修学旅行~2日目ノ陸・負けるが勝ち
逃げるは恥だが、役にたつ。負けるが勝ち。などなどの言葉は、必要だからこそ、生まれた、生きる術。
若い頃には、卑怯なような、ズルいような気がしても、それは絶対的に、必要なこと。
大盛り上がりした打ち上げが、そろそろお開きになる頃、ナベせんがきて、オレたち3人に声をかけた。
「3人とも、ここ終わったら、ちょっと残って。」
なんだか不穏な感じがしたけど、3人揃って、「はい」と返事をした。
それを見ていた、目黒さんが、ナベせんがいなくなるのを待って、そっと近づいてきた。
「他のクラスの子からの情報だけど、なんか、SNSを見て、3人に会いたいって人が、ホテルまできたらしいって。多分、そのことだよ。
でも、校長先生が、毅然と断って、帰ってもらったらしいから。安心して、大丈夫。」
と、他の人たちには聞こえないように、耳打ちしてくれた。
「え?何それ?どういうこと?」
「誰だよ、それ?」
「なんで?」
安心して、と言われても、そんなことを聞かせられて、平常心でいられるわけがない。
さっきまでの浮かれた気持ちが、一瞬にして、萎んでしまった。
「なんだ、3人とも、そんな顔して。」
みんな部屋に戻って、風呂の準備なんかをしている時間だったけれど、オレたちは、しけた顔をして、食堂に残っていた。
「なんか、オレたちに、会いにきた人がいたって…。」
希良が、恐る恐る、口を開いた。
ナベせんだけじゃなくて、輝の担任の葉山先生と、校長先生も来たことで、事の大きさがわかる。
「おいおい、なんだ?早いな、情報。
まぁ、その通りだ。でももう、1時間以上前のことだし、校長先生が、ちゃんと断って、帰ってもらったから、それは、心配しなくていい。」
「そうよ。あなたたちは、何も悪いことしていないんだし、校長先生も私たちも、みんなを守るのは、当たり前なんだから。そんな顔しなくていいのよ。」
今回初めて、オレたちに声をかけてくれた葉山先生が、優しく笑ってくれた。
「ありがとうございます。」
輝が前髪をかき上げながら、少し笑顔を見せて、そう言った。
「ただね。明日のハウステンボスは、1日、自由行動になるし、場所柄としても、少し気をつけた方がいいかもしれないって思うんです。」
「本当はこんなこと、みんなにさせたくないのよ。
それは、わかって欲しいの。」
校長先生と、葉山先生が、少し悔しそうに、そう言って、ナベせんも頷くと、おもむろにテーブルの上に、ビニールに入った3枚の服を並べて、その上に、マスクを置いた。
「これ?」
オレがナベせんの顔を見て、聞いた。
「明日、これを着て、マスク付けて、欲しいんだ。」
良く見ると、それは制服のブレザーと同じ、紺色のパーカーのようだった。
「でも、ウチの学校、制服の下にこういうの、ダメなんじゃ…?」
オレの疑問に、校長先生が頷いて、おもむろに口を開いた。
「その通りです。だから私が、私から、みんなにお願いするんですよ。
明日は、ブレザーの下にこれを着て、もちろん、ずっと、じゃなくていい。でも、騒ぎになりそうな時や人混みの中では、フードを被って、マスクして、やり過ごして欲しいんです。
葉山先生が言った通り、こんなことをお願いするのは、不本意なんです。本当に。でも、君たちを守るために、お願いします。」
校長先生に、頭を下げられて、オレたちは顔を見合わせた。
誰も、何も、言わなかったけれど、多分、3人、同じ気持ちだったと思う。
オレたちは何も悪くないのに、なんで、逃げ隠れするような事、しなくちゃいけないんですか、というのが、本当の思い、3人の本心だった。
けれど、そんな事、先生たちは、百も承知でなはずで。
本当に隠したいなら、明日、オレたちに、ハウステンボスではみんなと一緒に遊ばず、ずっと先生たちと、目立たないところにいるように言うことだって、出来たはずなのに。
返事をすることも出来ずに、黙っているオレたちに、校長先生がさらに言った。
「君たちに、話すつもりはなかったんですが…。
さっき、ホテルに来たのは、名前を聞いたことのある雑誌の、記者を名乗る人でした。
SNSにアップされた君たちの写真を見て、来たと。
読者モデルとして、修学旅行中の君たち3人の写真を撮らせて欲しい、そう言われました。」
それを聞いて、3人とも、弾かれたように、顔を上げた。
「君たちの中に、芸能界を目指したいと思う人が、例えいたとしても、学校として、修学旅行中に、そんなことは、認められません。
ましてや、君たち3人にそんな気持ちがないことは、先生方が良くご存知です。でも、隠し撮りでもされたら?だから…。」
「わかりました!」
2人の間にいたオレが、校長先生の言葉を最後まで聞かずに、答えて、輝と希良も頷いた。
「逃げたり、隠れたりするのは、正直、イヤです。
でも、ここまで考えてくださって、ありがとうございます。
校則を曲げてまで、オレたちのことを…。」
希良がそう言って、頭を下げた。
「あの、このパーカーのお金は?買ってきてくださったんですよね?帰ってからでもいいですか?」
輝がパーカーを手に取って、葉山先生の方を見て、聞いた。
「そんなことは、気にしなくていいの。
このことは、ちゃんと、ご家族にお話しして、ご了解いただいて、学校として、君たちにお願いすることなんだから。」
葉山先生が、さらに優しい笑顔をオレたちに向けてくれて、校長先生も、ナベせんも頷いてくれて。
オレたちはパーカーとマスクを手にして、立ち上がると、3人揃って、深々と、頭を下げた。
部屋に戻る手前の、誰もいないエレベーターホールで、3人、言葉もなく、座り込んだ。
「困っちゃったな。オレまでこんなんじゃな。なんの役にも立たなくて、2人に申し訳ないよ。
オレ、2人のキラキラ度、薄める役なのに…。」
やっと、絞り出した言葉。でも、何の意味もなく、空中に消えていく気がした。
「そんなこと言うなよ。みずきは、自分が可愛いいって、わかってないんだから…。こういうの不思議なことじゃないって、前から言ってるのに。」
希良がオレの肩に手を回して、抱き寄せる。
「逆に、イヤじゃない?オレたちといて、こんなこと、しなくちゃいけないのは…。
オレたちと離れて、石川たちといれば、平気かもしれない…。」
輝もオレの手を、ギュッと握ってきた。
「何言ってんだよ。3人でいたいって、オレが言ってるのに。仲間はずれにするなよ。」
希良に体を寄せて、輝の手をギュッと握り返して…気がついたら、涙が出ていた。
「おい、かがや、泣かすなよ、みずきのこと。」
「ごめん、そんなつもりなかったんだ。ごめんな、みずき。泣くなよ。」
繋いでいない方の手で、輝が涙を拭ってくれた。
「あ、いたいた!どうしたよ、3人揃って、こんなとこで?帰って来ないから、心配したじゃん。ほら、風呂、行くぜ。」
青木と石川が、2人でオレたちのことを探しにきてくれた。
「あ、ごめん、ごめん。待たせてたよな。」
オレがそう言って、立ち上がると、石川が、オレたちの持っている、パーカーとマスクに目を止めた。
「何それ?お土産?マスク?」
「あー、これ?えっとね…。」
オレが何と言えばいいのか、迷っていると。
「青木、悪いけど、坂本も一緒に、石川たちの部屋に、来てもらえる?
ちょっと、話しておきたいことがあるんだ。」
輝がそう、青木に向かって、言うと、青木は何かを察して、「おう。」と応えて、坂本を呼びに走って行った。
「そうだ、きら、宮﨑たちにも来てもらった方がいいよな。」
「あ、だな。連絡する。」
そう言って、希良が宮﨑にメッセージを送っていると。
「樺沢くん!田宮くんでも、保里くんでもいいから!誰か!」
エレベーターの方から、目黒さんの叫ぶ声が聞こえてきた。
ホテルの部屋は、フロアで、男子と女子に別れていて、それぞれ、どちらのフロアにも行かないように、言われている。
だから、目黒さんはエレベーターの中から出ずに、オレたちを呼んでいたのだ。
「どうしたの?目黒さん?そんな、大きな声出して。」
オレがエレベーターの方に行くと、澤田さんに腕を掴まれて、目黒さんが、明らかに、怒って、半分、身を乗り出していた。
「どうしたの?じゃないわよ!さっき、先生に聞いて!いいの?樺沢くんたちが、あんなこと!」
ああ、そうか、目黒さん、先に、ナベせんか、葉山先生から、聞いたんだなと、分かった。
「何があったんだよ?樺沢?」
心配そうな顔した石川に聞かれて、オレは輝と希良の顔を見て、2人もわかった、と頷いたので、場所を変えて、中二階のロビーにみんなに集まってもらうことにした。
「なんだよ、それ。なんで、田宮や樺沢たちがコソコソしなくちゃいけないんだよ!」
紺のパーカーを胸に抱えたまま、希良がみんなに、明日のことを説明した。
それを聞いて、最初に怒りを露わにしたのは、宮﨑だった。
そこには最初の予定より多く、今日の後半、一緒にいた宮﨑たちや、村田さんの班のメンバーも、集まっていた。
目黒さんは、一度、怒りを爆発させたからか、黙っていたけれど、握りしめた拳が、ずっと、小刻みに震えていた。
「ありがとな。宮﨑も、目黒さんも、オレたちのために、そんな、怒ってくれて。
でも、いいんだよ。さっき、校長先生、葉山先生、ナベせんと話して、オレら3人、納得したんだよ。」
オレが、出来るだけ、穏やかに、希良の後をうけて、そう言った。
「でも!」
坂本がオレに向かって、言い返す。
「そうなんだよ、坂本、ありがとな。」
輝が坂本の肩に手をのせて、続けた。
「みんなが思ってくれたこと、オレたちも、当たり前に思ったし、今だって、思ってるさ。
なんで、逃げ隠れする必要があるんだ、オレたち、何も悪くないのにって、な。
でも、それ、先生たちだって、同じこと考えたはずなんだ。
それに、オレたちを、本気で隠したいって考えるなら、先生たちはもっと、他のやり方もあったはずだろ?
先生たちと一緒に、どこかの店でずっと…って、言うことだって、出来たし、そう言われたら、オレたち、そうするしかなかったじゃん。」
みんな、言葉を無くして、黙ってしまった。
「それに…。」
と、もう一度、オレが続いた。
「みんなのおかげで、今日の後半は騒がれることもなく、楽しくやれたじゃん?
明日も同じなら、それで良かったんだと思うんだよ。
でも、さっき聞いたのは、マスコミ、つまりは追いかけるプロが、オレらのこと探してるってことで。まぁ、オレからすると、わけわからんのだけどな。
今日みたいにはいかないって、先生たちが考えたって、みんなもわかってくれるよな?」
「だからさ、みんなと一緒に、ハウステンボス、堪能したいって思うと、先生たちの提案、受け入れるしかないなぁって、そう思ったんだ。
まぁ、負けるが勝ち、みたいな?
あ、でも、そんなオレらと一緒じゃちょっと、って思うなら、いいんだぜ、明日はみんな、好きにしてくれよな。」
オレの後に、希良がそう言ったけれど、誰一人として、明日、別行動するとは、言わなかったし、そんなこと考えてもいないって空気だった。
「あのさ、オレらが、逃げ隠れするよりイヤなのは、一番、避けたいのは、みんなに、嫌な思いさせることなんだよ。
だから、今じゃなくて、これから考えて、決めて。
明日、もし、一緒に遊べなくても、なんとも思わないし、その事で、これからの関係が、変わることもないからさ。」
出来るだけ軽く言って、な?って感じで、宮﨑の肩を叩いて、笑ったんだけど、速攻で言い返される。
「おい、樺沢、お前、オレのこと、なんだと思ってるんだよ。
オレはな、お前を、しょっちゅうからかったり、変なあだ名、付けたりしてるけどな、これでも、お前のこと好きだし、遊んでて、楽しいって思ってるんだよ!
わかれよ、それくらい。お前、頭いいんだから!」
そんな、褒めてくれてるのか、けなされてるのか、相変わらず、分かりにくい、宮﨑の言葉に、思わず石川が、
「なんだよ、宮﨑、それ。わけわかんねー。」
と、吹き出して、それにみんながつられて、いつの間にか、その場が大爆笑になった。
「もー、やだ、宮﨑くんったら、ホント、やめて。」
一番、怒っていた目黒さんが、涙を流して、一番、笑っていた。
「オケ!わかった!」
その目黒さんが、涙を拭いながら、立ち上がった。
「私、忘れてたよ。あまりにも、怒り過ぎて。
マスクしてても、パーカーのフード被ってても、樺沢くんは、樺沢くん。田宮くんは、田宮くん。もちろん、保里くんも、保里くん。
何も変わらないんだよ。ね、だから、明日も、今日と同じ、みんなで、楽しく遊ぶだけ!そういうことでしょ?」
さすがのシメの一言に、拍手と、「おぉ〜」という声が湧き上がって。
「じゃ、明日ね。」という、軽い言葉で解散となった。
「あーあ、オレ、ただの平凡な2軍男子なのに…。なんでこんな…。」
急がないと、風呂に入れなくなる、と、石川と青木がみんなを煽って、部屋に戻ろうと、急いでいた時、希良とも、輝とも離れて、廊下を歩きながら、思わず、そんな独り言が漏れてしまった。
そう、ずっと、オレは、中学の頃から、そう思っていたのに。
希良と輝は、オレと一緒にいるけど、明らかに違う、キラッキラの1軍男子。それに比べれば、オレなんて…と、思っていたし、今も、思っているのに。
「樺沢、お前さ…。」
「え?なに?宮﨑?どした?」
誰もいないと思っていたのに、オレの後ろにいた宮﨑から声をかけられて、驚いて振り向くと、なんだか、不満そうな顔で、オレを見ていた。
「いや、まぁ、今日はいいや。お互い、疲れたしな。
でも、お前、一度、ガチで説教させろ。わかったな。」
そう言って、宮﨑は「じゃ。」と手を上げ、自分の班の部屋に入っていった。
相変わらず、オレ様キャラで、優しいのか、キツいのか、ぜんぜん分からない。
「うん、またな…。」
でも、どうやら、オレのことを好きだと思ってくれてるらしい、宮﨑の背中に、そう声をかけて、オレも、自分の班の部屋に入った。
それから、班の時間、関係なく、残ってたオレら全員で大浴場に押しかけたから、結局、宮﨑とも、またそこで一緒になって。でも、その時には、特に何も言われることもなく。
お湯のかけ合いの時に、盛大に3杯、連続でかけられただけで…。
ヤツの気が済んだらしかった。
この回で、またまた予想してなかったキャラが出てきました。そうです!宮﨑くんですww最初は嫌われ役として、書き始めたのですが、どんどん、良いヤツになってきました。これからの活躍が楽しみです!
で、またまた長くて、すみません!




