↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/64

番外編ノ壱〜きょうだいたち・慧の本心

もちろん他人ではなく、家族。血の繋がりはある。

けれど、その距離感は、人それぞれだ。親友のような、という人もいれば、他人以上に遠い、という人もいるだろう。

それでも、間違いなく、あるのは血のつながり。

それが、兄弟、姉妹。

 7つ年下の弟の輝は、生まれた時から、特別だった。

 

 自分で言うのもなんだが、我が家は元々、ビジュが良い家系で、オレも、4つ下の妹の里沙子も、可愛い、美人だ、イケメンだと言われて育った。

 けれど、輝は、それをも超えて、生まれた病院で、師長さんから、赤ちゃんモデルの事務所に紹介される、というところから、人生が始まった。


 だから、というわけではないだろうが、オレは7歳の時、親に、生まれたばかりの輝をこの先、しっかり見てくれと、頼みこまれた。

 そこで植え付けられた、妙な責任感のせいで、本当は可愛くて仕方がない、めちゃくちゃに甘やかしたい、という気持ちを抑えて、ヤツがいい気にならないようにと、上から抑え込むみたいに接してきた。


 そんな風にやってきて、兄貴としては、嫌われているだろうと、諦めていたのに、輝が中学を卒業する少し前、彼女と別れて、メンタルぼろぼろの時に、オレを頼ってきてくれた時は、そんな状況にも関わらず、飛び上がりたいくらい、嬉しくて、急いで車を走らせたものだ。


 そして、その前から、気が付いていた、輝の初めての、本当の恋の方向について、ヤツが迷って、怖がって、逃げようとしていたことについて、支えてやるから逃げるなと、励まして、自分の中でも、ヤツを支えることを、誓ったのだった。

 

 それなのに、その恋は、想像もつかない、残酷な展開になってしまう。

 目の前で泣き崩れて、息も出来ないほどになっている弟のことを、大丈夫だと言って、抱きしめることしか、その時のオレには出来なかった。

 

「みーくん、どう?」

「うん、少し、落ち着いてきてるみたい。まだ、会えないんだけどね。ありがとう。輝くんは?大丈夫?」

「アイツは、多分、大丈夫。希良くんもね。何とか、学校いってるし、オレが付いてるから。」

「そうか、そうだね。」

 久しぶりに会えたのに、まちちゃんとオレは、2人とも、弟たちのことで、どうしようもなく、テンションが低かった。


 そして、大丈夫、と言ったものの、その頃の輝も希良くんも、決して、良い状態と言えるほどじゃなかった。

 毎朝、オレが車で学校の近くまで、希良くんも一緒に拾って、連れて行っていた。

 そして、その車の中で、あんなに仲が良かった2人が、ひと言も話さず、車を降りると、完全に他人のように離れて歩く、その様子は、見ていて痛々しいほどだった。


「ホントに、ごめんね。輝のせいで、みーくん、こんなことになって。」

 輝が悪いわけではないと、一番分かっているはずなのに、その時のオレは、そんな風に言うことしか出来なかった。

「やめて、そんなこと。そうじゃないって、輝くんのせいじゃないって、分かっているでしょう。

 私のためにでも、そんなこと言わないで。」

「ごめん…。」

 そう言うと、2人とも、黙ってしまった。


「ごめん、待たせて。みー、家に送ってきた。」

 そこに、少し遅れて、以知が来た。

「ありがとう。どうだった?家に帰れた?」

 以知は、みーくんの混乱した状態を落ち着かせるために、少し前から、大学院を休んで、ずっと側に付いていた。


 本当は、まちちゃんがそうしたかったのだけれど、みーくんがお母さん以外の女性、まちちゃんもその下のお姉さんの千枝ちゃんのことも、拒絶して、近寄ることさえ出来ず、そうすることが出来なかったのだった。

 そして、今日は、以知がみーくんを診療内科に連れて行く日だと聞いて、オレも一緒に、経過を聞きたいと、待っていたのだ。


「うん、大丈夫。だいぶ落ち着いて、良くなってきたみたいで。この調子なら、5月の連休明けには、学校、行けるんじゃないかって。」

 以知の話に、オレもまちちゃんも、心からホッとして、やっと、頼んだけど、手を付けずにいた飲み物に手を伸ばした。


「それとさ、みーが、まちと千枝のこと、気にしてたよ。どうしてるかな、って。」

「え?ホントに?」

 まちちゃんが、思わず、泣きそうな声を上げた。

「うん。やっと、少しだけど、色んなこと、思い出して、整理できてきてるみたいで。

 ほら、今まで、春休みで、オレのところに泊まり込んでるって事にしてたから。

 今日、家に帰るぞって言ったら、『姉ちゃんたちから、ぜんぜん連絡来ないんだけど、どうしてるかな、オレのこと、忘れちゃったのかな?』って言うんだよ。」

 以知が、おかしそうにそう言った。


「なに、それ?ひどい。」

 泣き笑いするみたいに、まちちゃんが言ったのが、今も忘れられない。

「だよな。だから、じゃあ、お前は、連絡してたのかよ?って言ったら、『あ、してない。』だって。だから、これからでも、2人に帰るって、送っておけって、言っておいた。きてる?メッセ。」

 そう言われて、まちちゃんがスマホを見ると、みーくんから、『今日、帰るよ。いち兄が送ってくれるって。連絡してなくて、ごめんね。会えるの、楽しみにしてるね!』と書かれていて…。

 3人揃って、いい大人が、その場で泣いたのだった。

 

 けれど、喜ぶことが出来たのはそこまでで。

 みーくんは、輝のことも、もう1人の仲良し、希良くんのことも、まったく忘れてしまったままだと聞かされて。

 あんなに仲良くて、三つ子のように、いつも一緒で、くっついて、戯れ合っていて…オレたちの癒しで、アイドルだったのに。

 もう、3人が一緒にいる、あの姿を見られないのだろうか。

 輝たちのことを思うと、それを輝に伝えなくては、と思うと…胸が締め付けられる思いがしたことも、また、忘れられないことだ。

 

 その時から、約1年半。

 高校1年の間は、とにかく、何事もなく毎日が過ぎること、それだけをオレたちは願って、見守るしかなかった。

 

「樺沢くん!おはよ!久しぶり。同じ中学でテニス部でも一緒だった、保里だけど。もう、体調、大丈夫なの?」

「オレも、同じ中学だったんだけど、わかる?田宮。」

 みーくんが初めて高校に行った日、みーくんのクラスに行って、2人は恐る恐る、そう挨拶したそうだ。

 そして、その時、みーくんは、

「あー、もちろん、覚えてるよ。2人、有名人だったじゃん。

 てか、わざわざ来てくれたの?ありがと。

 うん、もう大丈夫。そうだよな、二中からは3人だけだもんな。これから、よろしくね。保里くんは、また部活も一緒だよね?」

 と、いつもの、すっかり痩せてしまって、面影はなかったけれど、それでも、2人が大好きな、カラッとした笑顔で、初めまして、と、でもいうように、言ったそうだ。


 そんな風でも、元気だったから、名前と顔だけでも覚えていてくれたから、笑顔が見られたから、それでいい、と、輝も希良くんも、そう言っていた。

 その時の、彼らの寂しそうな笑顔も、よく覚えている。

 

 そこから、ほぼゼロから、希良くんと輝で、そっと積み木を積み上げるように、3人の関係は、作り直されていった。

 高校2年になってからは、希良くんとみーくんが同じクラスになり、輝もテニス部で、それぞれがみーくんが落ち着いているのを確認しながら、少しずつ、慎重に、距離を縮めて行った。

 そうすることで、当然、色々あって、輝も希良くんも、何度も泣くのを、見たけれど。

 

 でも、ちょっとしたことがきっかけで、みーくんの記憶が、どんどん戻ってきて、夏休み、文化祭と過ごすうちに、ハラハラしながらも、ホッとすることが多くなっていった。

 そして、3人は今、以前のように仲良く、修学旅行を楽しんでいる…と、思っていたのに。

 

 まちちゃんと以知と、久しぶりに飲もうと集まった、その夜、全員が同じく、怒っていたのは、3人が隠し撮りされて、SNSに拡散された、という事だった。

 しかも、それを見た、どこかの雑誌記者が、3人を読者モデルとして撮影したい、と言ってきたとか。

 そのせいで、3人がマスクして、パーカーのフードを被って、ハウステンボスに行くことになったと聞かされて、行き場のない怒りを共有していた。

 

「あ、でもね、みーが女の子との写真、送ってきたの。すごい可愛いんだよ。見る?

 可愛い過ぎて、千枝と2人、さんざん、からかっちゃったんだけどね。」

 重たい空気を破るように、そう言って、まちちゃんが、みーくんと可愛い女の子との、顔を寄せ合った、ツーショットの自撮り写真を見せてくれた。


 それはもう、甘酸っぱい、青春の一コマとしか言えない、可愛らしい写真だった。

「えー?何それ。めっちゃ可愛いな。きらからも、楽しそうな動画が来てたし、良かった。ちゃんと楽しめているんだな。安心したよ。その写真、ちょうだい。」

 と、以知が笑って、それにオレも、

「いいな、その写真、オレにも送って。あ、ねぇ、それ、見せてもらったって、輝のことも、ちょっとからかってもいい?」

 って、笑いながら聞いた。


「いいけど、ほどほどにしてね。輝くんのこと好きすぎて、かまいたいのは分かるけど、慧くん、いっつもちょっと、やり過ぎなんだもん。」

「えー、わかったけど。アイツ、からかうと、本気で向かってくるから、もー可愛くてさ。」

「だから、それを、ほどほどにって、言ってんだよ、まちは。」

 以知にまで、そんな風にたしなめられてしまった。


 そう言われても、オレはいつものように、輝にからかうメッセージを送ってしまう。

『お前、みーくんに振られたんだろう?』って。

 もちろん、そんなことないのは、分かりきっていることなんだけど。

 そのメッセージ、すぐに既読になったけど、返信は来なくて。

 まぁ、みーくんと希良くんに話して、なんて言い返すか、相談しているに違いなくて。

 その様子を、想像するだけで、3人が可愛くて仕方ないのだが。

 

「そう言えば、きら、匠に相談してきてたんだよな、今回のこと。」

「あー、あの2人、なんか、相性良いみたいだよな。最初は、末っ子と一人っ子で、兄弟ごっこかと思ったけど、そういうわけでもないみたいだし。」

「え?そうなの?知らなかった。仲良いとは、思っていたけど。」

「てかさ、みーは?オレらのどこにも、何も言ってきてないって、そこはどうなの?大丈夫なの?」

「それね、千枝ともその話、してて。せめて以知に、何か、言ってきてくれないかって、思ってたんだけどね。

 それもないってことは、多分、あの子、余裕ないのよ、きっと。

 まぁ、ちょっと、心配だけど…。

 中学の時にも、あったでしょ?ほら。」

 まちちゃんが、なんだか少し困ったように言って、以知も、ああって、笑って頷く。


「アイツ、自分のことより、かがやときらのことばっかりだからなぁ。きっと今頃、2人が元気ないとか、そんなこと気にして、オレらに相談するとか、考えられてないんだな。

 あれだろ?中学3年の文化祭の時の?」

 以知がそこまで話して、オレもやっと、ビンときた。

「あれか!たこ焼き事件?きらくんとかがやが、大泣きして、やられたみーくんが、ひたすら慰めてた、って…?」


 そうだった。ひどい出来事だったが、みーくんのことを思って号泣する、輝と希良くん、その2人を心配して、自分がされたことをそっちのけで慰めまくる、みーくん、という、3人の様子が可愛くて、オレたちは心が温かくなったものだった。


 みーくんは、そういう子なのだ。利他の塊のような、優しい子。

 だからこそ、自分の傷が深くなっていくことに、気がつかず、自分で自分を追い詰めることになってしまった、という一面もあるのだけれど。

 輝が好きになるのも、大事にしたいと思うのも、わかる、そういう子なのだ。

 

 その日、輝から返信があったのは、オレたち3人が解散した後だった。

 そのメッセージの内容たるや、もう、オレは独りで、悶絶するほど、可愛いくて。

 我慢出来ずに、夜遅いにも関わらず、以知とまちちゃんに共有してしまい、まちちゃんからは、速攻、

『もーダメ、輝くん、可愛い過ぎ。私、そのお土産、どんだけ喜んで受け取ればいい?』との返信があり、以知からは、

『かがや〜!良く頑張ったぞ!兄ちゃん、やられてたからな〜。って、帰ってきたら、オレがそう、言ってやる。』との返信が届いた。


 そこまでは、保護者3人、ほのぼのとしていられたのに。

 日付けが変わる頃にかかってきた、輝からの電話は、そのほのぼのとした気分をぶち壊してきた。

 

 電話の向こうで号泣する弟を、いつも同じく、「大丈夫だ」と、励ますことしか出来ないのが、歯痒過ぎて、仕方なかった。

 時間さえ許せば、仕事なんて休んで、飛行機に飛び乗って、駆けつけてやるのに、こんな真夜中、どうしたらいいのか、わからなかった。

 

 輝は自分の甘えから、みーくんを苦しめてしまったと、自分を責めていた。

 希良くんに、許さない、と責められたと。

 でも、それは輝にとっても、ツラ過ぎる、あの海での出来事に関わることで、聞くと、それをみーくんに話してしまった、その状況も気持ちも、オレには充分、理解出来た。

 そして希良くんの気持ちも、分かり過ぎるくらい、わかった。


 ただ、輝にしても、希良くんにしても、みーくんが発作を起こしたという、そのことが、何よりも、2人を追い詰めてしまうのだった。

 それでも、オレと話しをして、少し落ち着いた輝は、

「兄ちゃんのこと、大好きだ。」

 と言ってくれて、オレももちろん、大好きだよ、と返して、電話を切った。

 

 輝の気持ちを思うと、とても眠ることは出来そうになかった。

 けれど、初めて、輝から言われた「大好き」という言葉を、大事に抱きしめて…。

 オレは、何とか、次の日の仕事に支障が無い程度の時間には、眠りに落ちることが出来た。

 

 明日は、彼らの修学旅行、最終日。


 さっきの飲みの席で、学校で解散してから、何かあると心配なので、以知が代表して、3人を迎えに行ってくれて、その後、以知の家で、匠や千枝ちゃん、里沙子や親たちも、集まることになっていた。

 オレも、出来るだけ早く、仕事を切り上げて、合流するつもりだった。

 どうか、3人とも、楽しい思い出だけを持って、元気で、帰ってきて欲しいと、そう祈ることしか出来なかった。

 

 そうして、オレとまちちゃんの距離は、いつまでも、縮まらないのだった。

修学旅行編、もうちょっとで終わりですが、長過ぎ〜!?と、思ったので、一息入れさせていただきましたww

3人を取り巻く兄弟、姉妹がお気に入り過ぎて、書いた話です。その初回が、なんとww今まで一番、出番も絡みも少な目の慧さん。でも、なかなか味があるので、好きになっていただいて、楽しんでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。