修学旅行・2日目ノ参〜別行動と団体行動
陰は光が無くては、存在することもできない。そして、物事はみな、光だけでは、成り立たない。
青春の光と陰。それは光か強いほど、陰もまた、濃くなってしまう。
「田宮と樺沢、2人とも、ちょっとこの先で、バス、停めてもらうから、そこで降りて。
保里も、あっちのバスに乗ってる校長と一緒に降りるから。
次の場所までは校長と、タクシーで向かってくれ。」
目黒さんが話に行ってから、少しして、ナベせんがオレたちのところに来て、そう言った。
「え?そんな、だって…!」
思わず、強い声で、言い返してしまった。
「樺沢、分かるけど、落ち着こう。」
オレも希良も、バスの中全員が、ワケがわからない、という空気になったけど、石川がオレの肩に手を置いて、そう言ってくれた。
「お前たちの、納得いかない気持ちは、よく分かる。
でも、相手にこっちの常識が通用するとは、思えないだろ。
ナンバープレートまでってのは、充分、異常だ。
3人だけじゃなくて、お前たちみんなに、何かあってからじゃ、遅いからな。」
ナベせんの言葉に、全員が納得いかない気持ちで、それでも、納得するしかない、そんな空気になった。
「大丈夫。次の目的地で、バスを変えてもらうように、お願いしたから。ずっと3人が別行動する訳じゃない。
そこは、安心していい。」
そんな話をしている間に、バスが近くのコンビニの前に停まった。
そこには、もう、校長先生と一緒に、心細そうに立ちすくんでいる、輝の姿があった。
「荷物はこのままでいいから。リュックだけ持って、気をつけて降りろよ。」
ナベせんの言葉に、はい、と答えてから、オレはみんなの顔を見た。
誰一人として、迷惑そうな顔なんてしていなくて、中には泣き出しそうな女子さえいた。
気をつけろよ、あとでな、またな、気にすんなよ…色んな声をかけられて、オレもなんだか泣きそうになる、
「みんな、ありがとな。オレら、後で追いつくからさ。またな。」
出来るだけ、明るい声でそう言うと、希良が続いた。
「うん。ほら、今日の夜の、打ち上げ、楽しみにしてるし。」
さっきまで、ひきつった顔をしていたのに、希良もオレも、平気な顔をして、バスを降りた。
「みずき!きら!」
オレたちを見て、安心したのか、輝は泣きそうな声だった。
「かがや!大丈夫?
あ、校長先生、すみません、迷惑かけて。オレたち…。」
オレが言い終わる前に、校長先生は3人に腕を回して、首を振った。
「謝ることなんて、何ひとつないよ。
君たちは何も、悪いことなんてしていない。
むしろ、被害者だ。
先生は、こんなことをした人たちを許せない。
相手の学校には、断固として、抗議するつもりです。」
いつもは優しく、穏やかな校長先生が、怒りを露わにしていた。
オレたちは、それだけのことをやられたんだと、あらためて思うと、急にオレは、足が震えて、体に力が入らなくなった。
それまでは、希良と輝が心配で、気が張っていたのかもしれない。
「みずき?どうした?」
希良がその様子に気がついて、オレの腰に手を回してきて、それを見た輝も、同じことをしてきた。
「あ、ごめん、ちょっとなんか…安心したら、力が抜けて。」
「樺沢くん?大丈夫かな?少し休もうか。
急がなくても、クラスのみんなは、君たちを待っていてくれるからね。」
コンビニのイートインスペースに入って、座ると、今度は輝が泣きそうな声で。
「みずき、大丈夫?ごめんな、なんかオレ…。」
「なんで、かがやが謝んの?
オレ、ぜんぜん、わかってなかったけど、何故かもう、そっち側にいってるらしいんだよなぁ。
まぁでも、2人と一緒なら、なんでもいいし。大丈夫。」
そう言うと、輝に甘えるように、肩に頭を乗せた。
そのオレの頭を、希良がゆっくり、撫でてくれた。
「みずき、息苦しいとかない?めまいとかは、平気?」
「うん、平気。ちょっとふらついただけ。ありがと。」
撫でてくれてるのと、反対の希良の手を、ぎゅっと握った。
校長先生が、コンビニの人に聞いて、タクシーを呼んでくれて、温かいペットボトルのお茶を買ってきてくれた。
3人とも、それを飲むと、やっと少し、落ち着いてきた。
そして、少し遅れたけど、みんなが待つ、長崎市内、グラバー園近くに、無事、到着することができた。
修学旅行のコースは多少の違いはあっても、大体の学校は同じ様な場所を巡る。
だからこそ、オレたちの写真だけじゃなくて、バスのナンバーまで撮って、アップしたんだと、先生たちは考えて、オレたち3人が、その狙われたバスから、降りてこないようにしてくれたんだ。
タクシーを降りると、運転手さんに教えてもらった、比較的、人の少ない道を選んで、みんなが待つところまで、なんとか辿り着いた。
「あ!きたきた!校長先生〜!」
「田宮!樺沢!保里!こっち!」
「急がなくていいぞー。」
ナベせんを中心に、石川たち3人、青木と坂本、宮﨑の班の3人や、目黒さんと澤田さん、他にも、輝のクラスの、顔はしってるけど、名前を知らない何人かが、オレたちを待っていてくれた。
「みんな!ありがと。待っててくれたんだ。」
オレが石川に駆け寄って、希良もそれに続いた。
「ありがとな。ごめんな。」
輝は少し遅れて、青木たちのところに行って。
「ホント、心配かけて、悪かった。」
1人だけ、神妙な顔をして、頭を下げた。
「止めろよ、保里。お前が謝ること、何もないじゃん。」
「先生たちがさ、お前たち3人が固まってると、目立つから、何人か多めの人数で一緒になって、動けって。」
青木がそう説明してくれて。
「そうなの。でね、その中には、女子もいた方が良いだろうってことになって。
私たちも、一緒に行動することになったから。よろしくね。」
青木に続いて、目黒さんがそう言って、澤田さんと同じ班の海藤さん、原さん、輝のクラスの女子4人と固まって笑いかけてきた。
「そんな、イイの?こっちこそ、よろしくお願いします、だよ。」
その場にいる全員に、オレたちは感謝しかなかった。
「あ、じゃあちょっと紹介させて。
彼女たちはC組の茂木さん、相川さん、小泉さんと、村田さん。
村っちが私と同じ中学なの。で、樺沢くん推しでーす。
他の3人も、田宮くんと保里くん推しだから。よろしくねー。」
「もーメグ、バラすの早すぎるって。ごめんね、樺沢くん、絶対に迷惑かけないから。田宮くんと保里くんも、気にしないでね。」
村田さんがそう言って、4人とも、申し訳無さそうに肩をすくめた。
推しとか?そんなこと、言われたことないから、オレはどうしたらいいのか、ぜんぜんわからなかったんだけど。
これまでの、目黒さんたちのこと、今の状況を思うと、何も嫌がる理由もなくて。
「えっと、うん、逆にオレが迷惑かけそうだけど、よろしくお願いします。」
「目黒、仲間集め過ぎだって。まぁ、いいけど。ホント、ありがとな。」
希良も、もう諦めたように、でも、ホッとしたような顔で、笑ってた。
そんな、みんなの協力もあり、先生たちの対応策も功を奏して、その日は、それ以上のトラブルが起こることもなく、オレたちは大人数で長崎市内を見て回った。
そうやって動いてみてわかったのは、大人数の動くことが、悪くないってことだった。
別に、申し合わせたわけじゃないらしいけど、オレたち3人をそれぞれ取り囲むように、ざっくりとした3つのグループに分かれて動いていて、途中、気がつくとメンバーが入れ替わっていたり、たまに3人、一緒になることもあった。
そんな時には、全員が取り囲むように円形になって、ガードしてくれてるみたいで。
ただこれも、誰が何を言ったわけじゃないらしいのが、すごかった。
「ねぇねぇ、樺沢くん。これ、この写真、良く撮れてると思わない?」
横に並んできた目黒さんが、いつものように、スマホの画面を見せてくれた。
「えー?あーうん。そうかなぁ。
でも、それ、ちょうだい。家族に送る。」
「ホント?わかった。待って。」
目黒さんは嬉しそうに笑うと、オレがみんなに囲まれて、笑ってる写真を送ってくれた。
希良や輝と一緒じゃなくて、他のクラスメイトとの写真は、例の写真集以外、あまりないので、良いかなと思ったのだ。
『今日は色々あって、団体行動中。これも、目黒さんが撮ってくれた。元気だから、心配しないでね。』
そんな言葉をつけて、今回は家族のグループに送った。
「やっぱり、樺沢くんって、優しいんだね。」
え?と驚いたオレをそのままにして、目黒さんは希良の方に行ってしまった。
その後、母親と姉たちから、写真を絶賛するメッセージと、目黒さんへのお礼が続き、オレの様子に安心した、という言葉で締めくくられた。
そういえば、高校生になって、オレが、なんかおかしくなってから、いち兄たちの家以外、外泊するのは、この修学旅行が初めてだから、家族全員で心配していたんだろうな。
そう思うと、やっぱり目黒さんには感謝しかなかった。
「どうした、樺沢?平気か?」
ひと通り、観光を終えて、土産物を手に、宿に向かうバスに乗ろうと、歩いていた。
ちょっとボーッとして、みんなから、遅れてたら、石川が声をかけてくれた。
「おう、大丈夫。石川、今日はホント、ありがとな。」
「なんだよ、そんな。楽しかったよ、色々と話せて。でも、お前の方こそ、大変だったな。」
「あー、なんかな。あの2人はわかるけど、なんでオレまで?って、今まで思ってたし、今も思ってるけど、これはもう、観念するしかないみたいだな。」
「てか、言ってもいいか?」
「ん?何?」
「それ、マジで、今さら。」
「え、そう?」
「だよ〜。オレはさ、誤解を恐れず言うなら、この新学期、お前たち3人が、揃って動くようになった時、すぐに思ったけどな。
この3人、この感じじゃ、何かあっても、おかしくないなって。」
え?何かあっても、おかしくない…?何か?何かって、ナニ…??3人なら?
あ、ダメだ、やめろ、考えるな…!
オレの中で、そう警戒する声が聞こえたけど、その時にはもう遅かった。
急に呼吸が苦しくなって、耳鳴りがした。
けど、今、ここで倒れたらダメだ、と思って、胸を抑えて、なんとか、そのまま、歩いていた。
石川は、前の方から、誰かに呼ばれて、オレに悪い、と断って、行ってしまったので、そこで立ち止まった。
「みずき、どうした?大丈夫か?」
知らないうちに、輝が隣にきていて、体を支えてくれた。
(良かった。かがや…。)
輝の顔を見て安心したオレは、なんとか笑って、体を預けると、ゆっくり、深呼吸をした。
嫌なことがありましたが、それでも3人の周りには、たくさんの良い子たちがいますし、ちゃんとした大人たちも、付いているので、大丈夫です。
それでもやっぱり、色んなことは、起きてきて。
そんな事ごとを乗り越えて、彼らは強く、逞しく、成長していくと、思うのです。




