修学旅行〜3日目ノ壱・自由のための我慢と制限
人生の物語に沢山の登場人物がいる人は幸せかもしれない。ただ、物語には、悪役も敵役も出てくる。
それでも、登場人物が多い人生は、豊かで幸せなのかもしれない。そんなことを考える、秋の一日もその一頁。
目が覚めて、隣のベッドを見たら、希良がいなかった。
トイレかな?と思って、待っていたけど、しばらく戻ってこなくて。
少しして、部屋のドアが静かに開いたと思ったら、希良が入ってきた。
「きら?」
「うん?お、起きたか?どう?調子は?」
オレのベッドに腰を下ろして、まだ横になっているオレの、前髪をかき上げて、唇を寄せてきた。
「うん、大丈夫。どこ行ってた?」
「ちょっと喉乾いて、水、買ってきた。みずきも飲む?」
そう言って、手に持ってるペットボトルを見せてくれた。
「ありがと。ちょっともらおうかな。きら、もしかして、かがやに会ってきた?」
受け取ったペットボトルから、水を飲みながら、聞くと、希良は少し驚いて。
「え、なんで?わかった?」
希良は相変わらず、隠し事が下手だった。
「まぁ、なんとなく、な。何?今日のこと?」
「いや、昨日の反省会。」
そう言われて、思わず笑ってしまう。
「なんだよ、それ。オレ抜きでかよ。」
「まぁな、みずき、発作起こしただろ?その後、泣かせたし。そんなこんなについての、反省会だからさ。オレとかがやでな。」
ここは、ホントかウソなのか、わからなかったけど、何か、2人で話したい事とか?そういうこともあるのかも、と、それ以上は、聞かないことにした。
「そうなの?あんなの、オレの自損事故みたいなもんなのに。悪いな。」
「気にすんなよ。オレらのLOVEだからさ。」
「えー、そうなの?」
「なんだよ?」
「イヤ、ちょっと、重いです。」
「それくらい、受け止めなさい!」
周りに気を遣った小声で、そう言うと、オレを布団の上から、ベッドに押し倒してきて、オレはその体の重さが、なんだか嬉しかった。
修学旅行、3日目の朝。
朝食を食べて、出発の支度をしながら、オレたちは昨日のうちに広げて、ハンガーにかけておいた、紺のパーカーを手に持って、マスクを一枚、ブレザーのポケットに入れた。
輝も希良もオレも、3人とも、現地に着いて、バスを降りる時に、パーカーを着るつもりだった。
幸い、この日は良く晴れて、気温が低めだったのと、葉山先生が、佐世保市内を走り回って、買ってきてくれたパーカーは、いい感じに薄手だったので、ブレザーの下に着ても、暑くは無さそうだった。
オレたちのクラスと輝のクラスのバスは、昨日の長崎グラバー園で違う車両に取り替えられていたし、ホテルの駐車場に停まっているときは、ナンバーを隠してくれていたと聞いた。
そこまでやってもらっても、まだ…と思うと、どうにも割り切れない気持ちはしたけれど、その一方で、そこまでして、オレたちを守ろうとしてくれる、校長先生たちには、なんと言っていいのか…とにかく、感謝だった。
昨日、パーカーとマスクのことを話したのは、クラスの中、一部のヤツらだけだったけど、みんな、どこからか聞いたんだろう。
出発前のバスに、オレと希良が、パーカーを手に、乗り込むと、なんともいえない空気になった。
「樺沢は、エヴァはどうなの?あんまり?やっぱ、ガンダム?でも、ロボカフェの時、エヴァもイイ感じだったよな。」
その空気を破るように、宮﨑が声をかけてきた。いつもより、少しだけ、大きな声だった、
「イヤ、好きだよ。名作じゃん。今日は、それが一番の楽しみだし。でも、エヴァは、オレよりきらだな。」
「あー、そうだった。田宮、実はそうなんだよな。樺沢の影に隠れてる、隠れヲタだった。」
宮﨑が、思い出しだって感じで、笑った。
「なんだよ、別に隠しても、隠れてもいねーし。」
希良が口を尖らせる。
その顔を見て、あざと可愛いとは、こういうことか?と思ってしまう。
「え?あれ、そうだったのかー。だからか、文化祭の時、樺沢がいなくても、田宮がめっちゃ、話早くて、わかってたのは?」
石川が今さら、そんなことを言い出して、
「お前、今さら、だろ。」
と、宮﨑に茶化されて。
バス全体から笑い声が聞こえて、やっと、溜まっていたおかしな空気が、薄まって、流れ始めた。
「よーし、みんな、ちょっといいか。」
その空気を感じたのだろう。
バスが出発して、すぐ、ナベせんが立ち上がって、みんなに向かって話しかけた。
「この感じだと、みんな、どこかから、何かしら、聞いてるみたいだから、先生の方から、ちゃんと説明しておく。」
そう切り出すと、オレたちのこと、昨日のSNSに拡散されてから、ホテルに雑誌記者が訪ねてきた話、そこから、先生たちが何を考えて、オレたち3人に、何を伝えて、どんなお願いをしたのか。
「みんななら、分かると思うが、今の話、彼らの個人情報の感が強い。そこはちゃんと理解してほしい。
そして、今日の事は、3人の親御さんにも、ちゃんとお話しして、ご了解をいただいたことでもある。」
ナベせんの話に、バス全体が頷く。
「そんなわけで、今日は田宮と樺沢、あとC組の保里、この3人は、ちょっと見慣れない格好で、行動するから。」
そこまで聞いて、オレたちは、あらためて、どんより、肩を落とししたんだけど。
「なんか、不審者みたいだな。」
「不審者にしちゃ、ビジュ、良すぎでしょ。」
「確かに〜。」
「それな〜。」
「まぁ、どんな格好しても、イケメンはな〜。」
バスのあちこちから、そんな、ふざけた言葉が飛び交って、みんながクスクス、笑いをかみ殺していた。
「いいか、不審者みたいだからって、面白がって、お前らが写真撮ったりするなよ!」
そこに、ナベせんがそんなことを言うものだから。
「えー!先生、私は?樺沢くんのご家族期待の、公式の写真係なんですけど?」
目黒さんが、本気なのか、冗談なのか、わからない異議を唱える。
「目黒、お前も、得意の隠し撮りにしておけ。」
さらに、ナベせんが笑って返すと、バス全体、ドッと沸いた。
「公式に、隠し撮り、ですね!了解しました!」
「いや、目黒、それおかしいから。」
「てか、いつから、オレの家族期待の?公式、だよ?聞いてないし。」
「まぁまぁ、いいじゃん。目黒なら、うまくやってくれるって。」
オレと希良のクレームを宮﨑が、変な方向に流すから、バスの中は、もう、収集がつかなくなった。
でも、そのおかげで、オレたちの紺色のパーカーの存在は、もっと、薄く、軽くなっていった。
「この中で、絶叫系がダメ、とか、高いところダメ、とか?
苦手なアトラクションがあるヤツ、今のうちに言って〜。」
昨日のメンバーに加えて、前田たち3人と、佐野たち3人の班が入って、オレたちはいつの間にか、20人超えの大所帯になっていた。
そのメンバーをまとめるように、宮﨑が声をかける。
「とりあえず、全部平気〜。」とか、
「絶叫系は私パス。高いところは平気。」とか、
口々に言いながら、パークの入り口を目指して歩いていた。
「そしたら、これから、まずエヴァのアトラクション、目指して行くから、乗らないヤツは、テキトーに待ってるか、他の乗ってくれよな。」
素っ気ないような、多少、乱暴な言い方にも聞こえるけど、宮﨑はちゃんと、全員の動きを見ていたし、誰かを取り残して動くことはなさそうで、オレ様キャラだけど、次期生徒会長の噂は伊達じゃない、と、感心する。
「おい、とりあえず、マスク、しとけよ。」
キツい言い方に聞こえたけど、宮﨑の顔を見ると、これも、思い切り、心配しているのがわかる。
パークの開園まで後数分、たくさんの人たち、オレたちみたいな修学旅行生や家族連れが、数ヶ所の入り口目指して、歩いてるところだったから、宮﨑の心配はもっともだった。
「おう、そうだな。」
希良がそう答えて、3人ともマスクを付けて、輝は気になったのか、パーカーのフードも被った。
「かがや、背が高いから、逆に目立つんじゃない?フード被ると?」
そう言って、輝から、少し離れたところから見てみる。
間違いなく、頭ひとつ抜けたその姿は、目立たないところか、目を引く存在だった。
「お、じゃあ、オレと一緒に歩こうせ。」
そう言って、輝の隣に並んだのは、佐野だった。輝に、わずかに足りないものの、180半ばで、ガッチリした体格をしているので、確かに輝が目立たなくなる。
「ありがと。でも、いいのか?オレ…。」
「あー、聞いた。昨日、前田に絡まれたんだって?
もう、そんなの。マジに取るなよ。ほら、行こうぜ。樺沢も。久しぶりじゃん。お前はよ〜。」
佐野に呼ばれて、オレも隣に駆け寄った。
「おう。サンキュ。ホント、久しぶりだな。それに、なんか、佐野とこういうの、部活の遠征以外では、初めてだな。」
「だな。てかさ、お前たち、部活辞めるの、早すぎだよ。2人とも、ぜってーまだ、余裕あるだろうに。もー最近、部活がつまんないの、なんのって。」
そう言えば、オレは部活を辞めてから、佐野と話すのは初めてかもしれない。
「え?そうなの?」
そんな風に言われて、なんだかちょっと嬉しくて、佐野を見上げた。
「おうよ。樺沢、いなくなって、2年の戦力、ガタ落ちで。大体、シングルスでちゃんと戦えるヤツ、お前だけだったじゃん?
聞いただろ?秋の大会、一回戦でボロ負けしたって。」
それは聞いたけど、まさか自分たちが辞めたせいだなんて、思いもしなかったから、輝と顔を見合わせた。
「そんな…オレらが辞めたくらいで、そんなことないだろう?佐野はそう思ってくれてもさ。」
オレはそう、否定したんだけど…。
「イヤ、お前、相変わらず、わかって無いな。
夏の大会の時だって、樺沢は間違いなく、2年の、じゃなくて、ウチのエースだったし。
あの時、3回戦で、T学の3年と、フルセットでやり合ったのなんて、他の学校のヤツらもびっくりしてたし。あの3年、結局、あの後優勝したけど、樺沢以外は相手にもされてないくらいだったじゃん。んで、アイツ、インターハイ、行っちゃったし、な?」
「確かに、あの時のみずきは、すごかったよな。それはオレも、そう思う。」
輝も佐野の話に同意して、そんなことをいい出した。
「もう、いいよ、そんな話は。」
照れ臭くなったオレは、久しぶりに佐野と話すのを諦めて、2人から離れ、希良と石川のところに、逃げ込んだ。
「どうしたよ?佐野と、いいの?」
急に並んできたオレに、石川が聞いてきた。
「なんか、また変に褒められて…。くすぐったくて、ダメ。」
マスクの下で、思い切り、変な顔をして、首を振った。
「変にって、何?テニス部のエースだったのに、なんで早々と、辞めたのか、とか、言われた?」
そんなオレに、同じくマスクをした、希良が肩を組んできて、言った。
「え?」
「図星か。」石川が笑う。
「みずき、まさかの?そこも『自覚ゼロ』だったのか〜。」
図星を差されて、驚いたオレに、2人揃って、やれやれ、と肩をすくめ、希良はからかうように、オレにパーカーのフードをかぶせて、頭をグリグリしてくる。
「いや、だって…。そりゃ、テニスは自分でも、頑張っていたし、評価してもらってたとは、思うけど…。エースとか言われちゃうと.慣れない、てか。」
オレも別の意味で、肩をすくめ、フードを深くかぶった。
「これは、宮﨑、説教案件が一つ増えたな。」
「オレが、なんだって?」
知らないうちに、宮﨑がオレたちの後ろに立っていた。
「あー、宮﨑、別になんでもないよ。行こうぜ。早いとこ、並ぼう。」
フードを引っ張りながら、宮﨑を振り返る。
「てか、お前、暑いだろ?そんなしたら、フード。」
そう言うと、宮﨑がオレのフードを脱がせて、軽く、頭を撫でた。
「おーい、触るな〜。」
「あ、ごめんて。髪、直しただけだから。許せ。」
希良が宮﨑を軽く突いて、宮﨑が笑って返して。
なんかもう、昨日からずっと続く、あったかい空間が、そこにもあった。
やっぱり、修学旅行のハイライトは遊園地でしょう!ということと!とにかく、楽しそうな彼らを書きたいと思いまして。もう、クラスメイトとかたくさん出し過ぎて、ワケ分からなくなりそうですがwwまだまだ、もう少し、修学旅行、続きますので、よろしくお付き合いください!




