、温かくて、このまま話していたい気がしたけれど、ちょっとそれは隠して、目黒さんを連れて、お店が並ぶ通路に戻った。
「あ、あとね、ジャム、びわのジャム、買いたいの。」
目黒さんが、いつもの弾むような口調で、そう言った。
「え?そうなの?オレ、さっき買ったよ。あっちのお店、行こ、連れてってあげる。姉がさ、美味しいから、買ってきてって。」
「そうなの?お姉さん?」
「うん、上のね。知ってると思うけど、オレ姉が2人いて。これがなかなか、2人とも性格、強めでさ。あ、文化祭のときに、会ってるよね?あの時はちゃんと、紹介出来なかったけど。今度、機会があれば。」
「ふふ…だから、樺沢くん、優しいんだね。」
そう言って笑う目黒さんが、ホントに可愛いなぁって、なんか思った。
「お、どうした?珍しく、カップルか?」
そこに、土産ものが入った袋を持って、宮﨑が店から出てきた。
ホントにコイツは…なんで、こういうところにいるかなぁ。
「そ、いいだろ?たまには。」
「だな。それも、お似合いだぞ。」
からかっているわけでも無さそうな口調で、サラッとそう言って、宮﨑は行ってしまった。
「なんか、宮﨑くんって、不思議だよね。なんでここに?ってとこに、いつも、いない?」
「え?だよね!オレも同じこと思ってた!」
「やっぱり?そうだよね!しかも、この旅行中、ずっと、そうじゃない?」
「そうなんだよ。それでオレ、説教案件が溜まる一方で〜。勘弁して欲しいよ。」
困った顔をしたオレを見て、目黒さんが大笑いした。
「まぁ、樺沢くん的には、災難だよね。でも、あんなに楽しそうな宮﨑くん、初めて見るかも。」
「え、そうなの?」
確かに、オレをイジってる時の宮﨑は、えらく、楽しそうではあるけど。
「うん、私ね、宮﨑くんとは、学校は違うけど、小学生の時からずっと、塾が一緒だったの。
いつも友だちがいっぱいいて、やっぱり、オレ様キャラで。」
「やっぱり、その頃から、そうなんだ。」
思わず、ツッコミを入れる。
「そうなの。
でもね、なんかいつも、つまらなそうで。」
そんな話をしながら、目黒さんはびわジャムを2つ手に取って、レジに並んで、オレもついでにもう一個、びわジャムを取ると、一緒に並んだ。
「その宮﨑くんが、今朝の写真集の話の時も、昨日のハウステンボスでも、みんなのことも、樺沢くんたちのことも、気にしながら、声かけてるの、すごく楽しそうだったじゃない?」
「確かに。なんか、生き生きしてたよな。」
「でしょ。そんな宮﨑くん見るの、初めてだったし、私はそれ、樺沢くん効果、樺沢マジック、だと思っているんだ。」
「え?オレ?」
会計を済ませて、オレたちは、話しながら、みんながいる、搭乗ゲートに向かう。
「そう。これも、宮﨑くんの説教案件になるかもしれないけど。」
「何?怖いな。」
オレがふざけて、怯えた顔をするのを見て、また目黒さんが楽しそうに笑って。
「ほら、また、そんな。
でも、樺沢くんって、知らないうちに、近くにいる人たちのいいとこ、引き出してるんだよ。
気づいてないでしょ?実は、私もね、その恩恵に預かってると思ってるし。」
そんなことを言われて、オレは驚いて、立ち止まった。
「それは…いいこと、なんだよね?」
「もちろん!私は、感謝しかないと思っているよ。」
数歩先で、振り返った目黒さんは、オレが写真を撮りたいと、思うほど、良い顔をしていて。
「なら、良かった。目黒さん。」
「ん?」
「なんていうか…。これからも、よろしくね。」
「えー、それは、こっちのセリフだよ。よろしくね。写真集、楽しみにしてて。すごいの、作るから。」
「いや、それは…。」
と、2人で大笑いした時、ちょうど、みんながいるところに着いて。
目黒さんは、澤田さんたちのところに、オレは希良と輝のところに、じゃあね、と手を振って、別れた。
母親へのお土産を買って、搭乗ゲートの近くに来てみると、輝が1人でポツンと座っていた。
辺りを見回すと、輝の視線の先、結構遠くに、目黒と話してる瑞稀が見えた。
「かーがや?どうした。さすがのお前も、疲れたか?」
「あ、きら。どこ行ってた?気がついたら、2人ともいないから。」
「あー、ごめん、ごめん。
オレは、母親から頼まれたお土産、買いに行くって、みずきと別れたんだ。
みずきはお前が、本屋、1人でゆっくり見たいだろうからって、なんか違うとこに行くって言ってたんだけど。
目黒となんか話してるな。気になる?」
目黒はともかく、瑞稀は目黒に恋愛感情を持っていないのは、分かりきったことだ。
でも、残念なことに、2人並んでるその様子は、世間一般で見れば、お似合いの、爽やか高校生カップルだった。
「え?イヤ、別に…。」
どう見ても、気になってます!って顔に書いてあるのに、負けず嫌いで、意地っ張りな輝はスンと、している。
「呼びに行けば?あ、オレ、行こうか?」
そう言って、立ちあがろうとしたオレの腕を、輝が思いっきり掴んで、引き戻し、オレは椅子に尻もちをついた。
「うわぁ!なんだよ?」
「あ、ごめん…。でもいいから。みずき、楽しそうだし。」
「っとに。意地っ張りが。」
「あぁ?」
「あー、なんでもないです〜。ほら、みずき、こっち来るぜ。」
それを見た、輝の口元が、やっと、小さく歪む。
もっとわかりやすく、笑って喜べよ、と思いつつも、口には出さず、瑞稀に向かって、手を振った。
「おう、どうした?目黒、なんだって?」
希良が、離れていく目黒さんを目で追いながら、声をかけてきた。
同じように、気にしてる顔をしてるけど、輝は何も言わず、目黒さんを見ることもなく、ただ、オレのことを、じっと見ていた。
「うん、いや、さっきのバスの中でのこと。気にしてて。」
「あー、写真集のこと?」
「だから、写真集って言うなってば!」
希良の、思い切り茶化した様子に、オレもふざけて、強目に返す。
「わかった、わかった。ほら、ここ、座って。
もう、みずきが、なかなか来ないから、さっきから、かがやがご機嫌悪くて。な、かがや?」
そう言われて、2人の間に座ると、
「そんなこと、ないけど。ちょっと、心配で。」
と、分かりやすく、不機嫌な口調で、オレに腕を絡めてきた。
「さっき、オレが地図見に行って、振り返ったら、2人ともいなかったから。」
「あー、ごめんて。かがや、ああいうの、1人でじっくり、見たいと思って、そっとしておいたんだけど。
そういえば、きらは、見つかった?お母さんのお土産?」
「おう、ばっちり。後でお土産ドラフト、しような。」
対照的に希良はニコニコと、オレの肩に手を回す。
輝の顔は、まだ晴れない。
「前に…。」
やっと、輝が口を開いた。
「うん?」
「前にみずき、本屋で待ちくたびれたら、黙って、置いて帰るって、言ってたから…。」
「あ、そか、言ったな、そんなこと。それで、オレが怒っていなくなったと思った?」
なるほど、と思って、輝の顔を見て、絡められた腕を、ギュッとした。
「そんなこと、しないって。ごめんな。何も言わずに1人にして。」
10センチ近く背が高い輝が、ペタッと張り付くみたいに体を寄せてきて、
「もう、みずきが足りないんだよ。ずーっと。」
と、希良にも聞こえないくらいの声で言われて、オレはドキドキしてしまう。
2日目の朝早く、旅館の自販機コーナーで、輝に抱きしめられたことが生々しく、思い出されて…。
でも、それ以降は、オレが発作を起こしたり、打ち上げからの、読モ事件があったり、色々で。
そういえば、輝と2人きりで過ごしたのは、輝が泣きながら、彼女の話をした、あの時だけだ。
「まぁ、帰ったら、な。」
輝の顔を見ずに、そう言うのが、やっとだった。
「うん。帰ったら。」
輝の声がやっと、少しいつものトーンに戻った気がした。
それから、例によって、チケットを見せ合うと、やっぱり、輝の席がオレたちの隣になっていて。
「まーもう、怖くも、なんともないけどなぁ。」
と、希良が言って、2人とも、苦笑いした、
その後、飛行機に乗ってから、オレがさっき、目線さんと話したことを、2人にも、話した。
「それさ、みずきが平気なら、良いんだけど…。今のクラスのヤツらは、みずきの言う通りだと思うし。
でも、中学の時って言う、なんか、そっちの発言の方が、心配。今朝も、ちょっと言ってたけど…。」
希良が心配そうに、目を覗き込んできた。
「あーうん。まぁ、大丈夫。
あ、昨日の夜のことも、それもあってで。輝の話だけじゃないんだ。だから、また今度、話しきいて。」
希良はそれに、わかったと、頷き、輝はもうずっと、黙って、くっついたままだった。
ご機嫌は直ったみたいだったから、良かったけれど。
それから、羽田までの時間、行きのようにはしゃぐことはなくても、3人でまったりと寛いで過ごせた。
さすがに疲れたなぁと思うことはあったけど、オレにとっては、2人が楽しそうにしていることが、何より大事なことだった。
色々あった修学旅行も、いよいよ終わりです。
いや〜、長くなって、すみませんでした。この旅行中、たくさんの新しいキャラが出てきましたが、その中の何人かは、これからますますのご活躍を期待したいところですww
そして、イベント続きだった二学期も終わり、これからは毎日の生活の中で、3人がどうなっていくのか…?楽しみです!




