修学旅行・2日目ノ伍〜打ち上げと温かい夜
時間には、温度がある。空間にも、温度がある。人にも、温度がある。気温でも、体温でもない、温かさや冷たさ。
それらは全て、人が作り出すものだと思う。
そして、その温度を感じとるのもまた、人だけなのだと思う。
「えっと、みんな、今日もお疲れ様でした。
なんていうか、今日は、色々あって、田宮くんと樺沢くん、それに保里くんが、一時的にとはいえ、別行動になったのは、私、まだ、許せない気持ちです。」
そこまで言って、目黒さんがひと息つくと、クラスのみんなから、「そうだ!」「許せないよな」「ひどいよね」などと、賛同する声が上がった。
「ありがと、みんな。
でも、そのこと、ずっと、そんな風に思ったり、言うのは、もう、やめようよ。
だって、私たちが忘れないと、樺沢くんたち3人は、もっともっと、この、イヤな気持ちを忘れることが出来ないよね。
だから、この後、みんなで「乾杯」って叫んで、今日のことは忘れよう!
そして、また明日から、残り2日、楽しい旅行、続けよう!」
またそこで、言葉が切れると、みんなの中から拍手が巻き起こる。
オレたち3人は、そこまで聞いただけで、必死に、込み上げるものをこらえていた。
「そして、もう一度、文化祭のこと、話させてね。
3人以外には、一度話したことなんだけど、ごめんなさい。」
そう言った目黒さんに、また色んなところから、「いいぞ」「聞かせて」などなど、声がかかる。
「ありがとう。えっと、文化祭、お疲れ様でした。そして、我が2年D組、最高でした!」
ここで、またまた、拍手が起こる。
「企画賞を取ったこと、それは、すごいことだし、評価されたのは嬉しいけれど、そういうこととは別にして、みんながあの、ヲタクの結晶?みたいな、ガンダムの頭を中心に、言葉や行動はもちろん、みんなの気持ちが集まって行ったあの時間、ホント〜に、最高でした。楽しかったね!
そして、その時間を過ごすきっかけを作ってくれた、発案者で、頼もしい指揮官になった樺沢くん、それを支えて、寄り添って、形にする力になった、田宮くん、今日はスペシャルゲストとして来てもらった、C組の保里くん。
あ、せっかくだから、3人立って、こっち来て。」
「え?」
「いや、いいって。」
「オレは…、だって…。」
オレ、希良、輝、の順番で後退るけど、周りにやいのやいの言われて、仕方なく、立って、飲み物を手に、目黒さんの横に並び、ぺこりと頭を下げる。
「メグ、写真は?いい?」
「あー、いいけど、ほどほどにして。あ、拡散はダメ、絶対!だよ。」
海藤さんがスマホを掲げて、声をかけると、目黒さんがふざけて返し、また、ドッと場が盛り上がる。
「で、もうちょっとだけ、続けまーす。
まず、樺沢くん、お疲れ様でした。ありがとう。
彼、ホントはみんなの中心になるとか、苦手で、テニス以外では、大人しくしていたい、そういう人です。
絶対ボツになると思って出した、ロボカフェの企画案が、あんなことなって、最初はマジで、腰が引けてたよね。
それ見て、私、ちょっと、ふざけんな、って思ってました〜。」
そうだよ、あの時はな…って思い出すと、今は、笑い話でしかないけれど。
「はい、あの頃の目黒さん、ガチで、怖かったです。」
ふざけ半分の目黒さんの言葉に、オレがそう返すと、
「樺沢〜、思い出して、泣くなよ〜。」
と、田内が叫んで、更に、
「メグ、樺沢くん泣かせると、両隣が黙ってないからねー。気をつけて!」
澤田さんが大笑いしながら、そう言って、全員がまた、大笑いする。
「なんだよ、このあったかい空間…。」
クラスが違う輝が、ここまでのみんな、目黒さんを見て、驚いて、オレに耳打ちしてくる。
「今朝のバスの中も、こんなんだったんだぜ。」
後で話す、と希良が同じく、輝に耳打ちする。
「もう、その頃のことは、ちゃんと謝りました!
ね、樺沢くん?」
目黒さんが話しながら、オレたちに近づいてきて、オレの肩をポンポンって叩いた。
「うん、もう、写真以外は、怖くないです〜。」
「いや、何それ?どういうことかな?」
また、そんなことを言いあって、目黒さんも含めて4人、大笑いする。
「あ、長くなるから、まとめるね。
そんな樺沢くんも、準備が始まると、どんどん、みんなの中心になって、色んなことを考えて、細かく説明してくれたり、指示してくれて。
ポワポワ姫は、実は頼もしい指揮官で、今も、みんなの心の真ん中にいるんだよ!ホントにお疲れ様でした。」
ここでは何故か、みんな、ちょっと、しんみりしてしまった。
「そして、その樺沢くんを助けて、盛り上げて、企画を形にするのに力を貸してくれたのが、田宮くんと保里くん。
田宮くんは、なんでも器用にこなすようだけど、でも、その裏で、大変な努力をする人です。
アイドル超えのイケメンなのは、彼の、ほんの一面で、優しくて、熱い人。そのすべてを、この文化祭で樺沢くんのため、クラスのためにぶつけてくれました。ありがとう!修学旅行の実行委員も、まだ続くけど、お疲れ様でした。」
ここでもう、何度目かの拍手が起こる。
「そして、保里くん。
クラスが違うのに、自分のクラスのことも、ちゃんとしながら、やっぱり、樺沢くんを助けるために、ホントに色々、やってくれました。
クールビューティー、学年トップ、としか知らなかった我々は、こんなに熱くて、一途な人、優しい人だと知って、クラスを超えて、大好きになりました。
怪盗キッド、めちゃくちゃ、かっこよかったです!
今日は参加してくれて、ありがとう。」
そんな風に言われて、希良も輝も、照れてるけど、それでも、嬉しそうに、みんなに頭を下げてた。
「ホントにみんな、最高でした!
そして、今も、最高だよ〜!
さて!スピーチはこのくらいでいいね。
みんな、乾杯するよ!」
おお〜、とみんなが声をあげて、飲み物を手に立ち上がった。
「じゃ、ここで、樺沢くん、ひと言と、乾杯の発声をよろしく。」
「え?いや、無理っす。こんな名スピーチの後で。」
当たり前だけど、オレはムリムリと、両手をブンブン、振り回し拒否する。
けど、これも、当たり前にその場の空気にやられて、仕方なく、話すことになってしまった。
「えっと、まず最初に、お礼を言わせてください。
文化祭のことも、昨日から、今日、起こった色んなこと、それら全部に、みんなが向けてくれた、優しさと、寄り添ってくれたこと、ホントにオレ、オレたち3人嬉しかったです。
ありがとうございました。」
そこまで言って、オレが頭を下げると、それについて、両隣の2人も、頭を下げた。
「何言ってんだよ…。やめろよー。」
石川の泣きそうな声が聞こえて、オレも泣きそうになるけど、そこは堪えて、顔を上げると、石川の顔を見て、笑いながら、親指を立てて、話しを続けた。
「文化祭のことは、目黒さんの言ったことが全てなので、割愛させてもらうけど、その中で、オレからも言いたいこと、それで終わりにします。じゃ、みんな、飲み物、準備、OK?」
「いい?じゃ、行くよ!
2年D組、オレたち、サイコー!
乾杯!」
『乾杯!』
オレの声に続いて、全員が叫んで、手に持った飲み物を高く掲げた。
その後、その日一番の拍手がまき起こって、みんながウォーとか、わーとか、ヒューヒューとか、色んな声を出して、肩を叩き合ったり、握手したり、オレのところまで、握手しにきてくれるヤツもいた。
「保里〜、ちょっと、こっち来いよ。」
そう声をかけてきたのは、輝と、1年の時に同じクラスだった前田だった。
「おう。」
と、答えてから、一度オレたちのことを見た輝に、2人揃って、行けよ、と頷く。
輝がそばに行くと、前田と他の数人(多分、みんな1年の時同じクラスのヤツら?)が、輝を取り囲んで、嬉しそうに話し始めるのが見えた。
「もー、お前、クラス変わってから、冷たくない?」
「ホントだよ。樺沢しか目に入ってないのは、前からだから、仕方ないけどな。オレたちのこと、忘れ過ぎだろ?」
そんな言葉が聞こえてきて、希良と一緒に、席に戻っていたオレは、思わず吹き出して、希良もオレを見て、笑った。
「てか、今回の班もさ、なんで青木たち?」
「いや、青木がすぐに声かけてくれたから…。班決めの時。」
輝がいつもより、淡々と話すのが聞こえて、オレは思わず、耳をそば立ててしまう。
「保里〜、お前はもう、いつもそれだよ。」
「クールビューティーが過ぎるだろ。」
「いいけどさぁ、佐野たち、残念がってたぜ。」
「あー、そっか、それは悪いことしたな。」
輝がすまなそうな顔して、前髪をかき上げた。
困った時によくする、輝のクセだった。
佐野というのは、オレたちと同じ、テニス部で、輝とは、1年の時からずっと同じクラスなので、オレがいない時、ていうか、オレが輝のことを忘れていた間は、輝と一緒にいることが多かったヤツだった。
前田たちは、別に絡んでるワケじゃないし、意地の悪いことを言ってるわけでもなかったんだけど、そこまで聞いて、オレは思わず、立ち上がって、希良に目配せをすると、輝の後ろから近づいて、前田たちに声をかけた。
「悪い、前田、もうそのくらいにしてやって。
ほら、夏休み明けから、コイツ、オレの面倒見なきゃいけなくなって、色々大変だったからさ。
知ってるだろうけど、オレ、結構、手がかかるから。」
そうやって、ちょっと戯けて見せると、輝の肩に後ろから手を回して、顔を寄せた。
その瞬間、輝が体を固くしたのがわかった。
「おいおい、なんだよ。樺沢、今度は、あざと可愛い系かよ〜。」
前田がそれにのってくれて、そう笑うと、そこにいるヤツらも、「それじゃ、仕方ないかぁ。」とか、「姫のためだからなぁ。」とか、からかい半分の言葉が続いて、その場がドッとわいて、オレはホッとした。
「あー、ちょっと!そのまま!写真撮らせて!」
そこに、目黒さんが乱入してきて、オレと輝を、強烈連写し始めて。
「おい、目黒、オレらも撮ってくれよ。」
前田と仲間たちがそう言うと、オレたちを取り囲んで、ポーズを取り出した。
「えー、このカメラ、イケメンしか写らないんですけど〜。」
「なんだよ、それ?ハラスメントか?」
「え、何?オレら、なんの問題ないだろ?撮って、撮って。」
目黒さんの言葉に、誰も負けることなく、言い返して、結局、しばらく、撮影会にはなった。
「なんか、色々、悪かったけど、別にお前たちのこと、忘れてるわけじゃないし。前田たちがいたから、文化祭の時、D組、手伝うのも、出入りするのも、ぜんぜん、平気だったんだよ。だから…。」
輝があらためて、真面目な顔して、前田たちにそんなことを言い出すと。
「おいおい、やめろって。さっきのは、冗談だって。ちょっとオレらも、かまって欲しかったっていうかさ。
そういうとこも、相変わらず、真面目だなぁ。
気にすんなよ。でも、またな、また、遊ぼうぜ。」
そう言うと、前田たちは、それぞれ、飲み物を差し出して、輝と乾杯して…解放してくれた。
なんだかんだでも、気は良いヤツらなのだ。
「おかえり。お疲れ様。2人とも。」
元いたテーブルに戻ると、希良がニコニコ笑って、迎えてくれた。
なんか、久しぶりに見る、キラッキラの笑顔だった。
色々あったけど、やっぱり3人、こうしていられるのは、嬉しいし、ホッとする。
「ただいま。待っててくれたんだ。ありがと。」
「うん、ほら、コレ、C組の村田さんからだって。みずきが好きだって、目黒が話したら、差し入れてくれたらしいよ。」
希良が指したところには、梅ヶ枝餅が3つ、並んで置いてあった。
「えー?嬉しいな。明日、ちゃんとお礼言わなきゃ。一緒に食べようぜ。」
そう言って、3人で梅ヶ枝餅を頬張って、お茶やコーラを飲んで、その日のこと、少しだけ、忘れていた。
「それにしても、相変わらず、すげぇな、目黒。」
「だな。さっきのスピーチ、オレ、ガチで泣きそうだった。」
「あ、それ、オレも。」
希良がそう言って、オレと輝が頷いた。
「そうだ、そういえば、朝のバスでのことって、何?聞きたいんだけど。」
「それな〜。どうする?みずきから、話す?」
「いや、オレは無理。絶対、泣く。この状況じゃ。」
2人の間で、オレはブンブン、首を横に振って、拒絶する。
「なんだよ、それ?そんなこと?」
何も知らない輝が、心配そうな顔をして、オレを見てくる。
「ん〜、まぁ、そうだよな。んじゃ、オレが話すわ。
あのな、ほら、昨日さ…。」
と、オレと輝の間に入るように、少し身を乗り出して、希良が話し出した。
昨日、輝もいるところで、田内がオレを「自覚ゼロのポワポワ姫」って呼んだことから始めて、宮﨑が説明してくれた、その理由と、その時のクラス全員の反応から、最後にみんながオレを好きなんだよ、と言われて、全員が賛同してくれたことまで、話すと、最後に、
「それはいいけど、みずきはオレのだからって、まぁ、言っといたんだけどな。」
と、輝に向かって、ドヤってみせてた。
「えーっと、最後のきらのは、置いといて…。
そか、良かったな、みずき。みんな、ちゃんとお前の良さ、わかってくれてたんだな。
さっきのあの感じも、そこから来てたんだな。」
輝は、まるで自分の事のように喜んで、オレに顔を寄せてきた。
「うん、そう、だな。」
「置いとくなよ、オレの。輝があの場にいても、絶対、同じこと言ってただろ?」
輝にクレーム顔を向けて、オレを引き離すみたいに、自分の方に引き寄せた。
「いや、オレはそんな、その場で、みずきが困るようなこと、言わない。」
「ウソつくなよ、絶対、言ってる。」
「言わない。」
「もー、2人、やめろよ。」
オレが間に入っていると、石川と目黒さんが、笑いながら近づいてきた。
「何、楽しそうじゃん。」
2リットルのペットボトルを持ってきた石川が、オレの前にあるプラカップに、お茶を注いでくれた。
「あんまり、LOVEが過ぎると、樺沢が困るぞ。ほどほどにな。」
「えー、でも、そんな感じなのも、いいんだけど〜。」
石川の言葉に、目黒さんが絡みながら、シャッターを切ってくる。
「はら、いい顔。」
撮った写真を見せてくれていると、他の人たちも変わる変わる、飲み物や、お菓子を持って、オレたちのところにきてくれて…。
その日、オレはクラスの全員と、何かしらの話をした。それは初めてのことだった。
目黒さんの名スピーチ、なんだか青春で、書いていて、泣きそうになりました。すみません、おかしなヤツですww
ここに書いていることは、全部、自分が味わうことの出来なかったことばかりなので。自分、高校時代、黒歴史なんですよ〜。




