修学旅行・1日目ノ弐〜2人の間で
水面が静かな時ほど、水面下では流れが激しく渦巻く。
それに巻き込まれないように、流れを渡る時には、気をつけなくてはいけない。
人の思いも同じように。
太宰府で、まずは、みんな揃ってお詣りをして、学業成就のお守りや、お札を買ったり、絵馬を書くヤツもいれば、おみくじを引いたりした。
その後、心字池のある、綺麗な庭園を周りながら、太宰府に祀られている菅原道真公の話、飛梅の伝説とか、絶対、一度は歴史で習ってるはずのことだけど、輝がわかりやすく話してくれたので、みんなで見て回るのは、楽しかった。
ちなみに、オレの引いたおみくじは「吉」。
悪くないけど、最高でもない。
輝と希良の2人は、揃って「大吉」を引き当ててた。
さすがって感じがする。
そこから、博物館に向かう途中、梅ヶ枝餅を買って、8人の中に混ざって、3人並んで、食べながら、歩いた。
「なんでみずきだけ、2個買ってんの。」
輝が、両手に餅を持ったオレを見て、笑いながら、自分のを頬張る。
「いいって。みずき、宿の食事、あんま食えないだろ。食える時に、食っといたらいいじゃん。」
希良も笑って、そんなことを言う。
でも、その時オレは、隣のクラスの青木たちと一緒にいる輝が、いつもと違うように見えて仕方なくて、その様子に、少し戸惑っていたんだ。
自分の班にいる輝は、1人で飄々として、何かのびのびとしているようにさえ、見えたから。
「どうした?疲れた?」
希良が、ちょっと黙り込んだオレのことを気にして、体を寄せてきた。
「ああ、平気。餅、うまいな。2個買って、正解。」
「良かったな。」
希良の様子を見て、輝も反対側から体を寄せてきた。でも、その輝にオレは、ぎこちない笑顔を返すしか出来なかった。
前の方からスマホのシャッター音がして、見ると、目黒さんが笑ってVサインをしていた。
(もー、目黒さん、人の気も知らないで。)
そう思っても言えないから、ちょっと膨れっ面をして、目黒さんを見た。
「みずき?」
輝がそれに気がついたのか、顔を覗き込んできた。
ちょうど、希良が松尾に呼ばれて、離れた時だった。
「そんな顔、オレ以外のヤツに見せるなよ。」
え?と思う間もなく、輝のキレイな指がオレの頬を摘んで、顔が近づいたと思うと、また、右の耳を、今度はしっかりと噛まれた。
そして、オレは何も言えず、怒ることも、逃げることもせずに、下を向いた。
「可愛いな。顔、赤いよ。」
そう言われても、もう、輝の顔を見ることも出来なかった。
「何してんの?」
戻ってきた希良が、オレの手を引っ張った。
「もー、油断も隙もないな、かがや、最近、ちょっとやり過ぎ。みずき、こっちきて。」
「油断や隙を狙ってんだよ。一緒にいられる時間、限られてんだから。きらと違って。」
希良と反対の腕を引っ張りながら、そう言われて。
気がつくと、オレは両手を2人に掴まれて、カカシみたいになっていて。
そんな状況なのに、またシャッターの音が聞こえて、目黒さんたちの笑い声が響いた。
博物館の中、少し薄暗い展示室で、オレはなんとなく、みんなから遅れて、ゆっくり歩いてた。
展示物について、輝がまたマニアックな説明をしていて、みんなはそれに釘付けで。
それを後ろの方からぼんやり、眺めていた。
「樺沢、どうかした?大丈夫か?」
それに気がついた石川が、そっと近寄ってきて、声をかけてくれた。
「あー、ごめん、平気。なんか薄暗くて、眠くなった。このくらいの暗さって、そうならない?」
「わかる。なるよな。それを狙ってんじゃないか?って暗さだよな。」
そう言って、小声で笑い合った。
「なんかさ、今日、あらためて思ったけど、田宮も保里も、ホント、お前のこと大事っていうか、好きなんだな。オレが話したいと思っても、入っていけないよ。」
「えー、そんな、話しかけてこいよ。寂しいこと言うなよ。」
でも、石川とそんなことを話してたら、
「みずき、どうした?石川、何かあった?」
と、先を歩いていた希良が、オレたちのところまで戻ってきた。
「な、ほらな。」
「大丈夫。ちょっと石川と話あるから、きら、先に行ってて。すぐ行くから。」
そう言うと、希良は一瞬、不満そうな顔をしたけど、すぐにわかった、と頷いて、みんなと先に歩いて行った。
「もしかしたら、何か、ウワサとか、聞いてるかもしれないけどさ。オレたち、中学の時にちょっとあって。
ほら、前に話した、ワケあってって…。」
急にそんなことを言われて、石川が驚いて、立ち止まった。
「あー、うん。言ってたな、そんなこと。」
「そう、それで、まぁ、あの2人は、責任を感じてるのか、知らんけど、オレのこと、心配で仕方ないんだと思うよ。ほら、この前もさ。」
オレは、なんか申し訳ないんだ、というように、石川の顔を見た。
「それは、違うんじゃないか?」
「え?」
何故かキッパリと、石川がオレの言葉を否定して、逆に驚いてしまった。
「うまく言えないけど。そんな、責任とか、心配とかじゃなくて、ホントに大事に思っているって、見てればわかるし、あとなんていうか、2人は樺沢がいないとダメみたいな?」
石川がオレの顔を見て、そう言った。
「この前って言ったけど、あの時、樺沢が貧血で保健室に行ったって聞いて、保里のことはわからないけど、田宮はさ、あの可愛い顔を真っ青にして、固まってて。
オレ、可愛がってた猫が死にそうになった時のばあちゃんのこと、思い出したよ。」
「なんだよ、それ。オレは猫か?で、きらは、ばあちゃんかよ?」
「例えだって。オレ、上手く例えたりするの、苦手なんだってば。」
「まぁな。それはわかるけど。」
そんな風にはぐらかしたのも、オレの照れ隠しだったし、石川が言いたいことは、なんとなく、わかった。
「それに、保里さ、オレ、あんまり話したことなかったけど、今日、見てただけでも、青木たちといる時と、お前たち3人の時と、ぜんぜん、違うのな。」
さっきから、オレが気になっていたことを言われて、ちょっとドキッとしたけど、
「あ、やっぱり?」
と、出来るだけ、なんてことない風に言う。
「うん、青木たちには、やっぱり、気、使ってんだろうな。」
返ってきた言葉に驚いて、石川を見る。
「樺沢にはさ、すげ〜甘えて、すぐにくっついたり?腕組んだり?してきてるのに、青木たちの中じゃ、スンって。なんつーか、距離取ってるし、普通の高校生してますって感じ?」
そうなのか?石川から見ると、そんな風に見えるなんて、意外だった。オレがのびのびしてるって見えたのは、誰ともつるまずに、1人でいる、その様子だったんだろうか?
「あとさ、怒らないで欲しいんだけど。」
「え、なに?」
石川がそんなこと言うのは珍しくて、ちょっと身構える。
「見当違いだったら、ごめん。
でも、オレはさ、アリだと思って。なんていうか、男女じゃない、恋愛の形?」
まさか、石川からそんな言葉が出ると思っていなくて、思わず、立ち止まって、石川の顔を見た。
「なんで?」
「あ、だから、トンチンカンなこと言ってたら、ごめんて。
ちょっと、そう思うことあって。言いたかったってだけで。気に障ったら、忘れて。」
いや、トンチンカンどころじゃなくて、驚いたのはなんていうか、石川の鋭さっていうか、そこからの気遣いっていうか。
「大丈夫。ぜんぜん。逆に、ありがとう。
そんなこと…お前、やっぱり、いいヤツだな。」
そう言って、つい強めに、石川の背中を叩いた。
「イテ、やっぱ、怒ってんだろ?」
「怒ってないって。痛かった?悪い。」
お互い、冗談だと、わかっているからこそのやり取りで、なんか少し、心が軽くなった気がした。
「お、そろそろ行くか。ほら、田宮がずっとこっち見てるし。保里も、ほら。あ、でもまた話そうな。話したいこと、まだあるんだ。」
「おう、まだ1日目だし、時間はたっぷりあるしな。色々、話そ。オレたちのとこに、入ってこいよ。」
「あ、じゃあ、明日は、3人に混ぜてもらおうかな。」
そんなことを言って、笑い合うと、オレたちは希良や、他のメンバーに追いつくべく、足を早めた。
その日は、少し離れた温泉地に泊まることになっていたので、またバスに乗り込んでの移動になった。
「なんか疲れた。ちょっと寝ていい?」
希良はきっと、さっき、石川と何を話したのか、聞きたいのかもしれないけど、何も言わなかったし、オレは眠くて、意識が持たなかった。
「うん、いいぞ。オレも寝るかも。着いたら起こすから。」
「うん、ありがと。」
そう言うと、希良の肩にもたれかかって、眠ってしまった。
そのオレが目を覚ましたのは、近くでシャッター音がした時だった。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いいけど、目黒、隠し撮りは、ほどほどにしてくれよな。」
オレより先に気がついたのか、希良が隣からそんなことを言うのが聞こえた。
「はーい。ごめんなさい。気をつけます。でも、今、2人、すごい良かったよ。後で見せるね。」
そう言って、目黒さんは離れて行って、オレは希良に起こされた。
「みずき、着いたよ。起きて。大丈夫?」
まだ、ぼんやりとした意識の中、希良が優しく前髪を掻き上げて…額に唇が触れた気がした。
「あ、うん、ありがと。起きた。」
その感触に驚いて目を開けると、目の前にぱっちりとした目でオレを見つめる希良の顔があった。
「ん、じゃ、行こうか。」
希良が、寝起きのオレの手を引いて、2人、バスから降りた。
で、そのまま歩いていると、横に宮﨑が来て、オレのことをからかってきた。
「お、みずきちゃん、おねむか?いいね、きらに手繋いでもらって。」
別に、大したことじゃなかったし、宮﨑の声のトーンも、ちょっとからかってるだけって感じだったんだけど、一瞬で、希良の手に力が入ったのがわかった。
「んだよ、みやざ…」
怒った希良の言葉を遮って、何か言うべく、宮﨑の方を向こうとした時、なんか足元がふらついて。
オレは宮﨑の腕の中に倒れ込んで、支えられる形になってしまった。
「あー、ごめん、ごめん。」
そう言って、体勢を立て直したんだけど。
「大丈夫かよ、樺沢?ってか、お前、なんでこんなに軽いの?細過ぎだろ。大丈夫か?」
「みずき?どうした?」
「大丈夫。ちょっと、ふらついただけ。ありがとな、宮﨑。オレ、これでも、テニス部のレギュラーだったんだから、体幹には自信あるんだけどな。」
そう苦笑いして、なんとか体を立て直して、顔を上げ、歩き出した。
「みずき、ホントに平気?」
希良が横に並んで、心配そうに腕を組んできた。
「うん、平気。宮﨑、悪気ないんだから、怒るなよな、きら。」
「あ、うん、そうだな。悪い。」
バスは宿から少し離れた、温泉街の外れに止まって、そこから宿まで、みんなとダラダラと歩いていた。
周りを見ると、同じ学校の同級生以外にも、他の学校の修学旅行生らしい姿も、結構、見かけられた。
みんな、土産物の店を冷やしたり、途中で買ったまんじゅうや何かを食べながら、歩いている。
前を歩いている石川たちも、店先の草餅の幟に引かれて、そっちに向かっていた。
その店先に、座れるベンチを見つけたオレは、ふらふらと近づくと、そのまま、すとんと腰をおろした。
寝起きのせいか、なんか体に力が入らなかった。
「お、なぁ、みんなで草餅、食わない?」
石川がその様子に気づいて、声をかけてきた。
「いいな、オレ食いたい。」
即答したオレに、希良が心配そうに近寄ってきた。
「いや、オレも食いたいけど、みずき、夕飯、大丈夫?」
「なんだよ、田宮、母ちゃんじゃないんだから、やめろよ、そういうのさー。」
田内が希良をからかって笑う。
「そう言えば、さっき、宮﨑が樺沢のこと、バックハグみたいにしてなかった?」
松尾が何か気になったようで、オレの様子を伺ってきた。
「あーそれ、オレがちょっと寝起きでふらついて、宮﨑が支えてくれたんだ。」
「なんだよ、そういうこと?樺沢、大丈夫?」
「なら納得。ってのも、変か?」
オレの答えに、希良以外の3人が何故か頷いた。
「でもさ、田宮とか保里となら、何にも思わないのに、宮﨑だと違和感あるんだよな。もう3人のは、見慣れてるってことか?」
松尾が自分で言って、納得していた。
「あ、ほら、言ってる側から、保里がこっち見てるし。
おーい、青木たち、草餅、食おうぜ!」
オレたちよりも少し先に行っていた輝たちは、石川の声に、おお、と反応して、3人で戻ってきた。
「いいのかよ、夕メシ前に。」
青木が笑いながら言う。
「なんだよ、お前も田宮と同じか?母ちゃんみたいなこと言って。」
「ってか、みずき、顔色悪いけど?どうした?」
輝が近寄ってきて、オレの頬に触れた。
「え?そう?多分、寝起きのせいだよ。平気。
草餅食えば、治る。」
触られて初めて、自分の頬が冷たかったこと、輝の手が熱いことに驚いた。
「もう、触るなよ、かがや。」
「なんだよ、心配してるだけだろ。」
希良が横から、輝の手を払い除けようとして、輝が言い返す。
「おいおい、何してんの、2人とも。」
「あ、石川〜、助けて〜。」
「よし、来い!」
ふざけて助けを求めたオレを、石川が2人の間から引っ張り出して、草餅屋に中に入れと押してきた。
「あーもう。きらのせいだぞ。」
「何言ってんだよ、そっちだろ、最初に触ってきたのは。」
そんな2人の様子を、みんなで笑っていた時、思いがけないところから、声が聞こえてきた。
夏休みをきっかけに、中学の頃の様に一緒に過ごすことができるようになった3人。ただそうなったからこその想いがあります。思春期ですしね、色々考えちゃうのだと思いますが、そんな彼らを、「いい人」大発動中の石川くんとともに、応援したいと思うのです〜ww
よろしければ、皆さまもご一緒に〜!




