中間テスト〜白浪
揺れる心は崩れやすく、何かのきっかけで、崩れてしまうこともある。けれど、ただ揺れ続けることもあって、それは止まるきっかけを見つけるのは難しい。
輝もオレも、昔のことを思うと、さっきもそうだったけど、胸が詰まってしまう。
でも、そこにちい姉が頼んでくれたフレンチトーストが運ばれてきて。
熱々の厚切りトーストの上に、冷たいバニラアイスが乗っている、そのビジュは空気を一瞬で変えてくれた。
「うわ、うまそー。」
「イヤ、これ、絶対、みずきが好きなヤツじゃん。」
「そう!そう思うでしょ?だから、一度おいでって言ってるのに、みーったら、なかなか来ないんだもん。
君たちから、言ってよ。で、今度は3人で来て。
あ、そうだ。これからウチくる?私、もうちょっとであがれるから。」
オレと輝は、フレンチトーストを頬張りながら、顔を見合わせて、大きく首を縦に何度も振った。
「オケ。母にちょっと、様子、聞いてみるね。
ゆっくり食べてて。」
ちい姉が離れて行くと、あらためて、2人で顔を見合わせた。
明日って、約束して、それまでは、そっとしておこうと思っていたのに。それでも、オレたちは今、瑞稀に会いたくて、仕方なかった。
夕方、やっと、気持ちや体調が落ち着いて、色々と、立て直しつつあったオレは、自分の部屋で、今日、出られなかった、午後の授業の教科書を開いていた。
とはいえ、5限目だった物理はサラッと見ただけで、問題ないなぁって感じだったけど、逆に6限目の漢文は、まったく頭に入って来なかった。
保健室に来てくれた希良が「天才的にわかりやすいノート」をとってくれるって言ってたけど、それをもらっても、分かる自信なかった。
そして…、今日、自分にも何が起きたのか、考えると、まだ辛かった。
ここしばらく、何もなくて、2人ともうまくやっていけてる、そんな気がしていたのに。
まち姉にも、いち兄にも、良かったって、そう言ってもらえたのに。
塾での出来事の後、思い出したことがある。
あの時、澤田さんに思わず、言ったこと。
中学の頃には、ああいう事がたくさんあったんだ。
そう、前のように、「お前は2人と一緒にいちゃいけない」と、頭の中で言われる事は、最近、あまりなくなってきたし、それがあっても、2人がいいと言ってくれてる、それが支えになって、自分を保っていられた。
でも、ああいうことを、自分を否定されることを言われるんだと、思い出した。
それが、自分の中で、うまく消化できなかった。
輝がオレのこと、「好きだ」って、「恋人にしたい」って言ってくれたのに。
希良も、毎日のように「好き」って、「可愛い」って、言ってくれて、オレをホントに、大事にしてくれているのに。
オレだけが、何も出来ないと、言われているようで、それが悲しかった。
「みー、ちょっといい?」
母親が珍しく、ノックしてきた。
「うん、何?」
オレの返事に答えて、ドアが開いて、心配そうな顔が見えた。
「今、千枝から電話があってね。輝くんと、希良くん、家に連れて来たいんだけど、みーの調子はどうかって。」
「え?ちい姉、今、2人といるの?」
時計を見ると、確かに、今日は塾がないから、2人が帰る時間だし、ちい姉がバイトに行くか、終わったか、という頃だった。
でも、オレの様子に、母親が首をふった。
「偶然、じゃないみたいよ。
千枝の言うことには、2人が千枝のバイト先まで行ったらしいわ。
それで話してて、みーに会いたいんじゃないかって。
どうする?来てもらう?
来てもらうなら、お母さん、2人の分もご飯、用意するわよ。
まぁ、叔母さんみたいにはいかないけど。」
「会いたい。オレも2人に会いたい。
来てもらって良い?お母さん、ご飯、作ってもらってもいい?」
母親は、笑って。
「もちろん。
じゃ、千枝に電話するわね。
それと、頑張って作るから、みーも頑張って食べるんだよ。いい?」
「わかった。頑張る。」
そう言って、ガッツポーズをした。
2人が来る、会えると思うだけで、なんだかさっきより、力が出る気がした。
それからしばらくして、ちい姉と一緒に、希良と輝が家に来た。
「どうした?2人とも。かがや、明日、駅でって言ってたじゃん。きらも学校でって。」
玄関で出迎えたオレは、そんな風に素っ気なくしても、嬉しさを隠せなかったし、隠すつもりもなかった。
「そう、なんだけどさ、やっぱりちょっと会いたくて。」
輝は、何故か、申し訳なさそうにキレイな顔をしかめている。
「うん、ごめんな。急に来て。」
希良は謝りながらも、いつもの可愛い顔で笑いかけてくれた。
「なんだよ、そんな、遠慮すんなよ。上がって。ご飯食べて行くよな?」
「え?いや、顔見たら帰るつもりで。」
「うん、そう。みずきの顔見たかっただけだから。」
2人揃って、後退りする様子が、なんかおかしくて、スリッパのまま下に降りると、2人の間、少し後ろから背中を押した。
「なんでよ。そんな寂しいこと言うなよ。お母さん、2人の分もご飯用意してくれてるし、オレ、2人となら食べるって言っちゃったし。」
そう言って、靴を脱いで上がるようにしたんだけど。
「みずき、まだ調子良くないの?食欲ない?
でも、オレらいたら、食べられそうってこと?」
希良がオレを振り返り、聞いてきたから、オレは2人の背中に手を伸ばして抱きついた。
「もう、大丈夫だよ。ごめんな、心配かけて。
でもほら、オレ、元々あんまり食べないからさ。お母さんが、2人となら食べられるでしょって。
だからさ。一緒に食べてって。ね、お願い。」
甘えた声で、2人の顔を見た。
「えー、仕方ないなぁ。」希良が嬉しそうに笑う。
「もう、今日だけだぞ。こんな急に、悪いだろお母さんに。」
輝は照れてる。でもやっぱり嬉しそうだ。
「やった!」
オレはもう、嬉しくて仕方なくて、3人、転がるようにリビングに入って行った。
「もー、あんたたち、子犬みたいね。」
2人を連れて帰ってきたちい姉が、笑いながら、後ろからついてきて。
部屋の中では、母親が同じように笑っていた。
「いらっしゃい。今日は学校でお世話になったわね、ホントにいつも、ありがとう。
2人のお家には、おばさんから連絡しておいたから、気にしなくて大丈夫よ。
もうちょっとで出来るから、なんか飲んで待ってて。
みー、お茶とか、コーラ、冷蔵庫にあるから、出してあげてね。」
はーい、と声を上げて、オレはキッチンから2人の好きそうな飲み物や、お菓子を運んでくる。
その様子を見て、ちい姉が驚いて母親に言った。
「みー、学校、早退したって言ってたよね?なんか、全然、平気そうじゃない。なんなの?きら&かがやマジック?」
「あら、うまいこと言うじゃない。
そうね。その通りだわね。ちょっと前まで、まだ青い顔してたんだから。
良かった。千枝が2人を連れてきてくれて。ありがとうね。」
ホントにその通りだった。
2人が来てくれるってわかってから、なんだかカラダがしっかりしてきて、力が入るようになって。
どこかぼんやりして、心細い気分だったのも、いつのまにかすっきりしていた。
そして、2人の顔を見ただけで、もう、全部、大丈夫だって思えた。
「みずき、スマホ、なんか鳴ったよ。」
輝がオレのスマホを持ち上げて、教えてくれた。
「あ、ありがと。なんだろ?え?目黒さん?」
「目黒?何?」
希良はもう、目黒さんを嫌いも、警戒もしていなかった。それどころか、協力して、オレをクラスの姫ポジにしようと、企んでるらしいと、石川から、わけのわからない情報が寄せられてた。
「うん、えーと、あ、心配してくれてる。で、お見舞いって…あ、ガンダム!」
「何?見せて!」
2人が覗き込んだ画面には、校長室のローチェストの上に置かれて、ピカピカに(見える)輝くオレたちのガンダムだった。
『ここは仮置きで、いま、ケースを作ることを検討してるんだって。で、それができたら、もっとみんなが見られるところに置きたいって、校長先生がそう言ってたよ。』
目黒さんからのメッセージには、そんなことが書かれていた。
だから、早く元気になって、学校来てね、と。
「目黒〜、なんだよ、あいつ、オレの、オレたちのみずきを、どうしようってんだよな。」
「それは、きらが調子に乗って、目黒さんをその気にさせちゃったからじゃん。」
輝が希良をつついて、クレーム気味に言った。
「いや、あれは…かがやだって、乗り気だっただろ。」
2人の話を苦笑いして聞きながら、オレの中では、目黒さんが塾であった事と、今日のことを結び付けて、心配しているんだと思って、なんか心苦しい気がした。
だけど。
「てかさ、このメッセ、オレ、小学生みたいじゃね?」
つい、そんなことを言ってしまい。
確かに、と、3人で大笑いした。
「目黒さんって、みーの写真集作ってくれた子よね?何、あんたたち、誰かの彼女なの?」
キッチンで母親を手伝っていたちい姉が、オレたちの前にクッキーの乗った皿をおきながら、突然、そんなこと言ってきた。
「いや、だからさ。写真集とか言うの、やめてって言ってるじゃん。そんなんじゃなくて。目黒さんはきらのファンなんだよ。」
「そうなの?ふーん。きらくん推しかぁ。てっきり、みーのことが好きなのかと思った。」
「え、なんで?なにそれ?」
「だって、あの写真集見てると、そんな気がするのよ。ねー、お母さん、まち姉もそう言ってたよね?」
「あー、そうね、まぁ、そんなこと言ってたかしらね。
千枝、あんまりからかわないのよ。」
母親の言葉に、はーいと答えて、ちい姉はキッチンに戻って行った。
残されたオレたちには、なんか気まずいような、おかしな空気が残されて、
「だから、写真集じゃないって!何、言ってんだろな、姉ちゃん。」
と、わけわからん、とオレは頭を振った。
「あー、ほら、女子って、そういうの好きじゃん?恋バナ?っての?ウチの姉ちゃんも、すぐそういうこと言いたがるぜ。」
それを見た輝が、苦し紛れなフォローをしてきた。
「あ、あの、みずきが好きな、美人のお姉さんね。」
話題をそらそうとしたのか、今度は希良が、明後日の方向に話を向けてきた。
「うんうん、それそれ。な、みずき?」
「だからさ、話題に困るとその話だす?みたいなの、やめろよな。」
まあまあ、いいじゃん、と、2人に肩やら頭やらを突かれて、ちょうどご飯が出来たと声がかかって、その話は終わりになった。
次の日。
体調がすっかり回復したオレは、いつものように駅で輝と待ち合わせて、登校した。
「樺沢〜!お前、大丈夫かよ?」
教室に入るや、オレの顔を見て、田内が駆け寄ってきた。
「良かった、元気そうで。また、1年の時みたいになって、修学旅行、行けなくなったら、どうしようかって。」
石川も、続いてそんなこと言って、泣くふりをしてくる。
みんな、こんな面倒くさいオレのこと、何も知らなくても、心配してくれてたのか。
「ありがと。ごめんな、心配かけて。昨日はちょっと、寝不足だったせいか、貧血?もう大丈夫。
修学旅行、行くよ、絶対。めっちゃ楽しみにしてんだから。」
石川たちとそんなことを話していると、バスが遅れたのか、いつもより遅く、希良が教室に入ってきた。
「おー、みずき!復活した?良かった。いつも通り、可愛い。」
そう言って、頭をくしゃくしゃにしてくる。
その様子を、希良と一緒に教室に入ってきた松尾も含めた3人が、いつも通りに呆れた笑いを浮かべながら、見ていた。
「もーやめろよ。せっかく寝癖直してきたのに。
あ、目黒さん!昨日はありがと。ごめんね、心配かけて。」
希良の手から逃げるように、教材を運んできた目黒さんに声をかけた。
「樺沢くん!良かった。元気になったんだね。ホント、心配しちゃったよ。でも、無理しないでね。修学旅行、みんな揃って行きたいから。
ね!みんな?」
目黒さんがその時教室にいた全員に声をかけて、なんだかつられて、みんながそれぞれ、同意して。
ちょっと滑稽な様子に、教室中が大爆笑になった。
(目黒さん、やっぱり、恐るべし、だ。)
そんなことを思いながら、オレは自分の席に戻った。
目黒さんと同様に、最初はモブキャラとして登場したのが、石川くん。これまでもとにかく「いいヤツ」として、書いてきました。
この後の修学旅行編では、もっとたくさん登場して、いいヤツっぷり、全開になります。お楽しみにww




