修学旅行・1日目ノ壱〜旅立ちとめぐる想い
たくさんの人と過ごす時間の中で、その中の誰かを強く感じることがある。
きっとそれは何かのはじまり。
そんなことがあってから、数日後。
いよいよ修学旅行の日がやってきた。
行き先は九州の北部、福岡、佐賀、長崎を回る三泊四日だ。
学校に集合して、バスで羽田空港に向かうんだけど、バスはクラスごとに分かれているので、輝は別のバスになる。
「じゃ、また後でな。」
お互い、ちょっと寂しいけれど、そう声を掛け合って、別々のバスに乗り込んだ。
オレと希良は、石川たち3人と同じ、5人の班なので、バスの一番後ろに5人、横並びで陣取った。
そして、その前の席、オレと希良の前には、宮﨑たち3人の班、石川たちの前には、目黒さんたちの女子4人の班が座った。
宮﨑とはあの、文化祭前に2人で話して以来、話していない。
でも、ヤツの気持ちを知ってしまってからオレは、ずっと何か心に引っかかってるようで、一緒にいると、落ち着かない。
「宮﨑、席、倒していいからな。」
「お、サンキュ。」
希良が前にいる宮﨑をつつきながら、声をかけて、宮﨑が答える様子を、ホッとする気持ちで見ていた、その時。
「樺沢くん、2人とも、こっち向いて!」
突然、目黒さんに声をかけられて、そっちを見た瞬間、シャッターが切られる。
「目黒、今からそんな撮ってたら、ストレージ、足りなくなるぞ。」
希良がからかうように言うと。
「大丈夫。デジカメもあるし、ちゃんと考えてます〜。」
目黒さんはまったく気にしていない風で、隣に座っている澤田さんに今撮った写真を見せて、キャッキャいってる。
「これはあれだな、この前のヤツより分厚い、すごい写真集、出来るんじゃないか?樺沢、今度はちゃんと見せてくれよなぁ。」
石川に面白そうに言われて、オレは勘弁してくれと言わんばかりに、顔を顰めて首を振った。
ちなみに、最近知った情報だと、澤田さんは輝のファン、輝推し、とのことだった。
だったら、なお、オレはいらないじゃん…と思うのだけど、何度それを言っても、目黒さんからは全否定されるどころじゃなかった。
「もー、信じられないよ。
なんなの?その、樺沢くんの自己肯定感の低さ。
樺沢くんがいなきゃ、ダメなの、なんでわかんないかなぁ。」
そんなことを言われたのは、先週、塾のリフレッシュルームで、たまたま2人になった時のことだった。
この前のことがあって、オレが学校で、発作を起こしたことを知った後も、目黒さんは何も変わらず、そんなことを言ってくる。
「あれ?樺沢くん、1人?こんなところで、珍しいね。」
「えーあー、うん。2人が事務局に呼ばれて、行ってるから、待ってるんだ。目黒さんこそ、1人?澤田さんは?」
「私も同じ、澤っちも、事務局行ってるの。
あ、ねーねーそれより、見て、これ。良いでしょ?」
そう言って見せられたスマホのロック画面、文化祭の時、ガンダムの前で撮った、希良と輝とオレの写真だった。
「え?いや、いいでしょう、じゃなくて。何それ?」
「田宮くんにOKもらったのよ。保里くんには田宮くん経由でもらったし。あと、樺沢くんだけなんだけど、イイよね?私しか見ないし。ね?」
ね?じゃないし、と思ったオレは、負けを覚悟で言い返してみた。
「2人はいいけど、オレ、いらないだろ?きらとかがやの2ショットにすればイイじゃん。その方がキラキラ度増すって。」
もちろん、そんなオレの蚊の鳴くような抵抗は、目黒さんに一蹴され、さっきの言葉に繋がったのだが、さらに。
「2人の間に、樺沢くんがいるのが、尊いんじゃない。ほら、2人だけより、何倍もいい顔してるの、分かるでしょ。」
そう言って見せられた、2人だけの写真。確かそう言われれば…なんだけど。
尊い…って、なに?と、思っても、それ以上の抵抗は疲れるだけだ、と悟ったオレはため息をついて。
「もう、いいよ、好きにして。」と、答えるしかなかった。
が、しかし。
目黒さんの恐ろしさを、この修学旅行中にオレたちは、何度となく、味わうことになるのだった。
そう、手始めは飛行機の座席だった。
チェックインを済ませて、搭乗開始までの時間、自由行動になったので、輝が隣のクラスの友達にことわって、オレたちのところにやってきた。
「おーい、席、どの辺?」
「えーと、真ん中あたりだなぁ。きらが窓際でオレが真ん中。あ、でも、オレの隣って石川とかじゃないらしい。」
「えー?誰だろ?かがやはどの辺?C組だから、オレたちの前の方か?」
「いや、オレたちも真ん中あたり。あ、隣のブロックか?」
そんなことを言いながら、お互いのチケットを見せ合ったオレたちは、目を丸くして、言葉を無くした。
「え?」
「ウソ。」
「マジ?なんで?」
輝が見せたチケットにはオレの隣、通路側の席の番号が書かれていた。
「なんか、さっきこのチケット渡された時、オレだけちょっと外れた席になって、悪いなって、同じ班の青木に言われたんだけど…。」
「それ、どういうこと?」
「わけ、わからんな。」
そんなことを言ってるうちに、搭乗時間になって、飛行機に乗り込んだオレたちは、輝1人がクラスのブロックから1列とはいえ、外れて、3人並びの席になった理由、そして、その黒幕ともいう人物を知ることになる。
「3人とも、こっち、こっち向いて!撮るよ〜。」
斜め前の席から振り返って、オレたちにそう、声をかけて、シャッターを切ったのは…。
そう、目黒さんだった。
どうやら、自分の席を輝に回したようなんだけど、今、彼女が座っている席は、振り返ってオレたち3人を撮影するには、絶好のポジションだった。
「さすがに、ちょっと…怖いんだけど。」
オレが思わず、びびった声を出してしまう。
「同じく。」輝が続いた。
「なんか、おれ、とんでもないことに手を貸しちゃった?」
希良はさすがに、責任を感じているみたいだった。
「まぁ、いいじゃん。せっかくなんだか、ら3人一緒に福岡まで?楽しくやろ。」
多分、今2人が一番気になっているのは、オレのメンタルからくる、体の調子だと思ったから、そんな風に明るく言って、甘えるように、2人の腕を取った。
「そうだな。ラッキーって思っておくか。」
輝がそう言って、オレの腕をギュッとしてきた。
「かがやのの言う通りだな。ラッキーって思っておこ。みずき、平気?」
希良の笑顔に、オレも笑って「平気」と答えた
さっきは、思わず、ビビった声が出たけど、目黒さんはオレの中で、「良い人」のカテゴリーに入っているから、目黒さんのことで心がザワザワしたり、圧を感じたりすることは全くない、と、2人に話して、安心してもらった。
そんなわけで、最初の飛行機でオレたちは、時折、唐突にきられる、シャッター音に戸惑う以外は、3人、いつものように、くだらない事でわちゃわちゃしながら、途中、前に座っている田内に「お前ら、ちょっとうるさい!」と言われるくらい楽しく過ごして、九州の地に初上陸したのだった。
「北九州ってさ、ホントは、スペースワールドがあった時に、来たかったんだよな。」
飛行機を降りて、空港内を歩きながら、そんなことを言うと、前を歩いていた松尾が、呆れて振り返る。
「それ、いつの話だよ?小学校くらいに閉園してないか?」
「ヲタの時間軸は、オレたちとは違うんだよ。な、樺沢?」
石川が笑いながら肩を組んで、フォローとも言えない、フォローをしてくる。
「でもさ、みずきと一緒にスペースワールドだったら、なんか面白かったかもな。そう思わね?」
希良がからかい半分、ガチ半分で言いながら、オレに絡まってた石川の腕を離すと、他の3人が不思議と頷いた。
「それならさ、これから行く太宰府とか、吉野ヶ里遺跡とか?保里と一緒だったら、面白いんじゃね?アイツ、歴男なんだろ?」
田内が思い出したように、オレに向かって言った。
「おー、確かにそうだわ。かがや、すごいぜ、歴史関係、語らせたら、オレのガンダムと変わらない、てか、それ以上かも。」
「あー、そんなか〜。」
「なんだよ、不満か?それとも、そこまではいらないか?」
「んー、どっちかというと、後者です〜。」
「んだよ、それ!」
ふざけてそう言われて、オレは田内を締めようとして、田内が逃げた。
その逃げた先に、ちょうど輝たちの班3人がいた。
「あ、ちょうど良かった。青木たちだ。」
輝と同じ班の青木は、田内とは同じ中学で、1年の時も同じクラスだったから、仲がいいらしく、たまに隣のクラスでの輝の様子を青木から聞いたと、田内から聞かされることがあった。
多分、輝が歴史男子ってのも、青木情報なんだと思う。
「おう、田内、何?」
「いや、お前じゃなくて、保里にちょっと。」
「え、オレ?何?」
そう言われて、輝が降り向き、その班全員が立ち止まったのが、少し離れたところから見えた。
オレはそれを見て、慌てて駆け寄って、田内を引き寄せた。
「田内、何やってんの、ダメだろ。クラス違うんだから。ごめんな、かがや。」
そう言って、自分たちの班に戻ろうとした時、今度はオレが輝に腕を掴まれて、引き止められた。
「何だよ?みずき、なんか用なんじゃないの?」
「あー、いや、その…。」
「そう、保里が歴史に詳しいって聞いてさ、この後の太宰府とか明日の吉野ヶ里遺跡、一緒に回ったら面白いんじゃないかって、樺沢と話してて。」
オレが遠慮して言わなかったのに、田内があっさりそう言って。
「お、いいじゃん。オレらもそんな話してたんだ。クラス違っても、中で解散した後なら、班行動だし、別にいいだろ?一緒に回ろうぜ。」
これも輝じゃなくて、青木がそう返して来て。
オレが申し訳無さそうに輝を見たら、輝は逆に嬉しそうな顔して、笑ってオレに向かって頷いた。
「これ、目黒は関わってないけど…なんかだな。」
空港からまたクラス別のバスに乗ってから、希良がオレにだけ聞こえる声でそう言って、オレも頷いた。
あまりにも自然に、オレたちと輝の班が一緒に回る流れになったのが、気持ち悪いくらいだった。
「オレ、勝手に、田内は青木から、かがやのこと聞いたんだろうって思っているけど、それがもし、目黒さんからの情報だったとしたらって思うと、怖すぎて聞けない。」
「わかる。だよな。聞かないどこ。」
希良が肩をすくめて、オレは苦笑いした。
そんな話をしているうちに、バスは太宰府天満宮と九州国立博物館のあるエリアに着いた。
クラス別の集合写真の撮影と、簡単なガイドさんの話の後は解散して、班行動になった。
「樺沢、楽しいからって、あんまり無理するなよ。」
解散した直後、ナベせんがオレの近くに来て、耳打ちするように声をかけてきた。
確かに、ちょっとテンション上がり過ぎてるかも、と思い、「はい。気をつけます。」と返事した。
「オレが一緒なんで、大丈夫です。」
「そうじゃなくて、お前もだぞ、田宮。頑張り過ぎないこと。」
その言葉に、オレだけじゃなくて、希良が驚くのがわかった。
「あ、はい。わかりました。」
希良が、少しトーンが落ちた声で、同じようなことを言った。
「きら、行こ。」
希良の腕に自分の腕を絡ませて、体を引き寄せた。
「オレたち、一緒にいれば、大丈夫だよな〜。」
そんな風に、希良の顔を覗き込むと、少し戸惑って、でも嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「なんだよ、みずき、それ。」
「えー、2人一緒なら、お互い、大丈夫ってことじゃん。」
その言葉に希良がちょっと立ち止まった。
「かがやが、いなくても?」
「え?そんなの当たり前じゃん。」
「3人の時は、3人の時。きらと2人の時は、2人で大丈夫。だろ?ダメ?」
「ううん、それで良い。大丈夫。」
希良がちょっと照れて、オレから目を逸らした。
その横顔がカッコ良すぎて、好きだなぁと、つい、周りを気にせず、腕を伸ばして、希良の腰をギュッと抱きしめた。
「おい、そこ!いちゃついてんなよ。」
後ろから石川にちゃちゃを入れられた。
「んー、仕方ないだろ、きら、カッコ良過ぎるんだから。」
石川たちは「まぁなぁ。」とか、「そりゃそうだけど。」などと笑いながら、オレたちと並んで歩き出す。
ただ、言った後でオレは、なんかちょっと、モヤモヤした。
輝に、この前、あんなことを言われて、それをオレは受け入れた。それから、何もないんだけれど。
今、希良と一緒にいて、思う気持ちもウソではなくて、どちらも、いい加減じゃない。
でも、ホントはどちらかが、ウソになるんだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると、少し前方の集団の中に、頭一つ抜けた長身の、希良とはまた違う、キリっとした、端正な横顔が見えた。
(あ、かがや…キレイだなぁ。)
希良に回した腕に力を入れて、歩幅を合わせて歩いていくと、輝が立ち止まって、オレたちを待っていた。
「なに、2人。そんなくっついて。オレも混ぜろよ。」
「ダメ。お前、まだ、班のヤツらと一緒にいなきゃいけないんだろ。」
希良がからかい半分で、輝を遠ざける。
「えー、ケチ。じゃ、ちょっとだけ。」
そう言うと、オレの後ろに回って、誰にも見えない角度から…また右の耳を軽く、噛まれた、
「な!なに、突然、何すんだよ?」
焦って、でも、周りのヤツらに気付かれないように、小声で、オレは輝を睨んだ。
「そんな顔したみずきも、可愛いな。」
「もー、早く行けよ!」
気づいた希良が、怒って手を振り回した。
「はいはい。後でな。一緒に回ろうな、みずき。」
輝は笑いながら、自分の班に一旦戻って行った。
なんか、どうしたんだろう?輝、余裕ある?
文化祭の頃とは何か、ぜんぜん違う感じがして、その様子に、オレはドキドキが止まらなかった。
希良を抱きしめてるのに。
(オレ、なんなんだ?こんなの、わけわかんない。)
希良に気付かれないように、そっと息を吐いた。
大体、オレは元々、男が好きとか、そういうわけじゃない。
それでも、2人のことは好きで、その「好き」が、恋愛的な意味だと思い始めたのも、少し前からで。
まだどうしたらいいのか、ぜんぜん、わからない。
そんなオレのモヤモヤした想いなんて、お構いなしに、オレたちの班と、輝たちの班は、合わせて8人で、そこからの班行動を共にすることになってしまった。
はじまりました!修学旅行です。最初から色々、飛ばしてしまいそうなのを、抑えておりますww
これからしばらく、というか、まあまあ長いので、飽きずにお付き合いください!




