修学旅行〜2日目ノ漆・ポワポワ姫と希良と輝
思い出はキレイなもの。そして、思い出は、時を経ると、キレイになることが多い。けれども、イヤな思い出もあるし、そういうものほど、消えないことが多い。
ただ、それらすべてで、その人が作られているのは、間違いのないこと。
「まぁな、宮﨑も、悪いヤツじゃないんだよ。オレ様だけどな。」
消灯後、それぞれのベッドに入って、話してた時、さっきの宮﨑、おかしかったよな、と石川が言い出して、5人であらためて大笑いしたあと、希良がそんなことを言った。
「あれだけ勉強が出来て、スポーツだって、今はやってないだけで、本当だったら、ラグビーでK学の推薦、いけたくらいなんだろ?
見た目だって、お前らがいるから、目立たないけど、ワイルド系イケメンだし。そりゃオレ様にも、なるよな。」
お調子者の田内が、宮﨑のスゴさを数え上げて、ため息をつく。
「でも、樺沢にはあたり、キツいとき、多いよなぁ。」
石川がオレの方を見ているのが、わかる。
「うーん、でもさ、考えてみると、別にオレ、何かされた、とかはないんだよな。意地の悪い事、言われたこともないし。
本人が言ってた通り、ちょいちょい、からかわれたり、いちいち、言い方、キツいことはあるけど、どれも、内容は大したことないってか、オレのこと、心配してくれてることが多かったり…。」
オレはベッドに横になって、天井を見ながら、今までのことを思い返していた。
まぁ、「半端なヤツ」って言われたことは、忘れないけどな。
「あれ?それってさ、ヤバくない?田宮と保里、強力ライバル、出現なんじゃね?」
それまで黙っていた、真っ直ぐ担当の松尾が、意外なことを言い出した。
「は?どういうこと?」
希良がちょっと、突っかかっる。
「え?宮﨑って、そうなの?樺沢、狙い?」
田内が起き上がるのが見えた。
「バカ、何言ってんだよ。そんなことをあるはずないだろ、アイツは…。」
言いかけて、言葉を飲み込む。
そうだ、アイツは希良のことが好きなんだ。
「アイツは?何?」
「いや、アイツは、オレみたいに平凡で、2軍なヤツが、変なとこで目立ったりするの、見てて、イラついてんだろ?きっと。」
苦し紛れだけど、ホントに思ってることを言ったのに、何故か部屋が、おかしな沈黙で満たされてしまった。
「え、なに?オレ、なんか変なこと、言った?」
「んーとな、樺沢、お前、何、勝手に、自分から降格してんだよ。」
オレに向かって、石川が起き上がってきた。
「だな、誰か、お前が2軍だって、平凡だって、言ったのかよ。」
松尾がそう、続いて、異を唱えると。
「まー自覚ゼロのポワポワ姫だからな〜、仕方ないっちゃ、仕方ないんだけど〜。」
田内は、相変わらず、ポワポワ姫がお気に入りのようで。
「確かに、ここまでポワポワだと、宮﨑、イラつくかもな。」
なんと、希良までが、半笑いで、のってくる。
「なんだよ、きらまで。オレ、ずっとそうだったじゃん。中学時代から、お前らと一緒にいると、そう言われて…。」
「みずきさ、それは、確かに、そうだったけどな。そう言われてたよな。中学の頃。
でもさ、大体それは、お前に嫌なこと、言いたいってヤツらが、そう言ってたわけだし。」
希良も、起き上がって、みんなの方を見ていた。
「え、ごめん、それ、どういう?樺沢、中学の頃って?」
石川が驚いて、オレと希良を、交互に見ていて、松尾と田内も、物言いたそうにしていたけんだけど。
「あーごめん、石川。言い出しておいて悪い!そこらへんのことは、ちょっと、聞かないで。
みずきも、この辺でやめておこ。平気?」
からかい半分だった希良が、中学の頃の話になると、急に硬い声になって、オレのベッドに座って、オレの首の後ろに手を回して、顔を覗き込んできた。
「あ、うん。平気。ごめん、オレ…。」
「大丈夫。もう寝よ。明日、楽しみにしてる、エヴァのアトラクション、乗れなくなるぞ。」
その様子を見て、石川も松尾も田内も、黙ってしまった。
「田宮、起きてる?ちょっといい?」
瑞稀が寝たのを確かめて、石川が声を顰めて、オレを起こしてきた。
さっきの話、瑞稀のことを、いつも心配している石川が、あのままで済むと思っていなかったから、すぐに起き上がった。
「外、出るか。」
小声で言うと、2人、ジャージの上を羽織って、音を立てないようにして、廊下に出た。
誰もいない廊下を進んで、エレベーターホールのソファに座った。
「さっき、ごめんな。途中で話、切り上げちゃって。気になるよな。あんなこと聞かされたら。」
言い出しづらそうな、石川の顔を見て、オレから話し始めた。
「ごめん、聞かない方がいいのかな、とも思ったんだけど、やっぱり、気になって。おれ、樺沢のことも、お前たちのことも、好きだから。
なぁ、樺沢って中学の時、イジメられてたの?
そんなこと、誰からも、聞いたことないんだけど。」
遠慮がちに言葉選びながら、真っ直ぐな目で石川が聞いてきた。
「そうだな。イジメられてたかって、聞かれれば、そんなことない、って言うしかないんだけどな。」
そこでオレは一度、言葉を切った。
石川は、何も言わずに、オレの言葉を待っていた。
「ごめんな。みずきだけじゃなくて、オレも、この話、するの、結構キツいんだ。」
「え、それじゃ、いいよ、オレ…。」
焦った石川が、話を切り上げようと、腰を浮かせたのを、オレが腕を掴んで、引き止めた。
「いや、いい。聞いて。
石川、ずっと、オレたちのこと、気にしてくれてるの、ホント、嬉しいし、みずきもオレも、たぶん、かがやも、お前のこと、好きだから。
ただ、ちょっと、全部は無理なのと、ごめん、ゆっくり話させて。」
石川は頷くと、あらためて、オレの横に、座った。
「中学の頃、みずきのこと、イジメてたっていうか、アイツに嫌なこと言ったり、嫌がらせみたいなことをする連中がいて。」
またここで、オレは言葉をきる。
石川は、何も言わない。
「その連中以外は、みんな、みずきのこと、なんとも思ってないっていうか、普通に、好きだったんだよ。
でも、そいつらが…、かがやとオレの、ファンだとか言うヤツらが、ヒドイことして、みずきのこと、何度も、何度も、傷つけて…。」
「え?」
そこまで聞いた石川が、驚いて、息をのんだ。
「それで…実は、みずき、今、その頃のこと、ほとんど覚えていないんだ。
そして、たまに、それを思い出しそうになると…、うまく、呼吸が出来なくなるみたいなんだよ。」
そこまで話すのが、やっとだった。
オレが大きく、息を吐くのと、石川がもう一度、息をのむのが、同時だった。
「もしかして、お前たち3人が、高校入ってから、この前の夏休み前まで、一緒にいなかったのって、そのせい?
樺沢が、ワケあってって、そう言ってた…。」
「あー、石川にはそんな話したって、言ってたな。
まぁ、簡単に言えば、そういう事なんだけど…。」
「ホントは、そんな簡単な話じゃないんだな。いいよ、これ以上、話すな。」
察しが良くて、人の気持ちがわかる、石川らしい言葉を返されて、オレは、もう、何もう言えなくなる。
「いつか、樺沢が、平気で話せるようになるまで、待つよ。
田宮の気持ちも、その時には、もっと、軽くなってるはずだろ?
また、その時、話そ。オレ、何年経ったって、その時は、なんだよそれって、笑ってやるからさ。」
そう言って、オレの肩を抱いてくれた。
ホントにコイツは…いいヤツ過ぎる。
輝は、オレと同じ思いをして、今もそれを共有している親友で、戦友だけど、何も知らないのに、こんな風に寄り添ってくれるなんて、ありがたくて、涙が出る。
「石川、お前、ホント、いいヤツだから、甘えていい?もうちょっとだけ、聞いてもらっていい?」
「おう、いいぜ。オレで良かったら。」
そう言って、肩をポンッと叩かれた。
「オレも、かがやもさ、見た目、こんなんで、いい思いしたことなんて、ぜんぜんなくて。
見た目が良いから、飾り物みたいに、横に置きたいって、寄ってこられたり、アイドルや芸能人になってくれれば、その友達って、自慢出来るからって言われたり。
そんなことばっかでさ。」
「なんだよ、そんなん、友だちでも、なんでもないじゃん。」
石川が、鼻息荒く、オレを抱く手に力を入れる。
「でも、みずきはさ、見た目だけ、じゃないし、見た目は関係ない、内面が、っていうのでもないんだ。」
「うん。」
「見た目好き、で内面も入れると、もっと好き、って。そう言われてるみたいな、素っ裸でぶつかって来てくれる、みたいなとこ、あって。」
オレの下手な説明に、石川が笑って頷いてくれる。
「わかる。アイツ、そういうとこ、あるよな。
オレも、1年の時、同じクラスに後から入ってきたのに、なんか屈託なくて、なんだ、コイツ?って思ったよ。
もちろん、良い意味で、だけどな。」
オレも石川の話に、笑って頷いた。
「そっか、うん、そうなんだよな。
そんな風に思われたり、言われたりするの、オレも、かがやも初めてで。なんか、ホントに、救われたっていうか。
それで、もう、オレらが、アイツのそばから、離れられなくなったんだよ。
なのに、それが、気に入らないって…みずきが、オレたちにうまく取り入ってるとか、言うヤツらが、みずきのことを…。」
そこで、また言葉を切ると、石川がまた、ギュッと、オレの肩を抱いてくれた。
「中学生なんて、ホント、ワケわかってるようで、何にもわかってない、ガキだからな。ふざけんな、だよな。
ちなみに、だけどさ、オレも、田宮と保里のこと、顔も、中身も、好きだからな。」
「え、そうなの?」
「まぁ、でも、樺沢のことが一番好き。」
「なんだよ、一緒じゃん。」
ふざけた言い方してても、多分、全部、本心だと思う、石川の言葉は、なんだか、オレの心を軽くしてくれた。
それから、少しの間、他愛のない話をして、お互い眠くなったな、って、部屋に戻ることにした。
ベッドにはいってから、なんだか、今、オレたちの周り、良いヤツばかりだなぁと、心から思って。
その事や、今の石川との話を、輝に話したいって、そう思いながら、瑞稀の、規則正しい寝息を確かめて、眠りに落ちた。
昨日の朝は、どうしても、我慢出来なくて、瑞稀のことを呼び出してしまった。
そして、それだけじゃ、おさまらず、あんなことを…してしまった。
瑞稀、すごく驚いて、困った顔してた。
ホントは今日だって、同じように瑞稀を呼び出したいし、昨日よりもっと、強く、求めたい気持ちだったけど…。
今日、これからのことを考えると、瑞稀に負担をかけたくなかったし、あんまりやりすぎて、嫌われたくなかったから、ベッドの中で延々とスマホを触り続けた結果、諦めた。
『起きてる?』
驚いて、スマホをベッドに落としてしまった。
でも、メッセージは、希良からだった。
(ガッカリしてんじゃねぇよ。)
自分に毒付き、スマホを見直して、メッセージを返す。
『起きてるよ。なんかあった?』
そこから、しばらく、返信がなかった。
これは、何かあったんだな、と、理解した。
希良は、ワガママなところはあるけど、瑞稀以外には、甘えるのは苦手なのだ。
『エレベーターホールまで、来られる?』
と、返すと、秒で「OK」のスタンプが届いた。
エレベーターホールに行くと、希良がもう座っていた。
別に、おかしな顔はしていなかったから、悪いことがあったワケじゃ無さそうだった。
「ごめんな、早くに。」
「いや、どっちにしろ、起きてたし。」
「みずきを呼び出したかったんだろ?」
「え、あー、まぁ、ちょっとな。」
鋭い事を言われて、思わず、言葉に詰まった。お見通しだったか。
「で、何?どうかした?何かあった?」
ごまかすように、希良に質問を投げる。
「実はさ、昨日の夜、みずきが…。」
「そっか、そんなことが…。みずきもな〜、いい加減、分かれよって、思うんだけどなぁ。」
「そうなんだよ〜。昨日、ちょっとわかった風なこと、言ってたのに、なんか元に戻ってるし。それで、思わず…。」
「中学の時のこと、持ち出しちゃったってわけか。」
希良が、後悔、というより、反省した顔で、頷く。
「まぁ、それくらいで済むってことは、みずきもずいぶん良くなってきてるって、ことだよな。気にすんなよ。大丈夫だよ。」
そう言って、希良の背中に手を当てた。
「それにしても、石川、すごいヤツだな。希良に、そこまで話させちゃうとは。」
「そうだよなぁ。ほんと、なんか自分でも、ビックリだった。でも…。」
うん?と、希良の顔を覗き込んだ。
「多分、アイツは信用していいって、そう思って。目黒とかと同じかなって。でもさ、昨日のこと考えると、みんな、いいヤツには思えてきて。オレ、甘いかな?」
「いや、そんなことないよ。オレも、そう思ってた。
昨日、長崎着いてからのことも、打ち上げでのことも、中学の頃と、何が違うのか、考えてた。」
希良が黙って、頷いた。
「中学の時より、みんなが大人なんだってことは、あるよな。
でも、それだけじゃない。なんかわからないけど。」
「偏差値が高いから、いいヤツってことは、ないはずだけどな。」
「なんだよ、それ、ない、ない。」
オレのふざけた言葉に、希良が笑った。
修学旅行も盛り上がってきました!色々、ありますが、みんな、最後まで楽しく過ごして欲しいと、思っています。
ちょっと、切ない事もあるかもしれないです。
それでも、修学旅行はみんなを成長させ、一際キラキラしていきます!
ちなみに…筆者、絶賛、夏休み中の為、変則投稿、失礼いたします〜ww




