修学旅行・1日目ノ参〜騒ぎと旅の宿
旅の時間、日常とは違う時間を過ごす中で、見えてくること。それに戸惑うことも、喜ぶこともある。
そして、色々な距離がグッと近くなって…それがまた、日常になる。
「え!見て、あの子ら!めちゃくちゃ、カッコええんやけど!?」
「え〜!ホンマや!何?あの3人、芸能人?」
「アイドルなん?可愛い!」
どこかの学校の、修学旅行生だろうか?
輝と希良に向かって、見たことのない制服姿の女子数人が、不躾に指を差してきた。
それから、そんな声を上げたと思うと、あっという間に、人が集まってきてしまった。
「ヤバ、ちょっと、2人とも、早く!中入って!」
さっきまでふらついていたのに、オレはすぐに、そう言って、2人のブレザーの袖を引っ張ると、店の中に入れて急いで扉を閉めた。
とはいえ、草餅屋のガラスの引戸では、それほど隠れる効果はなくて、2人を店の隅に立たせると、それ以外のオレを含めた6人がガラス戸に背を向けて、ガードする体制をとった。
「あー、とうとうやっちゃったな。でもまぁ、良くここまで、騒ぎにならずにきたよな。」
松尾がそんなことを言いながら、背中を丸めて、オレと石川の後から、店に入ってきた。
「いや、太宰府でも、博物館でも、ずっと、ザワザワしてたじゃん。今と同じ、指差してた女子もいたぜ。」
「だったよな。たまたま、今のヤツらみたいに騒がなかったし、ここよりずっと、人が多かったから、目立たなかったのかもな。
ほら、結構、オレらの中に紛れてて、3人だけってこと、少なかったからな。」
青木と坂本が、苦笑いしている。
「やっぱ、こんな田舎の観光地で、3人揃えるのは、ヤバいな。」
石川が、お店の人に気を遣いながら、小声で後に続けた。
「ん?なんで?さっきから、3人って?言った?」
「言ったし、言ってただろ。外のヤツらも。聞いただろ?」
「確かに、聞こえたけど、誰のこと?まさか、オレ?」
とぼけたわけでも、なんでもなく、素直にそう聞き返した。
「出たよ、樺沢、自覚ゼロのポワポワ姫が〜。」
石川の横で、田内が顔をくしゃくしゃにして笑ってる。
「え?何?なんだよ、それ?」
「まぁま、それより、どうするよ。このお店、裏口から出してくれればいいけど。」
石川が、オレを手で制して、そう言ってきた。
そうだなぁと、返しつつ、2人を振り返って見ると、輝がキレイな眉を寄せて、希良もパッチリした目を伏せて、2人とも、何も言わずにガラス戸に背を向けて、硬い表情をしている。
ってか、この状況で、そんな顔してても、安定の、レベチのカッコよさだったから、そのまま外に出すわけにはいかなかった。
「大丈夫だよ、なんとかなるって。まずは、草餅、食べよ。」
そう言って、ケラケラ笑うと、2人の肩をポンポンっと叩いてから、石川と一緒に店の奥に声をかけてみた。
先に、人数分の草餅を頼んで、それから事情を話すと、店主らしき、優しそうなおじさんは一度、外の様子を見に行って、驚いて戻ってくると、ガラス戸のカーテンを閉めて、快く店の奥に、オレたち全員を通してくれた。
「すごかね〜。イケメンやと、大変なこつ。
ホントに芸能人じゃなか?芸能人やったら、サインして欲しいわ。」
いや、そんなんじゃないんですよ、すみません、ありがとうございます、いただきます…と、8人全員で、口々にそんなことを言いながら、草餅を買って、店の奥で食べさせてもらった。
そんな時に食べても、草餅は柔らかくて、粒あんがいい感じの甘さで、めちゃくちゃ美味かった。
食べ終わると、あらためて、おじさんにお礼を言って、店の裏口から出してもらった。
そこから、川沿いの細い道を一列になって歩いて、表通りを避けて、まわり道をして宿まで向かう。
その途中、オレたちの班の班長、石川がナベせんに電話して、夕食の時間に遅れるかも、と伝えた。
大した距離ではないはずだけど、薄暗い中、足下に気
をつけて、慎重に歩くので、時間がかかって。
ようやく、その日の宿に辿り着いた。
「おー、来たか。何やってんだ。揃いも揃って。」
旅館の前でナベせんと三嶋先生が2人並んで、オレたちの帰りを待っていた。
ナベせんが、笑いながら、みんなの背中をポンっと1つずつ叩いて、旅館の中に入れていく。
「なんだ?3人仲良く、イケメン狩りに合ったか?」
輝と希良、オレの番になると、そんなことを言って、笑って肩を叩かれた。
ここでも、3人って言われて、オレは釈然としない気分だった。
「大変だったな。まぁ、ゆっくり食事して、休め。
お、樺沢、どうした?青い顔して。大丈夫か?」
「あ、大丈夫です。」
「どれ?こっち来てみろ。あー、いいから、他のみんなは、ほら、食事に行く!」
大丈夫だと言ったのに、三嶋先生が他のみんなを食堂に追いやってから、オレをロビーの端に連れて行って、腕に血圧計を付けた。
「んー、あんまり良くないなぁ。気持ち悪いとかないか?ふらつくとか、めまいがするとかないか?」
「えと、さっき、バスの中で寝てて。起きてバスから降りたら、なんかめまいがして、ふらついたんですけど。
さっきの騒ぎと草餅食べたら、なんとなく大丈夫かなって。」
「草餅か。それはいいけどな。息苦しいとかは?食事、出来そう?」
「多分、大丈夫です。」
無理しているわけじゃなく、そう答えた。
「そうか。ちょっと血圧が低すぎるけど、大丈夫って言うなら、まぁ様子みるか。ただ、風呂は一番最後にしてもらえ。
で、浸かりすぎないこと。」
いいな、と言い聞かされて、それにはい、と答えた。
大丈夫なんだけどなぁ、と思いつつ、食事に行く前に、オレは一度トイレに寄って、顔を洗うことにした。
鏡に映った顔は、まだちょっと青かったけど、気持ち的には少しスッキリして、食堂に向かった。
「あ、樺沢くん!お疲れ様。どうしたの?大丈夫?」
食堂の入口で、もう食べ終わったらしい目黒さんのグループと会った。
「うん。ありがと。平気。」
そう言って笑ったオレの顔を、目黒さんが少し不思議そうに、首を傾げて見た。
「そっか、顔色、悪いけど…。なんか?スッキリした顔してるね。」
「え?そう?」
「うん、そうだよ。それに今、ありがとって言ったけど、ごめんね、とは言わなかったね。珍しく。」
「あー、そうか。そういや、そうだね。」
「その方がいいよ。樺沢くん、いつも、謝り過ぎなんだもん。
それに、なんかいつもより、可愛いよ。あ、いつも可愛いけどね。」
「いいよ、そんな、付け加えなくても。」
オレが照れ臭くて笑うと、目黒さんはすかさず、手に持っていたスマホのシャッターを切った。
「やた!良い顔。樺沢くんのお母さんに送りたい。」
「あー、じゃあ、ちょうだい。送るよ。」
ホントに?と言って、目黒さんがすぐ、オレのスマホに、今、撮った写真を送ってくれて、オレはそれを、その場で母親に送った。
『1日目、無事終了。これから夕ご飯。目黒さんが撮ってくれた。』とだけ書いて。
それを覗いてた目黒さんは、素っ気ないなぁ、男子ってと、笑って、でも、また送るねーと、手を振ると、行ってしまった。
やれやれと、それを見送って、食堂に入って行こうとすると、スマホが立て続けに鳴って、見ると、まち姉とちい姉からだった。
『ちょっと、みー!お母さんにだけじゃなくて、家族のグループに送りなさい!』
『お母さん、ちょっとしか見せてくれないんだけど!こっちにも送りなさいよね。みー、いい?』
あー、めんどー、そっちで回せよ、と思いながら、仕方なく、もう一度、家族のグループに写真を送り直した。
その後も、何度もスマホが鳴ったけど、それを無視して、もう半分以上が食べ終わって、でも何故かオレの班の全員が、なんなら、輝の班のヤツらも全員、残ってるテーブルに向かった。
「お、やっときた。待ってたよ!」
松尾が屈託なく笑いながら、立ち上がって椅子を引いてくれた。
「え?なんで、みんないるの?」
「なんでって、お前のことを待ってたんだろうよ。」
石川がしょうがないなぁと、首を振った。
「いや、正確に言えば、樺沢がいないから、オレらの班、風呂の順番が最後になったんだよ。
だったら、ここで待ってた方が良いだろってことになって、な?田宮。」
松尾が隣の席の希良を見た。
「あ、まぁな。」
「もっと正確に言うと、田宮が、お前が戻ってくるまでここにいるって言うから、それなら、オレたちみんなでってことになって。もー、田宮、樺沢へのLOVEが過ぎるだろ?」
「イヤイヤ、何も言ってなかったけど、保里も同じだよな?オレはわかってたぜ。」
石川と青木が、2人のことを茶化して、全員が笑ったけど、輝と希良は、なんかぎこちない笑顔だった。
「それにさ、この2人、さっきのこと、すげぇ気にしてて。オレらに謝り倒してるんだけど。
気にすんなって、樺沢から言ってやって。」
青木に言われて、もう一度、2人を見る。
まあ、あんな目に合えば、色々、思うところがあるんだと思う。わかるけど。
「あー、そっか。2人とも、ありがと。みんなも、ありがとな。
あとさ、さっきのあれ?どうも、オレもそっち側に入れてもらってたみたいだから、オレも謝った方がいい?」
そう言って、オレは2人の肩を軽く叩いて笑うと、間の席に座ろうとした。
「イヤ、だからさ、それが要らんてことで。」
と、オレの意図をわかってない坂本が言う。それを聞いた希良が、慌てて、
「は?何言ってんの?みずきが悪いことなんて、ないだろ。」と、否定してくる。
「そうだよ、なんで、みずきが謝るんだよ。」
輝もそう言って、2人が揃って、オレを庇おうとしてきた。
「ってことはさ、きらもかがやも、悪くないし、謝らなくていいってことだよな?
はい、この話はおしまいな。いただきまーす。」
なんだよ、それ、と全員がわけわからんって笑って。
オレは冷めかけた食事(ご飯と汁物は暖かいものを出してもらった)に箸を伸ばした。
「てか、さっきから、誰かのスマホがずっと鳴ってるけど?」
オレの前に座っている田内が、キョロキョロして言った。
「あ、オレ。さっき、そこで、目黒さんに写真撮られて、それを親に送ったら、なんか姉ちゃんたちが騒いでて。」
口の中をモグモグさせながら、面倒くさそうに言うと、斜め前にいた輝の班の坂本が、面白そうに身を乗り出してきた。
「え、今、姉ちゃんたちって言ったけど、もしかして樺沢って、兄弟、女だけとか?」
「え?そうだけど。姉ちゃんが2人。なんで?」
オレの答えに、坂本は、めちゃくちゃ納得したように、えらく爽やかな笑顔で、笑った。
「いやー、そっか、そういうことね、樺沢のその感じ。
てかさ、女兄弟だけの中に、樺沢みたいな弟がいれば、アイドルだろ?家族全員の?
オレ、小学校からの友だちに、そういうヤツがいて。そいつは樺沢みたいな可愛い系じゃ、ぜんぜんないのに、それでもアイドル扱いされてるんだよな。」
「なんだよ、その、可愛い系て。」
確かにその感じはあるけど、そう簡単に同意したくなくて、なんかムッとした。
なのに。
「いや、坂本、お前、わかってない。みずきはそんなもんじゃないんだ。従兄弟の兄ちゃんたち一家、親戚全部の、アイドルだから。」
さっきまで、ぎこちなく固まっていた輝が、急に坂本の方に向いて、そんなことを言い出した。
「どうした、かがや?いきなり、何言ってんだよ。やめろよな。」
「いや、ホントのことだし。みずきも、わかって無さすぎ。」
希良までも、その話題に乗っかってきた。
さっきまで、強張った顔してた2人が、やっと、少し落ち着いたのか、楽しそうに笑ってる。
まぁ、オレをイジって、それで2人の気持ちが落ち着くなら、それでもいいんだけど。
「てか、その従兄弟って、我が天文部のレジェンド、以知先輩だよな?いつ、NASAに入るか、みんな期待してるっていう、あの?」
「え?違うだろ?ウチの、バスケ部のレジェンド、匠先輩だよな、樺沢っていえば?この前、文化祭のフリースローチャレンジでも、記録作って、サラッて帰って行って、カッコいいのなんの。」
どうやら、青木は天文部で、坂本がバスケ部らしかった。
「あー、それ、どっちも正解。その2人が兄弟、以知が長男で匠が次男。で、オレは従兄弟。まぁ従兄弟全部の中でも、一番年下なんだけど。」
いち兄とたく兄が、そんなレジェンドだとは知らなかったけど、そう答えた。
2人のことを、そんな風に言われると、オレは自分が、何ものでもないと思い知らされる気がして、情け無くて、声のトーンが下がる。
「そりゃ、確かにアイドルだなぁ。末っ子な上に、そんな可愛い系じゃ。」
「いや、だから。可愛い系ってなに?」
坂本がオレの気持ちも知らず、面白そうに言って、オレはそれに、ワケがわからないと、返した。
「ほらな、『自覚ゼロのポワポワ姫』だろ?」
「さっきから、なんだよ、田内、それ。」
田内がまた、わけのわからない事を言うので、オレはつい、イラだった声を出してしまう。
「だからさ、樺沢はさ、色々、自覚なさ過ぎっていうか、自己肯定感、低すぎってこと。な、田宮?」
石川がまとめるように言うと、希良がそこで、激しく同意してきた。
「そう、そうなんだよ!石川の言う通り!みずきはもっと、自信もって良いのに。」
何故か、自分のことのように、希良は残念な顔をしてた。
「あー、それ、目黒さんに、ことあるごとに言われてます〜。」
そう言って、全部、茶化して、流しながら、オレは淡々と食事を続けるしかなかった。
「目黒、そういうとこ、さすがだよな。」
「てか、さっき撮られたって写真、見せて。」
希良の言葉に頷きながら、今度は、輝がこっちを覗きこんできた。
「ん、いいよ。はい、これ。」
オレはスマホのロックを解除して、輝に渡した。
その様子に、希良と輝だけが、無言で顔を見合わせる。
この前、文化祭の写真を見られるのを、あんなに嫌がっていたんだから、その反応はもっともなんだけど。
「え?何?これ、ヤバ。」
「目黒さん、やっぱり天才だな。」
不思議なことに、今のオレは、写真を見られることに、何も思わなくなっている。
自分でも、理由はわからないけど。
「でも、ちょっと話戻るけどさ、樺沢って、その先輩たちが従兄弟って、なかなか、すごい一族だよな。」
急に松尾がそんなことを言い出した。
「何、一族って。まぁ確かに親戚だけど?」
いち兄たちへのコンプレックスを、さっきから、チクチクやられて、気分が良くないオレは、そう言って、明太子をのせたご飯を口に入れた。
「いや、お前もすごいってこと。褒めてんだよ。
だって、あれだろ、樺沢って、ウチの高校目指したの、中2からだって、前に言ってたじゃん?それ、すげえなぁって思ってたけど、元々頭いいんだな。
そういう家系なんだな。」
「なるほど、そういうことか。オレ、樺沢たちと同じ中学の友だちから、樺沢は運が良かったんだって聞かされてたけど、そんなんなぁ。ふざけてるわ。
運で入って、一年の最初からあんな、学年上位になれるわけないじゃんな。しかも、遅れて入学して、だろ?
この前のガンダムと言い、地頭良いタイプか〜。
羨ましいぞ。」
松尾と青木が、そんなこと言って、勝手に盛り上がって、勝手に納得している。
「そうそ。お前ら、いいとこに気が付いたな。
さっきも言ったけど、コイツ、自己肯定感、ゲキ低で、こんなポワポワしてるけど、それ見て、可愛いヤツって思ってたら、大間違い。
将来、ノーベル賞くらい取っちゃうかもな。」
「あー!あるな〜!」
石川のふざけた話に、みんなが更に、おかしな盛り上がりをみせた。
「もう、いい加減にしろよな。さっきから、なんだよ。
やめてくれ。わけわからんこと。」
オレが、思いっきり、ふくれっつらをして見せると、石川がごめん、ごめん、と言って、その場にいるみんなに笑われた。
すみません、またまた長いです。
そして、たくさん、キャラが出てきます。これから、活躍する人も、その時だけの人もいますけど、なんだか、みんな良い子たちなので、全員、よろしくお願いします!




