修学旅行〜4日目ノ貮・写真集と平和への想い
平和を祈る、その心を育てなければ、平和も育たない。心が柔らかい、若い時に、その心を育てたい。
平和の大切さ、暖かさ、脆さ、儚さ、強さ。
その全てを学んで、平和を守る強い心に育って欲しい。
「で、どうなの?今回の、撮れ高は?」
希良が目黒さんにふざけて、そんな声をかけると、目黒さんは、嬉々として、振り向いた。なんかもう、目がキラッキラだ。
「もー、バッチリだよ。大豊作。
これで作る、樺沢くんの写真集、神作の予感しかしないよ。
クラスみんなから、注文取りたいくらい。
初版で既に重版間違いナシ。あーでも、安売りはしたくないから、やっぱり注文とって、完全予約の限定出版かな。」
と、よく分からない、業界用語みたいな言葉を使って、希良に向かって、キャッキャと話している。
それを聞いたオレは、思いっきり、どんよりして。
「たのむから、冗談でも、注文取るとか、やめてくれ。生きた心地がしない。」
そう言ったんだけど、そんなのは当たり前に、通用するわけもなく。
「え?冗談でも、なんでもないんですけど?
だって、田宮くんと保里くんは、もう、絶対、欲しいんでしょ?」
ここで2人が、大真面目な顔で、首を縦にブンブン、振る。
それを見て、満足そうに目黒さんも頷いて、
「それに、樺沢くんのご親戚?ほら、我が校のレジェンド兄弟とかも?絶対、欲しいんじゃない?」
と、何故か、事情を分かったような事まで、言い出した。
「あー、そこはもう、間違いないな。この前のヤツだって、なんでウチの分がないのかって、揉めたんだろ?」
希良が思い出したように、そんなことを言うもんだから、オレはもう、何も言えない。
まったく、その通りなのだから。
「まー、そう考えると、読モの話?持ってきた人たち、腹は立つけど、見る目はあるってことだな。」
輝までが、他人事のように、実に楽しそうにしている。
「いや、それは違うだろ?だいたい、読モは、きらとかがやのことで…。」
オレがそこまで言った時、3人が揃って立ち止まり、オレを取り囲んで…。
「樺沢くん、まだそんな事を?」
「やっぱり、宮﨑に説教してもらわないと、だな。」
「じゃ、D組にお任せするんで、よろしく。」
と、冷めた目で見られて、そのまま、オレはバスに連行されてしまった。
写真集とかいうの、マジで勘弁して欲しいし、目黒さんの企みがクラスのみんなにバレたら、シャレにならない気がして、オレは肩をおとした。
でも…さっきまで、どんよりして、気まずい空気だった2人のことを考えると、オレをネタにして、楽しそうに、笑ってくれてる、その方がぜんぜんいい、と思った。
なんだけど…。
「最終日だから、聞くわけじゃないけどさ。目黒、樺沢たちの写真、そんなに撮って、どうすんだよ。
それに、昨日はなんか、樺沢の公式写真係?とか言ってなかったか?どういうこと?」
バスに乗って、すぐ、目黒さんがオレたちに向かって、シャッターを切っているのを見て、宮﨑が、至極ごもっともな疑問を口にした、
「いや、宮﨑、大したことじゃないんだけどな、ウチの親がほら…」
と、オレがなんとか誤魔化そうとした、その時。
「さすが、宮﨑!いい事言ってくれた!
だよな?オレたち、みーんな、それ、気になってたし、聞きたかったことなんだよ!
オレ、打ち上げの時、聞きたかったけど、タイミングなくて。」
少し前の方に座っていた前田が、振り返って、大きな声を上げた。
それに驚いて、オレが黙ったほんの一瞬、その隙に石川が、
「あ、そっか!宮﨑もみんなも、知らないもんな、樺沢の写真集のこと!」
と、屈託のない声をバス中に響かせた。
「石川!バカ、お前、何言ってんだ!」
オレは、さすがに慌てて、石川を上から押さえ込んで、黙らせようとする。
しかし、こういう場合、押さえることは出来ても、黙らせるのは難しい。
そして、オレが慌てるほどに、石川のテンションは上がっていく。
「いいじゃん!今度のは、オレにもちゃんと見せてくれるって、約束したじゃん。」
そんな約束、した覚えはないが、それよりも、問題は…。
「え?何?写真集?誰の?樺沢の?」
「何?樺沢の写真集?そんなのあるのかよ?」
「えー、ガチ?それ、見たいんですけど。」
「いやいや、そんなのあるなら、見るだけじゃなくて、欲しいんですけど、私。」
バスのあちこち、女子からも、男子からも、そんな声が上がってきたことだった。
そうなると、もう、石川を止めることは出来ず、ヤツはオレの腕の間から、大きな声で続けた。
「そう!目黒特別編集の、樺沢の家族公認、公式写真集、第一弾は文化祭編、で、続く第二弾!今回の修学旅行編がな…!」
そこまで言ったところで、やっと、オレのブレザーを被せて、石川を黙らせた。
が、もう、時、既に遅し、とはこのことだった。
「なるほど、な。」
宮﨑の恐ろしいほどに、納得した、落ち着いた声が聞こえて。
「いや、だからさ、宮﨑、そんなのは…。」
「目黒、サンプル、出来たら、クラスで回覧な。
ただし!いいか、みんな!この事は、他言無用、他のクラスのヤツらには、言わないこと!わかったな!
あ、でも、C組の保里は例外な。樺沢、せめてもの情けだ。諦めろ。」
「宮﨑〜、それは…勘弁してくれ。」
半泣きで、石川を押さえながら、言ってみても、誰一人として、オレの言葉なんか聞いてなくて。
「やったー!すごい、楽しみ。宮﨑くん、ありがとう!」
「うんうん!メグ、写真上手だし、センスあるから、絶対、可愛いく撮れてるよ、樺沢くん!」
「すげ〜な。でも、樺沢ならな。なんか、納得。」
「だよな。オレもちょっと楽しみ。それに、アレだろ?田宮や保里も、絶対一緒に写ってるよな。
目黒、すごい量、撮ってたもんな。」
色んな言葉が聞こえて、オレはもう、力が抜けて、石川の上に倒れ込んだ。
「大丈夫か?みずき?しっかりしろ。」
「樺沢くん…。ごめん。」
希良がオレを起こしながら、心配そうに顔を見てきて、目黒さんも、申し訳無さそうにこっちを見ていた。
目黒さんは何も悪くないけど…、石川にも、宮﨑にだって、誰にも悪気はないのは、よくわかっているんだけど。
「オレみたいな平凡なヤツの写真見ても、面白くもなんともないだろうよ…。」
思わず、本音が漏れて、石川を解放すると、希良の横にぐったりと、座り込んだ。
「また、そんなこと言う。宮﨑の説教案件、増える一方だぞ。」
そう言いながらも、希良は楽しそうだ。
「だな、樺沢。田宮、今度、ちゃんと、場所設けるから。お前も同席しろよな。なんなら、保里も一緒でもいいぜ。樺沢、楽しみにしとけよ。」
脅しのような事を言ってても。宮﨑は優しい顔と声をしていたし、なんだか、めちゃくちゃ、楽しそうに笑っていた。
長崎の平和公園に着いて、バスを降りるとき、ナベせんが、オレに耳打ちするように、近寄ってきたと思うと、
「先生も、楽しみにしてるぞ、樺沢の写真集。出来れば、文化祭編も、今度見せてくれ。あ、校長と葉山先生には、見せても良いよな?」
そう言って、笑いながら、オレの背中をポンッと叩いた。
「先生まで〜。ホント、やめてくださいよ〜。」
わざと泣きそうな顔をして、ナベせんの笑い声から、逃げるように、離れた。
「マジか?すげ〜な、宮﨑。てか、大丈夫か?みずき?」
今日も同じく、大人数で集まって動くことにしていたんだけど、その前に、輝がオレたちのところに駆け寄って来ると、すぐに、希良がさっきのバスの中での話を早口で、あっという間に、話した。
「ぜんぜん、大丈夫じゃない。」
輝は何も悪くないけど、つい、甘えるように、不貞腐れてしまった。
「オレが、なんだって?」
そこに、宮﨑がヌッと顔を出した。
コイツはなんでこうも、ちょうどいいところで話を聞いているんだと、不思議で仕方ない。
「ってか、お前たち、それは、ウチのクラスと保里だけの話なんだからな。お前らがこんなとこで話してて、どうすんだよ。」
まったく、その通りで…。
「あ、だな。ごめん、ありがと。」
って、なんでオレが、謝るんだよと、思いながらも、3人とも黙ってしまった。
「ほら、行くぞ。マスクするのか?気をつけろよ。」
まぁ、とにかく、宮﨑はいいヤツなんだとは、思う。
「おう、サンキュ。」
希良がそう答えて、オレらはマスクを付けると、希良は宮﨑とその場に残り、オレは石川たちの、輝は佐野の方に、それぞれ分かれて、慰霊碑に向かう道を歩き出した。
平和公園で献花をし、千羽鶴を供えて、平和を祈る。
いつもは賑やかなヤツらも、キャッキャしている女子たちも、この時はみんなが神妙な面持ちで、手を合わせていた。
そこからはしばらく、徒歩で原爆の遺構を巡るコースだ。
浦上天主堂から、原爆落下の中心点「グランド・ゼロ」、そして、原爆資料館。
見学を終えて、カフェで飲み物やソフトクリームを買って、ひと息入れた時、やっと石川が、
「オレたちは、幸せだな。あらためて思うよ。」
そう言った言葉が、何よりも重くて、みんな、言葉もなく、頷いて…。
修学旅行の意義を全員で、噛み締めた。
資料館を出てからは、出発まで自由行動で、オレたちは、被爆クスノキや一本柱鳥居などを見て周り、最後は路面電車に乗って、平和公園の駐車場に戻ることにした。
「キレイな街だな、長崎って。坂道は、死にそうだけど。」
電子の中でオレがそんなことを言うと、輝が、
「坂が多いからか、自転車に乗れない?乗らない?人が多いらしいよ。」と、そんなことを言い、
「へー、そうなのか。確かに自転車じゃ、登れない急な坂とか階段も多いもんな。」
希良が楽しそうに電車の窓から外を見ていた。
3人とも、マスクは付けていたけど、たまに一緒になって、こんな、大したことのない話をして、残り少ない旅先での時間を、長崎という街を満喫していた。
「これ、ちょっと、考えるよなぁ。」
そう言うと、輝がスマホを開いて、さっき、原爆資料館のカフェで飲んだ、カフェラテの写真を見て言った。
そこには「PEACE」という文字と、平和祈念像の顔、「AUGURT 9th」と描かれた、ラテアートだった。
「忘れちゃいけない、ってことだよな。オレたちの世代になってもさ。」
希良がなんとも言えない、表情でそう言って、オレも黙って、頷いた。
やっぱり、どんなことがあっても、守りたいもの、守っていかなきゃいけないものってあるんだと、楽しかった旅の終わりに、みんなが感じていたと思う。
いよいよ、最終日が始まりました。楽しい時間をはあっという間に過ぎますよね。
色んなことがありましたが、3人も、彼らを取り巻く人々も、みんな、この旅を通して、ひと回り、成長したはずです。そんな彼らのこれからが楽しみですね。




