文化祭〜其の玖・その後の
一つの季節が終わると、一つ、心も体も伸びて行く。その節目には、痛みを伴うこともあるけれど、喜びも連れてくる。
「お、戻ってきた。どうした?調子悪いか?」
いち兄が立ち上がって、オレの頭に手を伸ばしてきた。
「ごめんな、ちょっと無理させたか。」
そう言いながら、いつものように、ぐしゃぐしゃっと頭を撫でて、顔を覗き込んでくる。
「ううん、大丈夫。ありがとね、いち兄。
叔母さんも、ありがとうございました。
お母さんたち、喜んでくれて、良かったです。」
叔母さんは「良かったわね。」と、にっこりと笑って、お茶が置かれた席に座るよう、手招きしてくれた。
「きっと、なんかあったんだな…。」
座って、お茶に手を伸ばしながら、つい、そんな言葉が漏れてしまって。
「ん?なんかって?」
輝が聞きながら、右側に、希良が左側に座って、オレの顔を覗き込んだ。
「んー、子供の頃のことはわからないけど、きらとかがや、2人の間に入って、写真に写るな、とか言われたのかも。」
その時のオレは、ただボーッと、お茶を飲もうとした、その流れで、あまり、というか、ほとんど何も考えずに、そう言ったんだけど。
でも、言った瞬間、そこにいたほぼ全員が、立ち上がるかと思ったくらいのリアクションを取ってきた。
「え?な、なに?みんな、どうした?」
その様子に、逆に驚いたオレがお茶を溢しそうになって、みんなの顔を見回した。
「あ、いや、ちょっと、驚いて。」
「みー助、いま、なに言ったか、わかってるか?」
いち兄とたく兄が続け様に、詰め寄ってきた。
何かおかしなこと言ったのかな…と考えて、気がついた。
「そっか、ううん、別にそう言われた記憶があるって訳じゃなくて。」
そうだった。オレの頭の中の声、いつも、何度も、オレを苦しめてきた声。
「お前は、輝と希良の間にいちゃいけない」という意味の、繰り返された言葉。
たった今、オレは、それと同じ事を、自分から平然と口にしたのだ。みんなが驚くのも、無理はなかった。
「みずき、なんともない?」
輝が右側から、右手を握ってくる。
「苦しかったり、してないか?」
希良も左手を握ってきた。
「大丈夫。心配かけてごめん。」
2人の手を握り返し、いち兄とたく兄、慧さんにも、笑顔を返した。
「なんか、今日はさ、一日、2人の間にいるオレのこと、肯定されるってか、逆にそこにいるように要求されてばかりだったから…。
郡司にも、そんな意味のこと言われたって言ったじゃん?
あと、目黒さんなんて、もう、2人の間にいないとダメ、3人じゃないと意味がない、みたいに言ってきてたし。で、慣れたっていうか。
んー?うまく言えないけど。」
「あー、確かに。目黒、そんな感じだった。特に最後、ステージの上で写真撮影するってなった時。」
「そうだ、言ってた。MCの2人に向かって、『この3人、揃って、だけじゃなくて、樺沢くんが間にいないと、意味ないんです!』って言って。」
「で、イヤがるみずきを、オレたちの間に押し込んで。」
「その後、最前列の石川に向かって、合図送ってた!」
希良と輝が、交代で思い出して…オレも間で、大きく頷いた。
「それで、この写真か〜!」
ものすごく納得した、って顔で、希良が自分のスマホを開けて、石川から送られてきた、オレら3人が顔を寄せ合った、まるでアイドル誌の表紙の様な構図の一枚をみんなの前に出してきた。
「うわ、いや、だからさ、それを見せるなって。」
さっきのことが、まるで意味をなさなかったように、オレがネガティブなことを言ったんだけど。
「あ、それも、送ってくれた?」
「はい、さっき送った中に入っているんで。」
いち兄の言葉に、希良がなんてことないように返して、続けてクレームをつけようと思ったオレの気持ちは、行き場をなくした。
「なんかさ、希良、目黒さんを嫌うどころか、色々?感謝しないとって感じじゃん?」
輝がそう言うと、希良は頷きながら言った。
「だな。来週、オレから声かけて、お礼言うよ。
で、もしかしたら、まだあるかもしれない秘蔵写真、もらえるように頼んでみる。」
2人がそんな話をしている間、オレは自分のスマホをいじってて、ある写真を見つけ出した。
「慧さん、良かったら、これ。」
輝に気付かれないように、近づいて見せたのは、今日、まち姉と一緒にガンダムの前にいた時に、目黒さんが撮ってくれた、オレとまち姉と、その横に慧さんが写ってる写真だった。
オレはともかく、まち姉が、とても良い笑顔で写ってた。
「え、くれるの?」
オレは無言で頷いた。
「もー、みーくん、好き!」
慧さんがそう言うと、オレを抱きしめて、軽々と、持ち上げた。
「おい!何してんだよ、やめろよ!」
輝が飛んできて、オレを引き離して、その日、何ラウンド目かの兄弟喧嘩が始まった。
そして。
「樺沢くん、これなんだけど。」
文化祭から数日後、目黒さんが昼休みに声をかけてきて、封筒に入った雑誌のようなものを差し出された。
「何?これ?」
「樺沢くんのお母さんに。私からのプレゼント。あ、お母さんだけじゃなくて、ご家族にね。」
受け取って、封筒から出して見ると、ちゃんと製本された、白い表紙の薄い本が出てきて、中を開いてみると、そこには、見たことのあるもの、ないもの、取り混ぜられたオレの、文化祭の日に撮られた写真がセンス良く、レイアウトされ、印刷されていた。
「え?何これ?」
「うぉ!すげ〜、樺沢の写真集じゃん!」
たまたま一緒に、次の化学の授業の準備に行こうとしていた石川が、オレがそれを閉じるより早く、覗き込んで、遠慮のない声を上げた。
その石川に待ってろ、と言って、そこから逃げるように、目黒さんを廊下の方に連れて行き、
「えっと、ごめんね、どうしたの?これ。」
と、あらためて聞いた。
「田宮くんから聞いたんだけど、樺沢くん、せっかく私たちが撮った写真、お母さんたちに見せてないんでしょ?
こうすれば、渡してくれると思って。
それに、スマホに入っているより、親世代は喜ぶかなって。」
ニコニコ笑いながら、で、作ってみました!と、言われた。
「あー、うん、まぁそう、なんだけど。いいの?
ありがとう。でもこれ、お金かかってるでしょ?
払うよ、オレ。今日はちょっと、そんなに持ってないんだけど。」
目黒さんの純粋に、優しさからの言葉と行動に、オレはお礼を言って、受け取るしかなかった。
知り合いにこういうことやるのが趣味で、得意な人がいて、ただでやってくれたから大丈夫と、目黒さんは断固としてお金を受け取ってくれず。
その代わり?修学旅行でまた写真を撮らせて欲しい、と頼んできた。
当然、それにも了解と答えるしかなかった。
(きら、一体、何言ったんだよ?)と、希良を探すと、廊下で輝と一緒に、慌てて出てくるオレを待ち構えていて。
「あ、きた、きた。」
イタズラっぽい顔で輝と肩を組んでいた。
「見せて、見せて!みずきの写真集。」
輝も同じような顔でそんなことを言って、手招きしてる。
「なんだよ、お前ら。知ってたのか?」
プンプンしながら、2人に詰め寄ると、オレの背中に2人揃って手を回し、宥めるみたいにされながら、いつもの空き教室に連れて行かれた。
「知ってるも何も、そこに載ってる写真、オレ、一緒に選んでるし。」
「オレも、間接的に相談受けてた。」
「ちなみに、みずきのお母さんには、もう話が行ってるからな。渡さないって選択肢はないぞ。」
2人揃って、してやったりって顔で笑ってくる。
仕方なく、封筒ごと輝に手渡すと、2人でそれをめくって見ながら、わちゃわちゃ、この写真がいいとか、ワイワイ、これも可愛いとか、盛り上がっている。
「はぁ〜。まったく、何やってくれてんだよ。」
大きくため息をついて、オレが座り込むと、2人がちょっとだけ黙って。
「怒ってる?」
「嫌だった?」
ページを捲る手を止めて、近づいてきた。
「イヤ、別に。怒ってないし、嫌じゃないけど。
言って欲しかったかも。」
ぼそっと、そう言うと、2人が嬉しそうに笑って。
「良かった!じゃ、次の修学旅行でも、これ、作ってもらうことになってんだ。今度は、言ったから!」
希良が満面の、キラキラな笑顔を向けて、そう言った。
「え?いや、それは…そういうことじゃなくて。」
「えー、それなら、オレも欲しい。金払うから。」
「だよな。オレも欲しいから、今度、聞いてみるよ。」
いや、だよな、じゃないし。
「多分、いけると思うんだよな。その代わりにオレの写真もこんな風にしていいかって聞かれて、目黒が自分で楽しむ用に、一冊作るだけならいいって、言ったからさ。」
希良がオレの写真集?を指して、なんてことないようにそう言って、それにはオレも輝も驚いた。
「いや、それいいのか?きら?」
「そうだよ、そんな…。」
オレが問い詰め、輝は言葉をなくした。
でも、それに希良はまたまた、なんてことないって感じ笑って答えてきた。
「うん、大丈夫。みずきが言ってた通り、目黒はちゃんと節度を保ってくれるってわかったし。
知ってた?ほら、あの、文化祭での撮影会で撮られた写真、今のところ、一枚もSNSに上がってないんだぜ。」
「え?そうなの?」
SNSとか、サッパリなオレはただ単純に驚いた。
「それは、すごいな。」
輝も同じように驚いてる。
「まぁ、探せていないってのも少しはあると思うけど、それでもすごいよな。
だから、紙にまとめるなんて、多分全然、問題ないと思うんだ。
目黒が、自分はただのファンっていうか、「強火担」だからって。それ以上でも以下でも、それ以外でもないって、言われて。
しかも、最近は3人の『箱推し』だとか言うんだぜ。
もうさ、笑うしかなかったよ。オレ。」
希良の話は、最近の目黒さんを見ていれば、納得できる話で。
オレとはまったく違う意味で、自分の写真をどうこうされることを嫌悪していた希良が、そんな風に思うなんて、それこそ『目黒さん、恐るべし!』と思って、輝と顔を見合わせた。
「しかもさ、『箱推しだから、3人の写真を撮りたい』って、『修学旅行で保里くんが出来るだけ2人と一緒にいられるように、C組に根回しする』とか言ってた。」
「は?そんなこと、いくらなんでも、無理だろ?」
輝が嬉しそうに、でも半分、疑わしい顔で、そう言ったけど、オレたち3人はもう、目黒さんのこと、なんでもアリなスーパーガールみたいに思い始めていた。
「でも、多分、ってか、もう絶対、今までのヤツらとは違うと思う。」
「確かに、今までのヤツらとは違うな。明らかに。」
希良の言葉に輝も同意していた。
「今までのヤツら…?」
その言葉、2人ともなんとも暗いトーンで口にしていて、オレにはなんか嫌な響きで届いて、ちょっとだけ背中を震わせた。
「あ、ごめん、みずき、大丈夫?なんか嫌な気分にさせたら、ごめん。」
「ううん。大丈夫。ちょっとだけ、な。でも、平気。」
そう答えたのに、2人とも心配そうに手を伸ばしてきて、顔と背中をゆっくり撫でられた。
「大丈夫だよ。あ、次の時間、化学室だから、行かないと。石川、待たせてるんだ!
きら、ごめん、それロッカーに入れておいて。」
そう言って、オレは、心配そうな2人を残し、急いでその場を離れた。
そして、その日の夜。
果たして、その「写真集」は、我が家で大騒ぎを巻き起こした。
まず、母親が先に目を通して「これは、大事なモノだから、お母さんの部屋に置く」と言うと姉ちゃんたちが、それはズルい、みんながいつでも見られるように、リビングに置くべき、と主張して…。
いや、そんな、いつでも見たいってほどのものじゃないだろ?というオレの言い分は毛ほども相手にされず。
夜遅く帰ってきた、父親の仲裁で、リビングに置くことが決まって。
オレは全員から「絶対に捨てようとか、隠そうとか、良からぬ考えを起こさないように!」とキツく、釘を刺されてしまった。
隙を見て、押し入れの奥深くに片付けてしまおうと企んでいたのに、それは出来そうになかった。
そして、オレが最後まで言いたくなかった、来月の修学旅行でも同じことをしてもらえる(オレ的にはやられる)らしいと話すと。
家族全員、大喜びで、機会をみて、目黒さんを招待しようと言う企画まで立ち上がったのだから、もうホントに『目黒さん、恐るべし!』としか言えない、この数日間だった。
長かった、文化祭編、やっと終わりでございます。
最後、こんなんで、オチはつきましたでしょうか?いゃ、元々、オチは求めてない?あ、そうですよねww
次回から、少しだけインターバルとって、またまた長い、修学旅行編に突入していきます!お付き合い、よろしくお願いします!!




