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修学旅行・2日目ノ貮〜拡散された3人

悪意は存在する。人を傷つける、その気持ちは、残念ながら、止めることは難しい。けれど、その傷を癒すことか出来る善意もまた、存在する。

パンドラの箱のように一つ残った、『希望』を大切にしたいと心から思う。

 今日は石川が、昨日、言ってた通り、あれこれ話しかけてきて、一緒に動くことが多くなった。

 それでもオレは、遺跡について話しながら、輝が時折、オレに目線を投げてくれば、それにはちゃんと、笑顔を返したし。

 希良がたまに、腕を絡めてくるのにも、手を握って返した。

 その合間に、石川がさりげなく、ちょっとした言葉をかけてくれて、少しだけ会話して、離れていった。


「みずき、どう?面白い?」

 一通り見て回ってから、輝が聞いてきた。

「うん、こういうの、オレ、あんまり興味なかったけど、面白いな。

 やっぱり、かがやの話しが面白いからだな。」

「でも、みずき、歴史はそんな、苦手じゃないじゃん。」

「樺沢、古文と漢文だけだよな、天敵は。」

 と、3人の会話にも、自然に石川が混ざって、でも、その後はすぐ、離れていって、松尾たちとなんだか話してる。

 

(石川、すげぇな。コミュ力、パねぇな。)

 その、なんてことない会話が、3人の、ふとしたことで、近くなり過ぎる距離に、風をいれてくれてるようで。

 オレは、なんだか力が抜けて、呼吸が楽な感じがしていた。

 

「どう?調子は?」

 輝の班と分かれて、希良が実行委員で呼ばれて、宮﨑たちと行ってしまったのを見て、石川が声をかけてきた。

「うん、大丈夫。ありがとな。」

「そか。

 さっき樺沢が言ってたけど、オレも遺跡とか?興味なかったんだけどな。

 こうやって見てると、面白いな。

 それに、やっぱ、保里の話し、上手いよなぁ。

 でも、人前で話すのとか苦手だって?」

「うん、そうらしい。オレと一緒。」

「えー?樺沢だって、やれば上手いのにな。

 保里と樺沢は、そんなとこ、似てるんだな。

 田宮はちょっとタイプ違うのに。」

 でも、やっぱり、仲良いよなぁ、と、なんてことないように言ってから、松尾と田内を呼んだ。

 

 班で決めたテーマについて、話そうぜ、ということになって、それぞれ意見を出し合った。

 ワチャワチャしてるようでも、こうなると、きちんとした意見が出てくるのは、さすがだなぁと思う。

「ヨシ、後は学校に戻ってからまとめれば、大丈夫じゃね?」

「ん、だな。」

 バスに戻りながら、全員、頷いて、そういうことになった。


 次の目的地まではすぐで、そこでは、有田焼の絵付け体験をすることになっているんだけど。 

「オレは、絵心ってのがないから、ダメだ。」

「あー、オレもない。」

 松尾と田内が、つまらなそうにそんなことを言って、オレも、

「描くの、嫌いじゃないけどなぁ。自信はない。」

 と、同意すると。

「まぁ、下絵付きを選べるらしいから、みんなでそうすれば良いんじゃね?

 結構キレイなのが出来るらしいから、家族は喜ぶよ、きっとな。」

 この企画に委員として関わっている希良が、そう言ってみんなを宥めつつ、盛り上げる。


 マグカップとかお皿は、前もって選んでおいて、それに絵付けをするんだけど。

 オレは最初、母親にあげようと、マグカップを作ることを考えてた。

 見本に載っていた写真が、とてもきれいだったから。

 希良にもそんなことを話しながら、決めかけたところ、希良に、

「うーん、オレの個人的な意見ですが〜。

 それはやめた方が良いと思う。」

 そう言って、止められたのだ。

「え?なんでよ?」

「お母さんだけに、マグカップあげて、まち姉とちい姉が、それで済むと思う?」

 希良が苦笑いして、オレを見ていた。

 あー、と頭を抱えた。

 確かに。

 写真集のことで、あんなに大騒ぎするくらいなんだから、希良の言うことは、容易に想像できた。

「こっちの、中皿にする。みんなで使えるから。」

「だな、それが正解。」

 笑いながら、希良がオレの頭をポンポンっと撫でて。

「アイドルも大変だよな。」

 希望を書いた紙を渡すと、そんなことを言われたのだった。


「うわ、はみ出した!」

「えー、滲んだんだけど、大丈夫?これ?」

 あちこちで、色んな声があがる。

 

「あら、樺沢くん、キレイに出来てるじゃない。

 君、なかなか手先が器用なのね。」

 みんなの間を見て回っていた、輝の担任で、美術の葉山先生に、そう声をかけられた。

「え?いや、そんなことないんですけど…。

 ありがとうございます。」

「あのガンダム作るくらいだもんなぁ。

 そりや、器用だろう。」

 後ろから、全然話したことのない、隣のクラスのヤツがそんなことを言ってくる。

「えー?でも、樺沢って、選択、美術じゃないよな?」

「あー、うん。音楽。」

 振り向いた青木に、顔を覗き込まれて、オレがそう答えた。

「なんで?歌が好きとか?」

「んー、そういう訳でもないけど…。」

「あ、わかった!課題の提出がない方を選んだとか?」

 今度は前に座っている松尾に言われた。

「樺沢はそんな理由で選ばないだろ。お前とは違うんだよ、な?」

 見かねたのか、石川が入ってきてくれて、希良に同意を求めた。

「オレ、なんかわかる気がする。」

 希良が、ちょっとイタズラっぽい顔をしてオレを見た。

「多分、みずきはこういうの?作ったり、描いたり、絶対、好きなんだよな。

 でもさ、ほら、根がヲタだから。

 凝りすぎちゃって、おさまりつかなくなると困るから?じゃない?」

 「え。」

 図星だった。

 

 1年の時、選択で美術を選ぼうとしたオレを、最初にまち姉が、次にいち兄が、止めたのだ。

 理由は、正に希良が言った通りで。

 元々、ガンプラ作ったり、描いたりするのは好きだったんだけど。

 その頃は、やっと体調が良くなってきたところだったから、何か棍を詰めるようなことをやって、また調子を崩すことになりそうなのは、やめておけ、と言われたのだ。

 

 そして、2年になっても、なんかそのまま、惰性で音楽を選択していたのだ。

「え?何?その理由。」

「あー、らしいっちゃ、らしい、けどな。」

「えー、でも、もったいないな。なんか。」

「まぁまぁ、美術、取ってなくても、樺沢は色々ほら、作ったり、オレらを楽しませてくれたんだし。

 イイじゃん。な?」

 最後は結局、石川がまとめてくれて。

「まぁな、あれはあれで。喜んでもらえたなら。」

 オレはなんとなく、というか、適当にそう答えたんだけど。

 

「おーい、樺沢。お前、すぐにガンダムって描ける?」

 そろそろ描き終わるかって頃になって、突然、希良と一緒に、実行委員をやってる宮﨑が声をかけてきた。

「ダメだよ、宮﨑、雑過ぎ。

 発注するなら、ちゃんと指定しないと。

 みずき、ガンダムの肩から上、正面から見た感じで、描いて欲しいんだけど、今、すぐに、いける?」

 おお、さすが希良、細かく指定してくれて助かる…じゃなくて。

 

「いや、何それ?どういうこと?」

「校長先生からの発注です〜。」

 それまでこの会話に入ってなかった同じく委員の澤田さんが、にこやかにそう言ってきた。

「はい?どういうこと?」

 同じことをもう一度、3人の顔を順番に見て、言いながら、首を傾げる。

 

 話は、こういうことだった。

 オレたちの修学旅行には、今回、校長先生が同行している。

 まぁ、いち兄の話を聞いてから、オレはちょっと、校長先生には近づかないようにしてるんだけど。

 その校長先生が、学校に飾る大皿を買って、そこになんと、ガンダムの絵を描いて欲しい、と言ってきたというのだ。

 

「イヤ、それ、おかしいって。

 こういう場合、美術部のヤツらに頼んで、なんかもっと、ちゃんとした花とか鳥とか?描いてもらうのが、普通だろ?」

「あー、それは正論だな。

 でもさ、樺沢。

 お前なら、その美術部のヤツが描いたキレイな花の絵が描かれた皿と、ガンダムが描かれた皿、どっちが欲しい?」

 宮﨑にそう言われて、オレは思わず…。

「そりゃオレは、ガンダムが好きだからな…。」

「ほら、だろ?」

「そういうことだな。

 校長先生は、お前と同じ、ガンダムが好きなんだよ。」

 希良にダメ押しされ、肩を叩かれて…。仕方なく、オレは自分のペンケースを持って、2人に連れられ、校長先生のところに行った。

 

「ああ、樺沢くん、急に申し訳ないね。」

 近づいたオレに気がついた校長先生がそう、笑顔で声をかけてきた。

「おぉ、樺沢、悪いな。大丈夫か?

 出来そう?」

 校長先生の隣にいて、背中を向けていたナベせんが振り向いて、聞いてくる。

「イヤ、えっと、ホントにオレが、ガンダム描いていいんですか?

 あの、この感じだったら、そんなに時間かからないで描けると思うんですけど。」

 そう言って、手に持っていたガンダムの描かれたペンケースを2人に見せる。

「おお、それで良いよ。

 希望通りだ。」

 校長先生が、まるで子どもの様に眼を輝かせた。

 その顔を見たら、なんか、断れないなぁってなって。

 

 それから、他のみんながお土産を買いに行ってる時間を使って、大きな皿の前に座ると、係の人に手伝ってもらいながら、なんとかガンダムの頭を描きあげた。

 色は時間とお金がかかるので、大体の指定をして、後は係の人にお願いすることになった。

 

「それにしても、君、すごいね。

 いくらペンケースの絵を見ながらとはいえ、あれだけの絵をあっという間に描いちゃうとはね。」

 ずっと付いていてくれた、係の男性が、そんなふうに言って、褒めてくれた。

「あ、ありがとうございます。

 なんか、ヲタが過ぎて…。恥ずかしいです。」

 照れながらそう言って、その場を離れた。

 

「あ、きたきた、みずき!こっち。」

 土産物屋の入口で、希良と班のみんな、宮﨑と澤田さん、あと輝たちも集まっていた。

「お疲れ様〜。でも、早かったな。思っていたより。」

 輝が、いつのまにか持っていてくれた、オレのリュックを渡してくれた。

「お土産、もう、買う時間無さそうだから、オレと輝で、テキトーに買っておいたんだ。

 後で見て選んで。」

「え?そうなの?ありがと。悪いな。」

「オレが選んだヤツ、まち姉が気に入ってたって、兄貴に言ってやりたいじゃん。」

「えー?そんな理由かよ。」

 

 そんなことを言いながら、お土産の入った紙袋を覗きながら、3人並んで、バスに向かって歩いた。

「なんか悪かったな。大丈夫か?

 疲れたんじゃない?」

 前を歩きながら、宮﨑が心配そうに聞いてきた。

「うん、確かにちょっと疲れたけど、平気。

 好きなことやってる時は、なんかな。」

「分かる〜。そんなもんだよなぁ。勉強は1時間でぐったりだけど、ゲームなんてエンドレスで出来るもんな。」

 松尾がそんな、超進学校の生徒と思えないことを言って、その場にいた全員が、大笑いで同意した、その時。

 

「え?ね、あそこ見て!」

「何?あの3人!カッコいいんだけど!」

「えー?可愛い!」

「え?どこどこ?」

 

 そんな声が聞こえた。

「あ、ヤバいかも。みんな、走れる?」

 石川がいち早く気が付いて、全員声をかけてきた。

「平気。バスまであと少しだよな?走ろう。」

 石川の、行くぞ!の掛け声で、オレたちは一斉に走り出す。

 後ろからなんとも言えない、黄色い声が追いかけて来るけど、それを振り切るように、走り切り、バスまでたどり着いた。

 

「輝?大丈夫?」

 自分たちのバスに乗り込む前に、オレは輝を振り返った。

「平気。とりあえず、また後で。」

「うん、またな。」

 希良がそう言って、みんな、それぞれのバスに乗り込んだ。

 それで、やれやれ、ひと段落…だと思ったんだけど。

 

「ちょっと、マズいことになってるかも。」

 出発して、しばらくした頃、澤田さんが、隣の席の目黒さんに耳打ちするのが聞こえた。

「え?何それ。誰がそんなこと?」

 目黒さんの声がいつもと違って、尖って聞こえる。

「とりあえず、先生に話してくる。

 澤っち、ちょっと、田宮くんたちに説明してあげて。」

 目黒さんがそう言うと、最前列に座っているナベせんのところに行くのが見えた。

 

「澤田さん?何かあった?」

 それを見て、オレの方から澤田さんに声をかけた。

「あー、うん、あのね、さっきの駐車場で、田宮くんたち3人を隠し撮りした人がいたみたいで。

 その人、このバスの写真と、ナンバープレートまで写して、3人の写真と一緒に、SNSにアップしてて。」

「え?なんで?」

 オレは言葉を失う。

「なんだよ、それ。」

 希良が怒った声を上げる。

「いや、でも、後ろから来てたヤツらは、振り切ったよな?」

 宮﨑が信じられない、と言った顔をしてる。

「多分…だけど、その子たちと同じ学校の子が、先に駐車場にいたのかも。それで、連絡がきて、待ち伏せてた…っていうか。

 考えられるのは、そんなところかも。」

 

 その場にいた全員が、口々に、ありえない、なんだそれ、許せない、などと、怒りを露わにしてくれたけど。

 オレは、隣で落ち込んでる、希良と、別のバスに乗っている輝のことが心配だった。

「きら、大丈夫だよ。オレが一緒にいるから。かがやは、大丈夫かな。」

 そう言って、希良の手をギュッと握った。

SNSはもう、生活の一部ですし、もし、ないなんて、考えられないことではありますが…。

誹謗・中傷などと言う言葉が日常的に、耳に入るようになった事は、悲しむべき事だと思っています。

何か起こすべき行動などわかりませんが、ただ、人を傷つけて良い理由などないのだと、強く思い、言いたいです。

(らしくない、真面目な話で、すみません!)

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